蠱惑の糸



ジャック「そっちはどうでしたか!」
町長「こちらは何も…ジャックの方はどうでしたか!」
ジャック「ウェアウルフを見た者はいないようです…どこに行ってしまったんだろう」

ハロウィンタウンではウェアウルフの捜索が続いていた
街中を歩き住人に聞き込みをしても誰一人として彼を目撃したものはいなかった

広場で落ち合った二人はどうしたものかと悩む

するとそこへジャックの名を呼ぶ声

それは街の入り口から歩いてくるブギー
そしてその隣には件の住人、ウェアウルフの姿があった
2人はウェアウルフに駆け寄り彼が無事である事に喜びを露にした

ジャック「ウェアウルフ!よかった…無事だったんだね!」
ウェア「あー…それが、無事ってわけでもないんだよな」
町長「どういう事ですか?」

ウェアウルフの言葉の意味がわからず首を傾げていると彼は2人に自らの背を向けた
そこには怪我毟られ血が滲み、蜘蛛の形をした火傷の痕

町長「ど、どうしたんですかこの傷!あぁ…なんと痛々しい」
ウェア「実は今朝から何も覚えちゃいないんだ…詳しくはブギーに聞いてみてくれ」


その言葉に視線がブギーに集中する
ブギーは何かをごそごそと漁り、その手をジャックの前に差し出す
その手の中には子蜘蛛の死骸があった

ブギー「昨夜、大蜘蛛と戦っただろ?あの時の子蜘蛛が背中に張り付いてやがった。それでコイツ、どうやらその蜘蛛に操られていたみたいでな…俺の家に侵入してきて襲ってきやがった」

ジャック「襲った!?蜘蛛に操られて?…待ってくれ。あの時の子蜘蛛は全部彼らが潰していたじゃないか」

ジャックの記憶が確かならばあの時
大蜘蛛の身体が溶け子蜘蛛が数匹散った
だがそれは彼ら、小鬼達が潰していたはず

ジャック「それにそもそもあの時サリーと町長に連れられて彼は」
ブギー「それなんだがなぁ…この蜘蛛があの時散った奴とは別に
、俺達が駆け付ける前にコイツが戦っていた奴ならどうだ?」

ブギーの言葉にジャックは黙り込む
確かにあの時散った蜘蛛は始末したが、それ以前
自分達が駆け付ける前の事はわからない
ウェアウルフが1人で戦っている最中に取りつかれてしまったのかもしれない

そう考えジャックの脳裏に嫌な考えが浮かんでしまう

ジャック「…僕達が駆け付ける前にいた子蜘蛛…あれがもしも、街中に逃げ出していたら」
町長「そ…そんな事になれば」

そういってウェアウルフの方を見る
ブギーの話によれば子蜘蛛は彼に取りつき、操られ襲い掛かってきたという
もしジャックの考えた通りに今も尚、この街に蜘蛛が潜んでいるとなればこの先も被害が出てしまう

ジャック「ブギー…彼が操られていた時に何か変わった事はなかったのか?」
ブギー「変わった事?こいつが獣同然の姿で攻撃してきた事以外でか?」
ジャック「もしも何かわかりやすい変化があれば、事前に誰が操られているか確証が持てる。そうすれば対処しやすいだろ?」

変わった事…とブギーは暫し考え、ある事を思い出す

ブギー「そういえばこの蜘蛛、コイツの背中に張り付いてたんだが…その部分が隆起してたな。張り付いた場所に溶け込むように色まで変えてやがった。」
ジャック「隆起…けど、それが服の下で見えなければ判別し辛いし…困ったな」

ジャックの言う事も最もである
ウェアウルフの背中は引っ掻いた際に服が破れていた為かろうじて気付いたものの
それが完全に服に隠れてしまえば視認しにくい

町長「と、とにかくまずは住人にこの事を知らせ蜘蛛に近づかないよう勧告してはどうでしょうか?」
ジャック「そうですね…まず皆に知らせておいた方がいいでしょうし……ブギー、それちょっと貸して」

そういってブギーの手から子蜘蛛の死骸を取り上げる
取り上げた子蜘蛛を見てみるが、外見は街中でよく見かける蜘蛛と然程違いは感じなかった

ブギー「何すんだよそんなもん。もう死んでるぞ?」
ジャック「博士に見てもらおうかと思ってね。もしかしたら何かわかるかもしれないし」
ブギー「フィンケルスタインねぇ…あいつにわかるのか?」
ジャック「さぁ…でも何もしないよりはましだろ?あ、あとウェアウルフ。君は背中の手当てをしないと…ウィッチズの店に行って薬をもらう事、いいね?」

ジャックの指示にウェアウルフは素直に頷き、疲れた様子で店の方へと向かった
町長は住人に注意勧告をすべく走り出す
残されたのはジャックとブギーの二人

ジャック「君はどうするんだ?」
ブギー「俺か?しょうがねぇからついていってやる」
ジャック「…え、なんで?」

ついてくる意味ないだろ、と一瞬嫌そうな表情を浮かべるジャック

ブギー「お前の言う通りそいつの事が何かわかるかもしれねぇだろ?俺はこんな面倒事はさっさと終わらせてぇんだよ」
ジャック「ふーん…それは彼らの為?」

彼らとは小鬼達の事である
ブギーにとって彼らはいい子分であると同時に、日頃世話している事もあり子供のような感覚もあるのだろう
本人は素直に認めようとはしないが何だかんだ言って可愛がっているのはわかる

ブギー「うるせぇ!おらさっさと行くぞ!」
ジャック「別に恥ずかしがる事ないのに」
ブギー「恥ずかしがってなんかねぇ!!」

いつものようにブギーをからかいながらジャックはフィンケルスタイン博士の元へと向かった
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