蠱惑の糸
一方、ハロウィンタウン内―…
ジャック達が墓場へ向かい暫くして
住人達はジャックの指示に従い手分けして街中の警戒を始めた
戦える者、戦えない者
皆が2、3人ずつで組み広場やダウンタウンなど色んな場所を隅々まで捜索する
時々蜘蛛だ!と声が聞こえるもののそれはどれも極々普通の、何の変哲もない蜘蛛だったりする
ウェア「さっきから普通の蜘蛛ばっかだな…街にはいないんじゃないか?」
ハーレクイン「かもしれないなぁ」
ウェアウルフとハーレクインは共にダウンタウンの夜道を歩きながら周りの様子を伺う
いつもと変わらない街並み
ハーレクイン「メルティングガイ!そっちはどうだー?」
少し離れたところでダストボックスの中を伺っているメルティングガイに声をかける
呼ばれて顔をあげたメルティングガイは首を横に振るだけ
ウェア「まぁここも異常なし、と…なぁ、そろそろ帰るか?他の所も別の連中が見ちまっただろうし」
ハーレクイン「引き上げるかぁ」
異常なしと判断し踵を返そうとしたその時
「きゃあ!!」
聞き覚えのある悲鳴
ハーレクイン「今の声って…」
ウェア「サリーじゃねぇか?」
2人は顔を見合わせ、声のした方角へと一気に走り出した
残されたメルティングガイは何があったのかわからず立ち尽くし、2人の慌てようを見て首を傾げた
ウェア「おいどうしたサリー!」
駆け付けた2人の前に地面にへたり込むサリーの姿があった
そして彼女の視線の先に目を向け
壁に張り付いている一匹の大蜘蛛がいる事に気付く
ハーレクイン「蜘蛛…また他の奴らと同じ流れか?これ」
サリー「ち、違うわ…だってあれ」
微かに声を震わせるサリーが蜘蛛を指差す
その大蜘蛛は腹に白い顔のような模様が浮かび上がっている
ハーレクイン「見慣れない蜘蛛だなぁ」
ウェア「おいあれって…」
サリー「こ、こんな蜘蛛見た事ないわ…これが例の蜘蛛…?」
大蜘蛛は動く事なく今も尚、壁に張り付き3人の様子を伺う
ウェア「とりあえずコイツを捕まえちまえばいいんだろ?何もしてこないみたいだし今のうちに…」
ウェアウルフの言葉と同時に大蜘蛛がカサカサと足を動かし
自身の体の下から小さな子蜘蛛が出現した
サリー「…うそ」
子蜘蛛が一面に広がっていき、目の前にある壁が蠢く蜘蛛で覆いつくされた
ウェア「おいサリー立て!ハーレクインと一緒に逃げろ!」
サリー「に、逃げろって…貴方はどうするの!」
ウェア「数が多かろうが蜘蛛だろ!俺が食い止めておくから誰か援軍でも呼んで来いよ!」
ハーレクイン「援軍って誰を呼ぶんだ!?」
ウェア「誰でもいいから早くしろって!!」
ウェアウルフに言われサリーが震える体で何とか立ち上がり、ハーレクインの元へ走り出した
それと同時に壁を埋め尽くす子蜘蛛が一気に床を這い、ウェアウルフへ飛び掛かる
それに反応しウェアウルフの毛が逆立ち、両手を広げると鋭利な爪が露になる
飛び掛かる子蜘蛛をその爪で引き裂き、子蜘蛛の体は細切れとなりボトボトと落ちて地面を体液が汚した
ウェア「どうしたそんなもんか!?さっさとかかってこいよ!!」
その挑発のような言葉に子蜘蛛が再度飛び掛かり、腹の白い模様を薄らと光らせた大蜘蛛が白く粘つく糸を吐き出した
サリー「ま、待って!」
ウェアウルフに言われるままに逃げ出した二人だったが、サリーが足を止める
ハーレクイン「なんだよ!早く誰か呼ばないとまずいだろ!」
サリー「やっぱり彼が心配よ!あんな数を相手に一人だなんて…っ」
ハーレクイン「だからって戻ってどうなるんだよ!」
町長「サリーにハーレクインじゃないですか!」
行く先を見るとそこにはメイヤーが立っていた
サリーとハーレクインは全力でメイヤーに詰め寄る
ハーレクイン「ちょうどいいところに!向こうで大変な事が起きてるんだ!」
サリー「はやく何とかしないと彼が危ないの!」
町長「ちょっお、落ち着いてください!何があったんですか!?」
サリー「あっちで壁に大きな蜘蛛が張り付いてて…あれがきっと例の蜘蛛だと思うの!ウェアウルフが足止めするっていって…っ!」
ハーレクイン「数が多すぎるんだよ!なんとかしてくれ!!」
2人の話を聞いてようやく事態を把握したメイヤーの顔が悲観的な顔へと入れ替わった
町長「た、大変です!!それは一刻も早く援軍に向かわなければ!!…で、ですが我々では」
その場にいるのはサリー、ハーレクイン、メイヤーの3人
ジャックやブギー達のようには戦えない
サリー「ジャック…ジャック達はまだ戻らないの…?」
町長「まだ…で、ですがここで待っているわけには行きません」
メイヤーが2人が先ほど示した方角を見る
町長「我々にも何か出来ることがあるかもしれません!とにかく向かいましょう!」
ハーレクイン「だ、大丈夫なのかっ!?」
町長「戦うなんてできませんが…ウェアウルフを少しでも援護できればいいんです!行きましょう!!」
悲観的な顔のままではあるが、メイヤーは先陣を切ってウェアウルフの元へと向かう
普段気弱な印象を受けるメイヤーだが彼の普段みる事のないその勇気に2人は驚きをみせた
サリー「そうよね…私達も何か出来ることがあるはずよ!」
先程の蜘蛛を目の当たりにした恐怖を思い出し一瞬躊躇するが、勇気を振り絞りサリーもその後へ続く
ハーレクイン「おまえらなぁ!…ああ、くそ…」
残されたハーレクインは先に走り出した二人の姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた