蠱惑の糸
ロック「おいしいー!」
バレル「やっぱり親分の作るご飯は最高ー!」
ここはブギー宅
時刻は昼過ぎ、小鬼達が机を囲って昼食をとっていた
料理上手なブギーはその日も小鬼達のリクエストに応え腕を振るっていた
食欲をそそる香りが立ち込める
ブギー「そうか、もっとあるからいっぱい食っちまえよー?」
そう言いながら火にかけた鍋の中をゆっくりとかき混ぜる
ショック「親分ってほんと料理上手よね。もう奥さんなんていなくてもいい感じ!」
ブギー「一生独身でいろってかおい」
そういって楽しそうに笑うほのぼのとした食事風景だったが、その雰囲気は一瞬で変わる事となる
ガタ
その物音に皆の手がピタリと止まる
何の音だろう?と周囲を見るが何もない
ロック「なんだろ今の音」
ショック「気のせいじゃないの?」
そんな会話を交わしていたのも束の間
今度はガリガリと何か鋭い物で引っ掻くような音
ブギー「ネズミか?」
ネズミが壁をかじっているのかと考えたがその音はネズミの物にしては明らかに異様なものだった
ガリガリと音は増す一方で小鬼達は食事をとる手をすっかり止めてしまう
ショック「もう!何この音うるさーい!」
バレル「………」
ロックとショックが騒ぎ立てる中、バレルは一人天井を見上げていた
それに気付いたブギーは何事かと近づく
ブギー「おいバレル。どうした?」
ブギーの問いかけにバレルは天井を見つめたまま指差す
バレル「親分…あれなんだろ」
バレルの指差す方向は視線と同じ天井
そんなところに何があるんだと見上げると
天井の隙間から此方をじっと見下ろす鋭い目があった
それを確認するやブギーは小鬼達を即座に抱え込みその場から離れる
その直後、天井に罅が入り一気に崩れ落ちた
埃が室内に舞い、先ほどまで皆が囲っていた机の上に何か重いものが落ちた
埃を吸い込んだ4人はその場で軽くせき込む
ロック「…天井がいきなり崩れたんだけど!」
ショック「…この家そんなにもろかったのかしら」
舞い散る埃で遮られていた視界は次第に鮮明なものへと変わっていく
するとそこには
ブギー「…ウェアウルフ?」
そこにはウェアウルフが蹲っていた
天井の崩落により舞った埃をかぶり、細かい破片がついてしまっている
バレル「ウェアウルフだったんだ!びっくりした!」
ブギー「いや、つーかなんでコイツがここにいるんだよ……おい」
小鬼達を下ろし、ウェアウルフに歩み寄る
蹲ったままの彼の肩に手を重ねようとすると彼はゆっくりと顔をあげた
それと同時にブギーは咄嗟に後方へ下がる
その顔は昨夜見たウェアウルフとは違う
目を真っ赤に光らせ牙をむき出しにした
飢えた獣そのものの顔だった
ウェウルフはゆらりとその場に立ち上がり息を荒げる
鋭い爪をむき出しにし、そこには血のついた自身の毛がこびりついていた
ブギー「どうしちまったんだ?お前…随分殺気立ってるじゃねぇか」
とりあえず語り掛けてみるが、それに呼応する事はなく
立ったままだったウェアウルフは身構える
距離をとったまま対峙するブギーは背後にいる小鬼達に視線を向ける
広い場所ならともかくここは室内
それに相手が今暴れだしたら3人も標的になりかねない
ブギー「お前ら一旦隠れてろ」
ロック「ボク達も戦えるよ!」
ショック「そうよ!あたし達のご飯台無しにされたんだし仕返ししなきゃ!」
ブギー「邪魔なんだよ。いいからどこか行ってろ」
小鬼達の言葉に怒鳴るでもなく、声を低めるブギーに3人は口を閉じる
その声は本気で怒っているブギーのものだとすぐに理解できた
ロック「…バレル!行くぞ!」
ショック「早くしなさいよね!」
バレル「……」
チラ、とブギーを見上げるバレル
それにさっさと行けというように手で軽くあしらう
バレルは何も言わずそれに従い二人の後へと続いた
その場に残されたのはブギーとウェアウルフの二人
ブギー「しっかしまぁ…よくもまぁ派手にやってくれやがったな」
室内を見て参ったといった風に頭をかく
そこは瓦礫と埃にまみれ、机は落ちてきたウェアウルフにより破壊され食事は床にまき散らされ、すっかり先程までの面影を失っていた
そのブギーの文句にやはり呼応する事はなく
ブギー「だんまりかよ…というよりお前、まじでどうしたんだ?ますます獣らしくなっちまって」
ウェアウルフは唸りながらゆっくりと横へ移動し、それに合わせるようにブギーも動き距離を保つ
互いに言葉を交わす事なく暫しの時が流れ
天井から欠片がカラリと落ちる
それと同時にウェアウルフが動いた