花の病
1日1回、多くて2回花を吐く
花を吐く奇病はバクではないと荘園の主に言われた
ならばオレは一体誰に片想いをしているのだろうか
花を吐くほど好きなはずなのに、それが誰かわからないなんて病よりもそっちの方がずっと気持ち悪い
【花吐き病〜自覚〜】
「エロい気分になる奴は?」
「いない...と思う」
「いっそ男が好きとか?」
「いやそれは無い」
週に1度開かれる酒の席で、ナワーブが女サバイバーをひとりずつ指さし確認をとっていく
「フィオナはどうだ?露出も多いし知らない間にムラっときたとか」
「ない」
「じゃあエドガーなんかどうだ?女みたいだし勘違いしたのかも」
「あれは男だよ、風呂の時しっかり立派なもん付いてるの見たしな」
「ハァ...ならいっそハンターか?おすすめはしないが」
「それはもっとない」
酒をがぶ飲みしながらああだのこうだの言っていると、イライがオレ達が陣取っていたウイスキーをグラスに注ぎに来た
ソーダと割ってハイボールをつくっている
「やぁ、ふたりで何の話をしてるの?」
「こいつの好きな奴は誰かって話だよ」
イライがオレたちの隣に並んで座ると、ナワーブがハッと思い出したかのようにイライを指さした
「そうだ、イライはどうだ?お前よくスキンシップとってるから知らないうちに好きになったとかありえるんじゃないか?」
「...僕?」
ナワーブがジッとこちらを見て、イライは酒で赤くなった顔をパタパタと扇ぐ
イライか...
でもイライには縁が切れているとはいえ婚約者がいるし、相手のいる奴に惚れるのは流石に倫理的にまずい
「ハハッないない!イライはみんなの母さんだろ?」
「まぁそれもそうか」
「......そうだよ、僕達は男同士だし」
ナワーブがまた眉間に皺を寄せうーんと唸る
イライはグラスに入った酒を一気に飲み干すと顔を青ざめさせて席を立った
「ちょっと御手洗に行ってくる」
「大丈夫か?顔色がよくない」
「飲みすぎちゃったみたい...心配しないで」に
口元を抑え蹲るイライを支えようとすると、その前にナワーブがイライの体をよいしょと抱えてしまった
「トイレまで我慢できるか?」
「うん...迷惑かけてごめん」
「ウィリアム、お前の部屋近いからトイレだけかりるぞ」
ナワーブがイライを抱えて行くのを慌てて追う
「オレも一緒に運ぶ」
「ひとりでいい、それにもし今お前が花吐いたらイライ避けられないだろ」
「そ、そっか...そうだな」
部屋の鍵を催促され渡すと、ふたりが廊下に消えて行くのを見送った
......なんだろう、なんかモヤモヤするな
ひとり残され飲み直そうとグラスに口をつけると、ふと急に吐き気が込み上げた
口を抑えたが間に合わず汚い嗚咽を漏らしながらその場に吐き出すと、ヒラヒラと深紅の花びらがテーブルに舞った
遠くで騒いでいた皆もオレが花を吐くのに気づくと、途端にシンと静まり息を飲んだ
「その図体で花とか...見てて気持ち悪いな」
近くで見ていたフレディがそう吐き捨てると、すかさずエミリーが頭を引っぱたいた
胃の不快感にハァハァと息を切らしながら1枚残らず花をかき集め、発病してから持ち歩いている袋に全て棄て入れる
皆の前で吐くのはこれが初めてだ
視線が痛くて居心地が悪い
フレディの言う通り花を吐く自分は気持ち悪く映っただろうか
「ウィリアム大丈夫?」
「ははっ困った病気だな、もう部屋で休むよ」
マーサとエミリーが寄ってきたが距離をとって逃げるように食堂を出た
ああもう!オレは誰のためにこんな思いをしなきゃならないんだ
人並みに恋愛してきたが、誰を好きかもわからずに恋煩いするなんて聞いたことがない
居心地の悪さに足早に部屋へと戻ると、途中廊下でナワーブにぶつかった
「ウィリアム?どうしたんだそんな急いで」
「ああナワーブ、えっと...イライは大丈夫か?」
「一応落ち着いたけどずっとお前のベッドでダウンしてる」
「そうか、あとはオレが見とくからナワーブは飲み直せよ」
じゃあと立ち去ろうとすると、ナワーブに腕を掴まれ手に持っていた袋を奪われた
さっき吐いた花の入った袋をナワーブが訝しげに見る
「これはなんだ?」
「あ...えっと、さっき吐いて」
「花をか?」
「おいおい心配すんなよ、イライには伝染さないし吐いたばかりだから大丈夫だ」
袋をナワーブから取り返そうとすると手を振り払われ険しい顔をされた
いつもヘラヘラ軽口を叩く時のような空気は欠片もなく、ゲームの時に見せるような鋭く怖い顔をされる
「もしイライが花吐き病になったら自分を捨てた婚約者を想って永遠に苦しむことになるんだ、くれぐれも気をつけろよ」
「...ああ」
「...お前もゆっくり休め、花はオレが燃やしておく」
軽くオレの肩を叩き、袋を持って焼却炉のある裏口へと行ってしまった
この病になってから自覚の無い片想いに悩んだり嫌悪されたり煙たがれたり嫌なことばかりだ
がっくり肩を落として部屋に入ると、ナワーブが言っていたようにイライがすーすー寝息を立ててベッドで眠っていた
「イライ......?」
足音を抑えてゆっくり近付き名前を呼んでみるが起きる様子は無い
すぐ近くでフクロウも寄り添うように眠っている
きっといつもこうしてふたり仲良く寝ているのだろう
起きないように窮屈そうなアイカバーと手袋を外し、冷えないように肩まで毛布を掛けた
普段フワフワと柔らかい雰囲気だが素顔は意外とキリッと凛々しい顔をしている
床にぺたんと座りベッドに凭れてイライの寝顔を眺めていると、さっきまで落ち込んでいたのがどうでもよくなってきた
「ははっ何か美味いものの夢でも見てるのか?」
寝ているイライが口をもごもご動かし嬉しそうに微笑んだのが可笑しくて笑いがこぼれる
イライがいるだけで、まるでオレの部屋じゃないみたいだ
ずっと眺めていると酒が入っているのもあり、うとうと眠りに誘われた
「オレのベッドなんだけどな......」
狭いベッドにオレが横になるスペースは無く、座り心地の悪い固い床に苦笑する
だが眠い体を起こしてソファへ行くのも面倒だ
微睡みながら柔らかい髪を撫で、身を乗り出し気持ち良さそうに眠るイライの薄く開いた唇にキスを......ん?
「は......っ!?」
バチッと目をかっ開いた
壁や床に体を激しく打ち付けながら慌ててイライから離れる
だが唇には生々しい感触が残っていてパニックに陥った
ヤバい寝ぼけてた、いや寝ぼけてたからってどうしてイライに...キ、キスしたんだ!?
「おっえぇッ」
動揺していると急に吐き気に見舞われ床に蹲った
「...まじか」
はらりと床に落ちた花びらにゴクリと唾を飲む
そういえばさっき皆の前で花を吐いた時、イライを連れて行ったナワーブに嫉妬のような感情を抱いた
昨日花を吐いた時もイライが婚約者の話をしていたのを思い出してモヤモヤしていた
そしてその前も......
恐る恐るイライを見ると流石に騒がしい物音に目が覚めたのか、目を擦り体を起こした
「んー...ウィリアム?」
「お、おう」
「あっごめん僕寝ちゃって...邪魔してすまない、すぐ出ていくから」
「危ないっ」
イライがベッドから降りようとして転びそうになるのを、立ち上がって抱きしめるように受け止める
服越しに感じる華奢な体と体温にぶわっと熱が上がった
おかしい、触れ合っただけでこんなに意識したことなんか一度もなかったのに
「ごめん、足がもつれてしまって」
「......」
「ウィリアム?」
ドキドキとうるさい心臓を無視してイライの体を優しく抱きしめる
戸惑うイライが行き場の無い手を背に回すとよしよしと遠慮がちに撫でた
あーーー好き
花を吐く奇病はバクではないと荘園の主に言われた
ならばオレは一体誰に片想いをしているのだろうか
花を吐くほど好きなはずなのに、それが誰かわからないなんて病よりもそっちの方がずっと気持ち悪い
【花吐き病〜自覚〜】
「エロい気分になる奴は?」
「いない...と思う」
「いっそ男が好きとか?」
「いやそれは無い」
週に1度開かれる酒の席で、ナワーブが女サバイバーをひとりずつ指さし確認をとっていく
「フィオナはどうだ?露出も多いし知らない間にムラっときたとか」
「ない」
「じゃあエドガーなんかどうだ?女みたいだし勘違いしたのかも」
「あれは男だよ、風呂の時しっかり立派なもん付いてるの見たしな」
「ハァ...ならいっそハンターか?おすすめはしないが」
「それはもっとない」
酒をがぶ飲みしながらああだのこうだの言っていると、イライがオレ達が陣取っていたウイスキーをグラスに注ぎに来た
ソーダと割ってハイボールをつくっている
「やぁ、ふたりで何の話をしてるの?」
「こいつの好きな奴は誰かって話だよ」
イライがオレたちの隣に並んで座ると、ナワーブがハッと思い出したかのようにイライを指さした
「そうだ、イライはどうだ?お前よくスキンシップとってるから知らないうちに好きになったとかありえるんじゃないか?」
「...僕?」
ナワーブがジッとこちらを見て、イライは酒で赤くなった顔をパタパタと扇ぐ
イライか...
でもイライには縁が切れているとはいえ婚約者がいるし、相手のいる奴に惚れるのは流石に倫理的にまずい
「ハハッないない!イライはみんなの母さんだろ?」
「まぁそれもそうか」
「......そうだよ、僕達は男同士だし」
ナワーブがまた眉間に皺を寄せうーんと唸る
イライはグラスに入った酒を一気に飲み干すと顔を青ざめさせて席を立った
「ちょっと御手洗に行ってくる」
「大丈夫か?顔色がよくない」
「飲みすぎちゃったみたい...心配しないで」に
口元を抑え蹲るイライを支えようとすると、その前にナワーブがイライの体をよいしょと抱えてしまった
「トイレまで我慢できるか?」
「うん...迷惑かけてごめん」
「ウィリアム、お前の部屋近いからトイレだけかりるぞ」
ナワーブがイライを抱えて行くのを慌てて追う
「オレも一緒に運ぶ」
「ひとりでいい、それにもし今お前が花吐いたらイライ避けられないだろ」
「そ、そっか...そうだな」
部屋の鍵を催促され渡すと、ふたりが廊下に消えて行くのを見送った
......なんだろう、なんかモヤモヤするな
ひとり残され飲み直そうとグラスに口をつけると、ふと急に吐き気が込み上げた
口を抑えたが間に合わず汚い嗚咽を漏らしながらその場に吐き出すと、ヒラヒラと深紅の花びらがテーブルに舞った
遠くで騒いでいた皆もオレが花を吐くのに気づくと、途端にシンと静まり息を飲んだ
「その図体で花とか...見てて気持ち悪いな」
近くで見ていたフレディがそう吐き捨てると、すかさずエミリーが頭を引っぱたいた
胃の不快感にハァハァと息を切らしながら1枚残らず花をかき集め、発病してから持ち歩いている袋に全て棄て入れる
皆の前で吐くのはこれが初めてだ
視線が痛くて居心地が悪い
フレディの言う通り花を吐く自分は気持ち悪く映っただろうか
「ウィリアム大丈夫?」
「ははっ困った病気だな、もう部屋で休むよ」
マーサとエミリーが寄ってきたが距離をとって逃げるように食堂を出た
ああもう!オレは誰のためにこんな思いをしなきゃならないんだ
人並みに恋愛してきたが、誰を好きかもわからずに恋煩いするなんて聞いたことがない
居心地の悪さに足早に部屋へと戻ると、途中廊下でナワーブにぶつかった
「ウィリアム?どうしたんだそんな急いで」
「ああナワーブ、えっと...イライは大丈夫か?」
「一応落ち着いたけどずっとお前のベッドでダウンしてる」
「そうか、あとはオレが見とくからナワーブは飲み直せよ」
じゃあと立ち去ろうとすると、ナワーブに腕を掴まれ手に持っていた袋を奪われた
さっき吐いた花の入った袋をナワーブが訝しげに見る
「これはなんだ?」
「あ...えっと、さっき吐いて」
「花をか?」
「おいおい心配すんなよ、イライには伝染さないし吐いたばかりだから大丈夫だ」
袋をナワーブから取り返そうとすると手を振り払われ険しい顔をされた
いつもヘラヘラ軽口を叩く時のような空気は欠片もなく、ゲームの時に見せるような鋭く怖い顔をされる
「もしイライが花吐き病になったら自分を捨てた婚約者を想って永遠に苦しむことになるんだ、くれぐれも気をつけろよ」
「...ああ」
「...お前もゆっくり休め、花はオレが燃やしておく」
軽くオレの肩を叩き、袋を持って焼却炉のある裏口へと行ってしまった
この病になってから自覚の無い片想いに悩んだり嫌悪されたり煙たがれたり嫌なことばかりだ
がっくり肩を落として部屋に入ると、ナワーブが言っていたようにイライがすーすー寝息を立ててベッドで眠っていた
「イライ......?」
足音を抑えてゆっくり近付き名前を呼んでみるが起きる様子は無い
すぐ近くでフクロウも寄り添うように眠っている
きっといつもこうしてふたり仲良く寝ているのだろう
起きないように窮屈そうなアイカバーと手袋を外し、冷えないように肩まで毛布を掛けた
普段フワフワと柔らかい雰囲気だが素顔は意外とキリッと凛々しい顔をしている
床にぺたんと座りベッドに凭れてイライの寝顔を眺めていると、さっきまで落ち込んでいたのがどうでもよくなってきた
「ははっ何か美味いものの夢でも見てるのか?」
寝ているイライが口をもごもご動かし嬉しそうに微笑んだのが可笑しくて笑いがこぼれる
イライがいるだけで、まるでオレの部屋じゃないみたいだ
ずっと眺めていると酒が入っているのもあり、うとうと眠りに誘われた
「オレのベッドなんだけどな......」
狭いベッドにオレが横になるスペースは無く、座り心地の悪い固い床に苦笑する
だが眠い体を起こしてソファへ行くのも面倒だ
微睡みながら柔らかい髪を撫で、身を乗り出し気持ち良さそうに眠るイライの薄く開いた唇にキスを......ん?
「は......っ!?」
バチッと目をかっ開いた
壁や床に体を激しく打ち付けながら慌ててイライから離れる
だが唇には生々しい感触が残っていてパニックに陥った
ヤバい寝ぼけてた、いや寝ぼけてたからってどうしてイライに...キ、キスしたんだ!?
「おっえぇッ」
動揺していると急に吐き気に見舞われ床に蹲った
「...まじか」
はらりと床に落ちた花びらにゴクリと唾を飲む
そういえばさっき皆の前で花を吐いた時、イライを連れて行ったナワーブに嫉妬のような感情を抱いた
昨日花を吐いた時もイライが婚約者の話をしていたのを思い出してモヤモヤしていた
そしてその前も......
恐る恐るイライを見ると流石に騒がしい物音に目が覚めたのか、目を擦り体を起こした
「んー...ウィリアム?」
「お、おう」
「あっごめん僕寝ちゃって...邪魔してすまない、すぐ出ていくから」
「危ないっ」
イライがベッドから降りようとして転びそうになるのを、立ち上がって抱きしめるように受け止める
服越しに感じる華奢な体と体温にぶわっと熱が上がった
おかしい、触れ合っただけでこんなに意識したことなんか一度もなかったのに
「ごめん、足がもつれてしまって」
「......」
「ウィリアム?」
ドキドキとうるさい心臓を無視してイライの体を優しく抱きしめる
戸惑うイライが行き場の無い手を背に回すとよしよしと遠慮がちに撫でた
あーーー好き