蛭魔妖一が幼馴染になった
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あれから俺と蛭魔は着実に仲を深めていって、進級のときには同じクラスになり今ではすっかり隣が定位置になっていた。こんなに仲良くなってもいいのかと思うことはあるけれど、彼と話すのは俺も楽しいのでありがたくお隣に居させてもらっている。家も近い方で朝から晩まで顔を合わせている影響なのか、蛭魔のお父様とも顔見知りになりつつある。『なまえくんか。』と道ですれ違ったときはびっくらこいた。俺顔見ちゃったよ、作中では顔出しNGだったのに。俺がここ数年で一番テンションが上がった出来事は間違いなくコレ。だけど隣の息子さんは父親のことを思い出して苛立たしげに無糖ガムを噛んでいる。
「クソ親父。マジでうっとおしい。」
「まぁたしかに気まずいな。」
「気まずいんじゃねぇよ。うぜぇんだ。」
「へー。」
「おいテメー聞いてんのか!」
俺の相槌が気に入らないのか蛭魔が凄む。彼の怒りというのはかなり怖いので、俺は大人しく蛭魔少年を見る。こういうときなんて言ったらいいのか分からず「お父さん元気そうでよかった。」と率直な感想を伝えた。だが怒っている蛭魔をなだめられたことはなく、彼は一瞬で呆れ顔になる。
「どーゆー脳みそしてたらそうなんだよ。石像みたいに座ってるつってんだろ!」
「でもこの間会ったときは顔色悪かったから。」
「は?お前また会ったのか?」
「まーね。」
「そんなこと一言も、」と不機嫌そうに呟いた蛭魔がピタリと足を止めた。俺はやっとか?と少しの期待を持って振り返ると蛭魔は金網に空いた穴をジーッと見ていた。
お前おせーよ!! ここ三日くらい『限定のドーナツにハマってる。』という言い訳をして遠回りになるこの道を通っていたがびっくりするくらいお喋りに夢中なのか二度スルーされていた。
気がつくまで俺はあの店のドーナツを食い続けるのかと少し気が遠くなっていたがやっと気がついた。まじで良かった飽きてきてたんだよな。そして対する蛭魔は未だジーッと金網を眺めているだけだ。
「……入んないの?」
「は? 入るわけねーだろ。」
え?
何言ってんだこいつみたいな顔をしたあと、蛭魔は何事も無かったかのようにスタスタと歩いていく。「おら、ドーナツなくなるぞ。」と俺を急かす後ろ姿に飛び蹴りして倒れた蛭魔の胸ぐらを掴んでブンブンしたい。そして言ってやりたい。
入らないとストーリー始まらないよ。なぜ入らない? この先に君の人生が待っているのだぞ。なぜ? なんで入らない? これはあれか。俺というおもちゃがあるからなのか? 辞めてくれる?
歩き去る蛭魔の後ろ姿に内心めちゃくちゃ地団駄を踏む。いやなんで!? これ、え? なんなの、このまま歩き去るなんて良いわけない。でもどうやって蛭魔をこの中に入れさせる? アメフトなんてうちの部活にはなくて、別に蛭魔がアメフトしなくても健やかに楽しくあればいいんだけど。彼にとってアメフトって面白ぇものだから。自分勝手に進む蛭魔に救われたり、人生変えられたりする子がいて、身の程を知っているのに高みを目指すのは誰かの勇気になるわけで。だから、どうにかしないといけないわけで。
「っておい! 何してんだよ!!」
悶々と考えて考えた結果、俺が金網の穴をくぐった。こいつ俺に懐いている傾向があるので、俺が入れば蛭魔も来るのではないだろうか。その作戦が功を奏したのか蛭魔も穴をくぐってきた。
「んで入んだよ!!」
「面白そうだから。」
「はぁ!??」
苛立ちながら着いてくる蛭魔に構うことなく施設内を歩く。「ってかここなんだ。」「米軍基地。」と短く答えた。
建物の角を曲がると広い空間だった。おぉ、と思わず声が漏れた。スポーツなんて体育館か校庭でしか見る機会はなくて、こうやって大人達が本気でやっている競技を見るのは初めてだった。ましてやアメフト。バスケや野球、サッカー等とは違う日本ではあまり馴染みのないスポーツだ。あまりにも激しくぶつかり合い、時に人形のように屈強な身体が飛んでいくから戸惑いはした。だけどすぐに立ち上がり走り出してボールを奪い合う男達に人の身体は俺が思うよりも丈夫なのだと思った。
ちらりと隣を見ると蛭魔もアメフトを眺めていた。その横顔はキラキラしたものでも食い入るように見ているわけでもない。ただ静かに眺めているだけだが、お喋りで飽き性な蛭魔が静かに見ているのだから気に入ったらしい。これでアメフトには関わっていくのだろう。安堵して荷物をおろし、その場に座り込みアメフトの試合を眺める。
少し考えた。蛭魔は俺の想像とは少しだけ違う行動を取ることがある。それは金網の穴に気が付かないことだったり、それをスルーしようとしたことだったり。それ以外にも俺の想像していた蛭魔妖一とは違う行動を取ることが日常でもあった。この先アメフトにどハマりしなかったら? 栗田と出会って落ち込む彼を鼓舞しなければ? 阿含がスポーツ推薦を奪い取らなかったら? 小早川瀬那を見つけなければ? そもそも三人でクリスマスボウルを目指さなかったら?
俺はその度にこうやって蛭魔を誘導するのだろうか。