蠱惑の糸
ジャックを追うべく歩き出したブギーはとある場所の入り口に立っていた
スパイラルヒルを抜けた先に現れた木々に囲まれた場所
そこは迷いの森
ブギーは腰に手を添え、森の様子を伺う
枯れた木々がいくつも並び静まり返っている
蜘蛛の姿は勿論、動くものの姿は一切ない
ブギー「本当にここにいるのかよ…」
1人呟き偵察に放った虫の事を考える
ブギーは体内に数えきれないほどの虫や蛇を含んでいる
それらは一匹一匹が意思を持っており、ブギーの手足として働かせる事が可能だ
今朝ブギーは偵察に向かわせた虫達の声を耳にしていた
どの虫も大した成果を得られていなかったが、その中で一番遅れて帰還した一匹の言葉にブギーは興味を示した
それがこの迷いの森の事だった
聞いたところによると多くの蜘蛛がその森に出入りしていたらしい
ブギー「まぁここがかなり怪しいのは確かだしな…あぁめんどくせぇ」
面倒に思うのも無理はなかった
ここはその名が示す通り道が複雑に入り組んでいる
更に同じ木々に囲まれている為、どこを見ても同じ景色で迂闊に入り込んで迷ってしまう者も少なくはない
ブギー「本当なら今頃ジャックの野郎もいたはずなんだがなぁ…しょうがねぇ、このブギー様一人で挑んでやるか」
ブギーが溜息を洩らすのも仕方のない事だった
迷いの森は複雑なだけではなく広大な面積を誇る
1人よりも2人の方がまだ蜘蛛を発見できる確率はあがる
本来ならばこの場には自分とジャックの二人がいるはずだったのだ
虫の報告を聞いてジャックへ知らせようとしたのだが、街へ入るなりメイヤーと遭遇した
その際に偵察の事を聞かれたので特に隠す必要はないかと簡潔に告げたのだがそれが大きな間違いだったと今更ながら思う
内容を聞いたメイヤーが自分がジャックへ知らせに行くと言い出したのだ
そしてブギーの返事を待たずしてジャックの元へと走って向かってしまったのだ
自分はそれを呆然と見るだけで、そのままメイヤーに任せてしまった
あの時すぐさま追いかけて自分が行けばよかったのかもしれない
そうすれば現在のような面倒な事になっていなかったのかもしれない
しかし今更過ぎた事を思っても何も変わらない
そう考えならばさっさと終わらせてしまおうと森の中へ足を踏み入れた
そんなブギーの事を距離を取り、身を隠しながら見つめる者の姿
それはサリーだった
サリー「この森の中にジャックが…?」
どうしてこんなところに
そう考えたがジャックが何処にいるのかなど自分にわかるわけもなく、ブギーが進む以上後に続くしかないと足を運ばせる
木々に身を隠しながら一定の距離を保ち、ブギーの後ろ姿を見失わないよう進んだ
何処まで進んでも全く変わらない景色
蜘蛛に襲われる事も無く、ブギーはひたすら歩き続ける
ブギー「相変わらず広い森だな」
想像していたよりも長い距離を歩き、ふと周囲が暗くなってきた事に気付く
足を止め顔を上げると遥か高くに伸びる枝の隙間から夕陽が沈みかけているのが見えた
完全に陽が落ちてしまったらますます捜索が困難になる
これ以上時間をかけるのは得策ではない
そう考えたブギーは麻袋の手をパチパチと数度叩いた
すると地面に伸びていた影が水面のように揺らめき、その中から黒い手が突き出てきた
ブギーの影、シャドーが2体影から出てくると何の用だと言わんばかりにブギーに向き直る
ブギー「よし!お前らこの辺を探ってこい。怪しいもん見つけたら何でもいいから教えろ」
自分1人ではこの広い森を捜索するのは時間がかかる
ならば手数を増やせばいい
そう考えシャドー達を呼び出したのだ
我ながらいい案だ
そう思っているとシャドー達は微動だにせず、いつまでたっても行動を起こさない事を不思議に思い問いかけてみる
ブギー「おいお前ら何やってんだ?さっさと行きやがれ」
しかしシャドー達はあろう事かその命令を拒絶するよう首を横に振った
ブギー「嫌だじゃねぇだろ!俺が命令してるんだ!いいからさっさと行け!」
しかしいくら怒鳴ってもシャドー達はその命令には従わなかった
このシャドー達はブギーが召喚したものではあるがそれぞれが意思を持っており、ブギーの命令とはいえ必ずしも従うわけではない
そんなシャドー達に腹を立て何が何でも従わせてやると一体のシャドーの頭を引っ叩く
その行動をゴングとばかりにシャドー達がブギーへ飛び掛かり
その場で麻袋達の乱闘が始まってしまった
その様子を頭上の枝に垂れ下がる蜘蛛が見つめていた