蠱惑の糸



バアルの足が深々と突き刺さる



やった
殺してやった

憎らしい女をこの手で始末してやった




そう思った彼女の悦びの顔は次第に消え失せる



振り下ろされた足は確かに地を深々と突き刺していた

しかしサリーの身体から大きくそれた箇所だった





ゆっくりと背後に視線を向ける


そこには自身の足を掴んでいるブギーの姿があった
寸でのところで足を引かれ、目標が大きくそれたのだ



バアル「アンタ…何してくれてるのかしら?」
ブギー「悪いが…その女を殺らせるわけにはいかなくてな!」

ブギーは掴んだ足を強く引き、バアルの体勢が崩れる
そのまま勢いをつけ彼女の身体を力任せに投げ飛ばした
バアルの身体はそのまま壁へと容赦なく叩きつけられ地に崩れ落ちる



ブギーはそれを確認すると同時にサリーの様子を伺う


まさか死んでないよな!?

屈んで全身を見るが掠り傷はあるものの命に関わるような深い傷はない
彼の心配とは裏腹にサリーは気絶しているだけだった
それに気付きほっと胸を撫でおろす


もしもだ
もしも『残念ながら彼女は死んでしまいました』なんてことになったら………

今まで見た事がない程の恐ろしい形相で怒り狂うジャックが自身の身体を容赦なく引き裂く光景が頭に浮かぶ

サリーが一応無事な事に心底安心した

本当によかった




叩きつけられた衝撃に朦朧とした意識をしっかりさせるよう頭を軽く振り、バアルが身を起こす



なんなの
なんなのよ


彼女の心は怒りに染まっていた

あの人形女といい
このズタ袋といい



どうして私の邪魔をする?



全て私の思い通りになっていたのに





私の邪魔をするものは皆死ねばいい









バアル「殺してやる!!!!!!」



バアルが叫び声をあげ、同時に飛び掛かった
それに気付いたブギーは咄嗟に自身の影を強く殴りつける

するとブギーの影が大きく伸び、そこから無数の黒い不気味な手が天井まで届く勢いで飛び出す

飛び掛かるバアルの身体をその手が次々と掴み、彼女の動きを封じる
そのまま手が大きくうねり彼女の身体を再度壁へと投げつけた

怒りで正常な判断が出来なくなっていたバアルはそのまま容赦なく叩きつけられる



続けざまにブギーはシャドーを召喚した
影から生み出されたシャドー達を従え、バアルへと向き直る
軽く顎でサリーを指すと一体のシャドーが彼女へと歩み寄った

そして残る一体のシャドーはブギーと共に前へと出る



痛みに唸るバアルは近付いてくるブギー達を威嚇するよう素早く身構えた


ブギー「さぁて、お前のおかげで随分と苦労したぜ………覚悟はできてんだろうなぁ?」


追い詰められる形となったバアルは狼狽えた
このままでは殺される

そこでバアルは視界に映ったある人物に気付く


そうだ
まだ彼が使える




バアルは素早く壁に飛びつき蜘蛛の足をガサガサと動かしてそのまま這いあがっていく

そしてブギーを見下ろし高笑いした



バアル「貴方強いのね…予想外だったわ!」
ブギー「おーそうかそうか、驚いてくれたようでうれしいねぇ」


腕を組みさっさと降りてこいとバアルに呼びかける
勿論それに従うわけはない


バアル「でも…果たして彼に勝てるかしら!?」


その言葉にブギーはまさかと思い振り返る



そこには彼の予想通り、倒れていたはずのジャックが俯いたまま立っていた





バアル「さぁ、コイツを倒しなさい!貴方の本気を私に見せてみなさい!!」


その言葉にジャックが静かに顔をあげる
その表情はやはり何の感情も読み取れないものだった
ブギーはそんな彼を静かに見据える


今のコイツに何を言ったところで意味はない
なら潰して大人しくさせた方がいい


互いが距離を保ったまま目線を合わせ
ジャックが素早く地を蹴った



それは此方が構えるよりも早く、気付いた時にはジャックの長い足がブギーの頭部めがけて繰り出されていた

その蹴りをまともにくらい、ブギーの身体が横へと飛ぶ
そこへ更に追撃を繰り出すべくジャックは吹っ飛ぶその身体に追いつき腹部へ向け拳を振り下ろした


しかしその拳が当たる直前、一体のシャドーがジャックの足を掴んだ
動きを止められジャックの身体がその場に落ちる
その足を掴んだ手が勢いよく上げられ、そのまま地へ叩きつけるよう全力で振り下ろされる


身体が地にぶつかる瞬間、ジャックは咄嗟に両手をついて衝撃を和らげる
そしてもう片方の足でシャドーの顎を鋭く蹴り上げた


その一撃にシャドーはたまらず手を離す
地についた腕に力をこめ、ジャックは軽やかにバク転し何事もなかったかのように着地する



ブギー「相変わらずすばしっこい野郎だな」


おーいてぇ、そう言いながら蹴られた頭を撫でる

そしてその顔には次第に笑みが浮かびあがる


いつもの喧嘩ではない、本気の戦いにブギーは喜びを感じていた

これは久々に楽しめそうだ


此方の様子を伺うジャックを見て声をあげて笑う


ブギー「どうした?もっと本気出して来いよ…貧弱な骸骨野郎め!」


その言葉に誘われジャックが再び動きを見せた


さて、今度はどこから来る?


構えも取らずただ立つのみのブギー
その背後から突如振るわれる拳
それは直撃したかに見えた

しかしその拳はブギーの身体をすり抜け、勢いよく地を殴りつける形となった


攻撃が当たらなかった事に首を傾げ、地を殴りつけた手を軽く振る

立ち上がり振り返るとそこには確かにブギーの姿があった
ただその姿はまるで影のように揺らめいている



ブギー「どうして当たらないのか不思議だな~ってか?」

笑い声をあげながらブギーの姿が地へ吸い込まれるように溶け消えた


消えたブギーの姿を見つけようと周囲を見渡す


すると突然背中に強い衝撃を受けジャックの身体が飛んだ
転がりながらなんとか体勢を保とうと地に指を突き立てる
勢いが弱まり片膝をついた状態でようやく静止する事となった

顔をあげるとそこには拳を突き出したブギーの姿


影を伝い後方に現れたブギーに無防備だった背を殴られたのだ


ブギー「影を殴ったところで痛くも痒くもねぇんだ、覚えとけよ~?」


攻撃も回避も思うがまま!流石俺様!
ブギーが得意げに語るがジャックはそんな彼に視線を向けるのみ


動かないジャックにブギーは首を傾げ

ブギー「おいおいどうした………もう終いか?」

わざと挑発するようにクイと手招く



その行為にジャックは拳を強く握りしめた
蜘蛛に操られ感情を見せていなかった彼の表情が一気に怒りに染まる


その挑発に乗って即座に両手に魔力を纏い
大きく腕を振るうといくつもの火球がジャックの周囲に出現し、ブギー目掛けて降り注ぐ

目前に迫る火球の雨を見て、ブギーがトランプを取り出し自身の周りに乱雑にばらまいた

ヒラヒラと宙を舞うトランプが迫りくる火球に触れる
その瞬間、火球が次々と爆発を起こした


いくつもの激しい爆音が室内に響き、同時に爆風が駆け抜ける



サリーの傍に付き添っていたシャドーがその爆風から彼女を守るかのように身を盾にする



その背後でサリーの指が微かに動いた
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