蠱惑の糸
ブギー「あーわかった!わかったからいちいち喚くな!!」
何度怒鳴っても一向に引こうとしないサリーに根負けしたのか、ブギーは彼女の提案を渋々ではあるが受け入れた
なんて頑固な女だ!
言い合いにすっかり疲れたとため息をはき、ふとサリーの背後に視線を向ける
先程までそこにいたはずのジャックが背を向けどこかへ歩き始めていたのだ
ブギー「おいどこ行く気だ!」
ブギーの声に驚き振り返ったサリーが慌ててジャックを追い、骨の手を掴む引き寄せた
サリー「ジャック待って!」
引き留めようと声をあげる
が、あろう事かジャックは彼女の手を乱暴に振り払った
想定外のその行動にサリーは驚きそれ以上声を出せなかった
振りほどかれた手が微かに震えている
静止を聞かず尚も突き進むジャックにブギーはいよいよ怒りを露にし、サリーを押しのけその細い骨の腕を力を込めて掴み上げた
ブギー「おい待てって言ってんだろうが!!」
そこでブギーはあるモノを見た
ジャックの露になっている項部分
そこからいくつもの小さな目が此方を凝視していた
それは蜘蛛の目だった
それに気付くや否や、そのまま掴んだ腕を力任せに引っ張る
その力に体勢を崩し後ろによろめくジャックに素早く腕を回し逃がさないよう羽交い絞めにした
ブギー「おい!コイツの首に蜘蛛がいやがる!さっさと取っ払え!!」
サリー「く、蜘蛛…?」
ブギーに言われジャックの首を見つめる
白い骨の首元に蜘蛛の目が浮かび、蠢いていた
それを見て驚き悲鳴を上げかける
ブギー「何やってんだ!早くしろ!」
ブギーの怒声に恐怖に震える手を握りしめ、ジャックへ駆け寄る
その首に腕を伸ばし、蜘蛛の目が浮かぶ箇所に指が触れると確かに骨以外の何かが張り付いている事に気付いた
ブギー「掴んで力任せに引っ張れ!」
サリー「わ、わかったわ!」
意を決して指で触れた箇所を掴み、そのまま全力で引っ張った
首から白い物体がゆっくりと剥がれ始める
それは次第に色を変え、現れたのは間違いなく蜘蛛だった
強い力で癒着しているのか糸を引き、なかなか剥がれきれず
その途端、先ほどまで微動だにしなかったジャックが苦痛の声をあげ暴れだした
突然暴れ始めた事に驚きサリーは思わずその手を放してしまう
解放された蜘蛛は首へと戻り、再び全身を擬態させるよう白く染め首と一体化した
ブギー「おい何やってんだ!離すんじゃねぇ!」
サリー「ご、ごめんなさい!」
サリーを睨みつけ更に怒声をあげる
再度蜘蛛を掴もうと慌てて腕を伸ばした
すると一瞬サリーに気を取られたからか
暴れていたジャックが拘束から片腕を抜き、そのままブギーの顔面目掛けて火を放った
その火は見事に直撃し、ブギーはたまらずジャックから腕を放してし後退る
完全に拘束を解かれたジャックはバランスを崩してそのまま前方に倒れ込んでしまう
サリー「ブギー!大丈夫!?」
ブギー「あっちち!!」
袋を焼く火を慌てて消そうと自らの顔を何度も叩く
幸い火はすぐに消化されブギーの顔は少し焦げただけで済んだ
その間に倒れ込んだジャックはゆっくりと立ち上がり、そのまま振り返る
表情の無い顔で二人を眺めながら僅かに浮かせた両腕に魔力を纏う
その手には真っ赤に燃え上がる火が浮かび上がった
袋が無事なことに安堵したブギーはそれに気付き、サリーの身体を乱暴に突き飛ばした
受け身も取れず地面に倒れ込み、痛みよりも驚きが勝ったようで慌ててブギーの方を見る
その瞬間ブギーの身体が燃え上がり、彼の居た場所に激しい火柱が立った
それを目の当たりにしサリーの表情が恐怖に染まっていく
火を放ったのはジャックだった
張本人であるジャックは大きな火柱があがるのを見つめ、大きく裂けた口元が緩やかに笑みを浮かべた
サリー「ジ、ジャック…」
震える唇を何とか動かし、彼の名を呼ぶ
その声に気付いたのかジャックはサリーの方を見て、一歩ずつ静かに歩み寄る
目の前に来ると片膝をつき、サリーの頬へそっと腕を伸ばし
その輪郭をゆっくりと撫でた
サリー「ジャック、私よ…サリーよ?わかる?」
正気に戻って
そう訴えながら目の前の丸い顔を包むように両手を添える
添えられた手にまるで甘えるかのように自ら顔をすり寄らせる
そんな彼を見つめていたサリーはふと息苦しさを感じた
自分の頬を撫でていた手が首元へと流れるように滑り、首を掴んでいたのだ
その手に次第に力が入り、再度名を呼ぼうとする声は塞がれた
苦しい
その手から何とか逃れようとジャックの手を掴み引き離そうとする
しかし力の差は歴然で叶う事はなくその手を虚しく引っ掻くだけ
必死にもがくサリーをぼんやりと眺めジャックの口元が再び弧を描く
ブギー「おい」
すると背後から声が聞こえジャックが振り返る
それと同時に重い拳が振るわれ、ジャックの身体が文字通り飛んだ
受け身を取る事もなくゴロゴロと地を転がっていく
ジャックの手から解放され必死に呼吸をしようとし咳き込むサリーが視線を向けるとそこにはブギーが立っていた
サリー「ぶ、ブギー…貴方」
ブギー「影ってのは便利だよなぁ、その中に逃げ込んじまえば燃えようが関係ねぇ」
にやりと笑いながら座り込んでいたサリーの手を掴み立ち上がらせる
荒い呼吸を整えながらジャックの方を見る
吹っ飛ばされ衝撃に対処できずに倒れ込んでいた彼は、まるで痛みを感じないかのように立ち上がり始めていた
ブギー「これ以上暴れられたら面倒だな」
そういって腕を軽く振るう
するとブギーの影が2つに増え大きく伸びる
その影からブギーと同じ姿
シャドーが2体出現し、起き上がろうとしていたジャックの両腕を素早く押さえつけた
身動きが取れなくなったジャックはその場でもがく
その様子をシャドー達が面白げに眺め笑いながら抑える腕に力をこめる
ブギー「あー無駄無駄。そうなっちまえばお前でも簡単には逃げられねぇよ」
ジャックの横に立ち、拳を掲げ
ブギー「そのまま大人しく眠ってろ」
そういって全力でその拳を振り下ろした
重い拳が叩きつけられる音
しかしブギーはその拳を慌てて引っ込める
それと同時に両腕を押さえつけていたシャドー達が悲鳴をあげ消滅した
拳を振り下ろした場所
そこにはジャックを包むようにして、何処から現れたのか大量の蜘蛛が群がっていた
ブギー「何処から来やがったこの蜘蛛ども!」
ジャックを覆う蜘蛛を払おうと何度も腕を振るう
しかし蜘蛛の数は減るどころか逆に増えていき
その蜘蛛達が赤や青と光りだしたのを見て、爆発するのかと流石のブギーも距離を取った
ジャックから離れると同時にその光は弱まっていき、次の瞬間大量の蜘蛛達は素早く逃げ出したのだ
蜘蛛達が散ったその場所を見るとそこにいたはずのジャックの姿は消えてしまっていた
ブギー「………おいおいおいふざけるな!!」
ジャックが消えた事に暫し呆然としていたブギーは我に返り、逃げ去っていった蜘蛛達に向け声を荒げた
サリー「そんな…ジャック、ジャックはどこなの!?」
何度も必死に名を叫び周囲を見るも誰の姿もなく
サリーは悲しみのあまり涙を滲ませた