蛭魔妖一が幼馴染になった
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あれから俺達は米軍基地に入り浸っていた。
蛭魔はポーカーやったり、アメフトの試合で賭けをしたりと金を稼ぐことで着実に蛭魔妖一という人格を形成していた。
俺は基本的には試合を見ていた。それから作戦を考えてみたり、ときどきアメフトでの身体の動きや身体の鍛え方の話をしたりして、何故か話の延長線で人生相談みたいなことが始まることがあった。子供の俺なのに真剣に相談をしているから俺も真剣に言葉を返していたら、恋愛相談とかなんか多種多様な悩みを聞くことになった。あ、そういえばこの間はマネさんに[なまえ、大きくなったね。もう抱き抱えるのは無理だからハグで許してね。]と抱き着かれた。まじでめっちゃ柔らかかったし、あれは幸せだった。
まぁそんなことはいいけど、俺と蛭魔は二人で金網の穴をくぐり、別々に過ごして、二人で穴をくぐり帰るというのが日課になった。
「…なーにやってんだアイツ。」
その蛭魔が、だ。二時間前くらいに別れたばかりだというのに家の前でウロチョロしているのが見えた。携帯には蛭魔からの連絡なんて入っていなくて、仕方なく風呂上がりの濡れた頭のまま家を出る。
「蛭魔。」
声を掛けると蛭魔は大袈裟なくらいびっくりして肩を揺らしたあと振り返り俺を見た。
「…なんでいんだよ。」
「お前、それ俺の家の前で言うか?」
バツが悪そうに蛭魔は視線を逸らした。蛭魔の格好は別れたときと変わらず制服のままだ。カバンは持っていない。となると、だ。一度家に帰ってからここに来たというわけで、十中八九幽也さんだろう。まったくこの親子は本当に、と静かに怒りを募らせる。
蛭魔が家を出て真っ直ぐここに来たからいいけれど、もし他の大人に拐かされていたらどうするつもりだったんだ。まぁいい、その事は後で幽也さんに追求するとして。
何も言わない蛭魔に悶々としていたら、パトロール中の警察が視界に入って蛭魔を掴んで家に連れ込んだ。このまま連れて帰ってもらうも良いが、家に帰りたくない気持ちが分からないわけでもない。
「とりあえず入って。」
頭をタオルで拭きながら引っ張って連れていくと蛭魔は大人しく家に入り、大人しく座椅子に腰掛けていた。両親と俺の三人暮らしで対して広くもない小さなマンションだ。いつも自分が座っている場所に蛭魔がいるという違和感に少し笑いそうになったけれど、捨てられた犬みたいになっている蛭魔を放置するわけにもいかない。
「……なんか食う? そんな大層なもの作れないけど。」
「お前が作んのか?」
「いらないならいい。」
「いらねぇとはいってねぇだろ、食う。」
「おっけ。」
蛭魔ってどのくらい飯を食べるのだろうか、と考えながら冷蔵庫の食材を確認して親子丼に決定する。玉ねぎや肉を切っている間、蛭魔は俺の手つきをガン見していた。テレビついてるんだから見てればいいのに。なんて思うけど、こうやって誰かが料理を作る姿を見るなんて事ないのだろう。
途中、玉ねぎと鶏肉焼くのは蛭魔に任せてやっと髪を乾かしにいけた。アルビノ体質が影響して免疫力がミジンコレベルだ。風邪をひきやすいしこじらせやすいのでさっさと髪を乾かしてキッチンに戻る。フライパンを菜箸で続いている蛭魔をこっそり写真に収めて、調理を代わった。味噌汁にナスを入れようと思ったけど、蛭魔が分かりやすく嫌な顔をしたのでワカメと豆腐にした。
「…え、この女優さん結婚してたんだ。知ってた?」
「知らねぇ。」
「マジか。誰? 一般人?」
「知らねぇっての。」
「うわ一般人だ。俺があと12年くらい早く産まれてたらワンチャンあったのかな。」
「は? お前こんな女が好きなのかよ。」
「逆に蛭魔は誰が好きなの。」
親子丼を二人でつつきながらテレビの話で盛りあがる。まぁ盛り上がってるのは俺だけなんだけど。たまごに少し火を入れすぎただろうか。母さんが甘いの好きだからみりん少し多めに入れたけど蛭魔には合わなかっただろうか。なんて思うけどしっかり完食しているのでまぁ良いでしょう。
いつもはよく喋る蛭魔が今日はあまり話さないのは相当疲れているのか、それとも急に家に連れ込まれて距離感を測っているのかは分からなかった。いつも通りにしてくれないかと言うのも違うので、頑張って話してみてるけど俺の会話デッキなんて沢山あるわけない。テレビの話題を引っ張るしかないのだ。
バラエティ番組の話題は観光場所になってどこに行こうかなとふんわり考えた。いずれ何処かに一人で行ってみたいというのはみんなの夢なのではないだろうか。西は絶対に近寄りたくないから北かなぁ。俺白いから雪降ってる時に背景と紛れるかも。なんて雪の中に佇む自分を想像して少し笑えた。俺表情筋動かないから真顔だろうけど。なんてどうでもいいこと思ってたら蛭魔が視界の端でくわりと欠伸したのが見えて、時計を見ると23時を過ぎていた。こいつ寝かさないと。
立ち上がり、自室にあるまだ開けていない下着とタオルと寝巻きを取り蛭魔に手渡した。なんだこれ、と蛭魔が視線で訴える。
「今晩は両親帰ってこないから泊まっていっていい。」
蛭魔は少しの戸惑いを見せたが「じゃあ家帰るのか?」と聞くと渋々といった様子で風呂場へ向かった。まったく奇妙なことになったものだと布団を自分の部屋に敷いて、幽也さんに蛭魔が泊まっていくことを伝えた。
幽也さんの想像以上に丁寧で端的な返信を見て息を吐く。あんまり関わっても蛭魔のためにならないのではないだろうかと思いつつ、不器用すぎる子供を見るとついつい手を出してしまう。もう既に引き返せないくらいに関わっていることは分かっているけれど。
「出た。」
「おー。ほら、これドライヤー。」
「別にそのままでいいだろ。」
「ざけんな。枕濡れるだろ。」
風邪ひくなんて言ったって聞きやしないだろう。「ほらここ来い。」といえば案外おとなしく椅子に座る。だけどドライヤーに手を伸ばすことはしないから、これやれってことかと理解して蛭魔の髪に熱風を送る。あんがい柔らかい蛭魔の黒髪をなぞりながら、幼い顔を見下ろす。いつか妖怪みたいに鋭い横顔になって、見るものを威圧する金髪になるのだろうか。
「……真っ黒だな。」
「なまえは真っ白だな。」
「白い服着てると雪国じゃ同化するだろうな。」なんて蛭魔が笑いながら言うから、さっきのテレビ番組を思い出して「じゃー東北に住むのはやめとく。」なんてまったりと会話を楽しんだ。
少し気まずいと思っていたけれど、今はそんな口多くない緩い会話が心地よい。
「……親は?」
急に蛭魔が聞くから視線を落とせば、彼は瞳を閉じてうつらうつらとしていた。
「母さんはスナックで働いてる。だから夜はほぼいない。たまに酔い潰れて迎えに行く。」
「父親は。」
「帰ってくるのは一週間に二日くらいかな。」
「へー。」
淡白な返答ではあったけれど決して興味がないわけではなくて、知っておきたい様子だった。っていうかなんで俺が質問攻めされてるんだ、普通逆だろ。この状況。
「俺もあんまりあの人とは仲良くないんだよね。だから今帰ってきたらちょっとやばいけど、母さんは子供好きだから喜ぶと思うよ。」
「俺は可愛い子供じゃねぇ。」
「まぁ可愛げはないな。」
皮肉を言ったつもりだったけれど、蛭魔は「んー。」なんて甘えたような眠たそうな声を漏らすから、少しはコイツの役に立っているようで。俺は少しそれに安心して頭を擦る手を少しだけ強めてみた。