蛭魔妖一が幼馴染になった
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ふたりでアメフトを見ていた。「これなんてスポーツだ?」「アメフト。」「よく知ってんな。」「けっこう好きだよ。アメフト。」なんて短い会話はあれどはしゃぐことはなかった。
日が暮れるまで見入っている蛭魔はもうきっとルールは覚えたのだろう。もしここでやっていたのがサッカーなら、蛭魔はサッカー少年になっていたのだろうか?
[おい坊主!!]
突然上半身が持ち上げられて足がぷらんと宙に浮き、流暢な英語が聞こえる。
[ここは立ち入り禁止だぞ!うちの事務所にとっ捕まんのと、日本の警察に突き出されるのどっちがいい!]
わーこの人片手で俺と蛭魔を持ち上げてる。なんてすごい筋肉なのだろうか。なんて俺が達観している間に蛭魔がもしも話でこの場を切り抜けようとしていた。
一瞬黒人の男は蛭魔の話を真に受けて俺を見る。俺は何も言うことなく男を見つめ返していた。
[ダッハッハ!!そのハッタリ今の一瞬で考えたのか!?すげぇガキだ!!お前も良い目をしてる!]
大笑いしながら俺らをぺいっと放り投げて[面白ぇ。お前ら暇か? 着いてこいよ。]と含みのある笑みを浮かべた。お、ポーカーやるんですか。俺トランプは好きだよ。アメフトより平和的だ。
なんの抵抗もなくついて行こうとする俺を蛭魔が無言で引き止めたが「蛭魔は来なくてもいい。」と告げると「行くに決まってんだろ!」
とぷりぷり怒りながら着いて来た。良かった。呼ばれたの俺じゃねーし、来てくれて助かるよ。
倉庫みたいなところに適当に置かれた机と椅子。流れるように蛭魔はそこに座らせられて、トランプが配られる。そして何故か俺はタイヤの上に座らせられていた。
[テキサスホールデムってつってな。アメリカじゃこれが普通の賭けポーカーだ。手札よりハッタリが勝負を別ける。]
あまりにも蛭魔向けのゲーム過ぎて呆れてしまう。蛭魔も珍しく瞳をキラキラさせて楽しそうな顔をしているものだから、こいつら終わったんだな。っていうか、将来のこいつのプレーの元祖は絶対にここから来てる。
最初のワンゲームはルールと個人、それから流れの把握で流す。それが蛭魔だ。ぼろ負けして金を巻き上げられる蛭魔と呑気に笑ってる外人どもに何の茶番を見せられているのだと目を瞑りそうになる。
まぁ俺がそうなるように運んだんだけど。
[おい。ルールも知らねぇガキから本当に取んのかよ。]
[ギャハハ!容赦ねーな!]
[おい!お嬢ちゃんもやらねぇか!?]
うつらうつらとしていたら骨格の良い男と目が合った。数秒言葉の意味を考えてから「お嬢ちゃん?」と素っ頓狂な声が出た。お嬢ちゃんって俺のこと?だから俺ここに座らせられてたのか?
ジーザス。ざけんなクソが。
[ついてるっての。]
[え、マジか!]
[はぇー!小綺麗な顔してるからつい…。]
[気ィ遣ってもらってありがたいけどさ、アンタら自分の心配したほうがいいんじゃないか。第2ゲーム、後悔すんぜ。]
蛭魔を指差すと、よしきた俺の番だと[ルールならもう覚えた!]と笑い出す。それから息を吐き出してタイヤの上であぐらをかいて肘をつく。蛭魔って本当に怖いやつだなぁ。敵に回さないようにしよう。
っていうか俺は人生二週目だから英語分かるけど、このガキはなんでこんなにも賢いのだろうか。そして一時間後、札束と積まれたコインの中で蛭魔がゲス顔で金を数えている。あー、自分で金を稼ぐ喜びをこんな歳で知ってしまったか。
[君はやらないの?]
綺麗な声が聞こえて振り返ると、雑誌とかテレビで見るような綺麗なブロンドの綺麗な女性がいた。わぁ、と思わず目を見張る程の美人だ。
彼女は穏やかな笑を浮かべながら俺の隣に座り[興味あるんでしょ?]と静かに囁く。
[俺はやらないよ。まだ子供だ。]
[子供でも大人と同じ遊びをしていいのよ。]
[だって彼はしてるもの。]と蛭魔を指差して笑っていた。彼女が笑うたびにブロンドが揺れてキラキラと蛍光灯に光る。これが太陽光の下ならもっと煌めくのだろうし、海の中で波打つ海藻のように美しいのだろう。それを惜しく思った。
[それは地毛?]
俺の髪を指さして彼女が聞くから頷くと[君と冬に会ったら、きっと妖精だと思うわ!]と笑った。意外と口を大きく開けて子供みたいな笑い方もするらしい。それでも綺麗なんだから美人というのはそれだけで得なんだな。
[貴方はこんな倉庫の中でも妖精みたいだ。]と素直に言えば、彼女はパチパチと瞬きしたあと[なんていい子なの!!]と歓喜余って俺を抱き締めて立ち上がりくるくると踊るように回り出す。
突然の浮遊感と遠心力に驚いて悲鳴出そうになった。
[マネ!そんな子供を誑かすなよ!]
[誑かしてないわ! それに私が口説かれたのよ!]
[マネを口説いたのか!? やるなぁ坊主!]
[ねぇ一緒にご飯食べない? 私もっと君と話したいわ!]
[やっぱマネが口説いてるんじゃねーか。]
男達は数十万近く蛭魔に巻き上げられているというのに機嫌良く俺とマネと呼ばれた女性を眺めていた。女性の細腕かと思ったが、そこはさすが米軍基地にて働いている。意外にも硬く力強い腕だった。
[マネに口説かれてるんだからもっと喜んだらどうだ?][人形みてーな子供だな。][ちっとも表情変わらねぇな。]なんて俺の顔を覗き込む。五月蝿いなぁ、俺の表情筋が死んでるのは幼稚園の頃からなんだよ。ほっといてくれ。
流石に居心地悪くなって顔を背けてマネにしがみつく。背中に揺れる金髪を撫でながら子供でよかったーーー!と内心ガッツポーズを決めた。
*
[そういえばマネ、何しに来たんだ?][あ、そうそう。少尉がお呼びよ。][[[早く言え!!!]]]なんて会話でお開きになったが男たちもマネさんもまた遊びに来いよなんて言って俺たちの頭を掻き回した。
門まで送ろうかと聞かれたが丁重に断り、金網の穴をくぐる。蛭魔はランドセルに金をパンパンに詰め込み俺の隣を歩いていた。どこか軽やかな足取りに、俺も機嫌良く蛍光灯の下を歩く。
「蛭魔は英語が上手いな。」
「それはなまえもだろ。」
「俺は、まぁ。でもさすが蛭魔だな。あんなに喋れるなんてたいしたもんだ。」
蛍光灯にぶつかる虫を見て、そろそろ夏かなんて思う。今年の夏の暇潰しの場所は今日見つかったし、少しは俺離れして着々とアメフト馬鹿の道を歩いてほしい。
「なまえは珍しく女に靡いてたな。」
「男と話すよりは美人と話したいだろ。」
「ならいっそ、ズラでも被ってスカートでも履けば女に囲まれてチヤホヤされるんじゃねーか??」
「蛭魔がやったら俺も考えてみるよ。」
夜に溶けそうな蛭魔の黒髪をわしゃわしゃと撫でて言えば、蛭魔は珍しそうな顔をして「随分気に入ったんだな。あの女。」と少し呟いた。
その言葉を頭の中で反復してから「そうだな。」と肯定する。
「彼女、綺麗な金髪だ。」
もしマネの金髪が空に浮かんでいたなら、それは天の川みたいに美しく揺れるのだろうかと考えながら歩いた。