蠱惑の糸




ブギー達は来た道を慎重に戻っていた

もしも残党の蜘蛛に遭遇しても対応できるよう、残ったジャドーが先頭に立つ


ブギーの舌打ちが聞こえた
その道は相変わらず暗闇に包まれており、非常に視界が悪い
その為思うように速く進めず苛立ちが募る


ブギー「灯りの一つでも欲しいもんだな…何も見えやしねぇ」


すると突然視界が明るくなった
頭上に小さな灯りが浮かびブギー達の足元を照らす


それはジャックの魔法だった
小さな可愛らしい光の玉が揺らめき、ブギー達が歩くとそれに合わせて移動する


ブギー「おう、灯りをどーもー」


礼とばかりに担いでいたジャックの尻をペチンと叩いてやる

すると後ろから叩くなと小さな声が返ってきて背を叩き返された

それにブギーの顔には次第に笑みが浮かび、続けてご機嫌な笑い声があがった

















ブギー「あーすっかり忘れてたぜ…」


蜘蛛に出会う事もなく無事に入り口である穴の真下へと到達した
そこでブギーが遥か頭上を見上げる

サリーも同じく見上げ困り果てる


ここに来る際、遥か上に空いている穴から落ちてきたのを二人は忘れていたのだ



ブギー「どうする?のぼるか?」


そう言ってすぐにああ無理だなと自問自答
まず自分は空を飛んだりは出来ないし勿論他の奴を飛ばすなども無理だ

そしてよじ登ろうにも目的地である穴は遥か頭上、流石に高すぎる


次にジャック
風の魔法などはどうだろうとも考えたが今の彼は弱っているせいか再び目を閉じて眠ってしまっている
正直あまり期待はできない


そしてサリー
勿論彼女にも到底無理な話だ



ブギー「いっそ掘り進んでみるか?落盤したらそれまでだが」
サリー「そ、それは危ないんじゃないかしら…」
ブギー「だよなー」


ここまで来て生き埋めなんてなってたまるか
ならばどうするか

ブギーは考え込む
するとサリーがある事を呟く


サリー「誰かが助けに来てくれたら…」


それを聞いてブギーはポンと手を叩く


ブギー「よっしそれで行くか!」
サリー「え…でもここにいるのを知っている人なんて」


ブギーは近くに立っていたシャドーを手招きし、何やら話しかける
するとシャドーはこくりと頷き、その身体をブギーの影へと溶かし消えた

それを確認してブギーは担いでいたジャックを下ろし、少し離れた場所に座り込む


ブギー「さーてあとは待つだけだな」
サリー「どういう事なの?」


サリーも続いてその場に座り込み、不思議そうにブギーの影を見る


ブギー「シャドーにちょっとした使いをさせてやったんだ。まぁそのうち誰か呼んでくるだろ」


シャドーは影で出来ている
そのためありとあらゆる影から影へと自由に移動できる

それは高低差やある程度の距離ならば問題ない
ブギー達がいけない場所も苦も無く通過できる


影って便利なのね


サリーはそう言いながら糸と針を取り出した
ブギーの横に膝をつき針に糸を通す
それに気付き、綺麗に頼むぜと素直に裂けた肩を向けた







破れた箇所を縫い付け始めた彼女を黙って眺める
そこでブギーが呟いた


ブギー「お前、どこまでも無茶する女だよな」


サリーは縫い付ける手は止めずに、そう?と答える


ブギー「戦えもしねぇのにこんな場所まで乗り込んできてあの蜘蛛女に立ち向かうなんてよ…無茶苦茶だぜ」
サリー「そうね……確かに無茶な事をしたと思ってるわ」


でも別にそれを後悔したりなんかしてない


綺麗に縫い付けられた肩を見てしっかりと糸をとめる
針と糸をしまいこみブギーに顔を向ける


サリー「とても恐ろしかったけど、それでもジャックを助けたかったから」
ブギー「愛の力ってやつかね~すげぇすげぇ」


縫われた肩を確認しおどけて見せるブギーに、そうよと笑いながら答えた


ブギー「じゃあなにか?その愛の力ってやつで蜘蛛女に殺されそうになったお前を助ける為にジャックは自我を取り戻して抵抗したってか?」


その言葉にサリーの表情から笑顔が消える


サリー「ジャックが私の為に?」


知らなかった
あの時、ジャックに攻撃されて意識が途切れた
その後の出来事は自分の知る由もない


ブギー「なんだ、やっぱ覚えてねぇのか」
サリー「……私、彼女に操られたジャックに殺されそうになったの。覚えているのはそこまで」


サリーは自身の身を抱きしめるよう腕をまわす
あの時の光景を思い出すとどうしても恐怖に身が震えてしまう

殺されると思ったあの瞬間の恐怖はなかなか拭い去る事は出来なかった



そんな彼女を見てブギーはしまったと頭をかく
つい喋りすぎて余計な事を思い出させたらしい



ブギー「あー…まぁなんだ、操られてたわけだし?アイツが好き好んでやったわけじゃねぇんだ。あまり気にするな!さっさと忘れちまえ!」


そう言いながらも無理だろうなぁと考える
一度ならず二度までも好きな相手に殺されそうになったのだ

それは簡単には忘れられるような出来事ではないだろう













ジャック「それは、本当なのかい…?」


そこで聞こえた声に2人が咄嗟に振り返る
いつから起きていたのか、会話を聞いたジャックが此方を見ていた


そこでブギーは深く頭を抱える


また面倒な事になっちまう…
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