蠱惑の糸



ブギー「しっかり直せよー?」
ジャック「言われなくてもわかってるよ」


ブギ―は壁を丁寧に修復するジャックをまるで監視するかのように眺める

別に逃げたりしないのに

そう考えながら早く終わらせてしまおうと修復に専念する


ブギー「しっかしお前が本当に俺の頼みを聞くとは思わなかったなぁ」
ジャック「それでチャラにするんだろ?」
ブギー「まぁ…本当は他にもあったんだがな」


ジャックはその言葉に手を止め振り返った
本当は何をさせようとしていたのか

どうしても気になってしまい、ブギーに問いかける


ジャック「ちなみにその本当の…って何?」
ブギー「ん?まぁそっちもたいして難しいもんじゃねぇよ」


ブギーの口元に明け方の三日月のような笑みが浮かぶ
また碌でもない事を考えているのだろう


ブギー「手加減なしでお前と殺し合い、ガチ勝負ってな」
ジャック「諦めてなかったんだ、それ」


確かに訳の分からない無理難題を押し付けられるよりはましなものではあったが、それならば壁の修理の方が楽だ
ジャックは壁へ向き直り再度修復の続きを始める


ブギー「お前は覚えてねぇだろうが、蜘蛛女のところでお前と戦ったんだよなー」
ジャック「へぇ、そう」
ブギー「だがどうだ。いざ戦ってみりゃ操られただけのお前は動きも単調、おまけにちゃちな挑発に簡単にのってキレやがる」


そんな事があったのか
その時の記憶がないジャックは手を止める事無く彼の話に耳を傾ける


ブギー「おかげで俺は不完全燃焼だ」
ジャック「だからそれを発散させるために殺り合えって?」
ブギー「まぁな、けど今のお前じゃまだ満足できそうにねぇから仕方なく壁の修理ってわけだ」


なぁ、ひ弱な骸骨くん

相手をからかうようなブギーの相変わらずの口調
しかし長年関わっている彼には然程効果はない様子


修復を終えその場に立ち上がる
すると同時に素早く振り返り


ブギー「ぐふっ!!」


ブギーの隙だらけだった身体に遠慮なしに拳をめり込ませた


ジャック「君と違って僕は日頃忙しいからね、残念だけどその願いに付き合ってやる時間は微塵もない」


笑顔でめり込ませた拳を離す
やはり長年関わっている彼でも未だにイラつくものはイラつくらしい


ブギー「おーいってぇ…じゃあしょうがねぇ、その時間が出来るまで楽しみに待っててやる」
ジャック「待ってても無駄だと思うけどね」


ブギーが笑いながらジャックの拳をお返しとばかりに殴る
その力は強くジャックの手に一瞬痺れが走った


ブギー「まぁそう言うなって…お前をその気にさせてやるからよ」
ジャック「出来るものならやってみなよ」


殴られた拳を軽く振るい、ジャックの口元が弧を描く
キングと呼ばれるには些か可愛らしい普段のものとは違い、覇気満々たる表情
まさしくブギーの求める男のものだった






ジャック「あ」


そこでジャックが我に返り声をあげた
ブギーが何だと不思議そうに彼を見る


ジャック「まずい…長く居過ぎちゃったな」
ブギー「あ?何か用でもあったか?」
ジャック「用っていうか…サリーに何も言わずに出てきたから」


それを聞いてブギーは彼女がジャックの看病を買って出た事を思い出した

心配してるかな、と不安げなジャック
先程の覇気もすっかり失せてしまっている彼に頭を掻き、立ち上がるとジャックの背をグイグイと押し始めた


ジャック「わ!こら押すな!」
ブギー「押すなじゃねぇ!さっさと家に戻りやがれ!」


文句を言い続けるジャックに構わずそのまま入り口、ちゃんとした入り口の方へ連れていく
そしてそのまま少々乱暴に彼の身体を突き飛ばした
思わずよろけたジャックに指の無い手を突きつける


ブギー「てめぇはさっさと女の所にでも戻ってよろしくしてやがれ!」


それだけ言うとブギーは扉を乱暴に閉じた
その場に残されたジャックは1人呆然としていた


ジャック「何なんだいきなり…」
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