花の病

同性だとか婚約者がいるとかそういうのはいったん忘れよう
問題は一体いつイライを好きになったかだ


【花吐き病〜告白〜】


「で、片想いの相手はわかったのか?」
「いや...まだだ」

ゲーム後ナワーブがいつものように片想いの相手を聞いてきた
イライが好きだと気づいてから数日経つが、まだ誰にも話せていない
相談したい気持ちはあるがオレの勘違いの可能性もまだある
それにイライと気まずくなるのも嫌だった
何せこれは本当に叶わない恋だからだ

「今なら切ない乙女心がわかるぜ...」
「ちょっと昼間から気持ち悪いこと言わないでよ」

何もやる気がせず広い庭の草むらに寝そべりボーッとしていたら、たまたま通りかかったマーサにペシっと軽く叩かれた
まったくここの連中は弱ってるオレに容赦ない
オレはこんなにも恋煩ってるというのに

「やぁウィリアム、一緒にお昼寝してもいいかい?」
「イライ!もっもちろんだ、ほら隣座れよ」
「ありがとう」

フクロウと日向ぼっこをしていたイライがこちらに気付き歩み寄ってきた
慌てて周りの枯れ草を手で払い、落ちている小石もポイっと遠くへ放り投げるとイライのスペースを開けてまたごろんと寝転んだ
イライもフクロウを飛ばし隣にちょこんと座る
いつもこの時間はひとりで本を読むかイソップといるのに今日はツイてるなぁ
照れ隠しに笑うとイライがオレに向かい合うように横になり、危うく心臓が出そうになるのを自分の頬をパチンと叩いて正気を保つ

「えっ」
「ハハっ蚊がうるさいなー」
「ウィリアムは健康だから血も美味しいんだね」
「イライも美味そうだぞ、あっ美味そうっていうのはそういう意味じゃなくて血が美味いって意味だからな」
「フフっウィリアは面白いね」

昔付き合った女に思ってることが顔に出やすいから気を付けろとよく言われたが、上手く誤魔化せただろうか
アイカバー越しの視線にドキドキする

「最近焼却炉で花をよく見るよ」
「んー厄介な病だ」
「ウィリアムに想われている人は幸せだね」
「相手はいい迷惑だろうさ、イライがもし女だったらオレみたいな筋肉ダルマよりホセとかナワーブとか落ち着いた奴の方がいいだろ?」

自分で言ったくせに若干心を痛めながら笑うと、イライは茶化しもせずにオレの手を握った

「そんなことないよ、ウィリアムはすごく魅力的だよ」

オレの気持ちを知らないからそんなことが言えるんだ、なんて皮肉を言いたいのにどこか期待していた自分が心の中でスキップする
こういう優しさに知らず知らず惹かれていったのだろうか
好きな奴に褒められると嘘でも嬉しいもんだ

「...オレの好きな人がお前だったらどうする?」
「僕?」
「女だったらとかじゃなくて、お前をマジで好きだったら」

ドッドッドッと激しい心音が鼓膜を揺らす
この言い方ではまるで告白だ
お願いだから悪い冗談だと笑って流してくれ
ここでまた優しさを見せられたら自分に都合の良い勘違いをしてしまう

「......嬉しい」

言い切るよりも先にイライに覆いかぶさった
背で陽を遮り紺のローブと白い肌に大きく影を落とす
ゴクリと唾を呑み、イライの唇に自分の唇を重ねた
潰さないように優しくゆっくり時間をかけて唇の感触を味わう

「好きだ」

唇を離し細い体を抱き寄せる
だがその前にイライが腕から抜け出し、ジリジリと後退った

「...ごめん」

顔を真っ赤にして逃げるように立ち去ってしまった
フクロウもイライの後を追い屋敷の方へと飛んでいく

「やっちまった」

その場にぐったり横たわり頭を抱える
拒絶されるのはわかっていたのに、フられたショックがあまりにもでかい
イライの震えた声に心が痛んだ
怖がらせてしまった、今もオレに怯えているかもしれない

「ヴ...ッ」

口から溢れた花が風に乗りフワッと宙に舞う
勘違いなんかじゃなかった、本当にイライが好きだった
せっかく片想いに気づけたのに恋の終わりは呆気なく儚い
想いが実らないならこの病はいつ終わるのだろうか、また次の恋を見つければいいのか、果たしてそれはいつになるのか
目を閉じ大きくため息を吐く

「ハァ......」
「ウィリアム、さっきは逃げてごめん僕びっくりしちゃって」
「うっわ...っ!!!」

すぐ近くで聞こえた声に驚き飛び起きるとイライの額にガツンと頭をぶつけ、ふたりして痛みに呻いた

「イライ!?」
「まって、ちょっと痛すぎて今何も言えない」

さっき逃げていったばかりなのに、どうして戻ってきたのだろうか
まさか傷心中のオレを慰めにでも来たのか?
それは逆に傷を抉られるだけなんだが
当のイライはアイカバーを抑え無言で蹲りそれどころじゃなさそうだ

「大丈夫か?」
「僕はイライ・クラークこの子は相棒のフクロウ、ここはエウリュディケ荘園、君はウィリアム・エリスだ」
「よし、脳細胞は死んでないから安心しろ」

頭に巻いていたヘアバンドを外し、近くの水瓶で水にさらしてイライの額に当ててやった
赤くなっているが内出血はしていない
だが危ない場所だ、一応後でエミリーに見てもらった方がいいだろう

「ありがとう...ちょっと落ち着いたよ」

ずらしていたアイカバーを結び直し、心配そうに鳴くフクロウを撫でた
オレのヘアバンドは手に握ったままひとつ息を吐いてオレに向き直る

「さっきは逃げてしまってすまない、まさかキスされるとは思ってなくて」
「いやオレが悪かったよ、引っぱたいてくれてもいい」
「その元気はないからいいよ、それより勘違いして欲しくないんだけど」
「......ん?」
「もしさっきのが告白のつもりなら、イエスなんだ」

は?首を傾げるとイライがムッと口を結ぶ

「それは、両想いってことでいいのか?」

まさかと思って聞き直せば、イライが微笑んでうんと頷いた
3/5ページ
スキ