蛭魔妖一が幼馴染になった
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ドライヤーを止めて「はい終わり。ほかに聞きたいことは?」と聞くと蛭魔は目を開けて、首を振る。少しとろんとした三白眼がやっぱりちょっと可愛く見えた。
「無いなら寝るぞ。ほらこっち。」とドライヤーを片付けてテレビや電気を消す。それから自身の部屋に向かうときに背後から「飯、美味かった。」とぼんやりした声が聞こえた。振り返り蛭魔を見る。
「……お前もそういうこと言えるんだな。」
「は?」
「うそうそ。お粗末さま。ほら寝よ。」
不機嫌そうな蛭魔を諭すように声をかければ、大人しく布団に入るので電気を消してベッドに入る。久しく感じていなかった人の気配に少しそわつきながら目を閉じる。何時だっけ、こうやって最後に誰かと眠るのは。少なくとも小学生のときには誰もいない家で一人で眠っていた。
頭の中にモヤがかかる感覚に、自分は人がいても大人しく眠れることを知った。
「なんも聞かねーのかよ。」
もうあと少しで引っ張られるというところで声が聞こえてまぶたを押し上げた。何度か瞬きしながら言葉の意味を考えてみた。
なんていうことでしょう。彼はきっと俺の家に来てからずっとなんにも聞かれないことにもやもやしていたのだろう。なんでまた明日の後に家の前に来ていたのか、理由がないわけが無い。聞かれるのを待っていたのだとしたら悪いことをした。このまま寝ようとしていた自分の呑気さに苦い気持ちが広がった。
「…もし話そうか迷ったなら、話して。」
でも一応、聞かなかったことに理由はあるのだ。それは俺なりの決意表明で、一緒に歩いていく覚悟だった。
「言いたくないことは話さなくていい。たぶん、なに聞いても俺は今日…こうやって蛭魔と寝てた。」
家の前に来た時点で俺は蛭魔を家に入れて親子丼を作って、濡れた髪を乾かして布団を用意した。
でも蛭魔は守りたいだなんて言えるほど弱くない。彼は一人で壁にぶち当たって一人で壁を壊して進んでいく強さがある。だから何かあったときにそばにいるくらいで充分だった。
だけどもし。もし蛭魔が壁の壊し方が分からなくて、空が飛べないことに泣きたくなって、どうにもならなくて諦めなきゃいけなくなったなら。その時は俺が諦めなくていい方法を一緒に探す。蛭魔が行きたい道の先へ歩けように、俺は手回しをする。
「気持ちわりぃ奴だな。お前。」
金八先生も咽び泣くめっちゃいい話を鼻で笑うから、!恥ずかしさで「はぁ?いい話だろ。」なんて身体を起こして下で眠る蛭魔に抗議しようと身体を起こした。夜目で白黒しか分からない中で蛭魔は天井を見て笑っていた。こっちが気が抜けるくらいに穏やかで角のない笑みを浮かべているから、言いたかった文句も思いつかなくなってベッドに顎を乗せて輪郭のない空間で微睡んだ。
「そーだな。良い話だな。」
蛭魔はこちらを見ることなく目を細めていた。そんな顔もできるんだと知った。
「もし俺が死ぬ時はテメーを思い出すんだろーな。」
やっぱり素直じゃないし意味分かんないけど蛭魔の中では最大限の甘えの言葉だから大人しく聞いてあげられた。夜の静かな空気が俺達を少しだけ素直にさせるから「俺は思い出されたくなんてないけど。」なんて言わせてしまった。思い出すために忘れられるのが気に入らない。
「親父と喧嘩した。」
蛭魔の静かな声が聞こえて、それ以上の説明を見る蛭魔はしなかった。だから少し考えて「気まずくなって出てきたってこと?」といえば「だからうぜーんだって言ってるだろ!」なんて怒り出す。そういえばこの話は二回目だった。前にも気まずくねぇ!って怒っていたのを俺はようやく思い出せた。
「何の話で喧嘩になったの。」
「…母親の話。」
「へぇ。」
「俺産んで死んだんだと。」
「じゃあ蛭魔は母さんに会ったことないんだ。」
「ねーよ。だから聞いたら俺産んで死んだって言うから、」
「……言うから。」
「……んで隠してたんだって。」
「言っちゃったわけだ。」
「俺なんか居なかったら、もっと集中出来たんだろ。勝たなきゃ負けなんだよ。この世界。」
「言い訳に使いやがって。」と思って吐き捨てるように蛭魔が言う。随分悲観的になっていて、蛭魔は蛭魔なりに色々感じて自分の前にある壁を飛び越えようとしていた。
俺は自惚れて蛭魔のだいぶ深いところに触れていたと思ったけれど、蛭魔の根幹はやっぱりそこにあった。それに少し安心して少し悲しくて。よく分からなくなった。
負けても終わりじゃない。短期的に結果は出なかったかもしれないけれど、努力に答えを付けられるのは自分だけだから。1番納得のできる答えを探そうよ。人生はみんな長いから、選んできた道を正解にするのには自分しか居なくって。それを時間が解決するって呼ぶんだよ。俺は、今。ちょっとだけ見たい。お前の未来を。
「んで、どうすんの。このあと。」
「家には帰らないと子供はなんもできねーよ。」と眠気で滑らない舌で言うけれど蛭魔はなにも言わなかった。あっれー。脅してビジネスホテル借りるんじゃなかったっけー?って思うけどそれはまた今度でいい。中学になってまだこんな調子だったら考えよう。未来は不明確なんだから。
「おやすみ。」
語り掛けてみるけれど蛭魔からは応答がない。流石に寝たか。俺も眠いし寝ようと布団を口元にかけて目を閉じたら「いろいろ、ありがとな。」と聞こえてきた。さっきからなんで寝ようとするタイミングなんだろう。ちょうど気持ちよく眠ろうとしていたのに。素直になるならもう少し早くしてくれよなんて思うけれど今は冷やかすタイミングではないかと「どーいたしまして。」と呟いた。