救済を
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おでんとトキをワノ国からジョーの住むタートル島へ匿うようになってから早一年の月日がだった
その間トキは献身的におでんの身の回りの世話をしており、とても健気だなと彼は思った
確かに「おでんの世話を頼む」とは言ったものの、あそこまで一人でやる事はないだろうにと思うのだ
何か必要な事があればジョーでもロジャーでもルージュでも力を借りてはいたが、基本一人でなんとかしていた
それを見ていた彼らは内心彼女が倒れてはしまわないかハラハラしていたなどトキは知らないだろう
ルージュだけは女性の強さを知っていることから「大丈夫ですよ」と常々言っていたのだが…
男である彼らは「本当に平気か?」と思わずには居られないほどの献身ぶりだったのだ
そして今、彼女の行いが身を結んだと言うようにおでんがカッと目を見開き起きたのである
その時側に居たのはトキだけで、驚いた表情を見せたかと思うと目に涙を一杯に溜め「おでんさん!」と声を張った
その声が、下で猛獣達と戯れていた兄弟にも聞こえ顔をみ合わせてからおでんを寝かせている新築へ
中に入れば泣いておでんの胸に縋っているトキと状況が理解出来ていないおでんの姿
おでんは更にロジャーとジョーが顔を見せたことにギョッと目を剥き、口をハクハクと動かすも声が出ないようだ
それはロジャーの時もそうだったので「まぁそうなるよな」と二人は息を合わせたように頷く
一先ずおでんに今の状況を説明しなければならないため、トキがいない方に周りそこに二人して腰掛けた
『やぁおでんくん、目覚めて何よりだ』
「………!? ………!!」
「わははははっ! 喋れねェよな! 俺も目が覚めた時そうだったぜ!!」
「 ?! …………!!!!」
『取り敢えず今の君の状況を説明するぞ』
「その前に喉だけでも戻してやったらどうだ?」
『煩くなりそうだから後でね』
そうピシャリと言うジョーにロジャーはそれ以上何か言うこともできず、おでんも「えっ!?」と言う表情だ
それを見て気づいているはずだが、彼は気にすることもなくあの時から今までの話をした
ジョーが錦えもんの要請を受けワノ国に着いたのは、おでんとその家臣達が処刑される当日だった事
いざ花の都に着いてみればその時は既におでんがカイドウの手によって撃ち殺される瞬間だった事
茹だった釜の中に倒れるのを阻止したジョーがそのままおでんを連れ去った事
その後ワノ国に似つかわしくない黒煙を出していた工場を破壊した事
そして、カイドウとオロチの手下に狙われるだろうトキを保護して此処まで連れ帰った事を掻い摘んで話した
そんな話を聞いたおでんは驚きと困惑で一杯だったが、己がジョーに救われたのだと言う事は分かった
お礼を言おうとするも、口はパクパクと開閉するだけで後になる事はなく…
その事におでんは心底もどかしそうに顔を歪めている
そんな彼に代わり、縋り泣いていたトキが姿勢を正しジョーへ深々と頭を下げてた
「本当に…私共々助けていただき…ありがとうございます…!」
『顔を上げておくれトキさん、私が好きでした事だからお礼を言われる気はないよ』
「いいえ…ジョーさんがいらしていなければおでんさんも私も命はありませんでしたから」
( そうだぞジョー!! おれ達の命の恩人だ! おれは一度死んだようだがな! )
「おでんの奴なんか言いたそうだぞ?」
『あぁ…喉が使い物にならないんだったね、不便だから喉だけは戻してあげよう…
「あ”ぁ…! ゲッホ!」
「おでんさんお水を…大丈夫ですか?」
「ゲホゲホッ! んんっ! すまんなトキ!」
「 ! っいいの…夫を支えるのが妻だもん…!」
「……俺たち邪魔じゃねェか?」ヒソ
『うーん…そのようだね…一先ず私たちは出ようか』ヒソ
「おう」ヒソ
何と言うか突然甘い…と言うか口を挟みにくい空気になってしまったためロジャーとジョーは席を外す
猛獣達のいる場所まで互いに無言で降りたかと思うと互いに笑顔を見せた
トキ同様に待ちに待ったおでんの目覚めに喜ばない訳がなかった
そんな姿を見た洗濯物を干しているルージュも笑みを携えながら作業をしている
猛獣たちは一様に「?」が飛んでいるものの、二人が喜んでいるのは分かった
今や二人の背もたれと化してしまっている大虎は何時ものように地に伏せ二人が来るのを待った
さも当然のように大虎を背に二人して腰掛けたかと思うとロジャーがケタケタと笑い出す
「わははははっ! おでんの奴長い事待たせやがって!!」
『私的にはお前も同じだぞロジャー』
「そうだったな! だがこれでこの島も随分と賑やかになるぜ!」
『賑やかと言うか煩くなるの間違いじゃないか?』
「違いねェ! それはそうと、おでんにもあのリハビリさせんのか?」
『フフフ…勿論だよ、徹底的にしごいてあげないとね?』
「おでんもあの地獄を味わうんだなァ…マジでしんどかったぜアレは…」
『お前が私にリハビリを手伝えと言ったのだろう? とやかく言われる筋合いはないぞ』
「アレはもうリハビリとは言わねェよ!!」
『だがアレのお陰で体が動かし易くなったのも事実だろうに』
「そりゃそうだがよ…もっと別のやり方あっただろ…」
数年前にやったジョーの言うリハビリと言う名の地獄を思い出したロジャーはげっそりとした顔をする
ジョー的にはそんな顔をされる覚えなどなく、悪気を感じられない顔で肩をすくめた
そんな話をペラペラとしていると小走りで近づいて来るトキの姿が視界に入る
会話を止めてトキを見る二人に彼女は「おでんさんが呼んでます」と言う
せっかく二人きりにしてやったのになんだと思う二人は取り敢えずおでんの元へ
トキは一緒に来る事はなく、ルージュの元へ向かい洗濯物を干すのを手伝うようだ
おでんが寝かされている新築された(ゴール兄弟で作った)ツリーハウスの中へ入った
中に入ればおでんは自力で起きたのか何なのか…クッションを背に上体を起こしていた
その事に二人は心底驚き、思わずポカンとした顔を二人して晒す
「なんだァ二人してその顔は!」
「イヤだってオメェ…自力で起き上がったのか?」
「おうとも! かなり動かし辛いがなァ!」
『君本当に一年も眠っていたのか…? ロジャーでさえ動けなかったのに…』
「そうだったのか? 何でだろうなァ! わははははっ!!」
( 人間の皮を被った別の生き物かコイツ… )
( ロジャーも人間離れしてるけれどおでんくんも大概だね… )
「ともあれジョー! トキも言っていたが二人共々救ってくれたこと感謝する!!」
『感謝の言葉は一度聞けば十分だよ…それにその言葉は君の家臣の子にいつか言ってあげるといい』
「 ! 錦か…確かにアイツがジョーを呼んでなけりゃあおれもトキも死んでた」
『トキさん曰く未来へモモの助くんと共に飛ばしたらしいから当分会えないのだろうけれど』
「なぁに二十年などあっという間だ! また会えた時は礼を言わねばな!」
「ところでおでん、兄貴の武勇伝聞いたか?」
「武勇伝とな? 聞いておらんがなんか面白そうな匂いがするぞ!」
「それが兄貴、カイドウと戦ったらしいぜ!」
「なんと!! 討ち取ったか?!」
『残念だけど倒せてはいないよ…傷を残して来たくらいかな』
「それでもカイドウ相手に傷を残せるのスゲェ事だぜ?」
『そうなのか? 私が付ける前に既に傷があったが…もしかしておでんくんが付けた傷かな?』
「確かにカイドウと対峙した時傷をつけたと思うが…正直それどころではなかったからあまり覚えておらん!」
そう胸を張って言うおでんに「胸を張るところじゃねェよ」とロジャーが突っ込んだ
その言葉を気にすることなくおでんは「体が思うように動かんのは不便だ!」とガラリと話が変わる
そりゃそうだとロジャーとジョーは思いつつ、起きて直ぐ多少なれど動けているだけでもマシだと思う
そんなおでんは、カイドウがまだワノ国にいて民衆達を脅かしているのだと思うと居ても立っても居られなかった
今すぐにでも戻ってカイドウとオロチを討ち、ワノ国に平和をもたらし来たる日のために開国せねばと
「ジョー!!」
『何かな?』
「この体を動かせるようにする事も可能か!?」
『まぁ出来るよ』
「頼む! 体が動かせるようにしてくれェ! おれはワノ国に戻りカイドウを討たねばならん!!」
『それは断る』
「Σ何故じゃ?!」
『これ以上君に能力を使う気はないよおでんくん、地道にリハビリをしていくんだ』
「それではワノ国が…!!」
『まぁ…平和とは程遠い日を過ごす事になるだろうね』
「それを分かっていてそう言うのか?!」
『君はカイドウに負けた…それは覆せようもない事実だよ…その結果が今のワノ国だよおでんくん
意地を張らずに私に連絡を入れて、私が着くのを待っていたら少しは違う結果だったかもしれない』
「しかしジョーには関係のないー…」
――― ゴッ!!
「イ゛ッ?!」
「うわー…痛そうな音したぞ今…」
『いい加減にしろ!』
おでんの言葉に温厚に返していたジョーだったが「関係ない」と言われた事で彼の逆鱗に触れ怒りが爆発した
その結果おでんの頭にたんこぶが出来るほど思い切り殴り、おでんはポカンと彼を見上げている
ジョーの眉間には深くシワが刻まれており、いかにも「怒っています」と言った表情である
初めて会った時もジョーを怒らせてはいたがその時は笑顔のまま怒っていて今の感じとはまた違う
その時の方が怖かった印象だが、今回はどこか傷付いているような雰囲気を彼は纏っていた
それを感じとったおでんは己が失言したことに気づくも、言ってしまった事は取り消す事は出来ない
『私には関係ない? あぁそうとも、私はワノ国出身ではないから関係ないだろうさ!
だが言っただろう?! 何かあれば連絡しろと! 私にとって君も弟同然だと思っているのだと!!』
「 ! 」
「……………」
『連絡を受けてワノ国に行けば君が公開処刑だと? どいつもこいつも私を馬鹿にしているのか?!
私は公開処刑された弟を助けるためにいるのではないぞ!! なぜ頼ろうとしない!! そんなに私は頼りないか?!』
「そんな事はない!! 頼りにしている!!」
『どの口が言うか!! 私を頼る気などさらさら無かった分際で…!!』
「そ、それは…おれ達だけで解決せねばと…」
「俺はおでんの気持ちよく分かるけどなァ…」
『そうだろうね…お前達は苛立つほどその辺がよく似ている…!! 私の気も知らずに…!!
もし私がお前達に何も言わずに死んでたとしてもなんとも思わないか?! 納得できるか?!』
「「 !! 」」
『これからはよく考えて行動しろ…これ以上私を失望させてくれるな』
苛立ちのまま己の感情をぶつけたジョーは最後にそう呟いてその場を去ってしまう
そこに残る二人の間にはとても気まずい空気が流れており、なんとも言えない表情を二人ともしていた
特にロジャーは己が目覚めた時も怒られたが、その比にならないほどの怒りをぶつけられた気がしていた
最近ジョーは死んだ人間を助けることが多くなっていて、気が張っていてストレスもかなり溜まっている事は分かる
今まで共にいた時でもあんなに怒った姿など見た事がなかったロジャーは、少なからず動揺していた
それはおでんも同じであり、そんなに己のことを想っていてくれていたのかと
出会い方は最悪だったにもかかわらずあそこまで気にしてくれる人はそう居ないだろうと思う
何より先程のジョーの言葉で二人の心に刺さったのは「失望させるな」と言う言葉だった
そうなるまでジョーを追い詰めていたのだとロジャーは今更気づいた事に爪が食い込むほど握り拳を作る
おでんもまた、彼を傷つけてしまったことに自責の念が胸中を占め何とも言えない表情をしている
そんな中口を開いたのはロジャーだった
「俺ァ…今まで兄貴に甘えてたんだ…ずっとな」
「なんだ藪から棒に…」
「どんな事をしても兄貴は笑って許してくれた…だが今回の件は流石に笑い事じゃすまねェよなァ…」
「……死んだら最後…だからなァ…ジョーが怒るのも当然だァ…」
「そうだな…俺ァ兄貴が死んだらとかそんな事考えた事もなかったが…ああ言われると…」
「確かに…ジョーは強い…だが人生に絶対はないからな…あそこまで言われて気づくとは不甲斐ない…!」
「全くその通りだぜ」
ジョーの心に燻っていた想いを知った二人は、彼にしっかりと返して行かなければならないと思った
心配かけた事もそうだが、自分たちもジョーのことを失うのを考えられないくらい想っているのだと
そうするには先ず彼に謝らねばならんとおでんはロジャーの肩を借りてゆっくりと立ち上がる
そしてジョーがいるだろう、猛獣達のいる中央の広場へとゆっくりと向かうのだった
( 兄貴! )
( ジョー!! )
( ……文句は聞かないよ )
( 悪かった!! 兄貴の気持ちも考えねェで…! )
( 申し訳なかった! )
( … 次同じような事があったらお前達とは絶縁するからね )
( おう、もう兄貴を裏切らねェよ )
( 無論おれもだ! )
( ならいい…せっかく降りて来たしおでんくんのリハビリでもしようか )
( Σ!? )
( おぉ! 手伝ってくれるか! それは有難い!! )
( お、俺はやる事あるから頑張れよおでん! )
( ? おうとも! )
( 何言ってるんだロジャー、お前も一緒にやるんだよ )
( Σ俺はもうやらなくていいだろ!? )
( 何か言ったかい…? )
( イイエ、ナニモ! )
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