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「ジョーさん、荷物それだけか?」
『あぁ…うん…これだけあれば十分かな…』
「じゃあ後はこっちの準備が出来たら出航だな!」
シャンクスがジョー達の住むタートル島へやって来て、奇跡的な再会を果たした翌日
ジョーはなぜか赤髪海賊団の船に乗って出港するのを待っている状況だった
こうなったのは昨日、四人で酒を飲んでいた時のことだ
なんやかんや話しをしている最中、シャンクスがこれから新世界へ行くのだと口にした
それを聞いたロジャーが「兄貴も新世界行くから乗せてってくれよ」と言ったのである
その言葉に目を瞬かせたシャンクスは驚きを示すものの、直ぐにOKの返事をするのだがジョーが待ったを掛けた
『ちょっと待て! 確かに新世界へ行く予定になってるがシャンクスくんの船に乗る気はないぞ?!』
「なんだよ行くとこ一緒なんだから良いじゃねェか!」
「赤太郎もいいと言ってるしな!」
「俺は構わねェよ?」
『私が構う! 互いに気を遣うだろう?! そんな窮屈な思いは御免だよ』
「そんなもんか?」
「おれには分からん!」
『だろうね! そもそも行きはいいとしても帰りはどうする気だ?』
「あー…帰りを考えると…そうだなァ…」
「ウマヘビも連れていけばよかろう? そうすれば帰りはウマヘビに乗ってくればよし!」
「確かにあの海王類スゲェジョーさんに懐いてるみたいだし、この島にいなかったら暴れるんじゃ…」
「あり得るな…アイツ兄貴大好きだからな…」
『あの子はみんなにも同じ様なものだろう?』
「「 全然違ェ 」」
「らしいぞ?」
『そんな事はないはずだが…』
ウマヘビの態度が人によって違うらしく、やはり一番懐いているのはずっと一緒にいるジョーである
ジョー的にはみんな平等に懐いてる気がしていたがロジャーやおでんからすればそんな事はないらしい
嫌われてはいないが、ジョーに向けるほどの感情を感じる事はないようだ
そんなこと言われてもジョーにはよく分からず「そうなのか?」と首を傾げる程度
ともあれ、彼がこの島にいないとなれば確かにウマヘビがどうなるか分からない為行く時は連れて行ってもらう他ない
そもそも、最初からウマヘビに乗って行く予定だったのだから、シャンクスの船に乗る必要はないと彼は主張した
「一人で移動するより誰かと行動した方が楽しいぜ?」
「ロジャーの言う通りだ! ジョーはもっと交友を広げた方がいい!」
『おでんくんに言われると何か腹立つ…』
「Σ何故?!」
「お前ェも海出るまでは交友狭かっただろ」
「だが今は広いぞ! 白吉っちゃん達もいるからな!」
「ニューゲートか…アイツも元気にしてるのか知ってるか?」
「あぁ…新世界に変わらずいるよ、一戦交えたこともある」
「おっそうなのか? どうだった?」
「痛み分けだったよ…この傷もその時にやられた」
「わはははっ! さすがニューゲート! 若造にはまだ負けねェか!」
「白吉っちゃんだからな!」
「いや…これは白ひげにやられたわけじゃないんだ」
そう言ったシャンクスにおでんとロジャーは驚いたように目を丸め「どう言うことだ?」と言いたげな表情である
ジョーは「白ひげ エドワード・ニューゲート」と言う男がどんな人物なのか分からなため口を閉ざしている
シャンクス曰く、白ひげの船に昔から乗っている「ティーチ」と言う男につけられた傷らしい
確かに白ひげの船に乗るクルーもつぶ揃いではあるが、成長した今のシャンクスに傷を負わせた奴がいることに二人は驚いた
ジョーもまた、シャンクスが相当力をつけたのは彼の覇気からも感じていた為少々驚いている
だいぶ話が脱線しているのだが、それに今の所気づいているのはジョーだけでこのまま有耶無耶になればいいと思う
彼がそう思っていたのも束の間「話が逸れちまったな」と軌道を戻したのは言い出したロジャー
「交友を広げる意味も兼ねてシャンクスの船に乗ってけって!」
『だから…気を遣うだけだろうに…それなら一人で行った方がいいんだよ』
「それだから友が少ないんじゃないか?」
『おでんくん、いちいち確信を突くのやめてくれるかな?』
「わはははっ! 自分で分かっているならやはりロジャーの言う通り赤太郎の船に乗るべきだ!」
「俺たちに気を遣う必要はないし、ジョーさんさえ良ければ俺は全然構わねェ」
「ほら! こう言ってんだから厚意に甘えろって!」
「そうだそうだ!」
『お前達…他人事だと思って言っているね?』
「Σそ、そんなことねぇよ!? 兄貴を思ってだな…!」
「新世界へ行って貰うからには快適にと…!!」
『そう言うのをありがた迷惑と言うんだよ…全く…』
「そんなに俺たちの船に乗るの嫌なのか?」
『そうじゃないけれど、見ての通り私は人生の半分以上をここで過ごしてきている
だから少しの時間であれば全く構わないが、長期間大世帯の中に居るとなると少し考えてしまうんだ』
「あー…確かにここは開放感あるし…居心地いいもんなァ…」
『だからシャンクスくんの船に乗るのが嫌な訳では断じてないよ』
「兄貴がコイツの船に乗ってかねェっつーなら俺たちも着いてくぞ!」
「おぉ! いいなそれ!」
『おいロジャー…本末転倒になるようなことを言い出すんじゃない…』
ロジャーがまた「自分も行く」と言い出してしまい、ジョーは頭痛がするような思いで頭を抱えた
しかもその提案に便乗するようにおでんまでもノってくるものだから溜まったものではない
もうこうなってしまってはジョーが折れなければ本気で二人はついて来るに違いない
それだけは断固としても阻止しなければならない彼にとって、選択肢は一つに絞られた
『あーもー…分かったよ…悪いがシャンクスくん…新世界まで乗せてくれるかい?』
「あぁもちろん!」
『あ、ちゃんと他の子達にも聞いてからだよ? 一人でも反対の者がいたら乗らない』
「そんなこと言う奴ウチにはいねェよ! むしろジョーさんと話したがってる奴の方が多いぜ!」
「お、丁度いいからたくさん話して来いよ!」
「土産話を待ってるぞ!」
『……お前達帰ってきたら覚えていろ…』
……と言うような事があり、冒頭の会話に繋がるのである
結果的にはジョーが新世界まで船に乗ることに反対するものはおらず、こうして彼は出航を待っている
ロジャーとおでんとは出てくる前に少し話しをして来ているので、ここに見送りには来ていない
そもそもジョーが「絶対来るな」といい笑顔で脅し……説得したから来れないのだが
ロシナンテにも島を空ける事を一言伝え、何よりロジャーとおでんの見張りを念入りに頼むと彼は苦笑いして頷いた
行きはシャンクスの船に乗せてもらい、帰りはウマヘビに乗って帰るためウマヘビには海底からこの船を追うように伝えた
その時とても不満そうにしていたのだがそこはジョーの話術でなんとか宥め、ウマヘビはまだかとウロウロしている
そして漸く出航準備が整ったレッド・フォース号はタートル島を出て、新世界を目指すのだった
*******
タートル島を出てから一週間程経った
レッド・フォース号はゆっくりと大海原を進んでおり、敵船が来たりとかは今のところ全くない
ジョーはと言うと、空いている部屋がなかった事から倉庫だった場所を即席で部屋にしてもらいそこで過ごしている
基本的に読書をして過ごしていたジョーは、この船に乗っても変わらずベックマンから本を借りて読み漁っている
乗った当初は何か手伝える事がないかと色々聞いて回っていたのだが、一様に「ない」と言われた
それでもめげずに聞いていたのだが彼ら的には「海賊王の兄貴にさせられない」と言う事らしい
凄いのはロジャーであって己ではないと言っても肉親と言うことだけで何か違うのだと色々言われたジョー
ここまで来ると聞いているこちらが悪いことしているみたいでジョーの方が手伝いを申し出るのを諦めたのである
ただそうなるとやる事がなくなるため、ベックマンに何か本はないか聞き借りる流れになったのだ
ジョーは借りた本を充てがわれた部屋でいつも通り読もうとした時、ドォーン!と言う音と共に揺れる船
今の揺れは悪天候とかで揺れる感じではなく、大砲かなんかを撃ち込まれた時の感じだった
まぁウマヘビに乗るジョーはそんな揺れを今までに受けた事などないのだが
バタバタと騒がしくなる外であるが、一応部外者であるジョーは気にする事なく大人しく部屋にいる
揺れ自体は無くなったが、戦闘が始まったのか微かにワーワー声が聞こえて来る
それさえもBGMだと思いジョーが優雅に本を読んでいたそんな時、わりと近くからガシャンと何かが割れる音
その音と共に人の気配が入って来たのを感じたジョーは、流石に放っておけずパタンと本を閉じた
そして何の躊躇いもなくガチャっと扉を開き通路へ出ると、数メートル先に居る見知らぬ男と目が合う
「敵か?」とジョーが思っている時、相手はまさかまだ中に人が居るとは思っておらず驚愕な表情をして見せている
『君は敵…かな?』
「くそっ! まだ中に人が居たのかよ!!」
『丸腰の相手に武器を向けるなんて穏やかじゃないね』
「へ、へへ…だが中にいるって事は非戦闘員だな!」
『ふむ…非戦闘員か、差し詰め間違いでもないかな?』
「やっぱりな! お前ェには人質になってもらうぜ!!」
『人質? また穏やかじゃないね』
中に侵入して来た海賊とものほほんと話すジョーであるが、内心は色々考えていた
このまま放置すれば間違いなく船内を荒らされるだろう事は想像に難しくない
ただこれはシャンクス達の戦いであって己が混ざるのは如何なものかとも思うのだ
「うーん…」とジョーが悩んでいる間にも海賊は彼との距離を余裕の表情で詰めている
ここで己が悩んだところで解決しないと結論付けたジョーは、海賊を彼らの元へ返す事にした
海賊が「へへへ、大人しくしろよ」と言いながらジョーに手を伸ばし彼の腕を掴んだ…筈だった
逆にジョーが男の腕を掴み、早技で海賊は床へと叩き付けられていた
一体何が起こったのか分からない海賊は目を白黒させるも、腕に広がる鈍痛に顔を顰める
うつ伏せに倒されてる男の腕をジョーが捻り上げ動けないようにしているのだ
「ぐぅ…! テメェ…非戦闘員なんじゃ…!?」
『うん? 今は居候させてもらってる身でね、戦闘する気はなかったけれど戦えないとは言ってないよ』
「ざっけんな…!! 嘘吐きやがって詐欺じゃねェか!!」
『ははは! おかしな事を言うね? 嘘吐き? 詐欺? 海賊の君が言うのかい?』
海賊の言葉に心底可笑しいと言うように笑うジョーに、男はギリリっと歯を食いしばる
どうにか抜け出そうと暴れるもビクともせず逆に拘束力が増して床に押し付けられる羽目に
一先ずこの男を外へ連れ出そうと思い、溜めていた負のエネルギーを男へと「
すると男の体が細くなり、まだ若いはずの筋力は著しく退化した
その事に一番驚いているの男自身であり「テメェ能力者か…!」と言うも表情筋も退化している為話し辛そうだ
歩ける程度に退化した体を引き起こしたのだが、ジョーの力に踏ん張れずよろける男
その事実に動揺を隠せない男は「俺に何しやがった!?」と喚いているがジョーは無視して通路を進む
甲板に続くドアを開けば既に戦闘は終わっていたらしく、敵船から奪った戦利品を確認しているようだ
中から出て来たジョーに気付いたベックマンが、彼の連れてる男を見て訝しむ
ベックマンに遅れて気付いたシャンクスも「あれ?」と言う顔をしてジョーに近づいた
「船長らしき奴が見当たらねェと思ったら…取りこぼしちまったか?」
『いや戦闘が始まった頃に船内のガラスが割れる音がしてね、見てみたら彼がいたんだよ』
「そうなのか? いやーでも中にジョーさんが居てくれて良かったな! 危うく荒らされるとこだったぜ!」
「そう言う問題か? 一応客人なんだ、戦わせてどうする」
「それもそうだな! すまんジョーさん!」
『気にしなくていいよ、居候させて貰っているのは此方だからね』
「にしてもコイツ…こんなんでよく船長やってられたな?」
「確かにな…アンタがなにかやったのか?」
『取り押さえたのは良かったのだけれど暴れてね、仕方ないから筋力を退化させたんだよ』
「筋力を…退化…」
「だっはっはっはっ!! そんな事も出来んのかよジョーさん! スゲェな!!」
「アンタの能力が何なのか分からなくなって来たぜ…」
ジョーの説明に「スゲェ!」と笑うシャンクスに対してベックマンは「意味分からん」と言う感じだ
ベックマンが混乱するのも当然で、ジョーは己の能力の事を「事象を戻せる」としか言っていない
それなのに目の前の男は筋力を「退化」させられている事にベックマンは「どう言う事だ」となったのだ
シャンクスに至ってはそんな細かい事全く気にしていないようなのだが
ジョーに能力の説明を求めているベックマンであるが「その前に色々片した方がいいのでは?」と進言するジョー
確かにこのままではゆっくり話も出来ないだろうとベックマンも「そうだな」と先に事を片付ける事に
クルー達は戦闘の後の宴が始まるんだと疑っていない目で船長と副船長の二人を見ている
それは幹部達も例外ではないようで「早く始めようぜ!」と言う気持ちがありありと伝わって来る
そんな姿を見たシャンクスがニヤリと笑い「宴だぁ!」と高らかに言う
それに同調するようにクルー達も「宴だぁ!」と叫び、さぁ始めようとしたそんな時
待ったを掛けたのは副船長のベックマンであり「片付けてからだ」とこの空気に水を差す
それにクルー達が不満を呈したのは言わずもがなだが、ベックマンの無言の圧力に従わざる得なかった
戦利品及び敵船の者達の片付けを終えてからようやく始まる大宴会
飲めや歌えやの大騒ぎで、敵船から大量の酒を奪ったことで皆ゲラゲラ笑い酔っ払っている
そんな中にジョーも参加させてもらっているのだが、居る場所が彼的には問題である
なんと言ってもシャンクスを始めとした古参たちのグループに居るのだから
初めは彼らの宴なのだからとジョーは遠慮し間借りしている部屋へ戻ろうとしていた
しかし、それを止めたのはシャンクスでありその後にベックマンもまだ話を聞けていないと彼を引き留めた
今でなくても話しは出来るだろうとジョーは言ったが、有耶無耶にされそうだと後回しにするのは却下されたのである
そんなこんなでジョーも参加する運びになったのだが、己がここに居ていいのかと最高に居心地が悪い思いをしているのだ
そんなジョーに気付いているだろうベックマンが「それで?」と彼に問いかける
「アンタの能力は一体なんなんだ?」
「俺も気になる!」
『この前話した通りだよ、基本的には事象を戻すのが私の持つ能力だ』
「そうなるとあの男に起きた事の説明にならねェんだが?」
『うん そうだね、この能力にも色々使い勝手はあって…とは言え長年研究をしたのだけれど
能力で戻した事象は私の中で溜まり続けるんだけれど、それを他の人に移す事も可能なんだ』
「 ! …なるほど、それで筋力の退化となる訳か」
「だがそれって無限に溜められるのか?」
『良い質問だねシャンクスくん、限界まで溜めた事がないから断言は出来ないけれど恐らく限度はあると思う』
「もしそうなったらヤベェんじゃねェか?」
「リバウンドみたいな事が起きてもおかしくはねェな」
『私もその可能性は考えているよ、だからこそある程度溜まったと思ったらそれを捨てるようにしている』
「え、捨てるってそう言うの捨てられんのか?」
『考え方次第だよ、私の場合は攻撃とかに還元しているんだ』
「攻撃…想像出来ねェな、一体どうする?」
『溜め込んだ事象を負のエネルギーとして放出すると…まぁ簡易爆弾となる訳だよ』
そうなんとも無いように言うジョーの言葉に質問していた二人は勿論、黙って聞いていたヤソップやルウも驚きで固まる
負のエネルギーなるものがどんな物かは抽象的過ぎて分かりにくいが、良い物で無いのは分かる
それを放出して爆弾にするとなるとどんな規模になるんだと聞いていた幹部メンバーは思った
ただジョー的にはロジャー、ルージュ、おでんの三人を生き返らせたエネルギー+@を溜めても平気だった事から
かなりの容量なのではないかと踏んでいるため、ワノ国で全てを放出してからはまだ出してはいない
ちょいちょいリセットしている程度の為そんなに溜まっていないだろうと言うのもあるのだが
そんな話を聞いて驚きはしたものの、それ以上に「やっぱりスゲェ」と思ったシャンクスは笑いが込み上げる
そして大口開き胡座をかいている膝をバシバシ叩きながら笑った
「だぁーはっはっはっはっ!! やっぱりジョーさんはロジャー船長の兄貴だな!!」
『うん? え、疑っていたのか?』
「そうじゃなくてよ、考え方がなんつーかやっぱ似てんだ二人とも!」
『そうかな…? 初めて言われたよそんな事』
「事象を戻す力を攻撃にも展開するなんて俺ァ考えらんねェよ!」
『うーん…そんな事ないと思うけれど…』
「長年研究したんだろ? 俺にはそんな長く考えんのは無理だぜ!!」
「だろうな」
「お頭だしな」
「すぐに投げ出すだろうよ」
「Σお前ェら失礼だな!!」
「自分で言ったんだろうが」
『ははは、私の場合は研究か読書くらいしかやる事がなかったから続けられたんだよ』
「そういやジョーさんあそこにどんくらい住んでんだ?」
『そう言われるとどれくらいだろうね…? かれこれ四、五十年はいるんじゃないかな?』
そう顎に手を当てながら言う彼の言葉に「はっ?!」と言う声が重なる彼ら
想像以上の年数に驚くなと言う方が無理な話だが、それにしても長い
シャンクスは「人生の半分以上をここで過ごしている」とは聞いていたが流石にそんなに長いとは思っていなかった
見た目が若いからとは言え皆忘れがちだが、ジョーはこう見えて実年齢七十歳である
そんな彼らの心境など知らぬジョーは「私も老いたね」と笑いながら手にある酒を飲む
その姿を見ている面々は「老いとは…」とその概念を考えさせられる思いだった
そんな話をしていた時
手摺近くに座っていた若いクルーが何かを見つけたかと思ったら「お頭! 副船長!」と声を掛けた
その声に全員がそちらへ目を向ければ、青年が酒を片手に海の方を指す
「鷹の目…! 鷹の目がこっちに向かって来てる…!!」
その言葉を聞いたシャンクスは「鷹の目かァ久しぶりだな」と呑気に言っている
ザワザワとし出す彼らに対し、ジョーは周りを見ながら「鷹の目とは?」と思っていた
残念ながらジョーは興味のない事にはとことん無関心な為、実力がある者でも知らない
それは白ひげの時でもそうだったのだから、むしろ知っていた方が驚きだろう
誰もが知っていると言いたげな雰囲気に「鷹の目とは誰か」など聞けるわけもなく…ジョーは黙って酒を飲む事に徹した
しかしそんな時、最悪なタイミングでザッパァンと水飛沫を上げて顔を出したウマヘビ
それ自体は別段珍しい事ではないのだが、出て来た場所が悪かった
「鷹の目のミホーク」とレッド・フォース号との間に出て来てしまったのだ
ジョーが乗っている事から船寄りに顔を出したのだが、それでもミホークからすれば邪魔な海王類である
しかもミホークの船に気付いたウマヘビが何故か威嚇をし出したのだから彼も黙っちゃいない
そんな様子を見たシャンクスが少々焦りながら腰を上げ、ミホークがいる方へ手摺から身を乗り出し確認する
そしてシャンクスの目に入ったのは背負っている黒刀「夜」に手を伸ばし抜こうとしているミホークの姿だった
「マズイ!」と思った矢先、シャンクスの影から共に見ていたジョーが素早く動く
その際「シャンクスくんちょっと剣借りるよ」と一言かけてから駆ける
その言葉にシャンクスは「えっ?!」と言いたげな顔をしてから己の腰を見れば見当たらない己の愛剣
ジョーの方へ目を向ければしっかりと右手に握られたグリフォンがそこに
「いつの間に…」と思うシャンクスに対し、ベックマン達古参は驚愕な表情でジョーの背を見た
気を抜いていたとは言えあのシャンクスに気取られず剣を抜いて行ったのだから
驚かれているなど知る由もないジョーは人垣を縫って行き手摺りに足をかけてウマヘビへと飛んだ
スタンとジョーがウマヘビの頭の上に乗ったのとほぼ同時に、ミホークは斬撃を飛ばした
それを見てシャンクスの剣であるが何の問題もなく彼は「神威」と斬撃を飛ばす
二つのそれがバチィッ!とぶつかり合えばそこで爆発が起こり水柱が立ち上った
それを見ていた赤髪海賊団の面々はしばらく開いた口が塞がらなかったが、気付けば盛り上がっていた
「スゲェ!」やら「鷹の目の斬撃を相殺した?!」などなど、彼の実力の一端を垣間見てテンション爆上がりである
そんな盛り上がりを見せている彼等とは裏腹にジョーからは何だか不穏な空気が漂っている
それに気づいたシャンクスは、ウマヘビを狙ったミホークに怒っているんじゃないかと思った
もしそうなのだとしたら仲介に入らねばと思い、ジョーが乗るウマヘビへと近づいたのだが想定外な事が起こる
ジョーは無言のまま、グリフォンを持っていない手(覇気付き)を真下に振り下ろしたのである
その結果…ゴンッ!と物凄く痛そうな音が響き渡り、ウマヘビの頭には大きなタンコブが出来上がった
「ギャヒンッ?!」
『お前…私が何故怒っているか、分からないとは…言わせないよ?』
「 Σ!? 」
『その反応はどうやら分かっていないようだね…確か伝えたのは昨日のはずなのだが…』
「…………!」ガタブル
『敵わない相手には威嚇はするなって…言わなかったかな、私は…』
「ヒ、ヒヒン! ヒンヒン!!」
『それなのにお前は…私の言葉を無視して彼に威嚇し…あまつさえ、殺されかけた訳だが…申し開く事はあるかい?』
「ブルルル! ヒヒンブル!!!」
『私を守るため? シャンクスくんの船に乗っている以上、危険に遭うことはないと思え馬鹿者…!!』
―― ゴンっ!!
「ギャヒーンッ!!」
((((( こ…怖ェ―――っ!!!! )))))
ジョーの怒りの矛先はウマヘビに向かって斬撃を飛ばしたミホークではなく、ウマヘビ自身にだった
大きなタンコブが2つ出来上がったウマヘビはガタガタと震えながらボロボロと涙を流している
それを見ていた赤髪海賊団の面々は顔面蒼白となり、ジョーを絶対に怒らせないようにしようと心に決めた
シャンクスやベックマン達もその光景を見て、流石にポカンと見てしまっていた
まさか可愛がっているウマヘビの危機だったにも関わらず怒りの矛先がウマヘビだとは思うまい
正直ミホークとの喧嘩が始まるのではと危惧していたのだが、そんな心配は無用だったようだ
それを見ていたミホークもまた怪訝な顔を隠しもせずジョーとウマヘビの奇行を見ていた
そもそもミホーク的にはシャンクス以外の者に己の斬撃を相殺されたことに内心驚いていたのだ
それなのに突然目の前で繰り広げられる出来事にミホークが訝しむのも仕方ないだろう
そんな事を一人と一匹がしている間にもミホークは船へと近づいており、下からそんなジョーを見上げた
「見たことのない顔だ」と思いながらもその実力は本物なのだろうと確信を持つ
船の下に来ていたミホークに気づいたシャンクスは「よぉ鷹の目」と声をかけている
「久しぶりだなァ!」
「あぁ…それにしてもあの者は何者だ」
「んージョーさんはなァ…俺からは説明出来ねェな」
「お前のクルーではないのか」
「違う違う! ジョーさんがクルーとか恐れ多いぜ!」
「ほぅ…貴様がそう言う程とはな、面白い」
「……勝負しようだなんて考えねェ方がいいぞ、今のあの人虫の居所悪いみたいだからよ…」
「俺の一撃を相殺できる者はそういない、ぜひ手合わせ願いたいものだ」
「まぁ…気持ちは分からんでもないけどな!」
「貴様との決着もまだだ赤髪ー………貴様、左腕はどうした」
「お、これか? 東の海に置いてきた」
二人が会話している中、風に吹かれたことでシャンクスのマントが靡く
そう長く靡いていた訳ではないのだが、ミホークは彼の体の一部が失くなっているのに目敏く気づいた
爛々と輝いていた「鷹の目」と称される彼の琥珀色の瞳から、シャンクスに向けられていた闘志がスッと消える
まるで興味が失せたとでも言いたげなそれに、流石のシャンクスも「分かりやすい奴」と苦笑い
答えなど分かり切っているが「決着つけるか?」と彼が尋ねれば「片腕の貴様に興味はない」と一刀両断
未だにガミガミ…ではなく淡々とウマヘビをナジっているジョーなのだが、流石にウマヘビが可哀想になってくる
大好きなジョーに散々言われ続け、心がズダボロになっているのが彼らには手にとるように分かった
なんたってウマヘビの大きな目からボロボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちているのだから
「おーいジョーさーん! そろそろソイツを許してやってくれよ!」
『 ! しかしだねシャンクスくん、私は確かに昨日言ったのにー…』
「忘れるくらいウマヘビはジョーさんが大好きってことだって! どんな相手でも守りてェんだよ!」
『 ! ……そう言われてはこれ以上怒れないじゃないか』
「だはははっ! 早いとこ宴をし直そうぜ! 折角だ、鷹の目も寄ってけ!」
「……そうだな、邪魔するとしよう」
「よっしゃあー! 宴の仕切り直しだお前ェら!!」
「「「「 いよっしゃあ――― !!」」」」
シャンクスの助け舟もあり、ジョーからのお叱りを終える事の出来たウマヘビはシャンクスに感謝の念を飛ばす
そんな視線に気づいたシャンクスはニッと笑いながらグッと親指を立てて見せた
この時からウマヘビはシャンクスにも懐いたのは言わずもがなだろう
ミホークを加えて再び宴が再開されようとしている時、まずジョーはシャンクスに強制的に借りたグリフォンを返す
お頭である彼からなんの許可もなく勝手に使ったことへの謝罪のつもりなのだがシャンクスは気にしていないようだ
ケラケラと笑いながら「取られたの気づかなかったぜ!」と言うのだから
そして次にウマヘビが無駄な威嚇をした相手…ミホークにも申し訳なさそうに謝る
『先程はあの子が済まなかったね…』
「いや、俺も斬ろうとした…お互い様だ」
『そう言ってもらえると有り難いよ…私はジョーと言うものだ、よろしく』
「我が名はジュラキュール・ミホークだ」
『ミホークくんか、覚えておこう』
「いや覚えるって…まさかジョーさん鷹の目のこと知らなかったのか…?」
『 ? 有名人か? すまないね、私はそう言ったことに疎くて…』
「マジか…意外だな」
「確かに色々知っているイメージがあったが…」
『ははは、それは買い被りすぎだよベックマンくん…最近までニューゲートくんと言ったかな? 彼も知らなかった』
そう言うジョーに話しを聞いていた全員が目を剥き「ええぇぇぇ?!」という驚きの声を上げた
普段あまり表情を変えることのないミホークでさえ驚きの顔をするのだから相当だ
ジョー的には「そんなに驚かれることなのか」と呑気に思っており「二人にも驚かれたな」とも思った
ともあれ彼が常識人なのは分かるが、この大海賊時代の常識知らずなのだと嫌と言うほうど理解する事となった
こうして彼らはミホークを交え、長い長い宴で飲み食いをするのだった
( それにしもてミホークくんの瞳は本当に鷹のようだね )
( 俺には分からんが…それよりその呼び方どうにかならんのか )
( 呼び方…? )
( そう歳も変わらんだろう、呼び捨てで構わん )
( 鷹の目聞いて驚くなよ? ジョーさんこう見えて俺たちよりずっと年上だぜ? )
( は? )
( もう70だからねぇ…老いたなぁ… )
( ………… )
( だはははは! やっぱ驚くよな!! )
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