蠱惑の糸




振るわれた拳を見てサリーは咄嗟に横へと飛んだ

サリーの身体はそのまま地面に倒れ込む形となり拳は空を切る


バアル「あらあら…どこまで避けられるか楽しみだわ」

従えていた蜘蛛達を下がらせ、バアルはその状況を楽しんでいた

倒れ込んだサリーを見つめジャックが再び近づこうと歩み始める
サリーはすぐさま身体を起こし、ジャックから距離を置こうと後退る


サリー「ジャック目を覚まして!私の声を聞いて…!」


しかし彼女の声がジャックに届く事はない


サリーはどうするべきか困り果てていた
逃げようにも出口は蜘蛛の糸で塞がれてしまっている
ならば戦うしかないのだろうか
それは無理難題すぎる

今のジャックはサリーの事など全く気にかけない別人
勿論加減などするはずがない
此方を容赦なく攻撃してくるだろう


とにかくジャックから逃げられるだけ逃げ、彼をなんとかして正気に戻す方法を探さなければならなかった


バアル「ほらほら~頑張って逃げないと捕まっちゃうわよ~」


バアルの言葉にサリーは彼女を睨みつける

彼女はこの状況を楽しんでいる
ジャックがサリーを手にかける事を期待しているのだ

けれど彼女の思い通りになるわけにはいかない

視線をジャックに戻しいつでも避けれるよう身構えた









バアル「…随分と頑張るのね」

暫く二人の動きを眺めていたバアルはぼそりと呟いた
どうせすぐに終わるだろうと思っていたのだが、彼女…サリーは予想とは反しなかなかにしぶとかった

危なげではあるがジャックの手から逃れ続け、最初と何ら変わらない状況
いつまでも続く追いかけっこにもう飽きてしまったとジャックへ声をかける


バアル「ちょっと何やってるの!そんな女さっさと殺しちゃいなさいよ!」


バアルの声にジャックは立ち止まる

そのまま動かなくなったジャックに距離を取ったままサリーは身構える
肩が激しく上下し荒い呼吸を何とか落ち着かせようとする

捕まる事なくあまり変化のない状況とはいえ、逃げ続けていたサリーの体力はすっかり奪われてしまっていた


次はどんな行動をとるのか
彼が行動を起こす前に何か出来る事はないか

サリーは周囲に視線を走らせた


このまま逃げ続けるだけでは自分がますます不利になっていく
何か今の状況を打破する手はないか

しかし何か使えるようなものが都合よく転がっているわけがない
かといって逃げる道も勿論存在しない



必死に考えていたその時
何かが顔の横を素早く横切り長い髪が揺れた


視線を前に向けるとそこには此方に片手を向けるジャックの姿
その向けられた手には風の渦が纏わりついていた

背後を見ると壁には亀裂
そこでサリーは魔法を放たれたのだと理解した

それと同時にジャックが腕を振るうといくつもの突風がサリーの周囲を駆け抜ける
風が走った地は切り裂かれ壁にいくつもの亀裂

その衝撃にサリーは恐怖した
これを受けてしまえばこの身など簡単に切り裂かれてしまうだろう


バアル「ほらほらぁ、逃げないと切り裂かれちゃうわよ~?」


ジャックが両手に風の渦を纏いだす
それを見てサリーはすっかり途方に暮れてしまっていた

素手でさえやっとだというのに魔法から逃げ続けるなど無理だ
どうすればいいのか





必死に思考を巡らせるが、もう為す術がなかった
纏った風を放とうとジャックが両腕を大きくひろげる


もう無理だ



サリーは諦めてしまい立ち尽くしてしまった

最後の願いと震える声で言葉を紡ぐ



サリー「…ジャック………貴方を助けられなくて、ごめんなさい」

その表情はとても悲し気なものだった

ジャックが腕を大きく振るうと突風が地を裂きながらサリー目掛け放たれた
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