蠱惑の糸






ジャック「殺そうとしたの…?僕が?」


サリーを?

ジャックには勿論身に覚えなどなかった

薄らと覚えているのは此方を見て何か呟くサリーの悲し気な顔だけ

けれど会話を聞いた限り、自分が手をあげた事は事実なのだろう




サリー「ジャック…」
ジャック「僕はなんて事を…」


サリーの言葉も聞かずジャックの声は徐々に弱まり、自身の足を抱えこむ
そのまま顔を埋めてしまった






やっぱりこうなったかー…
ブギーはどうしたもんかと頭上を見上げる





すっかりへこんでしまったジャック
いつもならばへこたれてもすぐに立ち直る、凄まじくポジティブ思考な男なのだが今回はそう簡単にはいかないだろう







サリーがそのまま無言になってしまったジャックの傍に歩み寄り、肩にそっと手を添える


サリー「ジャック、聞いて…あの時の貴方は操られていたの。だから」
ジャック「……それでも僕がした事には変わりないよ」


顔を埋めたままそう言い切る彼に黙り込んでしまう


そして何か決心したのか埋められたジャックの顔を強引に上げさせ、両手で丸い顔をバチンと挟むように叩いた


ジャックはそれに驚き、目をぱちくりさせる
頬がジンジンと痛む

目の前にはサリーの怒った顔が見えた


サリー「私の話を聞いて!いい?貴方は何も悪くないの!」


でも…そう告げようとしたジャックの言葉を遮るようサリーが更に語り掛ける



サリー「じゃあ一つ答えて…今の貴方は私を殺したい?」
ジャック「そんなわけないじゃないか!」


一度だって考えた事もない!
ジャックは慌てて否定を口にし首をふった


サリー「今の貴方はちゃんと自分の意志を持っている、私や皆の知っているジャック・スケリントンなの……あの時の貴方は蜘蛛に操られていた別人。いい?あれは貴方じゃないの」


だからもうこれ以上自分を責めないで





その言葉にジャックは何も答えない
その代わりに彼女の腰に静かに腕をまわす



ジャック「………きっと怖い思いをしたはずなのに…君はこんな僕を許してくれるのかい?」
サリー「許すも何も、私は最初から怒ってなんかいないわ」


そうジャックに対しての怒りの感情はない
私が怒っていたのはあの女性にたいしてだ

私利私欲の為に彼をいいように操ってこんなにも傷つけた







普段のジャックからは考えられない、今にも泣きだしてしまいそうな顔
そんな悲しい顔をしないでと首に腕をまわす

それに合わせサリーを抱きしめる腕に力がこめられた



ジャック「ごめんよ…サリー」
サリー「いいの………おかえりなさい、ジャック」

互いに見つめ合い、自然とその顔が近づく
2人の口元があと少しで触れ合う










ブギー「随分とお熱い事でー」





声のする方に視線を向けるとブギーがニヤニヤと此方を見ていた

2人はその視線に慌てて距離を離す


ブギー「あーいやいや、俺に構わずどうぞ続きを」
ジャック「う、うるさいな!こっちを見るなあとその顔を今すぐやめろ!」


顔を赤らめ地面に転がっている小石を掴んで投げる
その小石を軽く叩き落としながらブギーは声をあげ笑った


いつもの調子を取り戻したジャックに安堵したのだ



楽しそうにジャックをからかうブギー
そんな見慣れた2人の光景を見てサリーは1人ほっと息をつく


いつの間にやら引き続きジャックの投げる小石の速度がいよいよ危険な域に達し、ブギーが本気で焦りながら必死に身をかわす

それを眺めながらサリーの表情が和らぎ、いつもの彼女の笑顔が戻った







これで全て終わったのね
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