救済を
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ローグタウンに帰郷した日はロジャー達と朝まで飲み明かす事となったジョー。本来であればその日のうちに彼が居住地にしている無人島へ帰る予定だった。しかしそれもロジャーによって悉く阻まれ結果として朝まで付き合ってしまったのである。予定は未定とはよく言ったものだとその時のジョーは心底思ったとかなんとか。
BARも彼らに合わせてずっと開けてくれてる辺り毎回これが当たり前なのだろう。殆どの人間は飲み潰れており屍のようにあたるところに転がっている。勿論それはロジャーも例外ではなくカウンターに突っ伏すように寝てしまっていた。店主は「好きにやってくれ」と奥に入って行ってしまった為この場にはいない。
唯一起きているメンバーはジョーとレイリーだけだ。
「ったく…潰れるまで飲む奴があるか…」
『フフ、毎回こんな感じなんじゃないのかな?』
「困った事にその通りだ…酒は飲んでも呑まれるものではない」
『ハハハ! その通りだね。でもロジャーは聞きもしないんだろう』
「事あるごとに宴会だなんだって騒いでいるが昔からこんなにも落ち着きがないのか?」
『まぁ…そうだね。気になる物があったら真っ直ぐ進む子だったよ…変わらずね』
「それに振り回される我々の身にもなってもらいたいものだ…」
『それでもこの子は憎めない…だろう?』
「………あぁ、不本意ながらな」
『それこそがロジャーの魅力の一つだろうからね。私も時折羨ましくなる程に』
「そう悲観的になる事もないだろう? むしろロジャーは貴方は何でも出来ると自慢気に話していた」
『――…そうか…ただの器用貧乏なんだけれどロジャーにはそう見えていたんだね』
そう嬉しそうな顔をして言いながら勝手に拝借したグラスに入れた水を一口飲む。その姿をちらりと見たレイリーであったが特別何かを言う事はなく彼も水を飲んだ。静かな時間がしばし漂ったかと思うと店の奥から店主が姿を見せ店内の状況に「まだいたのか」と言いたげだ。一応気の知れたBARであるのだろうが流石に朝までとなると非常識だったなとジョーは思う。
その為謝罪しようと口を開き掛けたが先にレイリーの方が店主に声を掛けた。
「毎度毎度すまんな」
「もう慣れたが今回はまた何時も以上に飲んだようだな」
「あぁ…それは彼に会えたのもそうだろうが暫くここに来れないからだろう」
「それこそ今更じゃないか?」
「今回の航海は今までとは訳が違う」
『―――…入るんだね…グランドラインに』
レイリーと店主の話を黙って聞いていたジョーだったがレイリーの含みのある言い方に直ぐ察した。ジョーの言った言葉にレイリーは何かを言う事なく口元に笑みを浮かべるだけだった。たったそれだけでもジョーの言葉が事実だと分かり店主も驚きに目を見開く。そして「行くのか?! あの魔の海に!!」と思わずと言った風に声を荒げた。
「ちょっと雨嵐が東の海より酷く悪いな?」程度にしか思っていないのだから。ジョーはついに入るのかとそうしみじみと思いながらグラスの中の水を眺めているとレイリーが口を開く。
「我々は遅いくらいだろう。ジョーさんは出て早々にグランドラインへ入っているのだからな」
「そういやそんなこと言ってたな…」
『ハハハ…それをあげてくるのかい? 私だって入りたくて入った訳ではないんだけどね』
「無知って訳ではなさそうだがな」
『正直興味のない事はとことん興味ないからねぇ…。なんとも言えないかな』
「そうなのか…? ロジャーの兄弟って言うんで同じような性格なのかと思ってた…」
「実際のところは全く違うようだがな」
『そうかな? 多少なりと似ているところもあると思うのだけど』
「なら一つずつ検証してみよう。まずロジャーとジョーさんの容姿は…似ているとは言い難いな…」
「俺もそう思う」
『うーん…目元とか似ていると思っているのは私だけなのかな…』
から始まり性格分析や趣味どう言うことが好きかなどなど…結構根掘り葉掘り聞かれるジョーであったがそれでも嫌な顔せず答える当たりそういう心の広さはロジャーと似ているのかもしれないとレイリーは思った。だが結局は昨日会ったばかりの初対面のジョーを知ることなど容易なことではない。そのためこんな質問をしたところで知れるのは彼の表面上なことだけだろう。
内面的なジョーの本質を知るにはもっと長い付き合いがなければ知ることなど出来はしないのだ。
ただこの短い時間で唯一ハッキリと分かるのはロジャーにはない礼儀正しさを持っていると言うことだろう。間違いがないように言っておくがロジャーに礼儀がないと言うわけではない。ただ少々大雑把のため残念ながらあまり礼儀として扱われないのである。
そんな話しをしていると突っ伏して寝ていたロジャーが「んー…」と言いながら目を覚ます。どうやら3人の会話の声が煩かったようで眉間にシワを寄せてゆっくりと起き上がった。
「お前ら…朝っぱらからうるせェぞ…あー…頭痛ェ…」
「よく言う…我々の声など聞こえていないだろう」
「飲んだ後は毎回酔い潰れてるからな」
『ロジャーは酒に強いと思っていたけど…そうでもないのか?』
「バカ言え! 強いに決まってんだろ!! ゔっ…大声出すと頭が…」
「自業自得だ。その痛みは甘んじて受け入れろ」
「そりゃないぜ相棒~…」
『フフ ロジャーを甘やかさないでくれてありがたいね』
「甘やかしたら付け上がるだけだからな」
『違いない』
「なんなんだよ二人してよォ~…つーか兄貴も同じくらいのんでただろ…? 何でそんな普通なんだよ…」
『氷で薄まっていたからね。そもそもラム酒を瓶で水の様に飲めば二日酔いになるよ』
そう言うジョーにまだ何か言いたそうに口をモゴモゴさせるロジャーだったが余程頭痛が酷いのか再びカウンターに突っ伏した。毎度飲み過ぎて二日酔いになるのは日常茶飯事であるがここまで酷いのは珍しいとレイリーも思う。兄であるジョーに久し振りに会えた事でハメを外したかと思い溜め息を一つ零した。
本当にしんどそうにしているロジャーを見たジョーも「ヤレヤレ」と内心思っている。レイリーの様子からしてここまで潰れているのは珍しいようでどこか呆れを含んだ表情をしている。そんなレイリーに「苦労をかけるな」と思いながらも隣に突っ伏すロジャーの後頭部に手を置いてワシャワシャと撫でた。
『久し振りにまじないをしてあげよう』
「おい兄貴……」
『昔はよくやってあげたろう?』
「そうだけどよ…それはガキの頃の話であって俺ァもうガキじゃねェ…」
「残念ながらロジャーの行動は子供じみた事が多いぞ」
「余計な事言うんじゃねェよレイリー」
「わははは! まじないしてもらったら治るかもしれないじゃないか」
「それで治ったら医者はいらねェなァ…」
『フフ、では早速…二日酔い飛んでけー』
ロジャーの頭に手を置いたままそう口にし二日酔いを吹き飛ばす様にパッと手を離した。そんな子供じみた事なのだが数秒経ったのち突然ガバッと上体を起こした。その様子を見ていたレイリーと店主はロジャーの動きに驚く。しかしそれ以上に驚いた表情をしているのは「まじない」を受けたロジャー本人だ。
目をまん丸に丸めその顔のままジョーの方へ顔を向け、彼は彼でただニコリと笑うだけで特別何かを言うことはないようだ。
「おいマジか…」
『鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっているよ』
「なんだロジャーまじないが効いたのか?」
「効いた! 頭痛も気持ち悪さも無くなっちまった…!!」
「 ! …本当に効くとは…ジョーさん貴方まさかー…」
『うん。レイリーくんが思っている通りだと思うよ』
「それは驚いたな」
「なんだよ二人して。なんか兄貴にあんのか?」
「むしろロジャーは何故気づかん…ただの人間が二日酔いを治せると思っているのか?」
「医者なら出来んだろ?」
「そうではなく彼は何もない所からロジャーの二日酔いを治したんだぞ」
………………
…………………………
「∑まさか能力者か?!」
「そうとしか考えられん」
そう話しをしていたロジャーとレイリーは結論が出たところで彼に目を向ける。ジョーは二人からの視線に苦笑いをしながら肩をすくめる事でその事が事実であるように示した。ロジャーはまさか兄が能力者になっているとは思っていなかった為たいそう驚いている。いつ食べてしまったのか聞かれそうになったところでジョーは席を立ち上がった。
『それじゃあ私はそろそろ帰るとするよ』
「なにィ?! もう行っちまうのか!?」
『ウマヘビも待たせているし長くここに留まれないんだ』
「ウマヘビとは昨晩話していた海王類のことか?」
『うん。港とは反対岸にいてもらっているんだよ』
「ホントか!! 行こう今すぐに!!」
『行くも何もロジャーも何か準備する事とかあるだろう?』
「俺はねェよ! なァレイリーちょっくら行ってくる!」
「止めたところで行くんだろう。好きにすればいい」
「よっしゃ行こうぜ兄貴!!」
『わっ! こら引っ張るな…! レイリーくんすまないが少しロジャーを借りるな…!』
「あぁ気にしないでくれ」
ロジャーに引っ張られるようにして二人は店を後にしその姿を見ていたレイリーはため息を溢した。
*
**
***
ロジャーに引き摺られるように歩くジョーは「そんなに海王類を見たいのかな?」と思っていた。海に出たのであれば普通に遭遇する事なんてザラにあっただろうとジョーは思うのである。実際何回も何回も遭遇しているのだがロジャーにとってはそう言う問題ではないのだ。海王類が人間に懐いて共にいると言う事が面白くて仕方ないのである。
ジョー的にはそんなことよりもこの島にわざわざやって来た最大の理由である肉を取りに行かねばならない。そんな事を知らないロジャーは鼻歌でも歌い出しそうな勢いで歩いているためジョーは待ったをかけた。
『ロジャー。岸に行く前に肉屋に寄りたいのだが…』
「肉屋? そーいやオッちゃんが取りに来てねェとかなんとか言ってたな」
『買い物をしたからね。ちょっと取りに行ってもいいかな』
「もちろんいいぜ! ならこっちだな!」
岸に向かっていた足を肉屋の方へ進路変更をし二人並んで歩き出す。その際ジョーは昨晩も聞いたロジャーから海に出て仲間と出会ったまでの話を再度尋ねた。
それに嫌な顔一つせず色々と語りジョーはレイリーとの出会いの話が一等好きだった。家を焼かれてしまったレイリーは盗んだ船で寝泊まりをしておりそこに偶々ロジャーが現れた。そしてこの出会いは「運命だ」と言ったロジャーはある意味半強制的にレイリーを連れ立って海に出たのだ。
ロジャーらしいと思うのと同時にロジャーと共に海に出てくれたレイリーには感謝の気持ちで一杯である。レイリーのようなストッパーがいてくれれば、ある程度ロジャーの暴走を止められるだろうと思えるからだ。完全に止められると思えないのは弟のことをよく知っているからである。
彼らは開店と同時に肉屋に現れ心底店主に驚かれるも笑顔で買った物を渡してくれた。その際「また二人揃って見られるとは思ってなかった!」と言われてしまったのだが買った肉を持って再び彼の船を泊めた岸へと向かう。結構な量の買い物をしたため荷物を半分持ってくれているロジャーにジョーは少々申し訳なさを感じている。全部自分が持つと言ってもロジャーが聞いてくれるとは思っていないから言わないのも一つだ。
そんな中、今思い出したと言いたげにジョーに問うロジャー。
「兄貴いつの間に悪魔の実なんか食ったんだ?」
『あぁ…半年ほど前にね。奇妙な色と模様をした実だと思ったのだけど捨てるのは勿体無いだろう?』
「わははははっ! だから食ったってのか?! そりゃないぜ兄貴! そもそも見ただけで悪魔の実だって分かるだろ?」
『残念ながら把握していなかったよ』
「悪魔の実を知らねェ奴は兄貴くらいだろうな!」
『私だって名前くらいは知っているよ?ただあの実が悪魔の実だとは思わなかったんだ』
「奇妙な色と模様の実だったんだろ? どう考えても怪しいだろーが!」
『そう言われればそうなんだけれど…さっきも言っただろう? 捨てるのは勿体ない。無人島では特にね』
「だからってんな奇妙なモンは食うなって…心配事が増えたぜ」
『心配? 私を?』
「兄貴は一点集中型で興味ない事には無関心過ぎんだよ」
そう呆れたように言うロジャーにジョーは「そんな事ない」と言おうとしたが、やめた。確かにロジャーの言う通り一点集中型…例えば読書をし出せば中々顔を上げない。それを嫌と言うほど知っているからこそ言えることであってロジャー以外には分からないことだ。
そんな話しをしていればウマヘビが待っている岸に着きピーっと口笛を吹けばザパァっと現れる大型海王類。それを間近で見たロジャーは「うおぉー!!」と少々興奮気味にその様子を見ている。ウマヘビはウマヘビでジョー以外の人間をマジマジと見たのが初めてのため不思議そうな表情…をしている気がする。どこかチグハグな一人と一匹なのだがロジャーが色々とウマヘビに話しかけるのだった。
( オメェ兄貴に返り討ちにあったんだってな! )
( ブルル…ヒヒン! )
( わっはっはっはっ!! 馬鹿だなァオメェ! 兄貴に喧嘩売るときゃあ死ぬ覚悟しねェとな! )
( ∑ブヒヒン?! )
( よく無事でいれたと思うぜ! )
( ブルヒヒン… )
( ………なぁそれ会話は成立しているのか? )
( いや全然何言ってるか分かんねェけど雰囲気でなんとなくな! )
( あー…その感じはなんとなく分かるよ )
( だろ! そういやコイツの名前なんつったっけか? )
( ウマヘビだよ )
( わははははっ!! 見たまんまかよ! )
( ブルルル! )
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