蠱惑の糸



穴の中はとても暗く、壁に手を添えしっかりと足元を確かめながら進んでいく
穴の中はまるで蟻の巣のように複雑で、サリーは自分がどう進んでいるのかわからなくなってきていた

そしてその道の一つ
進んだ先は行き止まり

サリー「行き止まり…まるで迷路みたいで迷いそうだわ」


とにかく一度来た道を戻るしかない

そう考え戻り始めた時、何か音が聞こえた

カサ カサ

サリーは足を止め、その音に耳を澄ませる
間違いなく蜘蛛の足音だったが、その音が徐々に此方へ近付いてくる事に気付いた

このままでは見つかってしまう
身を隠さなければ

そう思い周囲を見るも隠れられるような場所は一切ない
サリーは戸惑い何かいい案はないかと狼狽えていると、ふと足音がしなくなった事に気付く

見つからずに済んだのだろうか

そう思っていると足に何かが触れる感触
見下ろすと一匹の蜘蛛が自分の足によじ登ろうとしていた

サリー「きゃっ!」

サリーは慌ててその蜘蛛を振り払おうと足を動かす
よじ登ろうとしていた蜘蛛は簡単に足から離れたが体勢を整え再びサリーに迫りくる

サリー「いや!来ないで!!」

サリーはその蜘蛛を全力で蹴り上げる
その衝撃で蜘蛛は壁に叩きつけられ地面に落ちひっくり返ったままもがく

蜘蛛が起き上がる前に逃げなければ
サリーはその場から全力で駆けだした


穴の中は灯りがないため非常に暗く道もわからない
そんな中を全速力で駆けるのだから壁にぶつかり、時には躓き転んでしまう
それでもサリーは足をとめなかった

立ち止まれば全て終わってしまう

入り組んだ道をがむしゃらに走り、いくつもの角を曲がり
どこまでも続く長い道をただひたすらに走り続け、サリーの体力は徐々に奪われていった





どれだけ走っただろうか
暫くして足がふらつき、壁に手を突いて立ち止まってしまう

止まってはいけない
そう思うが体が動かない

必死に息を整えながら背後を振り返る
蜘蛛の姿は見えないが未だにカサカサと足音が聞こえる


このままだと追いつかれる
進まなければと正面を見つめる

すると長く続く真っ暗な道の遥か先に微かだが灯りが見えた
もしかしたら出口かもしれない


サリーは出口であるようにと願い、最後の力を振り絞ってその光目掛けて駆け出す

するとそれに合わせるかのように数匹の蜘蛛が背後からサリーを追いかけ走り出してきた



ここで追いつかれるわけにはいかない


サリーは前方に見える光だけに意識を集中させた

腕を伸ばし、光の中に一気に飛び込む
それと同時に蜘蛛達も背後からサリーに飛び掛かった



光の中に飛び込んだサリーの身体はふわりと宙に浮いていた
それを理解すると同時にその身体は重力に逆らう事なく落下していく
落ちていくサリーの身体に後をついてきた蜘蛛達が飛びついてくる

自身の身に飛びつき此方を凝視する蜘蛛達に思わず息をのむ
振り解こうとするが落下する最中では上手く身体が動かせない
そのまま蜘蛛共々地面へと激しい音を立衝突してしまった


かなりの高さがあったため、その衝撃は凄まじかった
身体に飛びついていた蜘蛛達はグチャリと気色悪い音をたて体液を飛び散らせる
同時にサリーの身体も地面に強く叩きつけられ、その衝撃で腕や足が千切れ飛んだ

地面に転がったまま微動だにしなかったサリーがゆっくりと顔を上げる


サリー「……ここ、は」


そこは今までとは全く違う広い空間だった
蜘蛛の糸で作られているであろう玉がぶら下がっており、その中に灯りが灯されて揺らめいている
いくつも吊るされているその灯りが広い空間を照らしていた

照らされた空間の中央を見ると、更に奥へと続く通路がある事に気付く

上体を起こし、まずは千切れた手足を縫わなければと仕舞いこんでいた糸と針を取り出す


そこで自分と共に落下した蜘蛛達の事を思い出し、視線を向ける
手足を縫う最中、襲われたら抵抗のしようもない
しかし彼女のその考えは杞憂に終わった
蜘蛛達は落下の衝撃で潰れており、ピクリとも動く事はなかった

そして落ちてきた穴を見上げる
蜘蛛の足音もなく、これ以上は追ってこないようだ
だが油断は出来ない
サリーは同じ場所に長居するのは危険だと判断し、素早く手足を縫い付け始めた














その頃、地上では

ブギー「もういねぇか?」

ブギーが掴んでいた蜘蛛を放り投げ、周囲を警戒する
辺りには大量の蜘蛛の死骸が転がっていた
何か動くような気配も感じられず、これで一通り片付いたのだと胸を撫でおろす

ブギー「これでこっちは片付いたな…さーて、あとは先に穴に入ったサリーの方だが」

そう言いながら穴の中を覗き込む
中は暗く奥の様子はさっぱりわからない

耳を澄ませてみるが特に何の音も聞こえなかった


ブギー「俺が押し込んだわけだが…アイツ大丈夫だと思うかぁ?」

シャドーに何となく問いかけてみるとさぁ?といわんばかりに首を傾げるだけ

ブギー「まぁさっさと入って追いかけてやるか」


そういってブギーは彼女を追うように穴に入り





…込もうとしたのだが途中で動きが止まった




人が1人通れるほどの穴
しかしブギーはいささかふくよか、所謂巨体だ

上体を突っ込んだまではいいが、腹部がつっかえてしまったのだ


ブギー「………勘弁しろよ」

ブギーは何とか下半身までねじ込もうと身をよじらせる
しかしいくら頑張ってみてもそれ以上進む事はなかった
シャドー達は必死に体をくねらせるブギーをただ黙って眺める

ブギー「おいてめぇら!見てねぇでそっちから押せ!!」

ブギーの命令にシャドー達は頷き、外から彼の尻を全力で押してみる
しかしなかなかそれ以上穴に通らない

仕方ないと次にシャドー達は一度距離を取り、そのうちの一体がブギーの尻目掛けてタックルをかました
そのタックルをくらうと同時に穴にはまっていた腹部がズリとこすれ痛みが走る

ブギー「うおおおおおいってえ!!!!てめぇら待て!何してやがる!!」

その衝撃で僅かではあるが身体が穴の中に入った

それを確認するとシャドー達は互いに頷き、再びタックルをかまそうと同時に構える


ブギー「ちょっと待て!他の方法でどうにかしろ!これ以上やると腹が擦れて裂けちまう!!」


ブギーの言葉を最後まで聞かずに一体が再度下半身目掛けてタックルをお見舞いした
更にもう一体がそのシャドーに続いて全力でぶつかる

先程より更に強い衝撃を受けブギーの下半身が中へと押され

そのまますっぽりと穴の中へと飛び込む形となった

ブギー「入った!ってうおおおおおお落ちるー!!!!」

中がそこまで深い竪穴になっているとは知らなかったブギーの叫び声が響いて次第に遠く掻き消えていく

最終的に何も聞こえなくなったと同時にシャドー達はブギーを押し込むという命令を無事成し遂げた事に満足し、そのまま地面に溶けるように消えていった
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