蠱惑の糸
ブギーに続き訪れた場所は地下にある賭博場
様々なギミックが仕込まれているその場所は、今は何も作動していないらしくとても静かだった
ブギー「よし…で、何しに来やがった病み上がり野郎」
ジャック「その病み上がり野郎ってやめてくれないかな?」
ブギー「は!事実だろうが」
救出された後、再び倒れ込んだジャックを見て驚いたのは住人達だけではない
ブギーもだった
確かに弱ってはいたがあれだけ小石で攻撃してきた奴がまさか倒れるとは、誰も思わないだろう
ブギー「まぁそれはいい、ここに来た理由をさっさと言え」
ジャック「んー…バレルの事が気になって」
ブギー「適当に嘘ついてもバレバレだっての…それだけじゃねぇんだろ?」
確かにジャックがバレルの事でここに来たのは事実だろう
しかし明らかにそれだけではないとわかる
敵対しながらではあったが何年も関わってきているのだ
それくらいならブギーでもいい加減わかる
ジャック「…あまり言いたくないんだけどなぁ」
ブギー「なんだ?俺に何か文句の一つでも言ってやろうって事か?」
それなら此方にだって言いたい事が山ほどある
今回の事件でどれだけ俺が苦労したと思ってる
特に最後はこいつ、ジャックを探したり救出したりと大忙しだった
ブギー「よしよし、俺もお前に言いたい事が山ほどあるぞ?そうだなぁ~まずは「ごめん」…は?」
ブギーは話の途中、ぽかんと口を開いたまま固まった
まてコイツ今何て言った?
ブギー「……ちょっと待て、どうやら耳がいかれちまったみてぇだ、もう一度頼む」
ジャック「だからごめんって言ったんだよ」
なに?ごめん?
待て、ごめんってなんだ?
俺の知っているごめんって言葉の意味は謝罪なんだが?
ブギー「……お前まだ操られてたり」
ジャック「してない!あーだから言いたくなかったんだよ」
ブギー「てかなんでごめん?意味がわからねぇんだが」
本気で意味がわからないとブギーが少々混乱気味な様子で語り掛ける
細い腕を組み、ジャックはブギーと目を合わせないように顔をそらした
ジャック「今回色々迷惑をかけたから…街の皆に謝ったんだ。それでここにも…って事」
ブギー「え、お前大丈夫か?俺にまじの謝罪って」
ブギーが珍しく狼狽え数歩後退る
なんだこの状況
ジャック「僕がいない間、サリーを守ってくれたんだろ?」
ブギー「いやまぁ…一応」
ジャック「それに君があの場に来なければサリー…いや、彼女だけじゃない。僕もここにいなかっただろうしね」
ブギーはどうするべきか非常に悩んだ
今から互いにたまった鬱憤を晴らすべく言い合いになると思っていたはずが、まさかの相手のこの反応だ
ジャック「僕が操られたりしなければあんな面倒な事にはならなかったわけだし…だから君にこうやってわざわざ会いに来たんだ。これが理由、満足したか?」
ブギー「え…はい」
ジャック「なんで敬語?」
動揺しすぎて知らぬ内に敬語になってしまったようだ
ジャックに指摘されてようやく気付く
ブギー「ま、まぁとりあえずお前がここに来た理由はよくわかった…ああ、よくわかった」
動揺したまま何度もうんうんと頷く
そんなブギーの様子を眺め面白いなぁと彼の前に歩み寄る
そして手を前にだしそのまま指で彼の腹を軽く押した
ジャック「まぁ落ち着きなよ、僕が珍しく君に謝ったんだから素直に受け取っておけばいい…とてもレアな事だよ?」
ブギー「レア…ねぇ」
ジャック「そう、レアケース」
こいつのいう通り、確かにレアケースだな
そこでブギーはようやく気持ちを落ち着かせ、自身の腹を執拗につつくジャックの腕を掴む
すると次の瞬間
ジャックの身体が飛んだ
視界が反転する中、ジャックは体勢を整えそのまま軽々と着地する
ジャック「いきなり危ないじゃないか、病み上がりの相手にやる事じゃないな」
ブギー「お前さっき自分で病み上がりを否定してただろうが」
いつものブギーに戻った
それを見てジャックは満足そうな表情を浮かべた
するとジャックの視界に映ったのはブギーのニヤリ顔
何だか嫌な予感がするなぁ
ブギー「まぁなんだ、お前の謝罪の言葉はいらねぇ…その代わりといっちゃぁなんだが俺の願いを一つ聞く事で全部チャラにするってのはどうだ?」
ジャック「願いね…」
やはりとジャックは溜息をもらす
一体どんな面倒事を言い出すのか
ジャック「あまり面倒な事は遠慮したいんだけど」
ブギー「お前があけた穴、俺の代わりに自分で修理していけ」
ブギーの言葉にジャックはきょとんと眼を見開いた
壁の修理をするだけ
そんな事を願うとは思いもしなかった
何せ相手はブギーなのだから
ブギー「おま、なんて顔してんだ!面白すぎるだろ!」
ジャックの表情が笑いのツボに入ったのかブギーが声をあげて笑った
ジャック「だって、まさかそんな事でいいなんて思わなかったから」
予想外すぎて今度はジャックが戸惑ってしまう
どうせ無理難題な事を言い出すに決まってる
そう思い一発入れてやろうと考えていたのだから無理はない
しかし本人がそれでいいと言っているのだからいいか
そう考える間も腹を抱えて大声で笑うブギーに少しイラつき、結果的に容赦ない飛び蹴りを繰り出す
結果一発は入れる事となった