蛭魔妖一が幼馴染になった
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蛭魔妖一くんという将来有望な小学生を見て、アイシールド21という名作を思い出したときはそりゃもうお見苦しい程に混乱したわけだが、あれからなんとなく分かったことがある。
この世界は多分本当にアイシールド21の世界で、蛭魔妖一というのは俺が認識している存在で間違いないらしい。この間本屋で立ち読みしたアメフト誌には関東アメフト大会というのを見たし、アメフトと書いて闘いと読む名言も知った(著者島袋)。ジャリプロという芸能プロダクションもあるし、神龍寺も王城も存在した。ちなみに集英ベアーズというプロ野球選手に本庄勝さんも居た。
つまりそういうことだ。
ここはアイシールド21の世界だ。まぁだからといって何ができる。俺は虚弱体質で少し走っただけでも息は切れるし、それでも楽しく遊びまくった晩には熱が出て次の日までお布団に包まれることになる。アメフトなんてもってのほかだ。ぺちゃんこにされちまうぜ。
それに蛭魔妖一と同級生ってだけでいったい何ができようか。少なからずそういう生徒は80人近くいる。俺もそのモブの1人じゃん? だから安全圏だよな。そう問い掛けてみるも今一人で帰宅中なので当然回答はなし。
だけどこの葛藤が今現状を打破できる理由になることはない。
「おらクソガキがよ!!」
「もうそのくらいでやめてやれよ〜。」
「ケンちゃんやり過ぎ〜。」
たまたま遠回りをした公園で蛭魔くんが大学生くらいの人にボコられているのを発見した。
えー何したの君ー? 確かにクソ生意気な顔してるけど、まだ脅迫手帳なるものは持ってないから大学生に煽ったり喧嘩売ったりすることはないだろうけど。……いや蛭魔妖一ならやるのか? 蛭魔妖一はやるか??
どちらにせよ容認はできない。どちらかといえば小柄な子供を大人が暴力振るうなんて一番許せないのは。子供は宝である。何があろうとそんな狼藉見過ごせない。
ということでランドセルを茂みに隠してフードを被りクソ目立つ白銀の髪を隠す。それから先日の授業で作ったお面を装着! 某有名アニメーション映画の古代の森に住むこだまちゃんの顔だよ。
「……あ? なんだテメェ。」
そりゃそうですよね。なんだテメェですよね。
急に現れたパーカーフードのこだま野郎なんて『なんだテメェ』意外の何者でもないもんな。
だからと言って問い掛けの回答を持ち合わせているわけではない。そこの蛭魔妖一少年となんの関わりもないし。だけど急に現れて無言でいるのも可笑しな話だ。
「…その子に。暴力……しないで。」
何をしたくてここに飛び出したのか、よくよく考えて言ってみたら、やたらたどたどしくて拙い言葉になった。うーん、これは恥ずかしい。少しずつポッポする顔をお面で隠していることに安堵していたら、目の前の大学生達はケラケラと笑い出す。内容は『頭の可笑しい餓鬼が表れた』みたいなものだった。まぁ一旦間違ってないか。
「んでなに?この子のお友達?」
大学生が蛭魔小学生を指差す。彼を見ればギラギラと瞳の奥に炎を燃やして俺を睨んでいた。え、なぜ俺をそんな目で睨む?? 君を暴行しているのは大学生なのに。とにかくおっかない顔をしていて、ビビって首を左右に振った。
それからなんの勘違いをしたのか、大学生が笑い出して地面に倒れている蛭魔小学生に「かわいそー。」「友達じゃないんだって!」「テメー本当に仲間いねーんだな。」と好き勝手言い出す。俺はそれを見てチビりそうだった。
『お前6年以内に自分の愚行を泣きながら謝罪して後悔するぞ』と大学生たちの肩を掴み、説得したかったけど今から入れる保険はない。あー、可哀想に。
大学生の未来を憐れみながら、飛び出すだけ飛び出して何もしていない自分を恥じながら、この光景を見ていた。それがアニメを見るような感覚に近くて、俺は一人の男が倒れている蛭魔少年に向けて足をあげた意味が一瞬理解出来なかった。
「マジでこんなやついな、」
グキッとなにか重たいものが滑り落ちるような音がしたあと、すぐに悲鳴が聞こえた。目の前で大学生が痛み悶えているのを、やっちゃったなぁとぼんやり思う。
「まっつん!!?」
「おいテメェ!なにしやがんだ!!」
「肩外しただけで騒がないで。骨折ったわけでもない。」
そんなに騒がれると申し訳ないような気がして静かにしてもらうようにお願いしたけれど、肩が相当痛いのか悶絶している。やり過ぎただろうか? 相手は大学生で未成年だ。俺傷害罪とかで訴えられないだろうか。悶々と思考するけれど、地面に伏せてびっくりした顔をしている蛭魔少年が視界に入る。赤く擦りむけた頬と汚れた服を見て、大学生が小学生に怪我をさせたことを再度理解した。むくむくと怒りが押し寄せてくる。
「……小学生相手にやり過ぎ。」
「テメェなんの用だ関係ねーんだろ!!」
脂汗浮かぶ顔で怒鳴り、睨み上げてくる大学生達に確かに関係はないなぁなんて思う。だけど関係が歩かないかというのは瑣末なことだ。今ここで蛭魔少年を見捨てたら、俺は多分ずっと後悔しながら生きていく。人の痛みを踏みながら呑気にオレンジジュースでも飲みながら生きるクソ野郎になる。
「俺が何に口出すかはアンタらに関係ない。」と早口で言い放つ。
「要件は言った。その子に暴力を振るわないで帰れ。もし帰らないなら俺がお前達を同じように殴る。」
「ハッ!? なんでお前がそんなこと勝手に決めんだよ!!」
「…君達はあの子を殴るのに許可を得たの?」
先程肩を外したことを申し訳なくなるくらいに子供だった。大学生だから少し大人のように感じていたのだが、話してみれば小学生達と変わらないほどにわがままだ。変な自尊心を持っているのが少し面倒だけど。
まぁそんなことはどうでも良くて、一歩彼らに近づいてどうするんだと視線で訴えていれば、分が悪い事を悟ったのか大学生達は「付き合いきれねぇ!!」と叫んでどっか行った。
目の前から大学生共が居なくなったことに安堵する。あんなに強気に出ていたけれど俺は基本ビビりだし、面倒くさがり屋だ。3人相手でもぶっ飛ばせるだろうけど疲れるだろうし、なんかあったら面倒だ。
ふっと息を吐いてからびっくりしてこちらを見上げている蛭魔小学生に近付く。目の前に来てしゃがみ込んだところで我に返ったのかムッとした顔をしながらなんか色々喋ってた。ちょっと早口でよく聞き取れなかったけど"関係ねぇだろ"的なことを言っていた。素直になれない蛭魔少年可愛いな。10分くらい話を聞いていたら流石に体力が無くなったようで蛭魔少年は黙った。
大人しくなったのを確認してからポケットに突っ込んでおいたウエットティッシュで擦りむいた頬を拭いてから、少し大きめの絆創膏を貼り付けた。