蠱惑の糸


ブギー「この街にいねぇとなると、あとは外になるわけだが」
サリー「ジャックの家、タウンホール、ダウンタウンや研究所にもいない…ジャック、どこにいるの」

以前にもジャックの行方が分からない事はあった
その時はクリスマスタウンを訪れていたわけだが、今回は蜘蛛の脅威もありサリーの不安はますます募る一方

ブギー「とりあえずは外、墓場から探すか…おい、絶対離れるなよ?面倒な事になる」
サリー「ええ、わかったわ」

大人しく指示に従うサリーを引き連れ、街の門を抜け墓場へと向かうべく歩く
その最中、サリーの視界の端に何か動くものが映り歩みを止める
はっきりとその姿を見る事は出来なかったが、それは見覚えのある姿な気がした

ブギー「おい、どうした?」
サリー「今…ジャックがいたような気がしたの」

サリーの視線の先を見るがそこには誰の姿もない
見えるのは広い墓場、古い墓石の数々に枯れ木

ブギー「気のせいじゃねぇのか?」
サリー「…そうかしら」

さっさと行くぞ、と先を急ぐ彼の後にサリーは慌てて走り出した








街を出た2人は墓場をただひたすら無言で歩く
見落としの無いように意識を集中させるものの、そこにはやはり誰の姿もなかった

ブギー「おーいヒョロヒョロ骸骨男ー出てこーい」
サリー「ジャックー!」

ただでさえ広い墓場をひたすら歩くだけでは埒が明かないため、声をあげてみるがそれに答える者はなく、聞こえるのは微かな風の音と二人の声のみ

サリー「ここにもいないのかしら…」
ブギー「おいおい勘弁しろよ…」

2人は落胆し再びジャックを呼びながら歩み始める
何処を見ても墓ばかりで目的の人物の姿は一向に見えなかった



暫くしてブギーは苛立ちはじめジャックを呼ぶ言葉も次第に罵声へと変わり始めた

ブギー「さっさと出てきやがれ骨野郎!俺が怖くて出てこれねぇってのかキングのくせによぉ!!」
サリー「…ブギー少し落ち着いて」

苛立つブギーを宥めようと声をかける
しかしブギーはそれを無視し大きな罵声は尚も続けられた

しかし墓場の奥の方へ到達した頃になると、ブギーも流石に疲れたのか罵声すらやめてしまい無言で歩くだけとなっていた

サリーも途中からブギーを宥める事を諦めてしまっていた為、ただひたすら歩きジャックの姿を探すのみとなっていた


ジャック…何処に行ってしまったの

不安からジャックの姿を思い浮かべ、ひたすら祈るように心の中で何度も名を呼ぶ

これだけ求め願っているのだから、出会えないかしら
歩みを止め辺りを見渡す

見えるのは墓場
そしてスパイラルヒル

スパイラルヒルを遠くから見つめサリーの脳裏にジャックとの思い出が蘇る
2人にとってその場所は特別なものだった
想いが繋がり初めて口付けを交わした場所

それを思い出し自然と頬が熱くなるのを感じる
そして同時に未だに会えないジャックへの不安な気持ちがますます強くなった

早く会いたい
愛しい貴方に

そう思いながらスパイラルヒルを見つめていたサリーはある事に気付いた

スパイラルヒルに誰かがいる
明らかに何者かの影が見えたのだ

サリー「ブギー…あそこに誰かいるわ」

サリーの声につられて指差す方を眺める
ブギーの目にも確かに誰かが立っている姿が映った

ブギー「…もしかしてジャックか?」
サリー「行ってみましょう!」

ブギーの答えも聞かずにサリーは走り出した

ブギー「おい勝手に…あーくそ!話を聞きやがれ!」

サリーを追いかけスパイラルヒルへと向かった






スパイラルヒルへと続く扉を越え、到達したサリーは目撃した何者かの姿を探すべく見上げた

そこには探し求めていた人物

明らかにジャックの後ろ姿だった


サリー「ジャック!…よかった」

その姿を見つめ無事な事を確認し安堵する
そこへ遅れて到着したブギーもまた同じくジャックの姿を目撃した

ブギー「勝手に行くんじゃねぇよ!……っと、ジャック!てめぇこんなところにいやがったのかよ!」

ようやく見つけたジャックに文句の一つでも言ってやろうとした
が、ブギーはそこで口を閉じた

様子がおかしい
明らかに二人の声が届いたはずなのだが、ジャックは一向に振り向かない

サリー「…ジャック?」

サリーも違和感を覚えたのか再度名を呼ぶ
しかし変わらず彼が振り向く事はない

心配になり歩み寄ろうとしたサリーの手首をブギーの袋の手が突然掴み強引に引き寄せた
強い力で引っ張られたために思わずバランスを崩して転げそうになるがブギーの麻袋の身体に凭れ掛かる形になり阻止された

ブギー「…おいジャック!まさか聞こえてないなんて事ねぇだろ!さっさと顔を向けやがれ!」

ブギーの怒声がその場に響く
暫くの沈黙の後
ジャックが静かに振り返った

振り返ったジャックを見て名を呼ぼうとしたサリーは声を詰まらせた

いつもの表情豊かなジャックの顔はそこにはなく
無表情のまま大きな丸い眼窩が冷たく二人を見下ろしていた
感情を何も感じられないただのモノのようなその姿に2人は身体の底からぞわりと寒気が込み上げてくるのを感じる


ブギー「…お前、何があった」

ジャックの様子は普段の彼と比べれば明らかに異様なものだった
何も語らずただ此方を見るだけ

彼の身に何かがあった事は明白だった

ブギー「………やられちまったか」
サリー「どういうことなの…?」

ジャックの様子を見てブギーには何が起こったのか予想がついた
目の前にいる骸骨男
その彼と似たような光景を見た事があったからだ

語り掛けても反応がなく、目の前の人物を認識できていない

それはいつかのウェアウルフと思い起こさせるものだった

ブギー「ウェアウルフと同じだ。蜘蛛に取り憑かれちまったんだよ」
サリー「とり、つかれ…た…?」

その言葉を聞きジャックへ視線を移す
そこにはやはりいつもの明るく表情豊かな彼はいない
自分の知っているジャックはその場に存在していなかった

ブギー「離れてろ」

ブギーはそう告げると同時にサリーを後ろへ下がらせるよう体を軽く押す

サリー「取り憑かれたってどういう事なの…ジャック…私よ!サリーよ!」
ブギー「無駄だって。ああなったら何を言っても聞こえやしねぇ。ウェアウルフも同じだったからな」
サリー「じゃあ…どうすればいいの」
ブギー「んなもん決まってんだろ…ぶちのめせばいいだけだ」

ブギーは慎重に距離を詰め始めた
ウェアウルフの時とは違い、相手はジャックだ
あの時と同じく戦う事となれば簡単にはいかないだろう

ジャックはゆっくりと近づくブギーをただ見つめる
特に構えるでもなく、ただ立ち尽くしたままだった

力ならば此方に分がある
しかし相手は素早くアクロバティックな動きを得意としている

どう攻めるか

出来るならば一撃で沈めたい

互いの距離が更に縮まり、腕を伸ばせば届く距離

そこで先に動きを見せたのはブギーだった
戦いが長引けば此方が不利になる
そう考え、ブギーは先手必勝とジャックの顔面目掛けて拳を振るった
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