蠱惑の糸




蜘蛛から逃れつつ先を急ぐブギー

灯りもなく真っ暗な闇に包まれた道を手探りで進む
足元が見えず時折躓き転びかけるが何とか体勢を保つ


ブギー「灯りくらいあってもいいだろ…くそ!」


歩きにくいと文句を言いながらもなんとか進むとブギーの耳に何かが聞こえた

何か強い衝撃がぶつかる音
それに気付き足を止める


ブギー「何の音だ?」


確認しようともう一度耳を澄ます
すると暫しの間をあけ、再び同じ音がする

前方、それも然程遠くない距離から聞こえた


ブギー「ちょっとまてよ…まさかアイツ襲われてるんじゃねぇだろうな!!」


ここにたどり着くまでサリーの姿は見かけなかった
そうなればこの先へ進んだはず


そこでサリーが襲われているかもしれない


その事が脳裏をよぎり、ブギーは慌てて駆け出す

大きな体を時折壁にぶつけながらもそれに構う事無く走る
すると前方に何やら光が見え始めた

それが出口だと気付くとブギーは迷う事無くその光を目指した





光の元へ辿り着くと、視界に入ったのは大きな部屋だった
乱雑に設置された灯りが室内を照らしている


そのままの勢いで思わず飛び出しそうになったが即座に踏みとどまり慌てて身を隠す
そして中の様子を一度探るために室内を覗き込む


そこでブギーは驚きの表情を見せた


室内には蜘蛛の下半身に人間の身体を持った女性の姿
そしてその女性がジャックの頭を掴んで持ち上げていたのだ

するとジャックが急に暴れだし女性が乱暴に彼を地に叩きつける


抵抗なく地に倒れた後、今度はジャックがもがき苦しむ姿
必死に首を掻き毟りのた打ち回り
その後、彼の身体は一切の動きを見せなくなった


ブギー「…アイツが例の蜘蛛か」


そう呟きバアルの後ろ姿を眺める

よく見ると彼女の片腕が酷く焼け爛れている事に気付く
それはとても痛々しいものだった



明らかに火で焼かれ出来た傷
何にやられたのだろうか
この場所で火、思い付いたのはあの赤い蜘蛛
しかし自分の従える蜘蛛にやられるわけはないだろう
他に火を扱う奴と言えば…

室内を見て考えられる者は一人しかいなかった
それはジャックだ

ジャックは火を扱う事を一番得意としている
しかし蜘蛛に操られていたはずだが

そこでブギーはある考えに至る
あくまで予想ではあるが


ブギー「もしかしてアイツ正気に戻ったのか?」


それならば此方の戦力が増えるのだが


しかし今の彼は一切の動きを見せていない
そして先程の行動


首を執拗に掻き毟っていた
おそらくその首には未だ蜘蛛が取りついているのだろう





ブギー「正気に戻ったもののまた操られたとかか?……あり得そうだよなぁ」



さて、どうするべきか

ブギーは悩む

仮に今、あの女の前に出て行ったとしよう
そこでもし自分の予想通り、ジャックがまた操られていたら

そうなればあの蜘蛛女とジャックの両者を同時に相手しなければならない

戦えないわけではないが明らかに此方が不利な事は確かだ

正直あまりいい賭けとは思えなかった




ブギーが悩むうちにバアルが何処かを睨んだのが見えた
何を見ているのかと視線を向けるとそこには倒れたサリーの姿


ブギー「あ、あの女なんであんなとこにいるんだよ!?」


確かに道中見かけなかった為、奥へと向かったのだろうという事はわかっていたが
無防備に敵のいる部屋で倒れているのは流石に予想外だった


倒れたサリーの周囲には何か強い力で抉るように出来た傷跡がいくつも残っていた
強い衝撃波で出来たもの
先程の音の正体はあれか


そこでバアルがサリーの元へと歩み寄る
倒れ動かない彼女を憎らしそうに見下ろし
鋭い蜘蛛の足が振り上げられる


まずい


ブギーは舌打ちし咄嗟に室内へと飛び出した
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