蠱惑の糸
時は少し遡りちょうどサリーが蜘蛛から逃げ惑っていた頃―…
穴の中へと転げ落ちたブギーは遥か頭上にある入り口へ向け怒鳴り声をあげていた
幸い袋は破れたりなどはしていなかったがシャドー達のまさかの強行手段に苛立ちを露にする
ある程度怒鳴り散らした後、少しすっきりしたのか
擦れた腹を軽く撫でながら周囲の様子を探り始めた
蜘蛛の糸が絡み合って出来た道
だが肝心の蜘蛛の姿はないようだ
ブギー「さて…まずはサリーと合流しなきゃなんねぇな」
先に穴へと落ちたサリーを探さなければならない
きっと奥へと向かっていっただろう彼女が蜘蛛にやられる前に
警戒しながら糸が絡み合う道を進み始める
途中いくつも道が枝分かれしており、進んでは行き止まりの繰り返し
時間はかかったが徐々に奥へと向かえていた
ブギー「まじで迷うなこれ…面倒な造りしやがって」
もういっその事、壁をぶち抜いて前進してやろうか
そう考えるが流石に実行はしなかった
決して広いとは言えない通路
戦えないわけではないがもしも派手な音をたてて気付かれ、挟み撃ちにでもあえば少々面倒だ
ブギーは渋々歩き続ける事とした
しかし暫くして
ブギー「どうなってやがんだここはぁっ!!!」
あまりにも道が複雑すぎてブギーの怒りは頂点に達したらしく、大声をあげてひたすら壁を殴っていた
サリーを探すという事もあり道という道全てに探りを入れていたのだが、悉くハズレだったらしく彼の我慢も限界に至ったようだ
ブギー「もーやってらんねぇ!全部ぶち抜いてやるからな!!」
蜘蛛に気付かれようが知った事か!
何度も何度も壁を全力で殴り続ける
すると壁に罅が入りガラガラと音をたて崩れ落ちた
瓦礫が音をたて地面に落ち土煙をあげる
その壁を見てブギーは続けて振るおうとしていた拳を止め、その場でゆっくりと深呼吸し始めた
どうやら壁を殴った事で僅かだが怒りを発散したようだ
ブギー「ふぅー…落ち着け落ち着け…クールになれぇ…」
何度か深呼吸し平静を取り戻したブギーは再び慎重に進もうとした
しかしそこで何か気配を感じて来た道の方を見る
気配の正体は蜘蛛だった
派手に怒鳴り壁を破壊した為、案の定その音に誘われてきたのだった
ブギー「こっちに来るんじゃねぇよめんどくせえなああああああ!!!!」
足元に落ちている瓦礫を咄嗟に拾い上げ、迫る蜘蛛達に向け全力で投げつける
その瓦礫は数匹に命中し衝撃で蜘蛛の身体がつぶれた
しかし僅か数匹潰れたものの生きた蜘蛛達の数はあまりにも多く、然程意味をなさなかった
見つかってしまったのだからいっそこの場で潰してしまおうか
幸い自分のみで誰かを守る必要もない
追われ続けるよりはいいかもしれない
そう考え戦闘態勢をとる
しかしよく見ると迫りくる蜘蛛達の身体が次々と光りだしていた
それを確認すると、ブギーは舌打ちをもらし、構えていた拳を下げるなり無言で全力疾走した
こんな狭い場所であれだけの蜘蛛が爆発すればたまったものではない
ここは地下なのだ
自身が爆発を何とか回避したとしても道が崩れ閉じ込められては困る
最悪の場合、瓦礫の下敷きだ
暗い道を全力で走るのはなかなか大変な事だ
何度も壁にぶつかりそうになりながらもブギーは走り続けた
そしてどれだけの距離を進んだだろうか
角を曲がったところでブギーは即座に身を隠し、来た道をそっと覗き込む
未だ遠くから蜘蛛達の足音はするものの、姿は見えない
ブギー「はぁ…ほんと何処にでも湧いてきやがるなあいつら」
姿が見えない今のうちに進んでしまおう
そう考え再び静かに歩き始める
今度は慎重にいこう
時折振り返り背後の様子を伺いながら歩いていく
すると身体が斜めに傾いた
足元を見るとそこは再び穴
気付いた時にはブギーの身体は落下していた
落下しながら着地しようと何とか体勢を整えた
が
着地しようとしたものの尻から落ち、そのまま地面を何度かバウンドしてその広い空間の中心で座り込む形でようやく止まった
暫しの静寂
ブギーは無言で立ち上がり尻を軽く叩き、何事もなかったかのように自分が今いる場所の様子を伺う
先程までの道とは違い灯りがともされている
そして広場の隅に蜘蛛が転がっている事に気付く
そこへ歩み寄り屈むとその蜘蛛の足を掴んで持ち上げる
どうやら死んでいるようだ
そこでふと疑問に思う
何故こいつは死んでいる?
勿論自分がとどめを刺したわけではない
ブギー「サリーがやったのか?これ」
どうやって蜘蛛を殺したのか
まぁそんな事はどうでもいいかとすぐに考えるのをやめた
自分が進んできた方向はあっている
しかしこの場所にはサリーの姿はない
既に先に進んだのだろう
このまま進めばいずれ合流できる
急いで合流しなければ
ここに来るまでにも蜘蛛がいたのだ
この先にもきっといるだろう
急がなければと持っていた蜘蛛の死骸を乱暴に放り投げた