蛭魔妖一が幼馴染になった
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ホテルを出てからどこに行くわけでもなく街を早歩きで歩く。今、家に帰ったとしても母親がいる。父親のこともあり精神的に落ち込んでいるはずなので、今はそっとしておくにかぎる。
こんなんで中学生になってからが思いやられる。栗田や武蔵、溝六先生との出会い。そんでもってどうせアメフト部を作るとなれば俺も参加させられるんだ。ただでさえマラソン授業の3kmすら走れず、5kmでドクターストップとは言わないけどめっちゃ苦悶の表情でイエローカード出されているんだからアメフトなんて無理に決まっている。
なんでこんな身体で産まれてしまったのだろうか。健康男児なら母さんももう少し楽できただろうに。中学校大丈夫か? こんな状況で。
どうしたものかともんもんとしていれば急に背後に気配を感じた。
「……あ? 男?」
振り返ると金髪の同じ歳くらいの少年が俺に手を伸ばしているところだった。金髪少年は俺を見て面食らったように目を丸くしている。なぜ君が驚いている? 呼び止めようとしたのはそちらさんではないのだろうか。
っていうか今、男かどうかを確認されたのだろうか。前にもそんなことがあったけどあれは声変わりの前だし、幼かった自覚はある。でも今は割とガタイもいい方だぞ?
「俺?」
「お前以外誰がいるんだよ。」
「…男ですけど。」
普通に君と同じくらいの身長だし、割と筋肉もあるほうだ。なんで間違えたこいつ。っていうかナンパしようとした? その歳で? マジかよマセガキくん。
金髪くんは俺のつま先からつむじまで見たあと「男だな。」って再確認してる。
「…なにか用が?」
「ねーよなんも。」
急に面倒くさそうな表情をして「紛らわしい顔してじゃねーよ。」なんて無茶苦茶を言われる。なんなんだ今日、というかここ数日。中学に入ってから本格的にアメフトが始まるだろうし、この先もイベント盛りだくさんなのにやる事が多すぎて手一杯なのにナンパにあうなんて。しかも男。厄日の連打か?
俺のどこが女顔なんだと、金髪少年を睨みながら「君の目が悪いのでは。」と文句言っておいた。女に見間違われるのは許せない。
喧嘩になってしまうだろうかと思ったが、金髪少年はまた目を少し丸くしたあとクククッと笑って「まぁいいわ。遊び行かね?」なんて肩を抱き歩き出した。
「忙しいから帰ります。」
「いいだろ別に。ちょっとだけだっての。」
「えー……。」
嫌がる俺を無視して金髪少年が連れて来たのはゲームセンター。適当なコインゲームや格闘技ゲームを最初はなんの感情もなくやっていたが、金髪少年が慣れているだけあって強い。
え、ちょっと悔しい。俺、前世では学生時代によく誰かとこうやってゲームしてた気がする。そこそこ上手かったし。だから負けるのが許せなくて「もう1回。」を数回繰り返した。3回目くらいからは俺もちょいちょい勝つようになった。
「お前意外とやるじゃねーか。」なんて金髪少年にお褒めの言葉をいただき、そのままファストフード店へ。オレンジを頼もうとしたのに、金髪くんが「シェイクにしろよ。マジでうめーから。」と横から勝手に注文。だけどポテトとシェイクを交互に食うと無限機関が爆誕することを知った。えまってこれ美味い。これやっば。
こうやって学校帰りにゲームセンターやファストフードに行くことなんて前世でもそこまで多くはなかったから新鮮で楽しい。
「ねぇオニーサン達!」
「二人だけー?」
二人でゲームセンターの新作だとか音ゲーがどうとか適当に話していたら急に制服を着た女の子達が話しかけてきた。え、なんなの。と唖然としている間に何故か四人で遊びに行くことが決定。っていうか金髪少年、女の子と話すときはめちゃくちゃ愛想良いし人当たりの良い笑顔を浮かべている。こいつヤバいです。
「ちょ、待って。彼女ら高校生でしょ?」
「あ?いいじゃん。可愛い人が声掛けてくれてんだから。」
「あのさ、言ってなかったんだけど俺小学生。」
「俺もだけど。」
「ハ?」
金髪少年がニッカリと笑って「まぁ来週末から中学だから。」と女の子達にルンルンで着いていく。
嘘だろアイツ。俺と同じ歳かよ。確かに背も高いしガタイもいい方だから小学生には見えないだろうけど…。ってかそれ以前に小学生のくせにナンパしてたのか? どんなマセガキだよ。信じらんない。リア充するタイプのガキだ。爆ぜろ。
呆気にとられている俺を放置して金髪少年は女の子達について行くし「君も行こ!奢るからさ〜!」なんて腕を絡ませてくる。イマドキの女の子達ってすごくアクティブなのね。おじさんびっくりだよ。
そのまま話題のクレープ屋に行って、またゲームセンターに行った。プリクラなるのものを撮り、女の子達がキャッキャしているのを見ているという構図。金髪少年は女の子たちと話すの得意なのか懐に入り込んでた。あいつの将来はろくでもない奴になるかスパダリになるかの二択だな。
「んじゃまた遊ぼーね!」
「連絡するねー!!」
「気をつけて帰れよ〜。」
連絡先を交換したあと女の子と別れる。へー帰すんだ。この子なら取って食いそうなのに。いや無いか。なんだかんだ小学生だし。
よし、これで今日は終わりだな。なんだかんだ時間は潰せたし助かったっちゃ助かった。蛭魔からの連絡もなかったし、一人で落とし所を決めている頃だろう。さーて家に帰るかと夜道を歩く。よし、帰宅チャレンジ。
「待てよ。」
「デスヨネ。」
チャレンジ失敗。金髪少年にワシッと頭を捕まれて「こーんな呆気なく帰すわけねーだろ。」なんて言いやがる。さっきまでの愛想の良い笑顔は消えており、まあまあの迫力と握力がある。
っていうかそれは女の子たちに言ったらどう? 君、俺が男と再認識してたよね?
「まぁさすがに今から遊ぶと補導されるだろうから帰るけどよ。お前の連絡先知らねーわ。」
「ほら、携帯出せよ。」と言われてしぶしぶ連絡先を交換する。先程の女の子達の連絡先も電話帳の肥やしとなるだろうし、彼の番号も活用されないだろうなぁ。なんて呑気に思っていたら携帯に表示された名前を見て目ん玉飛び出すかと思った。
金剛阿含
「げほっ!!!」
吸い込んだ空気がなんか変なところに空回り盛大に噎せた。
金剛阿含マジか!!金髪で分からなかった!!
特徴が強烈なドレッドサングラスということもあり、顔面造形はまったく頭に入っていなかった。っていうか君、小学生のころは金髪なんだ! 本当に俺ってにわか漫画に来ちゃんだんだね。びっくらこいた。
ゲホゲホと噎せながらカバンの飲み物を物色していると「風邪か? 伝染すなよ。」みたいに吐き捨てられる。ざけんな、君のせいだ。
「なまえな。お前といると女釣れるからまた誘うわ。顔も良いし。」
要件を済ませた金剛少年は携帯をポケットに突っ込むと機嫌良さそうに鼻歌を奏でながら帰っていく。取り残された俺は突然のエンカウントをしたことに実感が湧かずに呆然と立ち尽くす。なんとなくやってしまった感があるけれど、何が悪いかと言われると答えられないんだけど。初めて蛭魔を目撃したときに近い、ふわっとした絶望を感じる。なんというか、バッドエンドに向かっている気がする。
っていうか彼、あんまり視力良くないのかな? あのサングラスは度入りだったらしい。早く眼科行けよ。