蛭魔妖一が幼馴染になった
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翌日、学校に向かう途中「おい。」と不機嫌そうな声がしたので振り返れば金髪の蛭魔が立っていた。それどころか耳には複数のピアス。すれ違う者もあまりの圧のある姿に少し距離を開けている。
目を疑ったけれど、なんかこう、物語が始まったというか、これが俺が知っている蛭魔妖一だ。だとしても今は黒髪の方が見慣れてたから違和感すごいけど。
「どうだ?」
唖然としている俺に蛭魔は痺れを切らして言う。どうだとは、どうなんだ。どういう感想の求め方なんだろうか。蛭魔に近づいてくるりと一周し、姿の確認。うん、蛭魔妖一だ。黄金を溶かしたような綺麗な金髪だった。
「よく似合う。」
そう言ってみたものの、内心は昨日エンカウントした阿含に似てるっていうのが感想。目つき悪いところとかそっくりだな。
っていうか待てよ。昨日俺こいつのこと怒ったよな? なのに次の日に金髪ピアスってどういうこと?
そうはならんやろ。
「アーーッ!! 蛭魔くん金髪にしてる!!」
大きな声が聞こえて振り返れば三森さんがツインテールを揺らしながら「ちょっと!それで卒業式出るつもり!?」なんて蛭魔に食ってかかっている。見た目はかなり怖いというのに相変わらず肝の据わった子だ。
「チッ、朝っぱらからうるせぇんだよ!」
「うっわ。より威圧的になったね。初対面の人とか怖がっちゃうよ?」
「だからいいんだろうが。」
「おはようなまえくん! 中学校では同じクラスになれるといいね! 蛭魔は別のクラスだといいなー。」
「ざけんな! テメェよそ行きやがれ!」
三森さんが俺の右腕にくっついて学校に足をすすめるから自然と俺も歩き出し二人で歩く。左側から蛭魔が三森さんに暴言を吐くけど「やーだよ。」とペロッと舌を出す。計算された角度で100点満点の可愛い仕草である。
ほんの少しだけ中学生という環境変化に不安だったが、思ったよりも日常の延長戦になる気がして少しだけ肩の力を抜いて学校へ歩いた。
*
「昨日のこと、よく考えた。」
放課後。いつもの如く金網くぐっていれば蛭魔が口を開いた。地面に膝を着いたまま顔を上げれば蛭魔は俺を見下ろしていて、まだ見慣れない金髪が眩しく見えた。表情は見えなかったけれど、声音はやたら真剣だ。身体を持ち上げて立ち上がり「それで。」と言葉の催促をする。
俺としては幽也さんとの関係性よりも蛭魔の身の安全が一番だ。それはビジネスホテルで解決したとして、あとはほんの少しだけ心配をかけたことを分かってくれれば良かった。だけど思ったよりも真摯に受け止めていたようだ。その結果、何故か金髪ピアス蛭魔妖一の完成だったが。
「なまえの言う通り、俺らはまだ未成年で親の助けがいる。お前みたいに俺はたいして強くねーし心配かけたのも分かってる。」
うん、ここまでは問題ないね。
「だから舐められねーようにした。」
だからなんでそうなった。俺が陽気な人間ならズッコケていただろう。そしてなんでやねん!と裏拳キメてた。なんで舐められないように金髪にしよう!になったんだ。マジで若い子の思考回路理解出来ん。
漫画では金髪やピアスなど人の近寄り難い威圧的な見た目も鎧の一部だと言われていたが、この話でそこに着地はしないだろ。いやまあ好きにしてくれていいんだけどさ。
「ケケケッ。」と笑う蛭魔を見れば、いつも動かない表情筋も多少は機能したみたいで「んな顔しなくてもわかってるっつーの。」と彼は少しだけ笑っていた。
「心配かけて悪かったな。」
意外とあっけなくサラッと謝罪した。そして蛭魔はこれで会話終了とばかりにスタスタと長い足で俺の横を通り過ぎてグラウンドの方面に向かっていく。突然のデレについていけずに呆けて、口を開けて後ろ姿を見送る。
蛭魔が俺に謝った。しかも心配かけたことに。彼の性格なら余計なお世話だとかそういうこと言って好き勝手やってる印象なのに。謝られたことなんて今までなかったのに! まぁ怒ったこともないんだけど。
舐められないためなんて、言っていたけどきっとそれ以上になにか想いがあって、あの金髪は彼なりの決意表明なんだろう。そう思うと途端にツンツンデレツンくらいの頻度だけど、ツンデレって案外良いものなんだなとしみじみ思う。蛭魔可愛いなぁ(親目線)。
「こーゆーときはありがとうって言うんだよ。」
「へーへー。アリガトウゴザイマス。」
後を追いかけて、丸まった蛭魔の背中を叩いてダラダラと歩いていれば[おぉ!なまえ!って隣のヒル魔か!]と陽気な声が聞こえてくる。いつものメンバーが片腕を上げていつものように自分達を歓迎していた。俺も片腕を上げて返事をする。
[金髪じゃねーか!!]
[おーおー!似合ってんじゃねぇか!]
[ピアスはなまえの真似か?]
[うるせぇな。]
蛭魔を囲む友人らにうっとおしそうにしているけれど、本気で嫌がってないのをみんな分かっていた。
マジでどう考えたら金髪にしちゃおなんてなるのかは分からないけど、どうせすぐに見慣れる。生物は全てに適応していくのだ。
なんだかんだ心配していたのも理解していたようだし、それに対しての謝罪も感謝の言葉もあったのだから大金星だ。
蛭魔たちを見ていたら[お、どうした? なまえ機嫌良さそうだな!]と仲間の1人が俺の背中を叩く。昔は叩かれるたびにフラついていたが、今では少し力が強いと感じるくらいになっている。俺も少しずつ変わっている。
[いいことがあってね。今日は俺もポーカーやるよ。]
[ゲッ。]
[……俺はパス〜。]
[つれねーの。俺とは遊んでくれないんだ。]
[蛭魔の賭けより、お前んときの方がえげつねぇし肝が冷えるんだよ。]
[じゃあアメフトする? 俺、ちょっとやってみたいんだけど。]
[ダメダメ。お前なんて骨折れちまうよ。まずは筋トレ!]
高らかに笑いいつもの倉庫へ向かって行く。今日は何を賭けようか。先日の試合でようやくアイツを抜いただとか、青天させられたとか。そんな話題で盛り上がっているのを俺は少し誇らしいような気持ちで見ていた。
しょうがない、アメフト対策として身体を少しは鍛えておこう。みんなに筋トレの仕方を聞いて身体を本格的に作ろう。そうすればきっと母さんを泣かせることも減るかもしれない。そんな妄想をしながらみんなの後を追いかけようとしたら「なぁ。」と蛭魔が小さな声で呼びかけてくる。
「そーいやあのホテル、どーやって部屋借りてんだよ。」
「あー、あれね。」
少し考えてから「ちょっとだけオハナシしたんだよ。」と少しだけ優しく答えてみせた。しょうがないから未来の君の手解きを少しだけ教えてあげることにする。
「俺が最近見聞きした話をしたら快く一室貸してくれたぜ。」
オブラートに包んでふんわりと経緯を伝えると蛭魔は目を丸くしたあとケケケッ!!と機嫌良さそうに笑い出し、「最高だな!そりゃ!!」なんて鼻歌を奏でてポーカーに混ざっていく。
ま、未来の脅迫手帳収納者達には少し申し訳ないけど、やり過ぎないように可能な範囲で見ておくから許してくれ。ってかお前らも自重しろ。
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