Act 21
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頭を悩ませた所で解決方法は一つだろうと思っている彼はどうするべきか考えた
おでんへ連絡を取り、声を聞かせれば簡単なのだがやはり彼はその方法は気が進まなかった
外に出た時は必要最低限の連絡しか取らない様にしようと彼の中で決めいているのだ
「少し考える時間が欲しいな」と思ったジョーは仕方ないと言う様に口を開く
『ふむ…ここは出直すとしよう』
「 ! 」
「随分と簡単に引き下がるんだな」
『このまま話していても平行線だろうからね』
「そもそも何故おでん様の刀を買う事に? 既に二本お持ちのはずだが?」
『あー…何でもカイドウに捕まった際、刀をモモの助くんと日和嬢にとトキさんに預けたらしくてね』
「 !! 」
「トキ様や御子息たちの事も知ってるのかい…確かにおでん様との関わりはあるようだ」
「アンタ…なんでその事を知ってる…?」
『何でって…本人達に聞いたからね、それ以外に知る方法はないよ』
「達ってまさかトキ様も一緒に匿っているのかい?」
『うん、二人の子供達は信頼出来る家臣に預けたらしいから一緒ではないけれどね』
ジョーの話にイゾウは「赤鞘の誰かは無事なのか!」と思い、子息たちも無事で居ると聞き安堵の息を溢す
店主はと言うと、おでんが今まで使っていた刀…「閻魔」と「天羽々斬」が師匠の手元に有るのを知っている
二人が大きくなった暁にはその二振りの刀はそれぞれの手に渡る事も聞いていたのだ
それを知るは渡しに来たトキと師匠である天狗山飛徹…そして己だけだと店主は思っていた
しかし目の前にいるおでんの知人だと言う謎の男もその事を知っている事実
おでんが生前に話したにせよ、死後に彼の能力によって生き返り聞いたにせよ
その事を伝えると言う事はおでんが彼を信用しているのだと思えた
実際のところは本人にしか分からない事だが店主にはそう思えたのである
出直そうとしている彼が店から出て行こうとした所を「待ってくれ」と店主が止める
そんな店主の声に足を止めたジョーは心底不思議そうな顔で店主へと顔を向けた
とは言え、ジョーの表情は帽子によってほとんど見えてはいないのだが
「その話…知っているのは師匠と俺、おでん様とトキ様だけだ」
『そうなんだ?』
「おでん様が生きているのなら…あの刀はあの方が持つべき物だ」
『いいのかい? 私の言う事を信じたわけではないのだろう?』
「確かに信じがたい事だが…イゾウさんが言うように生きて下さっているなら…その方がいい」
『そうか』
店主は完全に信じたようではないが、彼に天狗山飛徹が打った妖刀…「
それを厳重に保管されていたショーケースから取り出した店主は彼へと手渡した
しっかりと受け取った彼は普通の刀と変わらないはずなのだが、どこか重みがあるような気がした
『ありがとう、確かにこれをおでんくんへと届けるよ』
「あぁ…それはおでん様以外には扱えるような代物じゃねェからな…他の奴が使ったら死ぬ事になるぜ」
『そうなの? 至って普通の刀に見えるけれど…』
「師匠が打つ刀は大体が妖刀へとなる…妖刀は人を選び死に至らしめる可能性が高いんだ」
『なるほど…この重い感じはそのせいだね…おでんくんはコレを普通に扱っていたのか』
「そうだ、白い鞘の方が天照でそっちの黒い方が素戔嗚だ」
『ふむふむ…天照に素戔嗚か…神話か何かに因んでいるのかな?』
「さぁな、師匠が名付けたから俺には分からない」
「天照と素戔嗚…なるほど、おでん様にピッタリじゃないか」
『私もそう思うよ』
「さすが天狗山飛徹じゃねェか…いいセンスしてる」
「ともあれそれは持って行け……おでん様によろしく伝えてくれ」
『無論だとも、必ずおでんくんに』
店主の真っ直ぐな視線にジョーも真摯に応え、刀を握る手に力が入った
受け取った刀を背負っていたロジャー用の剣と同じ袋に入れてから再度店主へと向き直る
そんなジョーに訝しげな表情を隠しもせずに店主は「まだなんかあるのか?」と言いたげな顔だ
それを気にする事なくジョーが「いくらだろうか?」と店主に尋ねれば問われた彼は「は?」と思わず口に出た
もう一度彼が同じことを尋ねれば店主は呆れたようにため息を吐き出し「金はいい」とだけ言う
それには流石のジョーも納得いかずにいくから払うと言うも「その刀はおでん様のための物だから金はいらない」と言われる
そこまで言われて仕舞えばジョーもこれ以上言い募ることも出来ずに、納得は出来ていないが一度口を閉じた
ジョーは今になって己が自分の名すら名乗っていなかった事に気づき今まで目深に被っていた帽子を外す
下から覗いた顔は店主は見たことのない顔であったが、イゾウはどこかで見たような気がした
そんな二人の様子を見た彼はニッコリ笑って己の名も名乗っていなかった事を詫びた
『こんな良い刀を預かっておいて名も名乗らずに申し訳ないね…私の名はジョー、どうぞ宜しく』
「チジカだ」
「俺はイゾウってんだ」
『チジカくんにイゾウくんだね』
「お前さん…その顔に名前…どっかで見聞きした気がするんだが会った事はないんだな?」
『ないはずだよ、私は基本的に住んでる島から出ることはないからね』
「となると…どこで…」
『可能性があるのは手配書を見たんじゃないかな?』
……………………
…………………………………
「は?」
「手配書って…お前さん賞金首だったのか…」
『まぁ…意図してではなかったけれどね』
「札付きのアンタにその刀を預けて本当に大丈夫なんだろうな…?」
『100%平気とは言い切れないけれど、そこらの者には負けないさ…最悪ウマヘビに届けさせるからその辺は心配しなくて大丈夫だよ』
「ウマヘビ…?」
『私の友達でとても利口でね、私の頼みも聞いてくれるだろう』
ジョーの言葉に少々…否、だいぶ不安を抱く店主のチジカの顔にはありありとその感情が現れている
そんな彼を安心させようとウマヘビのことを話すも、余計に心配にさせているかもしれない
二人の会話をBGMに一人イゾウは彼が言った手配書のことを考えていた
名の知れた海賊ならば頭に入っているがそれ以外は正直興味ないため覚えていない
その中にいたのかと考えるも「何か引っかかる」と思いながらジョーの顔を観察した
手配書が出ているといことは彼の顔がそこに載っているという事で…顔を見ていれば思い出せるのではと思ったのだ
しかしじっくりと見ていても出てきそうで出てこないこの感じがイゾウを気持ち悪くさせる
その視線に気づいたジョーは「分かったかな?」と笑ってみせた
「出てきそうで出なくてねェ…スッキリしない」
『まぁ私の手配書が出たのも十三年ほど前だからね、忘れても仕方ないさ』
「十三年前…? その頃は大激震があって海が荒れた時だ」
『そうだね…大海賊時代が幕開けとなった年だ…分からないものかな…?』
「……教えてくれてもいいんじゃないか?」
『はは そう睨まないでおくれよ、私のフルネームはゴール・D・ジョー…ロジャーの兄だ』
「 !! 」
ジョーの言葉に喉に詰まっていたような気持ち悪さが消えたのと同時に、驚きに目を丸めるイゾウ
二人の会話を黙って聞いていたチジカはイゾウ以上に驚いており口もポッカリと開けて驚愕の表情だ
確かに海賊王が海軍に捕まり処刑された後、彼の近親者を洗う為か行方不明だったジョーの手配書が出回った
「ゴールド・ジョー」の手配書…そもそもゴールド・ロジャーに兄弟がいた事に驚いたものだった
しかし月日が流れるうちに見つからない事から、彼の手配書はいつの間にか風化していたのだ
その事実をジョーは知らず、未だに手配書が出回ってしまっていると思っている
そんなジョーにイゾウがその事を言えば、今度は彼が驚いたように「そうなんだ!」と嬉しそうに笑った
そんなこんなで色々驚くことが多々あったが、おでんの事は内密に頼み彼は刀を手に入れられた事から帰る事に
チジカに挨拶をしてから店を出れば彼に合わせるようにイゾウも一緒に出てきた
暫く無言で共に歩いていたのだが、ジョーは港に行くわけではないため途中で道を逸れようとした
その前にイゾウが彼を呼び止めその事に彼はデジャブを感じつつ、イゾウへと振り返る
『なにかな?』
「オヤジに会っていかないか? おでん様の事もオヤジには話をしたい」
『オヤジ…?』
「まさかオヤジを知らないだなんて言わねェよな…?」
『…………すまない』
「冗談だろう…白ひげ海賊団を知らない奴が居るなんて…」
『あ、あぁ! 白ひげ…ニューゲートくんの事か! ロジャーやおでんくんに聞いたから知っているよ
そう言えばおでんくんは元々そのニューゲートくんの船に乗っていたと言っていたね』
「そうさ、俺もおでん様がオヤジの船に乗った時共に乗りそのまま乗り続けてる」
『へぇ…それだけ居心地がいいのだね』
「オヤジは偉大だ…無論他の連中もいい奴ばかりだ」
『そうか…是非とも会ってみたい所だけれどそう簡単にいかないのも分かっているつもりだよ』
「まぁな…オヤジはまだしもマルコは反対するだろうな…レストランでも随分と気にしていた」
『マルコくん…?』
「………知らないのかい? そう言えば俺の事も知らない感じだったか…」
『申し訳ない…外の事は無知と言っても過言じゃないんだよ…ははは…』
マルコの名を出してもジョーは「誰?」と言いたげな顔をした為、イゾウも流石に呆れた顔をする
己が白ひげの事をオヤジと呼んだ事に誰か分からないのはまだ理解できる
しかし白ひげ海賊団の不死鳥のマルコとなれば知らない人の方が少ないだろう
彼がそんな数少ない部類の人間だった事にイゾウは「ウチ以外も知らないのか」と思った
「海賊の事ほとんど知らないのか?」
『そうだね…今私が認知しているのはロジャーのとことシャンクスくんの所と…後はカイドウくらいだね』
「ロジャー海賊団とカイドウは分かるとして赤髪も知ってるんだねェ…」
『昔シャンクスくんはロジャーの船に乗っていたろう? 一度私に会いに来てくれた事があってね
その時におでんくんは勿論、レイリーくんやシャンクスくんとも知り合ったんだよ』
「 ! そう言う事かい…おでん様がわがまま言ってロジャーの船に乗った時に」
『ん? そうだったの? 私が聞いた話ではロジャーが期限付きで借りたとか何とか言っていたけれど…』
「確かにおでん様を借りたいと言い出したのはロジャーらしいが、着いて行くと決めたのはあの人
その時のオヤジの怒りを鎮めるのにどれだけ時間がかかった事か…」
『そんなに大変な事だったんだね…』
イゾウの表情を見てその時とても大変だった事を汲み取れたジョーは少々同情した
白ひげと言う人がどんな人物か知らない彼ではあるが、これだけ慕われているのだから情に厚い人なのだろうと思う
元々その船に乗っていたおでんは勿論のこと、敵船でありながらロジャーも認めている感じだったのだから
そんな人だからこそジョーも会って見たい気もするが…やはり部外者の己が安易に会える相手ではないだろうと思った
その事をイゾウに伝えるも「事情を話せば問題ないだろう」との事
イゾウの方から話を通すと言うことで、とんとん拍子に話が進み白ひげに会って行くことになった
一先ず船に残っているオヤジこと白ひげの元へ行かないことには始まらない
ジョーは外していた帽子を被り直してから船が泊まっている港へイゾウと共に向かう
その途中例のレストランの前を通るのだが、その中は彼が居た時と対して変わっていない様子
それをイゾウも感じ取ったのか「マルコに話しておくか…」と呟いてから中へ
その間己まで中に入っては色々面倒になるだろうとジョーは外で待機している
暫くして中から出て来たのはイゾウとジョーが一瞬とは言え目の合った男
「彼がマルコくんか…」とジョーが思っていると、マルコは監視対象がいる事に怪訝な顔をした
その表情と「どう言う事だよい」とイゾウに聞いているあたり、説明をせずに連れ出したらしい
「彼をオヤジに会わせようと思ってね、一先ずマルコにも伝えておこうと」
「は? 何言ってんだイゾウ…俺はコイツの監視を頼んだ筈だが?」
「もちろん監視してたさ」
「監視対象と接触してどうすんだよい」
「そこは大目に見てくれ」
「余程の理由があるんだろうねい…?」
「無論だ」
「その説明は出来ねェのかよい」
彼を白ひげに会わせたい理由を問うが、人目がある事から「後で分かる」と言うだけで今答える気はないようだ
そんなイゾウを見たマルコは更に怪訝な顔をしながら、ずっと黙っているジョーに目を向ける
帽子を目深にかぶり怪しさ満載な男であるが、不穏な空気を感じる事はない
何よりこのワシの国を人一倍気に掛けているイゾウが「オヤジに会わせる」と言っているのだ
彼が脅威ではないと判断したからだろうことはマルコにも分かっている
しかしだからこそマルコは己が目を光らせるておかなければならないと思っていた
一先ず白ひげに会わせることをマルコは己も同席する事で渋々ながら了承した
そうなる事が分かっていたかのように口角を上げて笑うイゾウにマルコは溜め息を溢す
そんなこんなあり、ジョーはマルコとイゾウの後に着いて行く形で白ひげのいるモビーディック号へと向かうのだった
*********
二人の後について行く事数分…目の前には見上げるほど大きな白鯨を模した船
この島にやって来た時にも見かけてはいるが、近くで見ると凄い迫力だとジョーは再び「ほぉ…」と感嘆する
そんなジョーを見たイゾウは小さく笑いながら「俺がオヤジに伝えてくる」とタラップを上って行った
必然的にその場に残る形となるジョーとマルコの間に会話はなく、何とも言えない空気が流れている
特別それを気にすることのないジョーはどうでもいい事を考えていた
それは今まで見て来た海賊船のどれよりも大きく立派だなという事
まさかそんな事を考えているなど微塵も思っていないマルコは、白ひげに畏怖しているのかと思った
しかしジョーが何気なく溢した言葉でそれは勘違いだったと直ぐに知ることとなる
『白鯨をモチーフにするとは…中々のセンスじゃないか?』
………………
……………………………
「 は? 」
『おっとすまないね、独り言のつもりだったが声が大きかったかな』
「お前ェ…これからオヤジに会うっつーのに随分と余裕だねい」
『うん? 人に会うのに緊張する必要があるのかい?』
「オヤジに会うんだ…普通の奴だったらビビって会いたがらねェよい」
『そうなのか…私は是非会いたいと思っていたけれど』
「トチ狂ってんなお前ェ」
『はは! 酷い言われようだね、そんなつもりは一切ないのだけどな』
「そもそもこの状況で船の事を考えてる時点で有り得ねェだろい」
『いやぁ…こう間近で海賊船を見たのはこの船で三隻目なのだけど圧巻だと思ってね
特にこの白鯨を模しているのがとても良いじゃないか! 私はこの船が一番好きだね』
「他はどこの海賊船だ?」
『ロジャーとシャンクスくんだよ』
「はぁ?!」
モビーを見上げてしみじみと言う彼に興味本位で聞いたマルコは想定外の名前が出て、珍しく声を上げる
そんなマルコの驚きようにジョーはキョトンとした顔をするも、残念ながらマルコには口元しか見えていない
ジョー的には「そんなに驚くことか?」と思うのだが、彼等との関係を知らないマルコからすれば驚くのは当然だ
海賊王の名前が出たかと思えば、更には自船を持ったシャンクスの名まで出るなど誰が思おうか
一体何者なんだとマルコが問おうとした時、話を付けに行っていたイゾウが上から「上がって来い」と声をかける
その声に気付いた二人は同時に顔を上げ暫し沈黙が漂うもマルコが先に歩き出した事で彼もその後に続いた
マルコ的にはモヤモヤとしたスッキリしない気持ちであるが、同席するつもりの為その時に知れるだろうと思い直す
彼はロジャーや特におでんから散々聞かされていた「エドワード・ニューゲート」に会えるのを楽しみにしていた
正直なところ「土産話が出来たな」と思っているジョーなのだが、今考える事ではないだろう
マルコの後ろを歩きながら彼は未だに帽子を被りっぱなしな事に気づきそれを外す
タラップを上り切って後ろを見たマルコは、そんな彼の素顔を見て驚愕に目を丸める
マルコは彼の顔を見て誰なのか一目で分かったようで「嘘だろい…」と呟いた
それが聞こえたのか否か分からないが、イゾウが「こっちだ」と彼を白ひげの元へ案内する
船にはちらほらクルーが残っているようでジョーの事を「誰だ?」と言いたげに遠目に見ていた
イゾウの案内の元やって来たのは主甲板であろう場所で、真ん中が丸く窪んでいる
そこにドンと存在感を見せる「白ひげ エドワード・ニューゲート」その人が鎮座していた
ジョーは見上げる程大きな白ひげの目の前まで行き、白ひげも黙って彼の事を見ていた
互いに暫し沈黙したかと思えば、先に口を開いたのは白ひげの方だった
「グララララ! イゾウが会わせてェ奴が居ると言って誰かと思えば…お前ェロジャーの兄貴だな?」
『おや、私を知っているなんて珍しい! 光栄な事だね』
「手配書が出回ってただろう、それ以前にロジャーに直接お前ェの話しは聞いてる」
『ロジャーが私の話を? 敵船の船長である君に?』
「そん時のあいつァ既に船を降りた後だったからな、死期が近ェんだと色々話したもんだ」
『へぇ…あの子は君の元にも来て自分の体の事を話していたんだね? そうか、いい事を聞いたよ』
「グララララ! その様子だとお前ェは聞かされてなかったようだな」
『重要な事をほとんど黙っていたよ…全く手のかかる困った弟だよ』
などなど…話し出せば初対面とは思えない感じで他愛のない事を何の違和感もなく話が進んでいく
側で話しを聞いているマルコとイゾウが口を挟めないほどスムーズであるのだ
マルコ的には口を挟む前に、彼がロジャーの兄だと言う事をハッキリと知り色々辻褄が合った
ロジャーとシャンクスの船を間近で見たと言っていたのも、ロジャーの兄ならば頷ける
生前にロジャーが会いに行っていた事は想像出来るし、ロジャーの死後シャンクスと会ったのも頷けるのだ
ただ一つ気になるのは全くと言っていいほど白ひげを前にしても動じず、むしろ楽しそうに話している事だ
先ほど船の下で話していた通り怖気つくことも緊張する事もない彼を「骨のある男」だとマルコは認識した
我らがオヤジが普通に話している事からマルコの警戒も一気に薄まり、ただただ目の前で繰り広げられる会話に耳を傾ける
そんな中白ひげが「それで?」と前置きをしてジョーを見下ろし、「会わせたかった理由はなんだ」と言いたげな顔をした
それに答えたのはこの場に連れてきた張本人のイゾウだった
「こいつァおでん様の事を知ってんだオヤジ」
「 ! そうか…差し詰めロジャーの船に乗っていた時に会ったか」
『その通りだよ、わざわざ会いに来てくれてね…一悶着もあったのだけれど楽しい一時だったよ』
「一悶着…? 何があったんだよい」
『おでんくんとは一戦交えたんだよ』
「おでん様と…?!」
「一戦交えた!?」
「グラララララ!! どうせアイツが真っ先に上陸してのことだろう!」
『うーん…ニューゲートくんは凄いな、おでんくんをよく分かってるんだね、まさにその通りだよ』
(( Σニューゲートくん?! ))
「俺とおでんは兄弟分! アイツの行動くらい読めらァ! グラララララ!」
『そうなんだねぇ…彼も世話のかかる弟って感じだものね』
「あぁそうだな」
しみじみとおでんの事を思い出しているのか、白ひげはどこか憂げな表情をするもいつも通りの顔にすぐ戻る
しかし、それを見ていたマルコとイゾウ…そしてジョーもそんな表情を見落とさなかった
ジョーはイゾウがおでんは死んだと思っていたのなら白ひげもそう思っているのかと考える
そう考えると憂いげな表情をするのも頷けると思いながら白ひげを見上げた
イゾウにはおでんが生きている事を話してあるのだから、船長であり兄弟分である白ひげにも話すべきかとジョーは思う
その前に、白ひげが本当におでんが死んだと思っているのか確認する必要があるためその事を聞く事に
『ニューゲートくんはおでんくんがどうなったか知っているのかな?』
「……おでんは死んだ、カイドウの手によってな」
『ふむ…間違ってはいないね』
「何が言いたい…」
『先程イゾウくんにも話したのだけれど、おでんくんは生きているよ』
「なに…?」
「どう言う事だよい…!」
『順を追って説明しようか』
そう言って彼はおでんを助ける事となった経緯を白ひげとマルコに話した
ロジャー処刑後、訳あってワノ国へと赴いた時におでんとその家族や家臣達に会った事
その時からワノ国では何か不穏な空気が漂っていたのだが、おでんは己に協力を求める事はなかった事
少々思うことがありながらもその時はワノ国を出て、今住んでいるグランドライン前半の海へと戻った事
それから数年が経ったとき、渡しておいた電伝虫からおでんの家臣である錦えもんから協力要請が入った事
それを受けて直ぐにワノ国へと向かったが、着いた時には処刑が行われていた事
そこに乱入しておでんを救い出した事など…かなり掻い摘んで話しをするジョー
それらを聞いた白ひげは勿論の事、詳しく聞いていなかったイゾウもマルコも何も言う事が出来なかった
暫く沈黙がその場を包んだがそんな空気を壊したのは真っ直ぐジョーを見下ろす白ひげ
「……今おでんはお前ェのとこにいんのか」
『うん そうだよ』
「そうか…」
「信じるのかよいオヤジ! なんの信憑性もねェだろい?!」
「確かにな…だがこの場で嘘を言うメリットもねェ」
「 ! 」
『信じられないのは無理もないよ、私はおでんくんが生きていると言う証拠を提示出来ないのだからね』
「もし生きてんならおでんの事だ…直ぐにワノ国に戻るはずだ」
『それは…私が止めた』
「 ! ……理由は?」
『おでんくんは一度負けた…すぐに戻った所でまた返り討ちに遭うのが目に見えていた
向こうは数年に亘りおでんくんを陥れる事を練って挑んだんだ…戦力が違い過ぎる』
「お前ェが手を貸すんじゃなかったのか」
『もちろん次やり合う時は私も手を貸すよ…ただ、今はまだ時期じゃないだけ』
「寧ろ今行った方がいいんじゃねェのかよい…守りを固められたらそれこそ面倒だろい…」
『一理ある…おでんくんも全快しているし私も共に行き手を貸せるからね
けれど忠臣である彼等が今どこにいるか私には分からない…戦うならば彼等の力が必要なんだよ』
「 ! 菊たちも無事なのか…?」
『おでんくんが身を挺して守っていたよ…彼等が散り散りに去って行ったのを見た』
「アイツらがおでん様を置いて行くはずは…!」
『彼等はおでんくんの意志を尊重したんだよ、来たる時の為にワノ国を開国したいらしいからね
あの時自らの死を悟ったおでんくんは彼等にワノ国の開国を己の代わりに頼んだようだよ』
そう言うジョーにおでんの忠臣の一人であるイゾウは複雑な心境のようで難しい顔をしている
共にあった彼等が生きているのは嬉しいが、守るべき主君に守られた彼等の心境を想っての事だ
身を切る思いで主君を置いて行ったのだと手にとるようにイゾウには分かるのだから
白ひげは「おでんらしい」と思う反面、少々腑に落ちないとも思っていた
それもその筈で、彼はかなり端折って話した為おでんが一度死んでいる事は言っていない
しかし話の内容やワノ国で囁かられる話からするにおでんが死んだのだと思わせるには十分だった
そう怪訝に思っているのは白ひげだけでなく、マルコもまた訝しむ顔をしている
そんな二人を見た彼は「ふむ」と顎に手を当てながら、勘違いをしたジョーは彼等が求めている答えとは違う事を口にした
『因みにトキさんも襲われていたから私の住む島に共にいるよ』
「トキ様も…!」
「モモの助と日和は?」
『二人は信のおける忠臣に預けたようで共にはいない』
「そうか、無事ならそれでいい」
「……………、」
『何か言いたそうだね?』
「……おでんを助けたと言ってたがよい、ワノ国ではおでんが死んだと言われてたよい
アンタが言う助けたっつーのは文字通りなのか…それとも弔ったって事なのか…どっちだよい」
『うん? 文字通りだけれど…私の説明は分かり難かったかな?』
「お前さん話を端折りすぎなんだ、肝心な事を言っていないだろう?」
『そうだったかな?』
「…おでん様を生き返らせたと言っていたと思うが?」
「生き返らせただと?」
「そんな事あり得ねェだろい!」
『あぁその事か…生き返らせたと言うより生きている状態に戻したと言う方が妥当かな』
「悪魔の実の能力者か…だがそんな実が存在するなんざ聞いた事もねェな」
『私も意図して食べた訳ではないし、食べた悪魔の実がどんな物か書物で調べた訳でもない
ただ長年の試行錯誤で分かっているのは、私が戻したいと思った事象を戻せると言う事だ』
「それは死者をも戻せるとでも言うのか」
『まぁそうだね』
そう説明する彼の言葉に白ひげは何かを考え込み、マルコはやはり「あり得ない」と言う顔をする
こればかりは信じるも信じないも彼ら次第だと思うジョーは、一先ず口を閉ざす
そんな中、何かしら考え込んでいた白ひげが徐にマルコとイゾウに「席を外せ」と言う
突然の事に二人は驚きマルコは彼と二人きりには出来ないと言うも、白ひげの変わらぬ態度にグッと口を閉ざした
二人が離れる際「人払いもしておけ」と言う言葉に二人は頷き、その場に残るはジョーと白ひげだけ
突然の人払いに不思議に思う彼であるが、何かを聞きたい事があるのだろう事は分かった
『何か聞きたい事でも?』
「ロジャーが処刑された後何者かに遺体を奪われたと話を聞いたことがある…それはお前ェだな」
『 ! 驚いたな…その事は公にはされてないはずだけど…その通りだよ』
「そうか…ならロジャーは」
『生きているよ』
白ひげに最後まで言わさずに彼がロジャーが生きている事を明かせば、白ひげの口角がグッと上がる
そして「グララララ!」と何処までも響きそうな笑い声をあげた
その声が側を離れた二人にも聞こえており「何があったんだ」とお互いに見やる事しかできない
ロジャーが生きている事を告げたのは白ひげの人となりを見て信用に足る人物だと認識したから
その為ジョーは「この事は他言無用で頼む」と白ひげに言い、白ひげは「分かってらァ」と言う
この後も少し話をしてから、折角だからとおでんのビブルカードを千切って渡した
その代わりと言うように、白ひげのビブルカードをおでんに渡すように頼まれた
そしてジョーは長居する事もなく白ひげと少し話をしてマルコとイゾウにも挨拶をしてから下船し、帰るのだった
( 有意義な1日になった…さて、ウマヘビは機嫌を損ねてないだろうか )
( あのまま返して良かったのかよいオヤジ )
( グララララ! 問題ねェ、また何処かで会う事もあらァ )
( オヤジ上機嫌だね )
( 悪いよりはいいよい )
( グララララ! )
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