ケツ穴確定人狼

ある日、荘園の主により集められた六人の男サバイバー達。
傭兵、占い師、探鉱者、カウボーイ、オフェンス、バッツマン。
六人は別館へと移り、新たなゲームの始まりを告げられるのだった...。

「ケツ穴確定人狼...?」

皆が取り囲むテーブルに置かれた一枚のカード。そこには「ケツ穴確定人狼ゲーム」と書かれていた。ケツ穴と聞いて皆が顔を顰める。カードを捲って確認した僕は、続けて裏面に書かれたルールを読み上げた。

「ケツ穴確定人狼とは、基本的に従来の人狼ゲームとルールは同じです。ただひとつ違うのは、狼は夜の襲撃で対象者のケツ穴を襲撃するという点です」
「ケツ穴を襲撃って...まさかアナルセッ」
「やめろ、みなまで言うな」

ウィリアムが言おうとするのをカヴィンが割り込んで制止する。
おそらくここにいる全員がケツ穴襲撃と聞いてなんとなくは察したはずだ。
よりにもよって男サバイバーばかりを集めてそんなゲームをするなんて、荘園の主は何を考えているのだろう。

「勝利陣営には報酬として何でも欲しいものをひとつ与える...だって」

勝利報酬を聞いても誰ひとりとして喜ばなかった。
突然こんなゲームに参加させられて皆困惑しているのだろう。
口々に文句を言っている。
いよいよ煩くなってきた時、ナワーブがドンッとテーブルを叩いた。

「皆落ち着け、いくら文句を言ったところでオレ達に拒否権はないんだ。今はさっさと終わらせることを考えよう」

ナワーブの言葉にシンと静まりかえる。たしかにナワーブの言う通りだ。皆も落ち着きを取り戻し、まずはゲームに従うことに決まった。ひとまずナワーブがその場を仕切る。

「イライ、カードには他に何か書かれているか?」
「えっと...役職の振り分けが書かれているよ。人狼、狂人、占い師、騎士がそれぞれ一人で村人が二人。役職は各自ポケットのカードを確認しろって...」

そう言うと皆は一斉に自分の衣服を調べ始めた。僕もローブにつけたポシェットを探ると、見覚えのないカードがあった。人に見られないように確認すると、カードには「狂人」と書かれていた。狂人とは村人と人狼どっち側の役職だっただろう?前に誰かに聞いたはずだが忘れてしまった。

「僕はポシェットにカードが入れられていたよ」
「オレもリストバンドの内側にあった」
「オレは腹巻の中だ」

それぞれがカードを見つけ、いよいよ緊張した空気が流れる。きっともうゲームは始まっているのた。この中に一人人狼がいる。ナワーブは皆の表情に変化がないか目を光らせていた。

「カードは決して人に見せてはいけません。これから毎日夜の九時に投票を行って疑わしい者を吊っていき、村人は人狼の排除を目指します。人狼は毎晩村人のケツ穴を襲撃して脱落させ勝利を目指します。ゲーム終了まで皆様にはこの館で暮らしていただきます...書かれているのはこれで全部だ」

続きを読み終えると、ふと手で押えていたカード下部に注意書きが書かれていたのに気付く。だが説明を聞き終えたナワーブは意見のある人は挙手をするようすぐに指示を出してしまった。まぁ特に重要なでもないから言わなくても大丈夫かな。真っ先に手を挙げカヴィンが発言するのを黙って聞くことにした。

「ルールはわかった、でも初日の今日は何も判断材料がないがどうする?投票で選ばれた奴がどうなるのかも気になるな」
「死にはしないんじゃない?」
「ノートン、発言する時は挙手だ」

ナワーブが割り込んで話したノートンを咎める。
ノートンは渋々手を挙げると、淡々この状況を話し始めた。

「皆よく思い出して、これはケツ穴確定人狼だよ?狼がケツ穴を犯して脱落させるなら、投票で脱落する人も同じような目に遭うのが普通じゃない?」
「同じ目に遭うって...?」
「うーん、公開ケツ穴処女喪失とか。狼陣営も負けたらケツ穴確定だろうね」

悪気はないだろうが、ノートンの言葉にサーッと全員血の気が引いた。間違っても初日から醜態を晒すのは嫌だな。それに負けないようにも頑張らないと。
不安がる皆を励ますようにナワーブが手を挙げる。

「今日は票を分散させよう、同数投票が続けば誰も吊られないはずだ。間違えて騎士を吊ってしまった時のリスクも大きすぎる」
「そ、そうだね!それがいいと思う!」
「オレも同意見だ!」

良かった、吊りを回避することもできるのか。これで初日から誰も辱めを受ける危険はなくなった。隣に座るウィリアムもわかりやすくホッと胸を撫で下ろしている。

「それでこれはオレの提案なんだが、占い師はまだ潜伏しておいた方が」
「まっ待って、その前にひとつ教えて欲しいことがあるんだけど...」
「なんだ?」

ナワーブは皆の反応を見て話を続けようとしたが、慌てて手を挙げ遮った。ゲーム云々の前に聞いておかなきゃいけない。

「狂人って人狼側だっけ?村人側だっけ?」

そう言うと、ナワーブがギョッと目を見開いた。張り詰めていた空気も一気に崩れ、ノートンがクスッと鼻で笑う。

「狂人は人狼側だよイライさん、相変わらず天然で可愛いね」
「イライお前...狂人なのか?」
「えっ、いや違うよっ!ルールとして知らないから教えてもらわなきゃって、ほらこの目を見て、僕が狂人なわけないじゃないか」
「自分がアイカバー付けてるのも忘れて、そんなに焦らなくても大丈夫だよ」

やってしまった、これじゃ自分が狂人だと言っているようなものだ。しかも人狼陣営だったなんて。今日は誰も吊らない予定だったのに、きっと人狼の味方の僕を吊る流れになるだろう。僕のお尻と人権にさよならだ。

「まさかイライが狂人なんて...」
「それでどうする?今日はイライを吊るのか?」
「いや、僕にいい考えがある。思いついたんだよ、このゲームの必勝法をね」

ナワーブは驚き戸惑い、ウィリアムは僕に投票するのを少し躊躇っている。
するとノートンは必勝法と言ってまた注目を集めた。一体何を思いついたのだろう。まず僕のケツ穴確定は免れないだろうが、僕のせいで不利になってしまった狼はせめて勝って欲しい。

「これから毎日投票は行わず、占い師の結果だけで狼を見つける。その間騎士はイライさんだけを護り続けて」

騎士が僕を護る...?狂人の僕を護っても何の利益もないのにどうしてだろうか。占い師をカミングアウトさせて護る方がよっぽど村人のためだ。まさかノートンが狼なのか?
当然僕と同じ疑問を持ったガンジが手を挙げて意見する。

「わざわざ狂人のイライを護るのは何故だ?占い師を護衛するのが最優先だろ」
「フフッまだ気付いてないんだね、これはただの人狼じゃないんだよ」
「なんだと」
「よく考えてみなよ、もし自分が狼だとしたらこの六人の中で誰のケツ穴を襲撃する?」

ガンジや皆はそれを聞いて雷にでも打たれたような衝撃が走る。当の僕は話についていけてない。

「ケツ穴を襲撃される村人もそうだけど、むさい男のケツを襲撃する狼も同様にダメージがでかいのさ。そう考えると狼は可愛いイライさんを襲う可能性が高い。仮にイライさんが狂人じゃなくて村人だった場合にも護っていればケアできるってわけ」
「でももしイライが狼だったら?」
「フフッ非力なイライさんがここにいる連中を押し倒せると思う?これは心理戦と肉体戦を合わせたゲームなんだよ」

なるほど、狼にケツ穴を襲撃されたとしても腕力で抵抗すればいいということか。...ん?ていうか今ノートンにすごく失礼なことを言われた気がするんだけど気のせいかな。

「...わかった、お前の案に乗ろう」
「皆もそれでいいかい?」

ノートンの提案に皆が頷く。僕が村人陣営だったら個人的にこの作戦はどうかと思うが、狼を応援する身としては好都合だ。これで今夜は僕以外の全員が襲撃し放題になった。運良く占い師を襲撃することができれば一気に人狼優位になる。

「じゃあ今夜の投票をはじめるぞ、全員右隣を指させ」

九時になり、ナワーブが投票の合図をすると皆一斉に右隣の人に投票した。ほぼ狂人だとバレていた僕は本当に吊られなかった。

「消灯は一時間後だ、皆健闘を祈る」

投票が終わると各自に用意された個室へ移動した。部屋は横並びで、扉にはそれぞれのネームプレートが掛けられている。

「いいかお前ら!オレはウンコしてから寝るからな!しかも下痢ピーのびちゃびちゃウンコだぞ!くっせえし汚いんだからな!」

ウィリアムが部屋に入る前に大声で何度もウンコを連呼した。するとつられたようにカヴィンも声を上げる。

「奇遇だな!僕も今朝から腹が痛いんだ!こんな日は風呂も入らず寝ちまおうかなぁ、そうだ決めたここにいる間僕は風呂に入らないぞ」

...皆襲われないために必死なんだ。僕は今夜は騎士に護られているからその心配がなくて良かった。
それにしても明日からどうしよう。狂人とバレたからにはいつ吊られてもおかしくないし、狼の手助けをするのも難しい。どうにか僕以外の誰かを真の狂人に仕立てあげて村人になれればいいのだけど。負ければ何をされるかわかったもんじゃない。

「僕って顔に出やすいからなぁ」

久しぶりに相棒のポッポちゃんがいない夜は寂しく感じた。


→next
1/2ページ
スキ