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海賊が無人島に現れてから半年が経ったある日
普段この無人島にある物のみを口にしていたジョーであったが、家族も同然の動物達を狩る事はなかった
そのため流石に肉も食べたくなった今日この頃、久方ぶりに岩に固定した船を海へと戻し、どこかの島へと調達に行こうと考えたのである
海にはジョーについてきたウマヘビがここ数年でかなり大きく成長を果たして超大型海王類へと変貌し、門番の役割を担っている
どうやら半年前に来た海賊達は運よくウマヘビが反対側の海中を泳いでいる時に着いていたようだ
まぁそれもウマヘビが悪いわけではないため、彼も何も言わずにいつも通り過ごしていた
因みにジョーに懐いてこの場に留まっているウマヘビはカームベルトの逸れ海王類なのである
そのため、ウマヘビが島の前に顔を出してデンっ!と構えていると、どの船も避けていくので重宝しているのだ
だが超大型海王類と言っても、一応比較的小柄の方ではあるようなのだが
半年前と言えば、彼が「悪魔の実」を口にしてからもそれだけの月日が経っている
その間にジョーは己の身体に宿った能力のことをある程度理解し、既に使いこなしている
とは言え、そうそうその能力を使う場面など訪れないのだが
そんなこんなでジョーは船に乗り込み、久しぶりに故郷の酒も飲みたいなと思い
その際はカームベルトを横断しなければならないわけで、どう頑張ってもこの船ではひとたまりもないだろう
その為、ウマヘビの首…と思われる部分にロープを括り引っ張って行ってもらう寸法である
『それじゃあウマヘビ、頼むよ』
「ブヒヒンッ!!」
こうして彼とウマヘビは東の海へ向かうために進んでいくのだった
**********
生まれ育った島、ローグタウンへと食料調達する為に無人島を出て幾許も経たずに到着した
ウマヘビのお陰でカームベルトもなんの問題もなく横断でき、眼前には懐かしき故郷が広がっている
随分と長い事離れていたような感覚であるジョーなのだが、何十年も離れていた訳ではない
それでも懐かしく感じるのは、無人島での暮らしが充実しているからだろう
一応、超大型海王類であるウマヘビが港に近づいたら間違いなく騒ぎになる
その為、港の反対岸に周りそこでウマヘビには待機してもらう事に
『それじゃあ食料と酒を買って来るから少し待っていてね』
「ブルルッ!」
『ん? 何か欲しい物でもあるのかい?』
「ブヒヒン!」
『うーん…まぁ分かったよ、待っていてね』
相変わらず会話は成り立っていないのだが、取り敢えず話を切り上げ街へ向かうジョー
そんな彼の対応に不満気なウマヘビであったが行ってしまった為、大人しく海底で丸くなる
もちろん、船が海の中に入ってしまわない程度にだ
ジョーは数年ぶりの故郷に口元が緩み、見慣れていた筈の街並みを楽しむ
彼を知る人はずっと姿を見なかった事から、もうこの島にはいないものだと思っていた
しかし、多少歳を重ねてはいるものの物腰柔らかい雰囲気は全く変わっていない
むしろ歳を重ねた事で更にその感じが増していて目を引くようになった
「ゴール家の兄ちゃん! 俺ァてっきり弟みてェに島を出たのかと思ってたぞ!」
『肉屋のオジサン間違ってませんよ、一人静かに暮らす為に此処を出たんです』
「なんだ! やっぱりそうだったのか! どうりで見ない訳だ!! 今回は里帰りか?」
『食料調達ついでに少し見て回ろうかと思ってます、と言う事でお肉10kg程お願いしても?』
「がはははっ! お安い御用だ! 用意しといてやるからまた後で来な! 街を見て回るんだろう?」
『お心遣いありがとうございます、では後ほど伺いますね』
「良いってことよ! あぁそういやお宅の弟もここ出てから何回か戻って来てるんだ
なんでもローグタウンを拠点に色々な島を見て回ってるんだってよ」
『 ! ロジャーが…では運が良ければあの子に会えるかも知れませんね』
「数日前は南の海の方にいるらしいって聞いたぞ!」
『そうなんですか…それだと会えそうにないですね…残念です』
「にしてもなんだ…会ってねェのかい?」
『ここを出てからは一度も』
そう淡々と言うジョーに対して肉屋のオジサンは驚いたような意外そうな顔をする
二人の兄弟仲は決して悪くない…むしろ良過ぎるほどだったのだから無理もない
そんな二人が島を出てから一度も会ってないと言えば、彼らを知る人からすれば驚く事だろう
しばらく話し込み肉屋を後にしたジョーだったが、行くところ行くところで声を掛けられる
青果屋のオバさんに鮮魚屋のオジさんなど、店をやっている店主は大体彼を知ってる
勿論それはロジャーにも言えた事なのだがジョーは家事全般を担っていた為、買い物も然り
顔を覚えられ、話の中でロジャーの事を話したこともあり皆の知るところとになったのだ
歩くたび声をかけられ、久しぶり見たジョーに何かを待たせようとする人達に彼は笑顔で丁重に断る
ありがたい事なのだがたくさん物を貰っても彼は一人で無人島にいる為、そんなに必要としていないのだ
食料は無人島で充分取れるし、必要となるのは衣類や彼ジョー的には暇潰しの本くらいであろう
その為、適当に衣類と髪紐、そして本を何冊か購入して実家がある郊外の方へ足を向けた
久しぶりの道のりを楽しみつつ実家に着くも、当たり前だが全く生活感ない家
ギッと軋むような音を立てながら中へ入れば数年も空けていた事で埃まみれで蜘蛛の巣も張っている
『これは…流石に見過ごせないね』
現状を理解したジョーは顎に手を置いて「ふむふむ」と辺りを見渡して頷く
そして買って来た物をササッと埃を払った場所にガサリと置いて腕まくりをする
そして彼は家の窓を全て開け放って、口元に布巾を当て掃除に勤しむのだった
*******
『ふぅ…こんなものかな?』
ジョーが掃除を始めてから数時間…ようやく家全体の掃除を終えたのである
時間も忘れてひたすらに掃除していた為、彼の腹がぐぅ…と空腹を知らせる
彼は腹を摩りながら「何か食べに行こうか」と独りごち、買った物を船に置きに行ってから再び街へ
スタスタと足早に向かい、一件のカフェへと入り迷わずカウンター席に座った
その店の店主も入って来た人物に見覚えがあり、一瞬目を丸めるも直ぐ笑顔で迎えた
「いらっしゃいジョーさん」
『久しぶりだねマスター』
「この島を出たのだと聞いてましたが…」
『事実だよ、今日一時的に帰って来たんだ』
「そうでしたか、ではまた直ぐ出られるのですね」
『うん そのつもりだよ…ところでマスター、いつものお願い出来るかな?』
「はい、ただいま」
店に入るなり店主を「マスター」と呼び、その店主は彼を「ジョーさん」と呼ぶ
親し気な二人は歳も近く物静かである事から話が合い仲が良いのである
ジョーは店主が若くして立ち上げたこのカフェをいたく気に入っており、外食の時は決まってここである
その理由の一つとして、店主の人柄がそうさせるのか来店する殆どの人が彼ら同様物静かな人達なのだ
そんな雰囲気をジョーはとても心地よく思っているのである
彼が「いつもの」と頼んだ新鮮な野菜をふんだんに使ったサンドウィッチと熱々のブラックコーヒー
目の前に出されたそれを見てジョーの顔には笑みがのり、手を合わせて「いただきます」をしてから手を付けた
ふわふわのパンに挟まれるシャキシャキの野菜が絶妙なバランスを取っている
一口飲み込んでから熱々のコーヒーを手に取りそれを飲めば「ほぅ…」と息を吐いた
『相変わらず美味しいよマスター』
「それはよかったです」
『これを食べると帰って来たと思えるね』
「そう言って頂けると嬉しいです」
などなど、彼は食事をしながら店主との会話も楽しみのほほんと過ごしている
その頃…
ローグタウンの港に一隻の海賊船が入って来ているところだった
ここ数年は南の海をメインに回っていた為、ロジャーはとても懐かしく感じていた
今か今かと着港するのを待っているロジャーを見たレイリーは「全く落ち着きがない」と内心思う
好奇心旺盛で、どんな島に着いても我先にと船を降りて行く我らが船長に慣れはした
だからと言って何があるか分からない島にさっさと上陸するのもいかがなものかと思うのも事実だ
まぁ何を言ったところで「大丈夫だろ!」と笑顔で言うロジャーに何を言っても無駄なのだが
港に着きロジャーを始めとした船員達も続々と船から降りて行く
降りた瞬間にそそくさと歩いて行く船長を見るも、彼の故郷である事から何かを言う事はない
言ったところで聞く耳を持たないのも、何も言わなくなった要因でもあるのだが…
街中を歩いていると、肉屋の店主と目が合えば驚いた顔をされるロジャー
彼も知る肉屋の店主にそんな顔をされた事に違和感を覚えたロジャーは声を掛けた
「なんだオッちゃん! 今更そんな驚くこたァねェだろ!」
「いやいや驚くさ! まさかゴール兄弟が同じ日に戻って来るんだもんよ!」
「なにっ?! 兄貴ここに戻ってんのか!?」
「つい数時間前にな! まだ買ったもんを取りに来てないからいると思うぞ」
「分かった! ありがとなオッちゃん!」
店主の言葉を聞いてロジャーは一目散に駆けて行くその背に「兄ちゃんによろしくな!」と言う声
それを聞いたロジャーは後ろ手に手を挙げるだけで、そのまま駆けて行った
その姿を見ていた船員達は一様に首を傾げその様を見ており、レイリーは色々察し見送った
一先ずロジャーはジョーが居そうな実家を見てこようと街中を抜け、実家のある郊外へ
数年振りに会えると思うと自然と顔に笑みがのり、走る速さも増した
ようやく実家へと辿り着き「ジョー!!」と玄関を開け放つも返ってこない言葉
完全にデジャヴを感じているロジャーだが、あの時と違い溜まっていた筈の埃がない
たったそれだけの事なのだがこの家に兄が一度帰っていた事が窺えた
「ここに居ないのならあそこだな!」と前向きに考え、玄関を閉めてまた走る
ジョーが懇意にしているカフェを知っているロジャーはそこに向かって真っしぐら
実家からそう遠くないカフェには直ぐに着き、ガランッと普段鳴らないような音をたてるドアベル
「ジョー!!」
そう大きい声+満面の笑顔で彼の名を呼びながら入って来たロジャーに店内の全員の目が向く
カウンター席にはこの島を出る前に見た兄よりも歳を重ねたジョーがいるのだが、そんなに変わった気がしないロジャー
ただ、今までも随分と落ち着いていたのだが座っている姿だけでもそれが増したような気がするのだ
何より「俺の方が年上に見えないか?」と思える程、ジョーの見た目はあまり変化がないのだ
一方そう思われている当事者の彼は久方ぶりに会えた弟に嬉しさはあるものの、それ以上に今の状況がいただけなかった
その為、ジョーの顔は笑顔なのだが目の奥が笑っておらず、それに気付いたロジャーは「しまった…」と内心思うのだった
ロジャーは兄の顔を見て今すぐこの店を出て行きたい気持ちにさせられるが、彼の顔がそうはさせない
笑顔を貼り付けて「こいこい」と手招きされてしまえば、行かざる負えないし、行かなければ後が怖い
普段温厚な人が怒ると怖いとはよく言ったもので、ジョーにもその言葉は当てはまるとロジャーは思っている
しかも彼は怒鳴るわけではなく、ただ淡々と笑顔のまま正論をぶつけてくるため堪ったものではないのだ
だからと言って「逃げる」という選択肢は失われているため、大人しくジョーの席の隣に腰掛けた
『久しぶりだねロジャー』
「お、おう」
『私が何を言いたいか…分かるね?』
「……この店では絶対に煩くするな…だろ?」
『そう 分かってるじゃないか、なのに何故あんなにも勢いよくドアを開けて入ってきたんだい?』
「…兄貴がここにいると思って…居ても立っても居られなくってよ…そしたらつい…」
『そんなに私に会えるのを楽しみにしていてくれたのは嬉しいけれど、ここは公共の場だ…節度は弁えなさい』
「ハイ…」
「クスクス…そう怒らないであげて下さいジョーさん、彼は貴方に会えるの本当に楽しみにしていたんですよ」
『え…どう言うこと?』
「彼がこの島に戻ってきた時は必ずこの店を覗いて貴方が居ないか確認していたのです」
「おいおいマスター…それは言わない約束だぜ?」
「いいではありませんか、それに海賊である彼に節度を説くのも些か難しいのでは?」
「それ俺を貶してねェか…?」
『………そうか、ロジャーは海賊だったね…忘れていたよ』
「いやいや…忘れるって…」
『私にとってロジャーはロジャーだからね』
そう言いながら少し冷めてしまったコーヒーを一口飲み、テーブルに置く
ロジャーは自分が海賊である事を「忘れていた」と言う兄に、初めこそ呆れた顔をした
しかしジョーは海賊団の船長としての己ではなく、弟としての己を見てくれているのだと嬉しくもあった
海賊となった今では、ただのロジャーとして見てくれる人などまずいない
それに後悔など微塵もないがふとした時、どこか物寂しい気持ちにさせられるのも事実だった
そんな彼の心境を知っているかのように言ったジョーの言葉は、ロジャーの心に染み渡ったのだ
ともあれ、店主のお陰で大目玉をくらう事なく終わったことに心底ホッとしたロジャーである
「と言うかよ、兄貴も海に出てるとか驚いたぜ! 俺の誘い断ったくせによ」
『ここに来ていたと言う事は私からの手紙読んだのだろう? あの言葉の通りだよ』
「静かに暮らしたい、ねェ…一体どこに住んでんだ? 全然見つからなかったし」
『あぁ…グランドラインにある無人島に住んでいるよ』
「は…?」
「ジョーさん、グランドラインにいたんですか…」
『うん、入るつもりはなかったのだけど知らぬ間に入っていてね、仕方なくその辺にあった無人島に』
「いやいやいや! グランドラインに知らねェ間に入ったとかあり得ねェだろ!?」
『そうは言っても実際入っているのだけれど…』
「入る時はリバース・マウンテンを通るんだぞ? 流石に分かるー…まさかカームベルト通ったとか言わねェよな…?」
『あー…カームベルトは通ってないよ、恐らくそのリバース・マウンテンを通ったのだろうね』
「それなら気づくだろ普通! グランドラインに入るための入り口だぞ?!」
『頂上に向かって水が昇るからおかしいとは思っていたけれど…まさかそれがお前の言う入り口なんだね』
そうのほほんと言う兄にロジャーは頭を抱える他なかった
まさか東の海のどこかに居るのではなく、己達も目指しているグランドラインへ一足先に入っていた事実
海賊などに全く興味を持っていなかった彼がグランドラインに入っているなど誰が思おうか…
どんなに探しても見つからないはずだとロジャーは大袈裟なほどため息を吐いた
少々気が抜けたこともあり「酒を飲みてェな…」と思うも、今いる場はカフェのためそうもいかない
もちろん酒類がないとは言わないが、先ほど怒らせるようなことをした手前「酒が飲みたい」など言えないのだ
そのため店主にコーヒーを淹れてもらいそれでロジャーも一服することに
「そういやよ、兄貴をアイツらに紹介するからな!」
『え、いいよそんなの…』
「いや絶対紹介するぞ!」
『紹介するほどのものじゃないだろう?』
「いーや紹介する! アイツらも気になってんだからな!」
『気になるって…一体何を言ったんだ…』
「別に兄貴を探してるって言ってただけだぞ?」
『探してるって…手紙を置いて行ってたのだから探すも何もないだろう?』
「俺の旅の話を酒を飲みながら聞きてェって書いてあったし丁度いいだろ!」
そう良い笑顔で言うロジャーに今度は彼が頭を抱える番である
探されているのは百歩譲って良いとしても、まさか紹介するだなんて言い出すとは思っていなかった
彼は海賊団の船長として頑張っているロジャーを応援こそすれ、船員に紹介して欲しいなど微塵も思っていない
そのため、ロジャーの言葉に本気で困った顔をしているのである
ただそう言い出した弟が何を言っても無駄だと言うのは長年で知っている為、彼が諦めるしかないのだ
**********
カフェでのんびりと食事をとっていたジョーであったが、偶々同じタイミングで戻って来たロジャーによってそれも終わる
彼はロジャーに連れられ港の方へと向かって歩いているのだが本気で気が進まないようで足取りが重い
そんな彼とは対照にロジャーはとても上機嫌に歩いていて少々憎たらしく思う兄である
港に並んでいる商店で色々買い揃えている海賊風情の者達が視界に入り「本当に会うのか…」と思う
もうここまで来ているのだから何を言っても後の祭りなのだが…どうしても現実逃避をしたくなってしまうのだ
商店で買い出しをしているのは下っ端の船員達のようで、ロジャーと共にいる彼を見て不思議そうである
ロジャーはロジャーで誰かを探しているようであるが目当ての人がいないのか「向こう行ってみようぜ」と言う
『ロジャー、一体誰を探しているんだ?』
「俺の右腕のレイリーだ!」
『あぁ…彼なら知っているよ、副船長のシルバーズ・レイリーくんだろう?』
「そうだ! でもなんで知ってんだ?」
『そりゃあお前の所の副船長やっていれば嫌でも目に入る』
「イヤなのか?」
『私はそうじゃないさ…どんな船員がいるのか知りたいと思うのは自然なことだろう?』
「そう言うもんか?」
『兄貴って言うのはそう言うものなんだよ』
彼の言葉によく分かっていないのか「ふーん?」と不思議そうにしているロジャー
兄としては弟がこの広大な海で何をしているのか、どんな所に行っているのかなど…
そう言うことを考えるのは当然だとジョーは思っている
何よりロジャーは彼にとって唯一の家族と言ってもいいのだから、とても大事なのだ
それはもちろんロジャーにも言えたことなのだが、もしかしたらジョーの方が強く想っているかもしれない
暫くレイリーを探していたのだが、久しぶりの陸であることから皆好き好きに動いているようだ
そのため、気配を探って動いたとしてもすれ違ってしまうことが多々あった
これ以上歩き回っても意味がないと思ったロジャーは立ち止まり、彼に振り向いた
「探しても見つからねェから先に飲みに行こうぜ!」
『私はいいって…仲間内で飲んだらいいさ』
「よっしゃあー! 行こうぜ!!」
『人の話は聞きなさいって…』
彼の言葉をガン無視したロジャーは立ち止まった足を再び動かし、路地の方に入り地下にある酒屋へ
その酒屋は、ロジャー海賊団がローグタウンへ来た時必ず使っている店なのである
彼は「こんな所があったのか」と初めて見た酒屋に少なからず興味を持っているようだ
ドクロの絵が描いてある扉を開いて中に入れば、ロジャーと同年代だろう男性が一人
カウンター内でグラスを磨きながら入ってきた二人に視線を向けた
「いらっしゃい、今日は二人だけなのか」
「後から皆来ると思うぜ!」
「そっちの旦那は初めて来るな」
「俺の兄貴のジョーだ! 兄貴はこう言うとこ来ねェから知らないのも無理はねェ!」
「へぇ…アンタに兄弟がいる事は知ってたが…あまり似てないな」
『ハハハ、似てないって言われ慣れているよ』
「そうなのか? あんま気にした事ねェから分かんねーわ」
『私的には目元とか似ていると思っているのだが…他者から見るとそうでもないのだろうね』
「そう言うもんか!」
『多分ね』
店主の言葉にロジャーは首を傾げるが、彼は久しぶりに言われた言葉に可笑しそうに笑う
その姿にロジャーと店主は互いに顔を見合わせたが、特別意を唱えるような事は言わない
取り敢えず二人並んでカウンター席に腰を下ろして酒を提供してもらう事に
ロジャーは瓶を丸ごと受け取ってそれをラッパ飲みし、ジョーはしっかりグラスに入れて飲む
それだけでも「性格もだいぶ違う兄弟だな」と店主に思われていたなど知る由もない
暫く他愛のない話をしていれば時間が過ぎるのもあっという間で、ロジャーは既に一瓶飲み終えている
彼はロジャーの飲むペースを「早いな」と思いながらも何かを言う事はなくグラスを傾け一口飲む
そんな時、ガヤガヤと賑やかな声とギィっと入口を開く鈍い音にロジャーは「来たな!」と言う
ロジャーの反応に彼の船員達が来たのだろうと察した彼は、チラリと入口を見てから視線を手元に戻した
「来たかお前ら!」
「あっロジャー船長もう飲んでる!」
「ずるいっすよ船長!」
「俺たちも早く来たかったのに買い出し終わんなくて!」
「わははははっ! そりゃ災難だったな!」
( フフ…随分と慕われているのだね )
船員達との会話を聞いていれば分かることで、とても楽しそうに話している
そんな中、ガタッとロジャーの隣に腰掛ける眼鏡をかけた知的そうな男性
その姿を見た彼は「あぁ、彼がロジャーの右腕か」と思った
その人、レイリーもまたロジャーの隣で静かに飲んでいる彼が我らが船長の探し人なのだと直感で分かった
わざわざ確認する必要もないだろうが、船員達はロジャーの隣に座るジョーを気にしている
その為レイリーが代表するように「彼がそうか?」とロジャーへと問いかけた
その問いにニンマリと更に笑顔を覗かせたロジャーは彼を船員達に紹介した
「おめェら聞いてくれ! 俺の兄貴のジョーだ!!」
『紹介にあずかったジョーです、どうぞ宜しく』
「ロジャー船長に兄貴…?!」
「マジかよ…知らなかったな」
「あんま似てないくね…?」
『ふむ…ロジャーの言い方からして、てっきり私の存在は知られていると思っていたのだけれど…』
「ロジャーに兄弟がいると知っていたのは、私を含む数人だけで若い連中は知らない」
『そうなのか…ところで君の名前を教えてもらってもいいかな?』
「あぁこれは失礼、私はシルバーズ・レイリー…この船の副船長をさせてもらっている」
「別に今更レイリーの名前聞かなくても知ってたんだろ?」
『知っていたとしても本人から聞くのが礼儀と言うものだよ』
「ふーん…そう言うもんか」
『フフフ、先程もこんな会話があったね』
「わははははっ! 確かにそうだな!!」
海賊としてはまだ新参者だとしても、勢いを付けているロジャー海賊団の副船長を知らぬ者はそういない
それは彼にも言えた事でありレイリーの名前は勿論、顔も手配書で知っていた
だからと言って名前を直接聞かなくていい理由にはならない
何よりジョーがレイリーの顔と名前を知っていても、レイリーはそうではなく初対面だ
必要最低限の礼儀だと言う彼に対してレイリーはとても好感がもてた
そうレイリーがしげしげと思っていると、何かを思い出したようにロジャーが副船長の方を向いた
「聞いてくれよレイリー! ジョーの奴グランドラインに入ってたんだぜ?! 何処探しても見つからねェ訳だよな!」
「それは…驚いたな」
「だろ?! まさか俺より先に入ってるなんて思いもしなかったぜ!
しかもよ、グランドラインに入ってた事に気づいたなかったとか言うんだぞ? あり得ないだろ?」
「流石にリバース・マウンテンを通るんだ、分かる筈だが…」
『あははは…それが知らなくてね、逆流して登ってくな程度にしか思っていなかったよ』
「これだぜ? だから心配だったんだ、普段はしっかりしてんのに抜けてる所もあるからよォ」
「それはもう抜けていると言う次元ではない気がするのだが…リバース・マウンテンを通るのも命懸けだと言うのに」
「だよな! ……つーか今思ったんだが兄貴どうやって東の海に…?」
『ん?』
「言われてみればそうだな、グランドラインに一度入っているのなら出る時は…カームベルトしかないのではないか?」
「どうなんだよ兄貴!」
『どうって…その通りだよ』
そうあっけからんと言う彼に話しを聞いてたレイリーとその他の船員達も驚いた顔をする
ロジャーに至っては何故かすごく輝かしい笑顔で彼の話を聞いていて、興味津々のようだ
そのためどうやってカームベルトを通って来たのか、やっぱり海王類はかなりデカいのかなどなど…
色々聞きたがる子供のように質問を投げかけるロジャーに彼は嫌がる事なく淡々と答える
そんな姿を見せられたレイリーを含む船員達は「互いにブラコンだな」と思うのだった
( ちょっと色々あって海王類と友達になってね、その子に連れて来てもらったんだ )
( 海王類と友達?! なんだそれスゲェな! )
( 一体どうすればそう言う事になるのか不思議だな )
( 私の進行方向に突然出て来たから少し脅したんだが…そうしたら何故か懐かれてね )
( わっはっはっは! 海王類に懐かれるなんて兄貴だけだろうな!! )
( そうかな? )
((((( 船長が船長なら兄貴も兄貴だなァ… )))))
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