蠱惑の糸
ハロウィンタウンへと訪れたブギーはジャックを探すべく、街中を歩き始めた
住人の姿はなく、酷く静まり返った街
勿論そこに探し人であるジャックの姿もない
ブギー「だーれもいやがらねぇ」
ブギーはまずジャックの自宅を訪ねた
試しに呼び鈴を鳴らしてみる、が反応はなかった
次にタウンホールへと向かった
中を覗くがやはり誰の姿もない
その後、ダウンタウンなどにも足を運んだが結果は全て同じものであった
ブギー「いねぇな…何処にいきやがったんだアイツ」
あとはサリーの所くらいか
そう考え足を運ばせようとした時
町長「あ」
振り返るとそこにはメイヤーの姿があった
ブギーと目が合い、一瞬体を強張らせる
未だブギーへの恐怖心を抱いているからか、その顔が悲観的なものへと変わった
ブギー「お、ちょうどいいところにいやがったな」
町長「な、何か用でも?」
ブギー「ジャック見なかったか?少し前に子分どもが見かけたらしいんだが」
ジャックが小鬼達にしでかした事はあえて語らなかった
ジャックを尊敬してやまないハロウィンタウンの住人
特にサリーやメイヤーにこの事を伝えても無駄に動揺させてしまうだけで色々厄介な事になるだろうと判断したからだった
町長「ジャック?今朝会いましたけど…あ、そうだ!偵察に向かわせた虫の事はちゃんと伝えておきましたよ!」
ブギー「そうか…なぁ、ジャックに会った時、何か違和感とか感じなかったか?」
町長「違和感?…うーん」
メイヤーは今朝の出来事を思い出しながら考え込む
町長「あ、そういえばひどく疲れた様子でしたね。今日は早く休むよう言いましたけど」
ブギー「疲れねぇ…他に何かなかったか?いつものアイツらしくねぇところとか」
疲れがたまっていただけではどうにも説明がつかない
他に何かあったはずだ
町長「そういえば…話している途中から何も喋っていませんでしたね。ただ頷くだけで…話が終わったらすぐに何処かに行ってしまいましたし」
ブギー「それだけか?他に何かなかったのか?」
町長「ほ、他には特に…あの、ジャックがどうかしたんですか?」
執拗にジャックの事を訪ねてくるブギーに少し違和感を覚えたのか、メイヤーが逆に問いかける
ブギー「アイツに話があるだけだ」
町長「でも様子がどうだったとか、やっぱり何か」
ブギー「話が、ある、だけだ」
これ以上何も言うなとメイヤーに顔を近づけ言い聞かせるよう呟く
あまりにも近い距離にメイヤーは息をのみ、それ以上何も言う事はなくただひたすらに頷いた
メイヤーをその場に残し、ブギーは予定通りサリーの元へと向かう事にした
道中もやはり他の住人と出会う事はなく、難なく目的地へとたどり着き
そこで歩みを止めた
ブギー「ここにもいなかったらあとは何処にいるかだが…街の外だと探すのが厄介だな」
街の外となると探すべき場所はあまりにも広い
それに探すとしてもジャックがずっと同じ場所に留まるとも限らず、すれ違う事も考えられる
面倒だな、とため息を漏らす
すると研究所の扉がゆっくりと開き
サリー「あら、ブギー」
そこから出てきたのはサリーだった
ブギー「お、ちょうどいい。ジャックは来てねぇか?」
サリー「ジャック?いいえ、今日はまだ会ってないけれど」
ブギーの予感は的中してしまった
勿論悪い意味でだが
ブギー「やっぱいねぇか」
サリー「ジャックを探しているの?家にいるんじゃないかしら」
ブギー「家にもタウンホールにも何処にもいやがらねぇ。どこ行きやがったんだ」
困ったといった風に頭をかく
そんな彼を見てサリーは不安そうな表情を浮かべた
サリー「何処にもいないって…ジャックに何かあったの?」
ブギー「あーいや…ただ話があっただけだ。街にいねぇとなると外を探すしかねぇか」
サリー「…私も探すわ」
彼女のその言葉にブギーは頭を掻く手を止めた
そこでここに来たのは間違いだったのかもしれないとようやく気付く
愛する男の行方が分からないと知れば彼女は勿論大人しくしているわけもなく、捜索の為に動き出すのは明白だった
しかし現在の状況で彼女を一人で行動させるのはいい案とは思えなかった
今となっては街中は完全に安全だとは言えず
単独行動をされて何かあれば困る
ジャックに知れたらどんな罰を与えられるかわかったものではない
ひとまず彼女には大人しく研究所に籠ってもらわなければならない
ブギー「悪い事はいわねぇ、大人しく部屋に籠ってろ」
サリー「いやよ、ジャックを探すわ」
自分が籠るようにいって素直にきくような女じゃねぇよな
分かりきってはいたが、ブギーはどうすべきか悩む
仕方ない、とサリーに詰め寄り彼女の手首をつかんだ
その突然の行動にサリーはびくつき腕を振り払おうとするがそれは叶う事はなかった
ブギー「お前1人で今の街を歩き回るってのか?もし例の蜘蛛にでもあったらどうする気だ?大人しく食われでもするってのか」
サリー「それは…でも、ジャックの行方がわからないだなんて何かに巻き込まれたのかも…もしかしたら怪我をしてるかもしれない…そんな時にただ部屋に隠れてるだなんて、私には無理よ」
ブギーを恐れる事なく強い眼差しで見つめる
互いが目を合わせ暫しの沈黙が流れる
そこでブギーは掴んでいた腕をそっと離す
ブギー「あーわかったわかった!俺の負けだ!」
サリー「え…じゃあ」
ブギー「ただし一人で行動するな。お前を一人にして何かあったら俺がジャックに引き裂かれる。冗談抜きで」
ブギーの言葉にサリーの表情は一変し笑顔を見せる
サリー「わかったわ!ありがとう」
ブギー「礼なんてするような事でもねぇだろ。さっさと行くぞ」
サリー「ええ、そうね!」
ブギーが歩き出すと同時にその後ろに続くサリー
ますます面倒な事になったとブギーは心の中で呟いた