Act 30
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ウマヘビの頭の上に乗って
彼らは向かう先が比較的寒い区域である事を知っている為、北の海に入る前の島で冬服を調達してから向かう
グランドラインの入り口の双子岬から出て来たとは言え、そこは
風や波に影響される船よりは格段に速く進むのだが、それでもそれなりの時間が掛かる事はジョーもロシナンテも分かっている
今の所順調に進んでいた彼らだったが、突如雲行きが怪しくなって行きポツポツと雨が降り出す
数分もしないうちにバケツをひっくり返したかの様な雨がザッと降り出し、想定外な降り方に二人とも濡れ鼠になっていく
ウマヘビの上にいては雨風を凌ぐ事など不可能であり、ジョーもロシナンテも雨が止むのをジッと待つ
暫くすれば土砂降りも止んでいき燦々と太陽が顔を出しジョーもロシナンテも何とも言えない顔である
『……凄い雨だったね』
「おう…船がないとこう言う時大変だな」
『そうだね…私もここまでの雨に降られたのは久しぶりだよ』
「ジョーさん基本的にあそこから出ねェし当然なんじゃ…」
『私を引き篭もりか何かだと思ってる? 決してそんな事ないからね?』
( 普通にそんな事あると思うが… )
『何か言いたそうだね?』
「…いや」
ジョーの言い分に色々引っ掛かる部分はあるものの、彼に口で勝てると思っていないロシナンテは余計な事は言わず口を噤む
そんなロシナンテに少々不満そうなジョーであったが彼が何も言わないのであればこれ以上深掘りする必要もないと話を切った
会話が途切れると今度はずぶ濡れになった髪や服が張り付いて不快感が顕著に感じる様になり、ジョーは深いため息が出る
それはロシナンテにも言えた事だが、海兵だった頃やローと転々と島を回っていた時にも同じような状況になった事はあった
その為ジョーほど顔に出てはいないが、それでも張り付いて気持ち悪いのは事実の為どうにかしたい思いだった
このまま進んでても燦々と降り注ぐ日差しでいずれ髪も服も乾くだろうが、状態がいいかと言われると残念ながらそうではない
何処かでシャワーを浴びられる場所に寄ってから向かった方が良いのではないかとジョーは考える
実は移動中にロシナンテは何回か海に落ちており、流石に知り合いとは言え塩臭い人に合うのは「ローくんも嫌だろうな」と思うジョー
ずっと座っていると身体が軋む事もあり、ロシナンテだけでなくジョーも身体を解す為に立ち上がって少し体を動かしたりしていたのだ
その時にロシナンテは足を滑らせ見事にウマヘビの頭の上から転がり落ち、初めてそうなった時は流石のジョーも肝を冷やした
ジョーは能力者の為海に入って助ける事は出来ないのだが、それは杞憂で一度死んだ事で能力者ではなくなったロシナンテは自力で戻ったと言うことがあった
そんな事もあり、ギトギトのベタベタになった身体を流そうと少し寄り道をする事をロシナンテに伝えるのだった
**********
彼らが立ち寄ることにした島は春島であり、濡れて冷えた身体である二人には有難い陽気の島であった
二人はウマヘビから早々に降りて足早に宿屋を探し何も言わずジョーもロシナンテも二部屋それぞれ取ってシャワーを浴びる
浴びた後フロントで待ち合わせる事としている為、二人とも冷えた身体を温め示し合わせたようにホッと息を吐いた
女性と違いシャワーをちゃちゃっと終わらせた二人は早い段階でフロントへと集まり、早々にチェックアウトをし宿を出る
宿側からすると数十分前に入った客が直ぐに出て行く事に訝しい顔をするものの、落とすものは落としているので何も言わない
彼らはスッキリした所で丁度いいから食事でもして行こうと、適当な食堂へと入って行きテーブル席へと腰を掛けた
そして適当にドリンクと料理を頼み、しばらくすれば直ぐに物が運ばれて来て二人はそれぞれ手をつけた
『なんかやっと一息ついたと言う感じだね』
「だな…スコールに見舞われると体力を消耗する」
『この先はあそこまでの気候変動がなければいいけれど…そうもいかないかなァ…』
「グランドライン程じゃないとは言え、全くないとは言えねェしな」
『となるとウマヘビに超特急で北の海に向かってもらうしかないね』
「あぁ…ローに会えるんだと思うと何か不思議な気分だ」
『離れてから数年は経っているからね、でも向こうもロシィに会いたいと思っていると思うよ』
「だといいが…俺はアイツに嘘をついて来てたから…愛想尽かされてる可能性もある…」
『ロシィが嘘を…? 何だか意外だね?』
「俺が元海兵だったのは知ってるだろ? 潜入調査として俺は兄であるドフラミンゴファミリーに潜り込んだ
そこで会ったのがローで…その時点でアイツはある病を患ってて寿命は恐らく保って数年って所だったんだ」
『……寿命が数年って…彼が…ローくんがまだ生きている保証が無いんじゃ…』
「それは大丈夫だ、ローには「オペオぺの実」を食わせて自分自身を治せる術を持たせたからな
ただ、その実を探しにローと海に出た時にセンゴクさんと連絡を取ったりしてたんだが…その時にローに嫌われたくなかった俺は海兵じゃねェと嘘を…」
『悪魔の実の能力者か…けど治せる術と言うけど彼は医術を学んでいる子なのかい?
それにその嘘はローくんを守る意味でも必要だったものなんじゃないか? 賢い子ならその事もきっと分かっていると思うよ』
「あの一味にいる間にドフィが色々叩き込んでいたし、ローの両親は医者だったらしいから問題ねェと思う
そうだといいが…とは言え、ローからすれば俺はあの場で死んでいる事になっていると思うが…」
『そうなんだね……って確かに私が助け出した時ロシィは一度死んでるね? となると今からロシィが会いに行ったらかなり驚くかもね?』
ロシナンテとローの間にあった事をかなり簡素に話を聞いたジョーは思った以上に壮大な時間を過ごして来たのだと思った
しかもローにとっては命の恩人となるロシナンテだか、まさかあの危機的状態で生きているなど微塵も思っていないだろう事は容易に想像出来る
聞いただけでもローと言う少年は賢く、現実主義者のような感覚を会った事もない少年にジョーは感じた
ポツポツと話をしながら食事をすればあっという間に食べ終わり、食後のコーヒーを二人してのんびりと味わっている
本来のジョーであれば食べ終えた時点で「さぁ先を急ごうか」と早々に店を出ていた所だが、スコールは少々老体に堪えた様だ
年相応には見えず中年男性に見えても実年齢は七十を超えた爺さんであるのだから、堪えるのも致し方ないだろう
とは言え、身体年齢は自身の能力によって若い状態を維持しているのだから肉体的疲労と言うより精神的疲労の方が大部分を占めている
『さて、北の海に行くのは良いとして…ローくんが今どこの島に暮らしているか、だけれど…心当たりはあるかな?』
「どうだろうな…故郷に帰るのはまず有り得ないとして…あの時のローだとミニオン島からそう離れてない島だと思うが…」
『なるほど…確かあの辺の近くには他に二、三島があったね…あの何れかに居る可能性が高いか…』
「多分な、ただ…ローも海に出て海賊になってる可能性は捨て切れねェ」
『あー…ロシィが死んだと思っていると復讐心とかあったりするのかな…ちょっと厄介だね』
「相手が相手だ…そこまでは無いと…思いてェが……、」
『ローくんの性格からしてあり得なくは無さそう、かな?』
…………………
………………………………
「だな…マジで早まんなよロー…!」
『今すぐに復讐をって感じではないだろうけど…早いうちに会いに行った方が良さそうだね』
ロシナンテの事が絡むとローがどう言う行動を取るか分からない二人だが、それでも早急にロシナンテが無事である事を知らせる必要があると判断した
その為食後のコーヒーも程々にし、テイクアウトで何食分か買ってからウマヘビの待つ岬へと足早に戻った二人
そして「超特急で北の海まで頼むよ」とジョーがウマヘビへ頼めば、「合点承知!」と言うように一鳴きしてから荒波を立てて進んだ
********
ジョーの言葉通り超特急で海を進んだウマヘビのお陰で、双子岬を出てからたったの一週間強で北の海に入る事が出来た
それに対してウマヘビの頭を撫で繰り回して褒め称えたジョーと嬉しさの余り張り切り過ぎるウマヘビにロシナンテは少々不安を感じる
思った以上に早く北の海へ来れたのは有難い限りだが、それで何かしらの問題に巻き込まれるのは御免被るとロシナンテは思う
ともあれ、北の海に入れたのだから後は二人で予測を立てたミニオン島の近くにある島々を見て回ってローを探すのみだ
ロシナンテが言ったように万が一海に出ていたりすれば探すのは容易ではないが、それでも探しようはあるとジョーは思っている
何より、何処かしらの島に居たとなればそこの住民に話を聞いたり何だりすれば何処の方角へ進んだとか大まかな情報を得られる可能性もあるのだから
そんなこんなジョーとロシナンテは寒い気候に合わせ冬着を着込みミニオン島の近くに位置するルーベック島へと上陸していた
ロシナンテにローの特徴を教えて貰ってから二手に分かれローの情報を手に入れるためそれぞれが聞き込みしに回っている
とは言えジョーはローを見たのも一瞬でありあの当時正直面倒ごとに巻き込まれたとしか思っていなかった彼はローを全く覚えていない
ロシナンテに特徴を教えてもらっても「そんなだったかも…?」と言う感じで、全く人物像が浮かんで来ない事にジョー自身呆れた
ここに来てロジャーが常々言っていた「興味ないものに対して関心が無さ過ぎる」と言う言葉がズッシリとのし掛かる思いである
聞き込みを始めてから一時間弱…ジョーとロシナンテは街の中心にある広場で遭遇し、そこで互いに情報交換する事にした
『申し訳ないが私の方はてんでダメだったよ…ロシィは?』
「俺も全くと言っていい程ローに関する事はなかった…」
『手分けして聞き込みしたのに一つも情報がないとなると…別の島の可能性もあるね』
「あぁ、もしかしたらもう一つ近くにあるスワロー島に居るのかも知れねェ」
『なら時間も惜しいし次はそこに行ってみよう』
「おう!」
善は急げと言うようにルーベック島を後にし、距離にしてもそんなに離れていないスワロー島へと彼らは向かった
ウマヘビで行けばあっという間に着くことが出来、相変わらず岬の方で乗り降りをしている二人は足早に町の方へ
ガヤガヤとそれなりに賑わいのなる雰囲気の町であるものの、住民はそんなに多くなさそうである
もしこの島にローが暮らしているとなれば聞けば直ぐに分かりそうだと、今回は二人一緒に聞き込みをする事にした
目に入った露店を開いている中年女性の元へ二人して行けば、長身の男が揃って来た事に驚きを隠せない様子だ
しかしそんな事気にしていられないのかロシナンテは早速ローの事についてその女性に尋ねていた
「人を探しているんだが、モコモコの帽子を被って目つきの悪いローと言う少年を知らないか?」
「え、ローって…そもそもアンタ達は一体…」
「俺は一時期ローと一緒に旅をしていたモンだ」
『私は彼の付き添い人ですのでお気になさらず』
「あの子の知り合い…? そんな話聞いた事もないけど…」
「って事はこの島に居るんだな!? よかった…! ローはちゃんと無事だった…!!」
『良かったねロシィ、一先ず生存確認は出来た』
「あぁ!!」
「……アンタ達は何かを狙って来た訳ではなさそうね」
「 ! この島で何かあったのか?」
「数年ほど前の話だしもう解決しているから気にしないでおくれよ、後ローだったらすでにこの島にはいないよ」
「Σえっ!?」
『まさか…海に出ていたりしますか? 海賊として…』
「その通りだよ、一年くらい前かねェ…数人と一緒に出て行ったよ」
店主の言葉に一喜一憂して見せるロシナンテに、店主は何も悪くないのにバツの悪そうな表情をしている
それほどロシナンテはガックリと肩を落とし直ぐに会えない事に落ち込んでいるのが見て取れるのだ
その様子に気づいたジョーは店主に「情報をありがとうございました」と言いながら店の物を数点購入してから側を離れる
ロシナンテの背を押す形で来た道を引き返している彼らなのだが、ロシナンテの落ち込みようったら目も当てられない程だ
海に出ている可能性もあるだろうと話をしていたのだから、何故ここまで気落ちしているのかジョーには分からなかった
『そんなに落ち込まなくても海に出てから一年前ってなるとちょっと探すの難航しそうだけど見つからない訳じゃないよ』
「分かってる…分かってるが、ローが海に出たって事はやっぱりドフィに復讐をしよとしてるんじゃ…
ドフィには生半可な力で勝てる相手じゃねェんだ! アイツは常軌を逸してる程残忍で異常なんだ…!!」
『私にはそのドフィと言う彼がどれ程の力を持っているのか知らないけれど、それはローくんも分かっているんじゃないのかい?
ロシィと知り合ったのもその海賊団でだろう? 復讐をしようものならその異常性もよく理解してちゃんと対策を立てるんじゃないの?』
「 ! …そう、だな…ローはバカじゃねェ…俺が生きてると知ればもしかしたらそんな事も考えなくなるかも知れねェ」
『…それはどうか分からないけれど、今すべきはローくんに会って直接話をする事…だろう?』
「あぁ…そうだ、ジョーさんの言う通りだ」
気を取り直したロシナンテは背を押されていたが自身の足でしっかり歩き、ウマヘビが待っている岬に戻るのだった
探し人のローが既にスワロー島にいないと知った二人は早々にウマヘビに乗って彼を追いかけよとしたのだが、その前にある人物に捕まった
老齢の人物であり海兵ではなさそうだが二人は「誰だ?」と言うのを隠しもせず怪訝な表情でその男を見ていた
無論それは男…ヴォルフも同じ気持ちであり、少なからず縁のある少年達を探している二人組の男を見て同じような表情をしている
この島の生活圏はそう広くは無く、見知らぬ人間が来ればが直ぐに人伝に広まって行くのは想像に難しくない
何よりこの島を救ってくれた立役者でもあるローを探している人物となれば、更に話が広まるのは早かったのである
ヴォルフは街の警備をしているラッドから話を聞いて直ぐに駆け付けて来たのだが、隙の一切無い佇まいな二人に冷や汗を流す
聞いた話ではローの知り合いだとか何とか言っていたと聞き及んでいるヴォルフもそれも疑わしいと思わざる得ない
特にジョーの格好がキャップを目深かに被り、その上ローブについているフードまで被っているのだから怪しさ満点である
ロシナンテは派手なメイクはしないで、彼もキャップを被りメガネをかけた姿であるが、彼はまだそこまで怪しくはない
「貴様ら一体何者だ…? こんな所で人探しをするとは実に怪しい」
「あー…別に俺らはアンタらに危害を加えるつもりはねェ」
『探し人さえ見つけられればいいからね』
「その探し人がこの島に居たロー…あの小僧とでも言うのか?」
「そうだ! アンタもローを知ってんのか?! ここではどんな暮らしを…!?」
「な、なんだお前…意味分からん奴だな…!」
『ロシィ、流石に初対面の人にガッつくのはよく無いと思うよ?』
「はっ…すまねェ、ローのことを知れると思ったらつい…」
「……なるほど、オメェさんらは純粋にローを探しているようだな」
二人のやりとりを見て何を思ったのかヴォルフは疑心の目を向けていたが、「ふぅ…」とため息を吐いて肩の力を抜いた
そんな姿を見たジョーも疑われていたのは気づいていた為「結果オーライかな?」と思いながらヴォルフに向き合った
ロシナンテは少なからずローと関係のありそうなヴォルフに話を聞きたい思いなのだが、ロー本人にも会いたい気持ちが溢れる
聞きたいけど早くローに会いたいと言う気持ちが鬩ぎ合い、どうしたものかと悩ましげなロシナンテはジョーに目を向ける
視線を受けたジョーは「なんだ?」と一度首を傾げるが、ロシナンテが何を言いたいのか察し「任せるよ」と頷いて見せた
それを確認してからロシナンテはヴォルフへ視線を戻し、一度口を開くが話を聞くなら本人の方がいいだろうとそのまま口を閉ざした
ヴォルフも何か言われるか聞かれるかされると思っていただけにロシナンテの行動に呆気に取られている
『彼にローくんの事聞かなくていいのかい?』
「知りたいのは山々だが…聞くならローに直接聞くさ」
『そうか、ロシィがそれでいいなら私は何も言わないよ』
「おう 早くローを追いかけよう」
『分かった、じゃあ早速行こうか』
「待て…! 結局お前達はローのなんだ?!」
「ローは俺の知り合い…家族の様なもんだ」
「は……家族…? なに、を言って…」
『あ、私はローくんに会った事は無いから何とも』
そうあっけらかんに言うジョーの言葉に、ロシナンテが言った「家族」と言う言葉に驚いていたのが霧散してしまう
色々考えさせられる事がグルグルと脳内を駆け回っているヴォルフだが、一つ言えるのは彼らに敵意は一切ないと言う事
たったそれだけでもローに危険がある訳ではないと分かり、だいぶ思う事のあるヴォルフだったがそれ以上何かを言う事はなかった
それを見越したジョーはウマヘビを呼ぶためにいつも通り口笛を吹けば、相変わらずの水飛沫を上げて顔を覗かせる
突然の海王類の出現にヴォルフは驚きの余り声も出ずただただ目を見開き固まっており、二人はそんな彼を気にせずウマヘビに飛び乗った
ジョーとロシナンテは「それじゃ」と言うようにヴォルフに一つ会釈してから大海原を進んで行った
「………有り得んだろう…何なんだアイツらは…」
ポツリと呟かれたヴォルフの言葉は風に吹かれて溶けて消えた
少々足止めを食らった二人だったが、恐らくローをよく知る人に出会えた事にロシナンテ的には満足している様子である
ロシナンテと死別(生きてるが)した後のローがどうやって生きて来たかなど知る由もないが、スワロー島で己の居場所を作れていた事が嬉しいのだ
ホクホクとした顔をしているロシナンテを見たジョーは「ふふ」と微笑み家族が笑顔でいる事が嬉しいと言う様子だ
ともあれロシナンテの目的の人物は海に出て海賊になっている事が判明した事から、見つけるのもそう難しくはないだろうとジョーは思う
海賊船であればジョリーロジャーを掲げているだろうし、片っ端から見て回れば何れローの乗る船を見付けられるだろうと
ぶっちゃけ数射ちゃ当たると大雑把に思っていたりもするのである
**********
スワロー島を出てから約一月ほど過ぎたころ、ジョーとロシナンテはウマヘビの上で暗い顔をしていた
それもその筈、海賊船を見つけてはローがいないかロシナンテが確認をしいなければスルーするか攻撃してくれば沈めたりしていたのだ
そんな事をずっと繰り返しやって来たのだが、残念ながらローが乗っている船を未だに見つけられていない現状なのである
ジョーも簡単に見つけられるとは思ってはいなかったが、流石にゲンナリした表情をしており困り果てていた
エースを探すのは一からだった事から大変なのは分かっていたが、ローは北の海のどこかと言うのは分かっていた
しかもミニオン島から程近い島だろうと言う風に憶測も立てていたのだから見つけられると思っていたのだが…甘い見立てだった事を思い知っている最中だ
『思った以上に見つからないね…』
「あぁ…エースを探しに行った時もこんな感じだったのか…?」
『そうだね…エースの時はもっと大変だったかな…何処の海にいるかも絞れなかったからね…』
「あー…北の海にも来てたんだもんな…マジで途方もねェやつだ…つーかよく見つけられたな、それ」
『もう意地と執念だよね』
「スゲェわジョーさん…」
『ロシィだって同じだろう? 諦める気なんてないだろうし』
「まぁ…それはそうだけど…俺の場合はそれなりに場所も絞れてたし比べられねェよ」
『それこそ比べる必要はないさ、想いの強さは人それぞれなのだからね』
カラリと笑いながら言うジョーに「この人は何処まで人の気持ちを慮れるんだろう」とロシナンテは常々思っている
ジョーがその人の考えている事を先読みして何かを言っている感じはしないのに、その人に最適な言葉を伝えてくれているとロシナンテは思う
シモツキ村の時もそう…思わず兄であるドフラミンゴと己の関係とジョーとロジャーの二人と比べてしまった時があった
そんな思考にロシナンテが陥っているなど知らないはずのジョーがまるで分かっていると言うように己を「弟」と言った
その言葉にどれほど気持ちが救われ楽になったかジョーは知らないし、「この人が本当に兄だったら」と思った事をロシナンテも言う気はない
まぁ年齢的には「弟」と言うようりは「息子」…最悪「孫」と言われてもおかしく無いくらい歳が離れてはいるのだが…
そんな事を悶々とロシナンテが考えている時、突如ウマヘビが何かを威嚇するようにザパァ!と顔を海から上げた
突然の事にジョーは驚きながらも咄嗟に身体を支え振り落とされないようにしたが、ロシナンテはやはりと言うべきか海へと落ちた
『ロシィ?! ウマヘビ何をしているんだ!』
「ヒヒン! ブルブル!!」
『何を言っているか分からないよ!』
「ブッハァ!! 死ぬかと思った…!!」
『ウマヘビがすまない! ロシィ上がって来れるか?』
「大丈夫だ…っおわ?!」
『今度は何だ?!』
ロシナンテが海からウマヘビへと登ろうとしたタイミングで今度は黄色い何かが海底から水飛沫を上げて出てきた
その波に揉まれるようにロシナンテは溺れそうになるものの、そこはウマヘビが身体を使って何とかロシナンテに掴ませる事に成功
それを見たジョーは「よくやった!」とウマヘビに言ってから、ロシナンテが掴まっている身体の部分に降りていった
ロシナンテの手を掴んでグイッと引っ張れば、彼もジョーを引き摺り落とさないように気をつけながらウマヘビの上へ
突然の事で多少海水を飲んでしまったロシナンテは「ゲホゲホ」と咳き込みながらも、浮上して来た物体…船へと視線を向ける
ジョーも目を引く黄色い船…海賊船を視界に入れながらウマヘビの頭上へと戻り、遅れてロシナンテも戻った
一体どんな海賊が乗っているのかと二人が考えていると、慌ただしく甲板に出てきた数名のまだ少年または青年と呼べる者達
その一人に目を止めたロシナンテは目を大きく見開き唇をワナワナと振るわせながら目にも涙を一杯溜めている
そんなロシナンテの様子を見てジョーは「この中に探し人がいるのか」と思うのと同時にシロクマがいる事が気になっていたりする
甲板に出てきた船長のローを始めとしたペンギン、シャチ、ベポはカームベルトでもないのに超大型海王類がいる事に冷や汗をかいていた
多少距離があるとはいえ船の横に顔を出して上から見下ろしてくるその迫力は凄まじいものであり、丸呑みされそうな程だ
「戦うしかない」と武器の
ローにとってロシナンテは大恩人であり、手放しで信じられる人だが数年前に己を守るために命を落としたのを嫌と言うほど分かっている
だが…空耳にしては確かにハッキリと己の名が呼ばれ、周りにいたペンギン達も困惑したように辺りを見渡している事から先程の声が聞こえた様だ
ロシナンテは勢い余ってローの事を呼んでしまったが彼らがダイブ混乱しているのを目にして「先走った!」と思うも後の祭り
ジョーも呆れたようにロシナンテを見ており、「やれやれ仕方ないなぁ」と言うように首を横に振ってから苦笑いを見せた
『驚かせてすまなかった、私たちに敵意はないから武器から手を離してもらえるかな?』
「 ! ……何処から話しているかしらねェが姿も見せねェ奴の言う事を聞くと思うか」
『あ、下からだと見えないのだね? 上だ、私たちは上にいる』
「上…? なっ…海王類に乗ってる、だと…」
「キャプテンあれどう言うこと?!」
「海王類に乗って移動とかあり得んのか!?」
「おれ達一飲みにされちゃいそうだ!!」
『あと、さっき君を…ローくんを呼んだのは私ではなくて彼だよ』
「ロー俺だ!!! 分かるか!!?」
「――――――っ!!!?? あ、りえねェ…アンタは…コラさんはあの時…」
「そうだ、俺はあの時確かに死んだ! だが彼に救われて今もこうして生きてる!! ロー…!! お前の元気な姿が見れてよがっだ…!!!!」
ロシナンテの登場にローは驚愕に目を見開きつつ動揺し瞳が揺れ、現状が真実なのか何なのか分からないと言う感じである
しかしロシナンテの涙ながらの言葉を聞いてローは息を飲み、そして唇を噛み締めて帽子で目元を隠し静かに涙を流した
その様を側で見ていたペンギン達は初めて見るローの様子に驚きながらも、目の前で涙と鼻水を流している人物と何かあったのだと直ぐに分かる
感動の再会を果たした二人はしばし涙を流し落ち着いてから再度顔を見合わせ、互いに色々な感情が胸中を駆け抜けていく
ロシナンテは
ローは自分のせいでロシナンテを危険な道を進ませてしまい、最終的には己の命を引き換えに助けてくれた人が今も生きている事に
何も言わずとも何かが通じ合っている二人の間に誰一人として口を割って入る事はできず、事の成り行きを見守っていた
その瞬間ー…感動の再会を果たしているにも関わらず、まるで空気が読めないようにロシナンテは足を滑らせ再び海へと落ちていった
バッシャーンッ!と水柱が立ちジョーは「あちゃー」と頭を抱え、ローと周りにいた面々はギョッとし海の方へ視線を落とした
特にローはロシナンテが能力者である事を知っている為、顔面蒼白となり「コラさん!!」と渾身の声量で叫ぶも己も能力者ゆえ助けに入れない
焦りを滲ませるローを見たペンギン達が能力者なのだと察し助けに海に入ろうとするもジョーは動かずただただ呆れきっている
「おいアンタ!! コラさんは能力者だ!! 早く助けねェと死ぬぞ!!」
『大丈夫、「元」能力者だから自力で上がって来れるよ』
「は……何を言って…」
「ブッハァ!! また落ちた!!」
「 Σ!? コラさん?!」
「おーロー!! また落ちると面倒だからそっちに乗せてくれ!!」
「え、いや…構わねェが…」
「悪ィな! 助かるぜ!!」
「……どうなってやがる…」
ジョーの「元能力者」と言う言葉と本当に何ともないように海から顔を出したロシナンテにローは眉間に皺を寄せながら頭を抱える
そしてペンギン達の手を借りながらロシナンテはローの船「ポーラータング号」へと乗船し、相変わらず下手くそな笑顔を見せた
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