蠱惑の糸
ロープで引き上げられるジャックの視界に徐々に光が近付いてくる
出口である穴から差し込む陽の光の眩さに目を細めた
その穴から此方を覗き込む皆の顔が見え、ジャックの表情に自然と笑顔を浮かぶ
サリー「ジャック!」
伸ばされたつぎはぎの細い腕
その腕を掴み、暗闇の中から引き上げられる
強い光に包まれてその眩しさからたまらず目を強く閉じた
なんだか暖かい
凄く気持ちがいいな
僕はどうなったんだろう
ゆっくりと目を開く
視界に入ったのは見慣れた光景
それはジャックの家の天井だった
ジャック「………」
暫しぼんやりとしたまま天井を眺め、ゆっくりと視線を巡らす
そこは間違いなく自分の部屋
見慣れた家具
様々な本が並べられた棚
ジャック「…帰ってきたんだ」
まさか夢なんかじゃないよね…?
少し心配になりながらも気怠い身体を起こす
ジャック「サリー…?」
そこにはベッド端に頭を預け眠るサリーの姿があった
よく見ると彼女の手が自身の手を握っている
僕を心配して傍にいてくれたんだ
静かに寝息をたてるサリーに愛しさを感じ、そっと髪を撫でる
触れた瞬間僅かに身を動かす
起こしてしまっただろうか
しかしジャックの心配をよそにサリーは再び静かに寝息をたてる
握られた手を起こさないようにそっと離し、サリーの頭に口付ける
そのままベッドから起き上がると上着を手に取り、音をたてぬように部屋を後にした
自宅を出るとそこには街中を行き交う住人達の姿が見えた
それは長年見慣れたごく普通の光景
ジャックはその光景に自然と笑顔を浮かべた
このハロウィンタウン
そして愛すべき住人達を無事守れたのだ
それを改めて自覚する事が出来た
町長「ジャーック!!」
そこで遠くから聞こえてくる声
それはメイヤーのものだった
ジャックの姿に気付いたのだろう、激しく手を振りながら走ってくる
また転んじゃいますよ
そう思った瞬間、メイヤーが何もない道に足を躓かせ
スライディングの状態で足元に転がってきた
ジャック「…あの、大丈夫ですか??」
町長「うぅ…またやってしまいました」
ジャックが手を差し伸べると、すみませんと言いながらその手を掴み起き上がる
服を軽く叩き、改めてジャックを見上げる
町長「ふぅ…そうだ、ジャック!もう身体は大丈夫なんですか!?」
ジャック「ええ、そんなに心配しなくても僕なら大丈夫ですよ」
町長「本当ですか?…だって一日中寝込んでたんですよ!心配するに決まってるじゃないですか!」
そこでジャックは自身が救出されて一日経過していた事を知った
というよりいつの間に眠っていたのだろうか
穴から出た事は覚えているんだけれど…
ジャック「穴から脱出したのは覚えてるんですけど…そんなに寝てたんですね」
町長「穴から助け出した後倒れちゃったんですよ!皆驚きましたよ!」
ジャック「すみません、ご心配をおかけしてしまって」
2人が会話をしていると他の住人もジャックに気付いたのだろう
次々と彼の元へと駆け寄ってくる
皆ジャックを心配し彼が無事である事を心から喜んだ
そしてジャックも皆が自分をこんなに心配し気にかけてくれる事に嬉しさが込み上げ、ありがとうと心の底から感謝の言葉を口にした
バレル「親分おかわりー!」
ブギー宅にバレルの元気な声が響く
ブギーと小鬼の4人は食事中のようで和気藹々と食卓を囲んでいた
ウェアウルフとの一戦で破壊されていたその部屋は既に綺麗に修復されていた
ブギー「たっぷりあるから自分で入れろー」
バレル「ショックーおかわりー」
ショック「自分で入れなさいよね!」
バレル「だってショックの方が鍋に近いし…」
2人がそんな攻防戦を始めているその最中
何やら音が聞こえた
ロック「何の音だろ??」
バレル「またウェアウルフだったりして??」
ブギー「それはまじでない」
音は壁の方から聞こえてきた
そちらを4人が不思議そうに見ていると、壁に徐々に亀裂が走る
そして次の瞬間
強い衝撃と共に壁が一気に弾け飛んだ
ロック「せっかく直った部屋がまた壊れたー!!」
ショック「もしかしてまた蜘蛛か何かー!?」
ブギー「おい勘弁しろよ!!」
4人が何事かと警戒していると、壁に空いた穴の中から顔をひょっこり覗かせたのは
ジャックだった
ジャック「やぁ!」
ロック「ジャックだ!」
ショック「ジャックの殴り込みだ!!」
ブギー「やぁじゃねぇだろ!何普通に壁破壊してやがるんだてめぇは!!」
ジャックは皆の言葉を無視してごく普通に穴から中へ入ってくる
ジャック「だって入り口からわざわざ入るよりこっちの方が簡単だし」
ブギー「そのぶっ壊された壁を直すのは俺だぞ!?」
ジャック「いいじゃないか、どうせ暇だろ?」
ブギー「暇で悪かったな!!」
2人がそんな会話をしている最中、バレルがジャックの足元に歩み寄ってくる
それに気付いたジャックが身を屈ませ、バレルに話しかける
ジャック「やぁバレル」
バレル「もういつものジャックに戻った??」
バレルの問いかけにジャックは数度瞬くとすぐに笑顔を見せる
そしてバレルの頭を軽く叩く
ジャック「うん、いつもの僕だよ」
バレル「………そっか!」
暫しの間をあけてバレルがニパっといつもの元気な笑顔を見せた
それを見てジャックは不安はようやく吹き飛んだ
バレルに酷い事をしてしまった
それがずっと気掛かりだったのだ
悪戯好きの手のかかる困った小鬼だが、そんな彼に謝ろうと思いここに足を運んだのだ
するとロックとショックがバレルの傍に駆け寄り、耳打ちする
ロック「バレルわからないぞ!もしかしたら正気に戻ったふりしてるのかも」
ショック「そうよ騙されてるのかもしれないわよ!」
ジャック「いや、僕は本当に元通りだから」
ロックとショックの言葉にバレルがジャックを見上げる
バレル「……もしかしたらオレを騙そうとしてるのかも!」
ジャック「なんでそうなるのかな!?」
ロック「よし!あの時のお返しをするチャンスだ!」
ショック「かかれー!!!」
ジャック「ちょ、え…君達!?」
ジャックの制止も無視して3人が一斉に飛び掛かった
ジャックの足や頭、背中に各々が飛びつく
ジャックが3人を引き離そうとするが盛大に暴れられなかなか捕まえられない
ブギー「てめぇらいい加減にしやがれーっ!!!!」
そこでブギーの怒声が響いた
その大声に小鬼達は固まってしまい、攻撃が止んだ事にジャックがほっと一息
ブギー「お前らはさっさと飯を食っちまえ!で、ジャックはちょっとこっちに来い!」
小鬼達は渋々ブギーの命令に従いジャックの身体から飛び降りる
静かに席につき、食事を再開し始める
ジャック「あー助かった…」
執拗に叩かれた箇所を擦り呟く
まさか攻撃されるとは思わなかった…
ブギー「何やってんだ、早く来い」
ジャックにそう告げ先に部屋を出ていくブギーにため息を吐き、ジャックは素直にその後へ続いた