時をかけるジョゼフ

占い師が「ありがとう」と声を張り、続けて「これはあなたの気まぐれですですか」と訊ねてくる
知ったセリフに笑ってしまう
さて、次はどうするか


「少し話をしないかい?」


そう言うと困惑気味だったふたりが余計に戸惑っている
それもそうだ、ハンターとサバイバーという立場でお互いろくに会話したことも無ければ仲良くする間柄でもない


「どういうつもりですか?」
「たまには語り合うのもいいじゃないか」
「...、すいませんが時間が無いので」


怪訝そうに言われる
時間が無いって、死に支度の時間かい?
ここで逃せばきっと何も変わらない
ああ、仕方がない
この僕にここまでさせるんだ有難く思え
なんとか引き止めるため意を決し、池の向こう側に思っいっきりカメラを投げた


「ちゃんと受け止めろよ!壊したらただじゃおかないからな!」
「「えええええっ!?」」


ふたりであわあわ情けない格好をしながらもなんとか地面スレスレで受け止めてくれた
危ない、危ない、、、自分でやった事なのに心臓が爆発するかと思ったじゃないか
衰えたが僕の遠投力も捨てたものじゃないな


「何してるんだ!ビックリしただろ!」
「そうですよ!」
「そのカメラを持ってそこで待ってて、お茶とお菓子を持ってくるから」


池の向こうでガヤガヤ非難の声がするが構わずハンター邸へと歩く
今日の夜のゲームには僕も彼らも呼ばれないはずだから、時間をかけてゆっくりお茶を淹れお菓子を持ち池へと戻った
思った通り池にはふたり揃って待ってくれていた
律儀だなぁ.....その真面目さが仇なのかもしれないね
池の外周をぐるりと周り、1度も踏み入れた事の無いサバイバーの領域に入る


「わお、ちゃんと待っててくれたんだ」
「.....自分で言っておいてそれはないでしょう」
「ハハッごめんごめん、さぁお茶にしよう」
「カメラは返しますから。僕達は用事があるので、これで」
「そう言わずに、ほら」


池の前のベンチに腰掛けバスケットからティーポットとクッキーを取り出す


「夜眠れなくなるといけないからカモミールティーにしたんだ、ふたりとも甘いものは好きかい?」
「......イライさんは甘いもの好きです」
「ちょっとイソップ君、」
「フフッなら良かった、沢山持ってきたから遠慮せずに食べるといい」


僕の呑気な様子を見て諦めたのか、躊躇いながらもふたり並んで座りカモミールを啜った


「美味しいかい?」
「写真を撮ったりお茶したり...あなたの考えていることはよくわかりませんね」
「ああ、僕も僕に驚いてるからそう思うのも無理はないね」


警戒心丸出しの占い師にフッと笑ってしまう
納棺師はどこかボーッとして心ここに在らずな感じだ
察するに口のまわる占い師が心中を納棺師に持ちかけたのだろう、それなら占い師に思いとどまるよう説得できれば僕の勝ちだ


「君達付き合ってるの?」


急な核心をつく質問に占い師だけじゃなく、ボーッとしていた納棺師も驚いたように背がピンと伸びた


「さっきキスしてたから」
「.....盗み見なんて悪趣味ですね」
「見るつもりなんて無かったけど君達があんなところでするから」
「...ええ、あなたの言う通り僕達は恋仲です」
「君には婚約者がいると聞いたけど?」
「婚約者を裏切った僕が悪いんです.....責めたり言いふらすつもりなら彼は悪くないので僕を」
「イライさん!」


納棺師が占い師の話を怒ったように遮った
もっとライトに返してくれればいいのに、このふたり想像以上に拗らせてるなぁ.....


「君達のことをとやかく言うつもりはないよ、むしろお似合いじゃないか」
「.....本当にそう思いますか?」
「もちろんだよ。それに婚約者がいるからってそれがどうした?婚約破棄なんてこの世の中腐るほどあるじゃないか!君の婚約者が今他の男といる可能性だってあるんだ、君達は君達の愛を貫けばいいじゃないか」


ね?と笑うと占い師が小さく唸った


「クレイジーだな、あなたは」
「よく言われるよ」
「フフッ、面白いねイソップ君」


占い師がクスクスと笑うと納棺師も目を細めた
ああ、やっと柔らかい顔をしてくれた
そうだよ、君たちは若いんだ
もっと自分達の幸せのためにワガママになればいい
占い師にクッキーを勧めると「じゃあ遠慮なく」とパクパクと何個も食べた
納棺師が言った通り甘いものがお好きのようだ
それからはサバイバー達の普段の様子やハンターのプライベートの話(ほぼハスターについてだった気がする)をした
陽が完全に落ちる前に片付けを済ませ別れようとすると占い師がカメラを指さした


「それで、また僕達を撮ってくれますか?」
「ああ、もちろんだよ」
「ありがとう」


じゃあ、とふたり手を繋いで帰るうしろ姿にそっとシャッターを切る
このフィルムで過去に戻ることのないように
そう願ったがやはり未来は変えられなかった

指先でフィルムをクルクルとまわした
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