救済を
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ロジャーが目覚めてから4年の月日が経った。
その間にもジョーの地獄のリハビリは延々続き、なんとロジャーはたった一年で普通の生活を送れるまで戻った。流石にそんな早くそこまで回復するとは思っていなかったジョーは「我が弟ながら化け物か…」と思ったとか。
無論そんなこと口に出していはいないが思うだけならいいだろうとの事だ。
そしてロジャーの恋人兼妻であるルージュはロジャーの時とは違い、一年で目覚める事はなかった。いつ目覚めるかはその人の気力や体力に関係しているのか彼女は随分長いこと眠ったままだったのだ。数年経った今、ルージュが目覚めてから一年が経過しているため普通に生活できる程度には回復している。
ただ目覚めた当時は目の前にロジャーがいる事に心底驚きそして涙した。そんなルージュを己の腕に抱き締めたロジャーは心の底から「すまなかった」と謝っていたのをジョーは聞いた。二人の間に割って入ることなど到底できないためジョーは扉の外で待機していたのである。
ルージュが寝かされていたのはジョーが使っていたツリーハウスではなく新築した別のハウスだ。流石にずっと使われているのは心身的にジョーもキツかったことから、もう一件作ろうとなったのである。そこから兄弟は地道に二人用のツリーハウスを作り完成させて直ぐにそっち移ったのだ。
そしてルージュには息子のエースはガープに託し守ってもらっていることもロジャーが伝えた。その事に関しては少々不安げであったルージュだがロジャーの言葉を信じ「分かりました」とだけ言った。その後ジョーも二人の会話に加わり自己紹介してから事の経緯を互いに話しをした。
まずはルージュの身に何が起こったのかを聞けば海軍に探されていた為臨月を過ぎてもずっとエースを腹に宿していたと言う。そして海軍の目を欺ける事20ヶ月の時が過ぎたあの日、ようやくエースを産み落とし力尽きてしまったのだと。その話しを聞いたロジャーはなんとも言い難い表情をしており、ジョーもまたいい顔はしていない。
ロジャーは「子供を守ってくれてありがとう」とルージュに深々と頭を下げた。この後ジョーが己の持つ能力のことを話し、息を引き取っていたルージュを蘇生したことを話す。それには流石のルージュも驚きに目を開いていたが「俺も兄貴に救われた!」とロジャーが言うと納得したようだった。
そんなこんなで三人でこの亀助の甲羅の上で住むようになって数年が経ったのである。
そして今…彼らはスコールに見舞われていて、それぞれ家の中で適当に過ごしていた。ジョーも外に出られないことからゆっくりと読書をしてくつろいでいたのだがそんな中鳴り響く電伝虫。電伝虫を持つようになってから初めて鳴ったそれはが繋がるのは今の所おでんに渡した電伝虫だけだ。
『はい』
〈 あ…私トキと申しますが…ジョー様でいらっしゃいますか? 〉
『え、トキさん? 久しぶりだね』
〈 あぁ…良かった繋がって… 〉
『どうしたんだい? これおでんくんに渡した電伝虫だよね?』
〈 はい…おでんさんは貴方様に電話を繋ぐ気はなかった様ですので私がかけさせて頂きました 〉
『……何かあったのかい?』
〈 まだこれと言っては…。ただおでんさんが私達に何かを隠しているのは分かります。一人で抱えているのを…。それに気づいているのは私だけではなく錦えもん達も気づいているのです… 〉
『そうか…わざわざ掛けてきてまで私に伝えるのは…何か頼み事かな?』
〈 トキ様…ここからは拙者が 〉
〈 錦えもん…分かりましたお願いしますね 〉
〈 はっ! お任せあれ! 〉
電伝虫でかけてきたのはおでんではなくトキだったことに驚いたジョーだったが顔が引き締まった。おでんではなかったと言うことはおでんが掛けられない何かがあったのかと思ったがそうではないらしい。一先ずその事に関してはホッと小さく息を吐き、少し会話をし核心をジョーがつくと話し相手が変わった。トキはその場を離れたのか、しばらく互いに無言が続いていたのだが「拙者、錦えもんと申す」と名を告げた。
『確か…おでんくに言伝してくれた人だね?』
〈 さよう…折り入って貴殿に頼みがあってトキ様にお頼みし繋いで頂いたのだ 〉
『頼み…内容にもよるけど一体何かな?』
〈 おでん様を…助けて頂きたい…!! 〉
『………理由を聞いても?』
〈 先ほどトキ様も言っておられたが、おでん様は長いことずっと何かを隠しておられる…!我々にも何も話しては下さらないのだ…!! このままではおでん様が潰れてしまう…! 〉
『君たちに話さないのに私に話してくれるとは思えないのだけど…』
〈 おでん様はきっと胸の内を誰にも明かしはせん。ならば…その時の為に準備をしておきたいのだ 〉
『…戦いの準備、と言うことでいいのかな?』
〈 そうだ…頼む! 貴殿にしか頼めんのだ!! 来たる日が来るその時…力添えを…!! あの様なお姿…もう見てられん!! 〉
『もちろん力を貸すよ。なんなら今すぐそちらに向かおう』
〈 ま、誠か?! かたじけない…!! 感謝する!! 〉
必死なその様子に心打たれない者がいたら是非会ってみたいと思うくらい、かなり切羽詰まっていた。そんなふうに言われずとも、おでんやその大切な人達のためなら喜んで力を貸すつもりでいたジョー。そのため二つ返事で了承し、これから直ぐにワノ国に向かうことを錦えもんに告げた。
電伝虫越しでもなんとなく伝わるのは錦えもんが土下座でもしていそうな勢いだと言うこと。それだけ必死なのだろ事は分かるのだがジョーには少々「度が過ぎるのでは?」と思ってしまう部分もある。ともあれ通話を終えジョーは早速出かける準備に取り掛かりローブを羽織って剣を腰に下げれば準備万端だ。
あとはロジャーにしばらく出かけて来る事を伝えれば万事OKだと彼は二人の愛の巣へ。雨に打たれながら数十メートル離れたツリーハウスに向かえば中から二人分の気配。ノックしてから「しばらく出かけてくるからここを頼む」と告げるとバタタッとロジャーが顔を出した。
「こんなスコールの中出かけるのか?」
『ちょっと救援要請が入ってね。ワノ国に行って来る』
「は?! 何かあったのか!?」
『いや、今はまだないらしいがいつ如何なるか分からないらしい』
「おでんから連絡が?」
『いいや…おでんくんの家臣の人から頼まれた』
「つーことは…おでんは兄貴に頼る気は元々なかったっつーことだな」
『そう言うことだね。まぁその事はおでんくんとじっくり話すとするよ』
「Σお、おぉ…そうしてくれ…。程々にな…つか俺も行くか?」
『何を言い出すんだ…。ここを頼むって言ったろう? それにルージュさんを一人には出来ない』
「あー…そうだな俺は残る。おでんの事は兄貴に任せるぜ」
『言われなくても』
そう言って彼は翻しヒョイっとツリーハウスを降りてウマヘビがいる方へと足を向けた。ロジャーは兄が見えなくなるまで見届けたのだが嫌な胸騒ぎがして仕方がなかった。自分が行けない以上何がどうなるかなどジョーが帰ってきてからでないと知る術はない。ただ何事もなく誰も怪我することなく無事に帰ってきて欲しいと思うのだった。
そんなロジャーの心境など知らぬジョーはスコールのせいでかなり唸っている海に向かって「ピュイー」と口笛を吹く。すると、こんな悪天候の中でもしっかりと聞き取ったらしいウマヘビが波に揺られながら出てきた。
『こんな天気の中悪いのだけどワノ国に行きたい! 手伝ってくれるか!』
「ブルヒヒン!!」
『いつもすまないな。本当に助かるよ!』
「ヒヒン♪」
『なんだか今日は機嫌がいいな…? もしかしてこの波が楽しいのか?』
「ヒヒン! ブルブル!」
『そうか。なら楽しみながら進んでくれて構わないよ!』
「ブルルルヒヒン!!」
安定のウマヘビの頭の上に乗り進んでいくのだが随分と機嫌が良さげでジョーは首を傾げた。どうやらウマヘビ的にはこの大きく唸る波が好きらしく楽しいらしい。人からすれば酔いそうな勢いなのだが海王類となると逆に楽しくなるのかとジョーは思った。
ともあれウマヘビの協力なくしてワノ国に向かうことはできないため一先ず好きなようにさせた。そしてスコールを抜けた後は「超特急で頼む」とジョーが言えばウマヘビは応えるように鳴いてからスピードを上げるのだった。
*
**
***
ジョーがタートル島(命名)を出てから2ヶ月弱経った頃…ようやくワノ国に着く事ができた。流石に前半の海から新世界にあるワノ国まで真っしぐらで出向いたとしてもそれくらい掛かってしまう。なるべく島に立ち寄ったりしないで来た為これでも随分と速いとジョーは思っている。
ウマヘビには近海で待っててもらいジョーはおでんの住んでいる九里にあるおでん城へと向かう。足早に向かえばそう時間もかからず着くことは出来たのだが…どこか閑散としている。新将軍のせいで随分と寂れてしまってはいたが、それでも活気はちゃんとあった。それが今の九里にはないような気がしてジョーは怪訝な顔をしながら目的地へ。
目的地に着くも…そこもまた随分と物静かな感じが漂ってきていた。ここまでくればジョーにも何かがあったんだと直ぐに察する事ができ急いで中へ入り階段を駆け上がる。無礼だとは分かっていたが最上階の襖をスパンと開けばそこにいたのはトキと息子のモモの助、そして日和だけだった。
トキは彼が本当に来てくれたことに心底驚きそしてどこかホッとしてしまう思いだった。モモの助は現在、父とその家臣達に待ち受けている事を理解しているため涙している。これだけ見せられればジョーの中で何かがあったのは確定しトキ達の側に寄り膝をついた。
『一体何があった?いや、何が起ころうとしている?』
「……それは…」
「ち、父上は…父上は…! ゔぅ…っ!!」
「あにうえ…?」
『…分かった。モモの助、男が簡単に涙を見せてはダメだ。心を強く持ちなさい』
「ゔぅぅ…っ…あ゛い…っ…!」
『よし。必ず私が救い出して見せよう。トキさん、場所は?』
「…将軍様のお膝元…花の都です」
『分かった』
ジョーは幼い日和がいる事から敢えて濁すような言い方でトキに場所を聞き立ち上がる。そして屋根に一度登り花の都がどっちの方角なのか確認してから彼は走り出す。モモの助の様子からしておでん達は最悪な状況に陥っているのだと言うのは手に取るように分かった。九里全体が静かだったのも、そのことが原因だったのだろう事はすぐに察せる。
ジョーは手遅れにならないことを祈りながら必死に足を動かし花の都を目指した。
ジョーがひたすら走っている時、死刑囚となり処刑が決定したおでん及び赤鞘九人男は既に刑が実行されていた。油が茹だった大釜の中におでんが浸かり家臣を守るように板を担いでいる。その姿を楽しげに見ているオロチとカイドウ、そして見物として来ている民衆たち。
おでんの提案により一人でも一時間死なずにいたら解放するというそう取り決め今実行しているのだ。オロチもカイドウもそんなもの守る気も何もないのだが…無論そんな事おでんも分かっている。入っただけで一瞬で死んでしまう程の熱さのはずなのだが、おでんは常人離れした肉体で耐えている。あと数分か数十分か…かなり長く感じるのだが、それでもおでんは弱音も吐かずただ耐え続けた。
油に浸かる事なくただ上にいるだけの家臣達はそんなおでんを見て涙を流すことしか出来ずにいた。守るべき主人に守られてなんと不甲斐ないことかと誰もが思う中、特に錦えもんは罪悪感で押し潰されそうだった。それはおでん達がカイドウに牙を向ける決意を固めた時のことだ。
「カイドウを討つぞ!!!」
「「「「その言葉ずっと!! お待ち申し上げておりました!!」」」」
「そうと決まれば直ぐに発つ!」
「おでん様! 一つよろしですか!」
「なんだ錦えもん」
「この錦えもん…勝手ながら…あの時の御仁…ジョー殿に協力要請を致しましてございます!」
「何っ?! なぜそのような真似を…!!」
「おでん様を見ていられなかったのです!! あの御仁であればおでん様をと思い…申し訳ありません!!」
「ジョーをこの国の事に関わらすきは一切ない!!」
「しかし!」
「えーい黙らんか! この話は後だ!! ジョーもそう直ぐに着くわけではないだろう!今はカイドウを討つ…!! それだけを考えねば死ぬ事になるぞ!!」
と言う事があったのである。
あの時己はおでんの意志を裏切ったも同然であったが、あの場での咎めはなくカイドウ討伐に向かったのだ。ここで万が一おでんが死んでしまっては一生悔いが残ると錦えもんは胸が締め付けられる思いだった。
釜茹では時間が経てば経つほどに温度が上昇し体に掛かる負担は計り知れない。それでもおでんは耐えていた…くノ一のしのぶが今までのおでんの奇行の誤解を解いている時もずっと。そして事実を知った民衆が駆けつけおでんへの謝罪や感謝の言葉そして応援した。その言葉に家臣達は「調子のいい奴ら」と怒るも、おでん本人は「頑張るぜ!」と素直に受け止める。
そしておでんはその状態で上に乗る家臣達にこの国を開国したいのだと告げた。この国の慣わしを知ったが今日この場で己が死ぬのを悟ったおでんは信のおける家臣達に託す。己の代わりにワノ国を開国して欲しいと。
釜の温度は上がり続けるもおでんは耐え続け、ついに約束の時間…一時間が経とうとしていた。その事に民衆は期待に希望に溢れた顔を見せるが後一秒と言うところでオロチが蛮行を働く。なんと「銃殺の刑に変える」と言い出し確実におでんを殺そうとしたのである。
それを聞いたおでんは上に乗っている家臣達に、もう一度「ワノ国を開国せよ!」と言い放り投げた。家臣達は涙を流しながらおでんの言葉を胸に九里へとひた走る…誰も振り返ることなく必死に。
一人残ったおでんは釜の中で最後の姿を見せていた。
「俺は一献の酒の御伽になればよし! 煮えてなんぼのォ~…」
――― ドンッ!!
一つの銃声がこだました。
ジョーが必死に足を動かし花の都を目指しようやく着いた時、九人の侍達が散り散りに走って行くところだった。
一体何が起こっているのか判断できないジョーであったが大釜の中におでんがいる事に気づく。明らかに人が入っていられる様なものではないのが湯気の量やおでんの様子から伺えた。すでに刑は執行されていたのだと知ったジョーはギリっと歯を食いしばりながら更にスピードを早める。
おでんへと銃を向けている男が何か話した後ジョーの耳におでんの声が届く。
「一献の酒の御伽になればよし! 煮えてなんぼのォ~…」
――― ドンッ!!
おでんの言葉が全て語られる前に銃声が響き、おでんの額にそれは当たった。またしてもそんな場面を見てしまったジョーは地面が抉れるほど強く踏み込み釜を蹴り倒しながら釜の中に倒れてしまいそうだったおでんをすんでの所で抱え上げ茹釜から距離をとった。
突然現れた見知らぬ者にオロチは勿論のこと撃った張本人のカイドウも驚いていた。まさかこの国の民にそんな事できる者がいようとは微塵も思っていないカイドウは直ぐに余所者だと分かる。何より服装からしてワノ国の者ではないのだとすぐに分かるのだが。
ジョーは下半身が見るに堪えない有様になってしまっているおでんを見て覇気が漏れそうになるのを必死に耐えた。今ここで戦っていても意味はないし何より優先すべきはおでんだとジョーは怒りを必死に抑えた。そんな中、突然現れたジョーに怒鳴り散らしたのはオロチだった。
「なんだ貴様は!!」
『………………』
「俺は将軍オロチ様だぞ!! 答えろ!!」
『……いつの日かお前達は思い知る事になる』
「は…何を言って…わけ分からんことを抜かすな!!」
「…………………」
『彼が死んでも彼の意志は消えない。その意志は受け継がれていく』
「ウォロロロロロ! お前が受け継ぐってのか?」
『違う…お前達を倒す誰かだ』
「面白ェ事を抜かしやがる。が、お前もここで死ぬ」
そう言いながらカイドウはジョーに銃口を向け引き金に指をかけ引いた…否、引こうとした。その前にカイドウとオロチが座っていた場所がなんの前触れもなく突然崩れたのである。ガラガラと大きな音を立てながら崩れていく中、ジョーはそちらを見る事すらなく民衆に紛れ消えていく。
民衆的にも突然現れた謎の男だったが、あの釜の中からおでんを助けてくれた人と言う印象である。そのため彼の進む道を開けてくれておりとてもスムーズにジョーも先へ進むことができた。だが民衆の周りを取り囲んでいたカイドウとオロチの部下がそれを阻むように立ち塞がる。
それを一瞥してからジョーは前方にいる敵だけに覇気を向け気絶させた。ビリビリっと肌を刺すモノを感じた民衆と「覇王色の覇気」を感じ取ったカイドウの捉え方は別物。民衆は救世主現ると思うもカイドウにとっては厄介な人物という風にインプットされたのだった。
体の大きなおでんを担ぎながら走り続けるのは少々骨が折れるがジョーに休むという選択肢はなかった。優先されるべきはおでん、その次に彼の家族、そしてこの国の民衆と言うようにジョーの中で割り振られている。
『全く私の周りは馬鹿ばかりか…! こんな無茶を…!』
そうボヤきたくなるほどジョーの周りで死ぬ人が多いと思ってしまうのだ。ロジャーを始め、弟の妻であるルージュに続いておでんときた。いい加減にしろと声を大にして言いたい思いだった。
ひたすらに走り続け追ってが来ていない事を確認してからジョーは一度足を止める。そして担いでいたおでんをソッと地面に下ろしてその様子を見る。まぁ見るまでもなく額に撃ち込まれた弾で絶命してしまっているのだが笑顔のままの姿にジョーはロジャーの時を彷彿とさせられた。
その為再度「このバカ共どうしようか…」と思いながら、おでんの体に触れて能力を使う。そうすれば撃たれた額も熱々の油で爛れてしまった下半身も元通りに戻る。その後「
おでんが絶命してから時間がたっていない事から死後硬直やらなんやらは起こっていない。その為見た目の変化はほとんど見られはしないが確かに胸が上下しだし首筋に手を当てれば脈も取れる。それを確認してからおでんを再度担ぎ上げウマヘビが待っている海岸まで走るのだった。
自分より大きな人を担ぎながら走るのはどうしても遅くなり行きより帰りの方が圧倒的に時間が掛かってしまったそれでも追ってが来ない事から敵を撒けたようではあり一先ず安堵の息を溢す。
ウマヘビを待たせている海岸に辿り着けばずっと顔を出していたのか沖の方から近付いて来る。
『ウマヘビすまないが暫くおでんくんを匿って置いておくれ! 私にはまだやる事がある!』
「ヒヒン? ブルルル!」
『頼むよ。絶対飲み込むんじゃないぞ?』
「フンフン!」
ジョーはおでんが見つからないようにウマヘビの口の中に隠す事にし下す。再三ウマヘビに「飲み込むなよ?」と釘を刺してからジョーは黒煙が上がっている方へ足を向ける。
以前おでんから聞いていた話では、あんな物々しい物があるなど想像もしなかった。実際まだおでんが旅に出ずワノ国に居たころはあんな物なかったに違いない。十中八九、将軍の座に就いた男とバックにいるカイドウとで作り上げたのだと分かる。おでんが自慢気に話していた美しい国がバカ共の所為で地獄へと変わっているのが故郷でもないのにジョーは腹立たしくて仕方なかった。
その為、奴らが作ったであろう物を破壊しようと考えジョーはそこに向かっているのである。
森を抜け街を抜けて行けばようやく辿り着いたそこは近くから見ると更に物々しい。この国に似つかわしくないそれにキュッと眉間にシワを寄せたジョーは労働が行われている場所へ降り立つ。突然現れた謎の人物にカイドウの手下は勿論、強制労働を強いられていた者達も驚く。
「何者だテメェ!」
「どっから入って来やがった?!」
「カイドウさんに報告しろ!」
『それは困るな。出来るだけ面倒事は避けたいんだ……
ジョーは地に手をついて能力を使うと彼に敵意ある者だけがバタバタと膝から頽れていく。それを見ていた強制労働者達も初めこそ驚いていたがカイドウの手下が倒れた事に喜んだ。「ありがとう」やら「助かった」など様々な声が飛ぶが、これは一時的な措置にしか過ぎない。おでんが不在となるこの国がこれから地獄へと化すのは想像に難しくない事である。
カイドウやオロチをこの時点で倒せれば良いのだろうが残念ながら今の彼にそれをするだけの余裕がない。再三言うようだがジョーの中で優先されるはおでんの身の安全なのだから。だからこそ奴らの邪魔をしてやろうとこの場にやって来てここを破壊する事にしたのだ。
ジョーはカイドウの手下が無力化された事を確認してから煙突が立っている岩場へ向かう。ジョーの行動一つ一つが気になる労働者はそんな彼の後ろ姿を見守っている。
『こんな物この国には必要ないよな、おでんくん……
煙突のある岩に手を触れてそうジョーが口にすると彼の中から負のエネルギーが放出される。そのエネルギーが多ければ多いほど威力が増し物凄い爆発を引き起こす。
負のエネルギーはジョーが能力で「無力化」または「回復」「蘇生」などしたモノで己の内に溜まる事で生じるエネルギーである。何より一番負のエネルギーが溜まるのは
その為今回彼は溜めに溜めた負のエネルギー全てをこの場を破壊するのに利用した。その結果一つの煙突岩に留まらず連鎖するように次々と爆破が起こっていく。労働者たちは破壊されていく工場を目に涙をためながら見ていた。
ただそんな大規模な爆発が起こればカイドウが気付かないわけもない。カイドウはおでん亡き今、光月家の跡取りはモモの助だけの為息子を始末しに燃え盛る屋城へ来ていた。轟々と燃える中モモの助の首を掴んでいた時だった…物凄い爆音と共に工場が崩れ落ちるのは。
最上階の屋根上にいたカイドウにもそれがよく見え彼の額にビキビキと青筋が浮かぶ。己の手で殺すまでもないと掴んでいたモモの助を室内へ投げ入れてカイドウは龍へと姿を変え工場の方へ向かった。しかしカイドウがそこに着いた時には己の手下がその場に転がっているだけ。それを見たカイドウは怒りの咆哮をあげたのだった。
その頃ジョーは工場から先程までカイドウの居た九里へと足を向けていた。
おでんが処刑された今、必ずその家族であるトキやモモの助達にも牙が向くだろうと向かっているのだ。ジョーが九里にたどり着いた時にはすでに放たれた炎が轟々と燃え広がっていた。それを見たジョーは「手回しの早い」と独りごちながら、ひたすらに目的地へ走っていた。
そんな時…
「月は夜明けを知らぬ君 叶わばその一念は二十年を編む月夜に九つの影落とし まばゆき夜明けを知る君と成る」
と何処からかトキの声が聞こえたかと思えばその声を掻き消す様に響く銃声。
「きゃー!」やら「トキ様!」などと言う民衆の声も響く中ジョーが目を凝らすのは銃声のした方だ。銃を構えている男を見つけたジョーはその男の元へ行き覇気を込めた拳で思い切り殴り飛ばす。男達が完全に伸びているのを確認してからジョーは直ぐにトキの元へ駆け寄った。トキは即死ではないものの急所を撃たれておりこのままでは死は明らかだった。
民衆は突然やってきた怪しい男からトキを守ろうとするがジョーはそんな人たちを押し除け彼女の傍に膝をつく。
『トキさん! 聞こえるか?!』
「ハッ…ハッ…ジョー……さん…」
『そうだ! 今君を助けー…』
「この…傷では数分も保ちません…私もおでんさんの所に…」
『……トキさん言った筈だよ。必ずおでんくんを助けると』
「 ! ですが…早馬で、訃報を…!」
『大丈夫。私を信じて欲しい』
「っ…はい…」
トキの顔に生きる希望が見えたのを確認したジョーは彼女の体に手を当て
突然の事に驚くトキと連れ去る気だと察した民衆がジョーの前に立ちはだかる。
「トキ様をどうする気だ!!」
『私の元で匿う』
「お前もあの海賊の手下ではないのか?!」
『もしそうならトキさんを助ける事はしない』
「 ! た、確かに…だが…!」
「皆さんこの方は心配いりません! おでんさんのご友人ですから」
「 !! おでん様の…っ俺たちはおでん様を信じきれず…!!」
『なら…この先信じて欲しい』
「一体何を…!」
『おでんくんがしようとしていた事、そして彼の意志を継いだ者が必ずいるという事を。その者が現れる時この国は必ず救われるだろう。それまでどうか耐え切って欲しい。おでんくんの為にも』
そうジョーが真っ直ぐに民衆達に伝えると涙を流していた彼らはグイッと涙を拭い力強い瞳を宿し頷いた。それを見てからジョーはトキが生きていると知れればまた狙われるだろう事から己の元で匿うと言う。その言葉に今度は何も文句を言うこともなく民衆達はジョーに頭を下げて「トキ様をお願いします」と言った。彼は深く頷くとそれ以上何か言うこともなく、その場を足早に立ち去る。
トキは先程のジョーの言葉に少なからず驚いていた。
まるでおでんが書き残した手紙の内容を知っているのではと聞きたく成るほど的確な言葉だった。二十年後の未来に現れるだろう巨大な勢力…その時の為にトキも能力を使ったのだから。そんな事をトキが考えているとジョーが「ところで」と前置きをして話しかける。
『トキさん一人かい? モモの助くんと日和ちゃんは?』
「日和は河松に預けモモの助は錦えもんとカン十郎と共に二十年後の未来へ飛ばしました」
『え…未来? モモの助くん未来へ行ったのか?』
「はい…それがおでんさんの意思でしたから…」
『そうか…君も能力者だったんだね』
「そう言うジョーさんも…治癒系の能力ですか?」
『治癒…とは少し違うね。私の場合は元に戻しているだけだから』
「元に戻す…?」
『そう。例えば怪我した所を怪我の無かった状態に戻す…と言えば分かりやすいかな?』
「 ! なるほど…それで私の銃創も元に戻ったのですね」
『うんそう言う事だ。一先ずモモの助くんたちの心配がないのなら急ぐよ』
「はい」
二人の子供達の心配がいらないと分かったジョーは早々にワノ国から出て行きたい思いだった。ここに居てはいつカイドウに見つかるか分かったものではないし見つかれば戦闘は避けられないだろう。今のジョーに戦闘の意思はない為、見つかる前にここを出て二人を今の所安全なタートル島へ匿いたいのだ。
この後は特に話す事もなくひたすらに走り続ければウマヘビはおでんを託した状態のまま待っていた。口に入れた状態で動けば誤って飲み込んでしまうかもしれないと言うウマヘビなりの配慮だった。トキは海岸に海王類が待ち受けている事に心底驚き困惑している様である。
『ずっとそこで待っていたのか?』
「フン! フフン!」
『そうか。ともあれ助かったよ』
「あ、あの…あの海王類は一体…」
『あぁ私の友達でね。ここまで連れて来てもらったんだよ』
「え、あ…友達…そうなんですか…」
『ははっ驚くのは無理もないけど人懐っこくてね。可愛い所もあるんだ』
そう笑いながら言うジョーにトキも戸惑いながら笑い返すしかない。
「それはいいとして」と前置きをしたジョーは彼女を連れてウマヘビへと近づく。ウマヘビも彼の意図を察しているかの様に海岸へ出来るだけ近づき顔を浜へ乗せた。そしてその状態のままカパッと口を開ければ中に寝かされているおでんの姿。そんなおでんを見たトキは口元に手をやり目には大粒の涙が溢れている。
「おでんさんっ…!!」
そう言ってトキはウマヘビの口の中と言うのも気にせずおでんに駆け寄った。何の躊躇いもなくウマヘビの口の中へ入ろうとしているのだが忘れがちだがウマヘビは大型海王類である。体を鍛えている者であれば簡単に入れるだろうがトキはか弱い女性でありそうはいかない。しかも着物という普通の服よりも動きづらい物を身に纏っているのだから余計だろう。
中々入れないのを見兼ねたジョーが後ろから持ち上げて中に入れてあげた。突然の浮遊感に「きゃっ」と小さく声を上げ少々恥ずかしそうにするも彼に礼を言いおでんの傍へ。その様子をしばらく見ていると「見つけたぞォ!!」と言う怒りに満ちた声が上空から響く。
パッと振り返った先には胸元に治っていない大きなバッテンを付けた龍が居た。それが声などで瞬時にカイドウだと察したジョーは「ウマヘビ!」とだけ声を掛けた。するとウマヘビは「ガッテン承知!」と言う様にバクンと口を閉じ海の中へ潜って行く。
それを横目で見届けてから上空にいるカイドウを再度見上げた。
「貴様よくも工場を破壊してくれたなァ!! どれだけの時間と金をかけたと思ってやがる!!」
『知らないし知る気もないよ。そもそも私がやったと言う証拠がどこにあるんだ?』
「シラを切るきか! 今この国にあの工場を破壊出来るのは貴様だけだ!!」
『分からないぞ? 身を潜めた獣がいるかも知れない』
「御託はいい!!貴様はこの俺が殺してやる!!」
『やれやれ穏やかじゃないね。だが一度向き合ったからには仕方ない。受けてたとうじゃないか』
怒り心頭なカイドウに反してジョーは至って冷静であり、それどころか少し挑発するような言い方をする。ジョーは腰に下げている剣に手を添えスラっと抜きブンっと一振りしてからカイドウを睨め付ける。
両者しばらく睨み合っているかと思えば同時に攻撃へと転じた。
カイドウは龍の姿のままであり口を大きく開けたかと思うと「
まさか相殺されるとは思っていなかったカイドウは「アイツは強い」と考えを改めた。
「ウオロロロロ! やるじゃねェか!!」
『そりゃどうも』
「テメェ程の実力を持った男の名が出ねェとはおかしな話しだぜ!!」
『別に私は海賊ってわけでもないからね。出なくて当然だよ』
「あぁ? ならテメェはなんだ…その力普通じゃねェだろう」
『ただの一般人さ。友達思いのね』
「一般人? 友達? くだらねェ!! その死んだ友達のためにテメェは死ぬ事になる!!」
『それはどうかな? そもそも死の定義とは何か君は考えた事があるのか?』
「死は無だ! 死ねばこの世から消えて何もかも無くなる!! それだけだ」
『それは違う。人が本当に死ぬ時は誰からも忘れられた時だ。覚えている人がいる限り死なない。それにさっきも話したろう? 人の意志もまた受け継がれ永遠に生き続けるものだ』
「くだらねェ!!そんなこと言えるのは強い奴だけだ!!」
『その通りだとも。だからこそおでんくんは強い。違うか?』
「あぁ確かにな…アイツは強ェそれは認めるが死ねば全て終いだ! それとも何か? テメェが奴の意志を継ぐってのか!」
『私じゃないもっと相応しい人物がこの先きっと現れる。その時の為にもこの国を存続させないとならない』
「何を言うかと思えば…ウオロロロロ!なら俺を殺すか? 出来ればだがな!!」
『きっと私には出来ない。だが傷をつけることくらいなら…出来る!!』
「―――…!!」
『
「 !? 」
素早く相手の懐へと入り込み覇気を纏わせた剣で重い一閃を浴びせる。その後更に追随しバチバチバチと物凄い音と共に身体中を切り刻みカイドイに深い傷を負わせた。おでんに付けられた傷に重なるように一文字に出来た傷から止めどなく血が流れ流石のカイドウも険しい顔を見せた。
「ぐ…ぅう!! おのれェ…!!」
『流石に効いたろう? まだやるのなら次はその首…おでんくんの代わりに私が貰い受けようか』
「覚えていろ…!! 次会った時はこうはいかんぞ…!!」
『安心しろ…次はない』
カイドウは流石に傷が深すぎるためその場を去って行った。
それを見えなくなるまで見送ってから剣をしまい「ピュイー」と口笛を吹いてウマヘビを呼ぶ。そうすればすぐ様顔を出して近づいて来たかと思えば何も言わずとも口を開いた。中にはかなり困惑しているトキと眠っているおでんがいて「飲み込まれてなくて良かった」と内心思う。
帰ることをウマヘビに伝えてからジョーも口の中に入りウマヘビは再び口を閉じて帰路に着くのだった。
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行きと違い帰りは眠っているおでんと女性であるトキが共にいた事もあり、ある程度休憩を取るようにして進んだ。その時にジョーはおでんの状況を話し、いつ目覚めるかは分からないとトキに伝えてある。トキはただおでんが生きていてくれている事が何より嬉しいようで「何時迄も待ちます」と言った。それを聞いたジョーは「愛されているな」と思うも何となく恥ずかしくてそれを言う事はなかった。
トキからはカイドウが来た時一体どうしたのだと問われジョーは正直に全て話した。カイドウと一戦交え、相手が引かざる得ないほどの傷を負わせたと言った時は心底トキは驚いたものだ。
ワノ国を出るときはウマヘビの口の中にいたが正直長時間いる事は無理なため早々に頭に移動した。ただ新世界の海は何があるか分からないため海が荒れたりなんだりした時は直ぐにウマヘビの口内へ。それが女性であるトキにどんだけシンドイ思いをさせている事かと思うと申し訳ない気持ちでジョーは一杯だ。
その都度謝ってしまうのは本当に申し訳ないと思っているからで、トキも「大丈夫ですよ」と何度も言っている。そんなこんなで魚人島を抜け、ようやっと前半の海に戻って来れたジョーは一先ず安堵の息を吐く。
『やっとここまで来れたね…。後少しの辛抱だよトキさん』
「はい。私は平気です。おでんさんの妻ですもの」
『本当に強い人だ…私もサポートはするから気軽になんでも言ってくれていいからね』
「ありがとうございます…ジョーさん」
ジョーの言葉にトキは笑顔で答えた。
この後は順調に進み、ようやくタートル島が見えて来て「あそこにこれから住むんだよ」とジョーが言う。その言葉にトキは「大きな島ですね」と言うが彼は小さく笑って「あれは亀なんだよ」と伝えた。そんなこと言えば驚くのは当然でトキは口元に手を当てて目を瞬かせていた。
タートル島がハッキリ見えるあたりまで来ると亀助の頭の上に座っているだろうロジャーが見えた。ロジャーもウマヘビの存在に気づいたようでその場で立ち上がり「おーい!」と大きく手を振っている。それにジョーも応えるように立ち上がり手を振ればロジャーは早く来いと手招きしだす。
それを見たらしいウマヘビがスピードを上げたのは言わずもがなだろう。そして亀助の頭の横に着いたところでジョーはおでんを担ぎ上げて亀助の頭の上に移動した。それを見たロジャーは険しい顔に変わり「何があった?」と言いたげな表情だが「話は後だ」とジョーが言う。その言葉に一先ずロジャーも頷くのを見てジョーは再びウマヘビの頭に戻りトキを抱えて戻った。
「おぉ?! お前トキか!?」
「はいロジャーさん。ご無事で何よりです」
「わははははっ! 一回死んでっけどな!」
「ジョーさんから話は伺っております。おでんさんも、救って頂きました」
「 ! ……そうか」
『話はおでんくんを運んでからだ。ロジャー手伝っておくれ』
「おう!」
ロジャーとジョーの二人でおでんを抱えて中心地へと足を向けトキはそんな二人の後を黙ってついて行く。
亀助の頭部に行くための道が出来ており、随分と歩きやすくなったそこを真っ直ぐ進めばすぐに着く目的地。残念ながらツリーハウスはロジャー夫婦とジョーの物しかないため一先ずジョーの使っている家を二人に提供する事に。トキはそれを断ったが「おでんくんを野晒しにして置けない」と言うジョーの言葉で折れた。
そもそも女性にこんな猛獣のいる場所に四六時中居てもらう訳にもいかないのだが。おでんをツリーハウスに寝かせ改めて彼の世話をトキに任せようやくジョーは肩の荷が少し降りた気持ちだ。
今は同じ女性であるルージュがトキをサポートしてくれているためゴール兄弟は大虎を背に腰掛けている。
「それで? 一体ワノ国で何があった?」
『詳しくは私も分からないのだけど着いた時にはカイドウと馬鹿将軍のせいでおでんくんは公開処刑されていた』
「 !! カイドウの野郎…!!」
『茹だった釜の中に入ってたんだけれど…その後何かしらカイドウと話しをしておでんくんは撃たれた。また間に合わなかった』
「だが結果的に兄貴はおでんを連れて帰ってるじゃねェか。それに能力も使ったんだろ?」
『出来る事ならそうなる前に助けたかったよ…』
「そりゃそうだろうがよ…前向きに考えねェと兄貴自身が潰れるぞ」
『――…そうだね。その通りだ…おでんくんを連れ帰れたんだから御の字だね』
「あぁ! そういやモモの助と日和はどうした? 一緒じゃねェのか?」
『トキさん曰く、日和嬢は家臣に預けてモモの助くんは何でも二十年後の未来に飛ばしたらしいよ』
「Σ未来?! トキも能力者だったのか!!」
『らしいよ。だから取り敢えず子供達の心配はないかな』
「ならいいけどよ…おでんはどれ位で目が覚めるか…」
『どうかな…ロジャーで一年だったからそれ位は掛かると思っているよ』
そう思案しながら言うジョーの言葉にロジャーも「そうかもな」と言い頷く。会話にもあったが、おでんを連れて帰れている事が何より良かった事である。しかしながらジョーにはその時に感じた怒りが沸々とぶり返してしまい深く息を吐き出す。それを隣で見ていたロジャーは、あんな目に合わせたカイドウや馬鹿将軍に苛立っているのだと察した。
勿論その二人への怒りは大いにあるが、それと同時にロジャーとおでんへの怒りもジョーにはあるのである。今の状況で己に苛立っているとは思わなかったロジャーは「平気か?」と問う。その問いに対してジョーは「お前が言うか?」と心底言いたげな顔でロジャーを見た。
そんなジョーを見たロジャーは兄の苛立ちが今自分に向いている事に気づいた。
『お前達は私をどうしたいんだ?』
「え…別にどうする気もねェけど…」
『そうか? なら私のこの心労どうにかして欲しいものだね』
「そうさせてんの今回はおでんだろ」
『知っているかい? 心労で死ぬ人間もいるんだよ』
「Σなに?! そうなのか!?」
『いずれ私はお前達に殺されるんじゃないかと思っているよ』
「イヤイヤイヤイ! 流石にそれはねェ…だろ? ねェよな?」
『どうだろうね』
心底疲れたと言うように「はぁ…」と深ーいため息をつくジョーを見たロジャーは想像以上に疲れさせている事に気づく。
それもそうだ…実の弟が公開処刑され、助けたと思いきや中々目を覚まさずヤキモキし。目を覚ましたら覚ましたで今度は己の愛した女を己の代わりに探しに行かせてしまったのだ。そこに来て今度は新世界にあるワノ国へ足を運んだかと思えば、おでんがこの状況である。疲れるのなと言う方が無理な話しであり相当負担をかけていた事を改めて理解したロジャー。
そう思うと途轍もなく申し訳ない気持ちが出てきて年甲斐もなくシュンとし「すまねェ」と謝った。
それを聞いたジョーはキョトンとした顔を見せたかと思えば苦笑いをして「私こそ済まない、意地悪が過ぎたね」と言う。別に意地悪だとかそんなこと思っていないロジャーは何故ジョーが謝るの分からなかった。
「ジョーが謝ることじゃねェだろ…。兄貴の言う通り俺たちは負担をかけ過ぎてる」
『別に嫌々やっている訳じゃないよ。むしろ好きでやっているのだからお前達に当たるのはお門違いさ』
「当たってくれていいぜ。そのくらい兄貴にデケェ負担をかけてんのは俺たちなんだからよ」
『まぁ…おでんくんが目を覚ました時は覚えておくといいよ。みっちりしごいてあげるからね』
「Σはっ!? それはおでんだけにしてくれ!!」
『馬鹿どもには一度解らせる必要があるだろう?』
「馬鹿どもって俺とおでんか?!」
『他に誰がいる? 今は取り敢えずカイドウをぶっ飛ばしてある程度気が晴れているからいい』
「え…カイドウぶっ飛ばしたのか? 兄貴…やるな」
『まぁ傷をつけた程度だけどね。彼は随分と硬い体をしている』
「殺そうとしても殺せねェからなアイツ」
『そうなのか?』
「おう。昔アイツが乗ってた海賊団と戦った時から頑丈な奴だったぜ」
そう随分と昔…己がまだ若手と言われていた時期のことを思い出しているロジャー。初めて聞く話にジョーは「そうなんだ」と興味深そうにロジャーの話に耳を傾けていた。
当時、海を牛耳っていたロックス海賊団には現在名を大きく上げている白ひげやビッグ・マムなども乗っていた。そんな海賊団が天竜人が集まる島を襲撃する事件が発生し、それを目的あって上陸しただけだったが偶々居合わせた為に止めたのが若かりしロジャーとガープだったのだと。
それは「ゴッドバレー事件」と呼ばれているのだが、そんな事件があった事をジョーは知らなかった。
ただ、その話しを聞いてジョーはロジャーが「ガープは信頼できる」と言った意味がようやく分かった気がした。ともに大きな海賊団と戦ったとなると、その時に人となりを知る事もできたのだろう。だからと言って実の息子を海軍に託すのはどうかとジョーは未だに思っているのだが。
そんなこんなで二人はひと時の休息を話しをして過ごすのだった。
( 他にはどんな海賊と戦って来たんだ? )
( そうだなァ…白ひげとは結構やり合ったな! )
( 白ひげ…? )
( Σ白ひげも知らねェのか?! アイツかなり有名だぞ!? )
( ……まぁいいよ。他には? )
( 適当だな…まぁ後はシキくらいか…アイツはイケすかなかった )
( そうか…随分と楽しんだようだね )
( まぁな! )
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