時をかけるジョゼフ

僕にここまでさせるとは
実は今、絶対に来てはいけないサバイバー邸へ忍び込んでいる
時折オフェンスやカウボーイの愉快な声が聞こえて壁に張り付いたり地面に伏せたり自分でも憐れな格好でなんとか隠れている


「ゲーム中の君達の気持ちがわかったよ.....」


占い師と納棺師の部屋が何処かわからず苦戦したが、聞き耳をたててなんとか占い師と納棺師の声が聞こえた時にはホッとひと息ついた
どちらの部屋かは知らないが長い廊下の1番端のこの部屋からふたりの声がする
耳を澄ませるがボソボソと聞こえるだけで内容まではわからない
ただきっと今部屋で心中を試みようとしているのはこれまでの失敗からして明らかだ
なんとかならないかと思っていると急にドアがバンっと開いた


「....ぃっ!」


顔面を派手にぶつけて痛みに呻いていると、開いたドアから納棺師が走って出ていった
僕に気づく様子もなく後から占い師が追いかけていく
あいつらホント今度ゲームで会ったら失血死させてやるからな...
顔は痛むがせっかくのチャンスだ、部屋に入りベッドの下に潜り隠れた
部屋には納棺の道具が置いてあったしこの部屋での心中するつもりだろうからきっと戻って来る
息を殺して待っていると案の定占い師と納棺師が戻ってきた


「本当はイライさんは僕なんかと死にたくないんでしょ...!だからそんなこと言うんだ!」
「違うよ、やっぱり死ぬよりも一緒に生きる未来を探そうって言ってるんだ」
「ふたりで死のうって約束したのに!僕に納棺されたいって言ってたのに!」
「ごめん、ごめんね...でも」
「婚約者を捨てて僕なんかを選ぶような人だ、きっとこの先僕も捨てて他の誰かと一緒になるんだ.....そうなれば僕は、、あなたを愛すことも納棺することも出来ずに...僕は...」
「......イソップ君」


納棺師のすすり泣く声がする
その背を撫でているのだろうか、衣服を擦る音もする


「...そうか、そうだね。君に納棺される事で僕の愛が伝わるのならそうしようか...僕はこの先もずっと君を愛してるんだ、遅かれ早かれ共に死ぬんだから約束通り今からふたりで死のう」
「......イライさん、ありがとう」


少しの沈黙の後唾液の絡み合う音が聞こえてくる
このまま最後だからとセックスでも始めるかもしれないなぁと思っているとドサリと床に重いものが転がる音がした


「すいません、さっきイライさんのグラスに薬を入れさせてもらいました」
「あ、....イソップ、君」
「イライさん愛してます、あなただけを愛してます」
「...僕も、愛してる」


床に転がったのは占い師だったのか
またチュッとリップ音がする


「君と.....もっと、話が...やりたいことが...いっぱいあったよ...」
「イライさん....」
「フフッ.....最後は、君の、笑顔が見たいなぁ...」


ああ、そういう事だったのか
一緒に死にたがっていたのは納棺師だったのか
この占い師はそんな納棺師を命を投げ売る程愛してしまったのか
憐れなふたりだ、互いの愛ゆえに懐疑的で自己犠牲的になり悲劇を招いてしまったのだ

細々とした会話も遂になくなり、納棺師の泣き声だけになった
自分で殺しておいて何を泣いているのか、お前もこれから死ぬというのに怖くはないのか
ああ、もう!!!!!


「君達は!重い!」


隠れていたベッドから飛び出ると占い師を抱き泣いていた納棺師がビクッと体を跳ねさせすごい勢いで振り向いた


「っ!?あ、っえ!?」
「何回目だと思ってるんだ!クソッ」


驚く納棺師を置いて部屋を飛び出るとそのまま真っ直ぐハンターの敷地へと急ぎ自室に戻る
他のサバイバー達何人かに見られた気はするが、それも今からまた過去へ戻り全て無かったことにするのだから構わない
部屋に置いたフィルムを漁り、この日最初に試し撮りした景色のフィルム手に取りクルクルと指先で回した
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