蠱惑の糸




バアル「ねぇ、味見してみてもいいかしら」
ジャック「骨を味見しても美味くはないだろうけどね」

そう言いながらジャックの頬に唇を寄せ、舌で頬を舐め上げる
ねっとりとした舌の感触に激しい嫌悪感を抱いた


バアル「あぁ…とっても美味しい……貴方の骨、全てしゃぶりつくしてあげたいわ」


舌に残る味に恍惚の表情を浮かべていたバアルの肩に一匹の蜘蛛が糸を伝っておりてくる

その蜘蛛が彼女の耳元に近付くとバアルが驚きの表彰を浮かべた
何かあったのだろうかとそれを見つめているとバアルはジャックに顔を寄せる


バアル「困ったことになったわねぇ…貴方のお友達がこの近くまで来ているみたい」
ジャック「友達…?」
バアル「名前は知らないけど、とっても大きな袋のお友達、それと可愛いお人形がいるみたい」


袋とはたぶんブギーの事だろう
そしてお人形
間違いなくサリーの事だ


ジャック「ブギーがここに…でも何でサリーまで」
バアル「ブギーにサリーというの…まさかここまで来るとは思っていなかった、何とかしないといけないわねぇ」


それを聞いてジャックは動かない体をどうにか出来ないかと必死にもがこうとした
バアルは2人に何かをしかけるつもりだ
ブギーは自分の身を守る術を持っているがサリーはそうはいかない
蜘蛛に囲まれようものならどんなひどい目にあうか
怪我で済むならばまだしも最悪の場合、命を落としかねない


ジャック「サリーに手を出すな!」
バアル「あらあら急に慌てちゃって…サリー、貴方の恋人か何かかしら」


そこでバアルは何かを思いついたらしく悪戯めいた表情を浮かべる
ジャックの首に手を添え、細くしなやかな指で項をゆっくりと撫でた
指先を彩る赤く鋭い爪先が白い骨をカリ、と掻き毟る


ジャック「サリーに何かあった、ら…」


そこでジャックの言葉が掻き消える
声が出ない
バアルに何かされたと気付いた時には既に手遅れ
動いていないはずなのに目の前がグルグルと回転し始める



バアル「ふふ、私の質問に答えてくれるかしら……サリーに何かあったらどうするの?」



サリー
サリーにもしもの事があったら



待ってくれ、サリーとは誰の事だ
よく知っている人だった気がする



バアル「じゃあ次の質問よ、貴方の名前教えて?」


僕の名前
僕は………

自分の名前がわからない
僕は誰だったんだろう


バアル「何もわからないのね、かわいそうに……大丈夫。私が貴方の傍にいてあげるから」

バアルがジャックの背に腕を回し、動かない体を抱き起した
そのまま背中をゆっくりと撫でる
彼女の手はまるで氷のように冷たかったが、ジャックは気持ちよさそうにゆっくりと目を閉じる
自身を慈しむようなその行動に、その身を預ける事に何の抵抗も感じない

すっかり大人しくなってしまったジャックの耳元でバアルが唇を開く


バアル「これで貴方は完全に私の物…本当に嬉しいわ」

その言葉を聞いてもジャックは何も感じる事はなかった
徐々に考える事自体を放棄し始めていた

そんな彼の耳に唯一届いた言葉
その言葉に対するたった一つの疑問のみを残してジャックの意識は完全に消えた




バアル「いい子ね……私の愛しき王」





オウ ッテ ナニ ?
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