花の病
「なぁイライ、ここまで気をつかわなくていいんだぞ」
「だから僕も好きだって言ってるだろう」
「うーん」
【花吐き病〜白銀を吐く〜】
あの告白から夜になると毎晩イライが部屋に来るようになった
一緒にベッドに潜り、寄り添って眠る
朝になれば誰にも気づかれないようにこっそり部屋に戻っていく
イライと一緒にいられるのは嬉しいが、イライへの想いをいつまでもズルズルと引き摺り花を吐き続けるのは正直つらい
「おやすみウィリアム」
「ああ、おやすみ」
イライを抱き、ふわふわの髪を撫で眠りに落ちていく
フクロウも窓際に置いたとまり木で羽を休めた
イライは優しいからオレの病が治るように両想いだと言ってくれるが、一度告白を拒まれたのだから両想いじゃないことは明らかだ
今もオレの腕の中で婚約者のことを想っているのだろう
「ウィリアム...僕本当に君が好きだよ」
「んぅー」
「どうしたら伝わるのかな」
今日もゲームで走り回り、疲れの溜まった体はもう半分夢の中だ
イライが話すのに相槌を打つのが精一杯で、気づけば完全に夢の中に落ちていた
***
一度だけイライが泣いているのを見たことがある
その日はリッパーとのゲームでオレだけ失血死させられた
オレは失血死なんて慣れていたが、イライは失血死を見るのはそれが初めてだったらしい
隙を見て治療に来たが間に合わず死んでいったことに酷く取り乱し、ゲームから戻ってもなかなかオレの傍を離れようとはしなかった
普段からハンターにヘイトを買っているから仕方ないと言って励ましたらイライが突然泣き出してしまったのだ
結局何も言わずに勝手に泣き止んで翌日にはケロッとしていたのだが、イライがオレのために泣いてくれたのが少し嬉しかった
オレは昔から涙とは無縁の屈強なキャラだったから、ここでハンターにどれだけ痛めつけられようと歯を食いしばり涙は我慢してきた
だがオレだって人間だ、怖い時もある
だから素直に人のために涙を流すイライに救われた
イライが泣かなくていいように、強くなりたいとも思った
...その時にはもうイライに恋していたのかもしれない
「ハァ....っ」
急な息苦しさに目を覚ました
口の中にフワリと花の匂いが充満し、花弁が顎を擽る感覚に目を見開く
大量の花びらがシーツに散らばり、抱きしめたイライの頬にも数枚落ちている
恐れていたことが起こってしまった
はじめは吐き気に気をつけていたが、病とイライとの時間に慣れて油断していた
冷や汗がダラダラと溢れて止まらない
イライに花吐き病を伝染してしまった、婚約者と結ばれないイライにだけは決して伝染してはいいのに
「イ、イライ...起きてくれ」
「大丈夫だよウィリアム、ずっと起きいてるから」
「花が...お前にっ」
イライが目を開き、血の気の引いたオレの頬を両手で包んだ
「そんな顔をしないで、花に触れても僕達は両想いだから大丈夫だよ」
「そんな嘘つかなくていい...お願いだ、もうオレのために嘘はつかないでくれ、今も婚約者が忘れられないのはわかってるんだ」
「嘘じゃないよ、僕...は、.....っかは」
咳き込んだイライの口から花が舞った
その光景にくしゃっと顔が歪む
イライにこんな病を背負わせなくなかったのに、優しさに甘えたせいだ
顔も知らない婚約者のために吐き出された花はどれも美しい色をしていて、オレへの言葉は全て優しさだったのだと思い知りグサグサ心に突き刺さった
「ねぇ信じてウィリアム...じゃなきゃ僕も苦しいよ」
イライを突っぱね、ベッドから降りて距離をとる
この病は思い込みで治るものではない
両想いだと思い込んだところで一方通行のオレたちはずっと花を吐き続けるのだ
ハァハァと息を切らし動転する頭を抱えると、イライが俯きぐすっと鼻を鳴らした
「僕の言葉はそんなに嘘くさいかい?彼女が大切だと言いながら君を好きなった僕は、君の好きな僕じゃない?...僕はっ、どうしたらいい、どうして伝わらないんだっ」
イライが嗚咽を漏らし、時折花を苦しそうに吐き出す
それを見てオレも同じように花を嘔吐した
吐き出した花がシーツの上で交わると、イライが大切そうにシーツごと花を抱きしめて涙を流す
「君に否定されるとつらいよ、僕への告白もキスも全て勘違いだったんじゃないかって...この花も僕じゃない誰かのために生まれたのかもしれないって...不安になる」
「......イライ」
ベッドに座り、声を殺して泣くイライを抱きしめる
涙で濡れたアイカバーを取ると顔を見せないように胸に顔を埋めきつく抱き返された
病を伝染したことよりもオレのせいでイライを泣かせてしまったことに酷い罪悪感を感じ、どうか早く泣き止んでくれないかと背を摩る
「悪かった、お願いだから泣かないでくれ」
「...ウィリアムのせいだよ」
やっと顔を上げたイライがオレの頬にチュッと小鳥のようなキスをした
黙っているとまたキスをされ、額や鼻先にもチュッチュッと音を立ててじゃれるようなキスを繰り返す
「おいっなんだ急にっ」
身を捩り顔を背けるとイライがピタッとやめてしまう
「嫌だよね」
しゅんと肩を落としまた涙を浮かべるイライにンンンっと唸る
そんな可哀想な反応されたらたまったもんじゃない
「ガキじゃないんだから口にしろよ」
「...いいの?」
「イライがいいならしてくれ」
目を閉じて顔を向けると、柄にもなく緊張して固く結んだ唇がプルプルと震えた
近づくイライの息が顔に当たり更に緊張する
いくら待っても唇には何も触れず、かなり焦らされ目を薄ら開けると真っ赤な顔をしたイライがやっとキスをした
鼻が当たりうまく馴染まない唇にフッと笑うとイライもつられてククッと笑う
「フフっ笑わないでよ」
「そう言ってもな」
イライの髪を指で梳かし、小さい唇に触れるだけのキスをした
「イライが好きだ」
「うん」
「お前もオレと同じ気持ちだよな」
「...ああ!」
パァッと明るい顔をしたイライが目を細め嬉しそうに笑う
気持ちを疑っている間ずっと憂鬱な表情だったのがこうして晴れやかに笑うのを見て、もう勘違いでもなんでも良いと思えた
今イライの傍にいるのはオレだ、両想いじゃなくてもいつか振り向いてもらえるように頑張ればいい
「愛してるよウィリアム」
イライが両手で口元を覆うと、その手に百合の花が乗っていた
暗闇できらきらと輝くそれはとても綺麗で、エミリーの言っていた白銀の百合だとすぐにわかった
イライの花を手に取り、イライの好きな相手が本当にオレだったことに身体中が歓喜しうち震える
「オウ...エッ」
猛烈な吐き気に汚い嗚咽を漏らすとパサッと白銀の百合がシーツに落ちた
イライがオレの吐き出した百合を拾い、羽ばたき肩に止まったフクロウと一緒にそれを眺める
「綺麗だね」
「お前のと変わらないだろ」
月明かりに照らし、じっと眺めた後何を思ったのかイライが百合をパクッと口に入れてしまった
「あっこら!そんなもん食うなよ」
「だって花はいつか枯れてしまうだろう?せっかく僕のために生まれてきたのにもったいないから」
「えー...」
これにはフクロウも若干引いている
でも確かにこの綺麗な花が枯れるのは見たくはない
持っていたイライの百合を恐る恐る口に入れ、ギリっと噛むと思ったより苦くてペッと吐き出す
「まっず...!」
「あははっそりゃ美味しくはないけど傷付くなぁ」
フクロウが怒って嘴でオレの髭をブチブチ引っ張りつついた
「痛っ、悪い悪い!許してくれっ」
「ウィリアムの正直なところも嫌いじゃないよ」
イライが花の散らばるベッドに寝てオレの手を引く
やっとフクロウから解放され隣に横になると体をピッタリとひっつけて毛布を手繰り寄せた
「なぁ本当にオレでいいのか?オレはお前が思ってるより卑怯だし男臭くてガサツだしデリカシーもないし下心もあってムッツリでスケベだぞ」
「後半性欲まみれだけど僕はウィリアムが好きだから」
「...オレのどこがそんなにいいんだよ」
「全部かな」
「んー全部かぁ」
「ウィリアムは?僕のどこが好き?」
「...全部だなぁ」
「でしょ?」
可笑しくてふたりで笑い合い、満たされた幸福感にうっとり目を閉じた
「明日はふたりでエミリーに花吐き病が治った報告に行こう」
「そうだな」
「......おやすみウィリアム」
「おやすみ」
明日エミリーに報告をして花も片付けたら世話になったナワーブにも礼を言おう
きっと荘園の仲間もオレ達を祝福してくれるはずだ
「だから僕も好きだって言ってるだろう」
「うーん」
【花吐き病〜白銀を吐く〜】
あの告白から夜になると毎晩イライが部屋に来るようになった
一緒にベッドに潜り、寄り添って眠る
朝になれば誰にも気づかれないようにこっそり部屋に戻っていく
イライと一緒にいられるのは嬉しいが、イライへの想いをいつまでもズルズルと引き摺り花を吐き続けるのは正直つらい
「おやすみウィリアム」
「ああ、おやすみ」
イライを抱き、ふわふわの髪を撫で眠りに落ちていく
フクロウも窓際に置いたとまり木で羽を休めた
イライは優しいからオレの病が治るように両想いだと言ってくれるが、一度告白を拒まれたのだから両想いじゃないことは明らかだ
今もオレの腕の中で婚約者のことを想っているのだろう
「ウィリアム...僕本当に君が好きだよ」
「んぅー」
「どうしたら伝わるのかな」
今日もゲームで走り回り、疲れの溜まった体はもう半分夢の中だ
イライが話すのに相槌を打つのが精一杯で、気づけば完全に夢の中に落ちていた
***
一度だけイライが泣いているのを見たことがある
その日はリッパーとのゲームでオレだけ失血死させられた
オレは失血死なんて慣れていたが、イライは失血死を見るのはそれが初めてだったらしい
隙を見て治療に来たが間に合わず死んでいったことに酷く取り乱し、ゲームから戻ってもなかなかオレの傍を離れようとはしなかった
普段からハンターにヘイトを買っているから仕方ないと言って励ましたらイライが突然泣き出してしまったのだ
結局何も言わずに勝手に泣き止んで翌日にはケロッとしていたのだが、イライがオレのために泣いてくれたのが少し嬉しかった
オレは昔から涙とは無縁の屈強なキャラだったから、ここでハンターにどれだけ痛めつけられようと歯を食いしばり涙は我慢してきた
だがオレだって人間だ、怖い時もある
だから素直に人のために涙を流すイライに救われた
イライが泣かなくていいように、強くなりたいとも思った
...その時にはもうイライに恋していたのかもしれない
「ハァ....っ」
急な息苦しさに目を覚ました
口の中にフワリと花の匂いが充満し、花弁が顎を擽る感覚に目を見開く
大量の花びらがシーツに散らばり、抱きしめたイライの頬にも数枚落ちている
恐れていたことが起こってしまった
はじめは吐き気に気をつけていたが、病とイライとの時間に慣れて油断していた
冷や汗がダラダラと溢れて止まらない
イライに花吐き病を伝染してしまった、婚約者と結ばれないイライにだけは決して伝染してはいいのに
「イ、イライ...起きてくれ」
「大丈夫だよウィリアム、ずっと起きいてるから」
「花が...お前にっ」
イライが目を開き、血の気の引いたオレの頬を両手で包んだ
「そんな顔をしないで、花に触れても僕達は両想いだから大丈夫だよ」
「そんな嘘つかなくていい...お願いだ、もうオレのために嘘はつかないでくれ、今も婚約者が忘れられないのはわかってるんだ」
「嘘じゃないよ、僕...は、.....っかは」
咳き込んだイライの口から花が舞った
その光景にくしゃっと顔が歪む
イライにこんな病を背負わせなくなかったのに、優しさに甘えたせいだ
顔も知らない婚約者のために吐き出された花はどれも美しい色をしていて、オレへの言葉は全て優しさだったのだと思い知りグサグサ心に突き刺さった
「ねぇ信じてウィリアム...じゃなきゃ僕も苦しいよ」
イライを突っぱね、ベッドから降りて距離をとる
この病は思い込みで治るものではない
両想いだと思い込んだところで一方通行のオレたちはずっと花を吐き続けるのだ
ハァハァと息を切らし動転する頭を抱えると、イライが俯きぐすっと鼻を鳴らした
「僕の言葉はそんなに嘘くさいかい?彼女が大切だと言いながら君を好きなった僕は、君の好きな僕じゃない?...僕はっ、どうしたらいい、どうして伝わらないんだっ」
イライが嗚咽を漏らし、時折花を苦しそうに吐き出す
それを見てオレも同じように花を嘔吐した
吐き出した花がシーツの上で交わると、イライが大切そうにシーツごと花を抱きしめて涙を流す
「君に否定されるとつらいよ、僕への告白もキスも全て勘違いだったんじゃないかって...この花も僕じゃない誰かのために生まれたのかもしれないって...不安になる」
「......イライ」
ベッドに座り、声を殺して泣くイライを抱きしめる
涙で濡れたアイカバーを取ると顔を見せないように胸に顔を埋めきつく抱き返された
病を伝染したことよりもオレのせいでイライを泣かせてしまったことに酷い罪悪感を感じ、どうか早く泣き止んでくれないかと背を摩る
「悪かった、お願いだから泣かないでくれ」
「...ウィリアムのせいだよ」
やっと顔を上げたイライがオレの頬にチュッと小鳥のようなキスをした
黙っているとまたキスをされ、額や鼻先にもチュッチュッと音を立ててじゃれるようなキスを繰り返す
「おいっなんだ急にっ」
身を捩り顔を背けるとイライがピタッとやめてしまう
「嫌だよね」
しゅんと肩を落としまた涙を浮かべるイライにンンンっと唸る
そんな可哀想な反応されたらたまったもんじゃない
「ガキじゃないんだから口にしろよ」
「...いいの?」
「イライがいいならしてくれ」
目を閉じて顔を向けると、柄にもなく緊張して固く結んだ唇がプルプルと震えた
近づくイライの息が顔に当たり更に緊張する
いくら待っても唇には何も触れず、かなり焦らされ目を薄ら開けると真っ赤な顔をしたイライがやっとキスをした
鼻が当たりうまく馴染まない唇にフッと笑うとイライもつられてククッと笑う
「フフっ笑わないでよ」
「そう言ってもな」
イライの髪を指で梳かし、小さい唇に触れるだけのキスをした
「イライが好きだ」
「うん」
「お前もオレと同じ気持ちだよな」
「...ああ!」
パァッと明るい顔をしたイライが目を細め嬉しそうに笑う
気持ちを疑っている間ずっと憂鬱な表情だったのがこうして晴れやかに笑うのを見て、もう勘違いでもなんでも良いと思えた
今イライの傍にいるのはオレだ、両想いじゃなくてもいつか振り向いてもらえるように頑張ればいい
「愛してるよウィリアム」
イライが両手で口元を覆うと、その手に百合の花が乗っていた
暗闇できらきらと輝くそれはとても綺麗で、エミリーの言っていた白銀の百合だとすぐにわかった
イライの花を手に取り、イライの好きな相手が本当にオレだったことに身体中が歓喜しうち震える
「オウ...エッ」
猛烈な吐き気に汚い嗚咽を漏らすとパサッと白銀の百合がシーツに落ちた
イライがオレの吐き出した百合を拾い、羽ばたき肩に止まったフクロウと一緒にそれを眺める
「綺麗だね」
「お前のと変わらないだろ」
月明かりに照らし、じっと眺めた後何を思ったのかイライが百合をパクッと口に入れてしまった
「あっこら!そんなもん食うなよ」
「だって花はいつか枯れてしまうだろう?せっかく僕のために生まれてきたのにもったいないから」
「えー...」
これにはフクロウも若干引いている
でも確かにこの綺麗な花が枯れるのは見たくはない
持っていたイライの百合を恐る恐る口に入れ、ギリっと噛むと思ったより苦くてペッと吐き出す
「まっず...!」
「あははっそりゃ美味しくはないけど傷付くなぁ」
フクロウが怒って嘴でオレの髭をブチブチ引っ張りつついた
「痛っ、悪い悪い!許してくれっ」
「ウィリアムの正直なところも嫌いじゃないよ」
イライが花の散らばるベッドに寝てオレの手を引く
やっとフクロウから解放され隣に横になると体をピッタリとひっつけて毛布を手繰り寄せた
「なぁ本当にオレでいいのか?オレはお前が思ってるより卑怯だし男臭くてガサツだしデリカシーもないし下心もあってムッツリでスケベだぞ」
「後半性欲まみれだけど僕はウィリアムが好きだから」
「...オレのどこがそんなにいいんだよ」
「全部かな」
「んー全部かぁ」
「ウィリアムは?僕のどこが好き?」
「...全部だなぁ」
「でしょ?」
可笑しくてふたりで笑い合い、満たされた幸福感にうっとり目を閉じた
「明日はふたりでエミリーに花吐き病が治った報告に行こう」
「そうだな」
「......おやすみウィリアム」
「おやすみ」
明日エミリーに報告をして花も片付けたら世話になったナワーブにも礼を言おう
きっと荘園の仲間もオレ達を祝福してくれるはずだ