花の病
「オエッ...」
胃からせりあがるそれは吐瀉物独特の臭いも不快感もない
そのかわりにふわりと広がる花の香り
ヒラリ...ヒラリ...
「...これ、花?」
窓から差し込む月明かりがシーツに散らばる花びらを照らした
口の中に残るそれがまたひとつフワリとこぼれ落ち、花の渦に溶けていく
【花吐き病〜無自覚〜】
「それは花吐き病といって、とても珍しい病よ」
「花吐き病?」
「原因はわからないけど、片想いを拗らせると花を吐いてしまうの」
エミリーが手袋越しに昨晩オレが吐き出した花を摘み、ポリ袋に入れていく
「花に触れると他人にも伝染るの、吐いた花は1枚残らず捨てるようにしてちょうだい」
「わ、わかった...それでこの病はどうしたら治るんだ?」
「好きな人と結ばれると白銀の百合を吐いて完治すると言われているけど...片想いは実りそう?」
花吐き病なんて奇妙な病にいつなってしまったのだろうか
荘園に来る前も今も片想いをしている自覚は無い
うーんと唸って首を傾げると、エミリーがフフっと笑った
「あなたの花がこんなにも綺麗だなんてね、ウィリアム」
また定期的に様子を見に来ると言って、エミリーが部屋から出て行った
オレみたいな筋肉ダルマから花が出てくるなんて可笑しくて笑ってしまう
こういうのは女サバイバーとか男でもイソップとかエドガーみたいな繊細な奴が似合うのに、どうしてよりにもよってオレが...
「まぁ気にしても仕方ないか」
恋が実れば治るなんて言われても、恋をしていないし治しようがない
もしかしたら荘園のバグかもしれないし、面倒だが害はないようだからとりあえず放っておこう
それよりも今朝は飯も食わずにエミリーのところへ駆け込んだから腹ぺこだ、ゲームの前に飯を食っておかないと
「あっウィリアムさんなの!」
食堂に入ると皆の視線がオレに集まった
「お、おはよう」
いつも通り軽く笑って椅子に座ると、瞬く間に女サバイバー達に囲まれてしまった
「な、なんだ?」
「聞いたわよウィリアム、あなた恋煩いしてるらしいわね」
「で、誰が好きなの?」
「正直に言えば協力するわよ」
皆がキラキラと目を輝かせてこちらを見てくる
昔から女性陣は色恋沙汰が好きだなぁ
「それがわからないんだよ、オレの好きな人が誰なのかオレも知りたい」
「なによそれ」
「誤魔化すにしたってもっといい嘘があったでしょ」
「もしかして、私たちの誰かなの?」
ウィラとマーサがニヤニヤと笑い、エマとデミとマルガレータは勝手に話を進めてキャーキャー盛り上がっている
だが次に発したオレのひと言でその場の空気が凍りついてしまった
「マーサもウィラも他の女も想像はしてみたけど、女としては魅力は感じなかったんだよなぁ仲間としては好きだけど」
ピシっと氷の張った音が聞こえた
今の今まで黄色く沸き立っていたのが嘘みたいに皆がため息を吐きその場から立ち去っていく
「おっ、おい」
「ウィリアムこそ、女の魅力云々言う前に自分を磨いたらどうかしら、筋肉だけじゃ片想いは実らないわよ」
最後にウィラが捨て台詞を吐きフンっと怒って行ってしまった
ええ...と困惑していると、すかさず近くで見ていたカヴィンがオレの肩を叩く
「女心は難しいのさ」
キラッとウィンクをするカヴィンは慰めるというよりなんだか嬉しそうだ
わけがわからずポツーンと固まると、今度はイライがオレの隣に座り優しく背を撫でた
「エミリーから聞いたよ、体調は大丈夫かい?皆ウィリアムの好きな人が気になるだけで悪意は無いんだ、混乱するだろうけど許してあげてね」
「イライ〜」
細い体に抱きつけばイライが笑ってオレの背をポンポンと叩く
変な病気になった挙句朝から散々な扱いをされた身にイライの優しさが沁みる
流石は皆から荘園の母と呼ばれる男だ、気を抜けば溢れ出る母性にバブーとか言ってしまいそうだ
「それにしても困ったね、好きな人がわからないなんて」
「絶対バグだ!オレが片想い拗らせてうじうじするなんてありえない!」
「フフっ今回はウィリアムの言う通りバグかもしれないけど...人は見かけによらないからね、恋煩いしたって何も恥ずかしくないよ」
口元で微笑んだイライがオレのために持ってきた朝食のパンにジャムを塗る
ジャムがたっぷり塗られたパンを受けとり齧ると、イライがまた嬉しそうに微笑んだ
「はぁ...イライはいい嫁さんになるな」
「昔ゲキウにも同じことを言われたよ」
「ゲキウって?」
「婚約者さ」
イライが手袋の上から指輪の形をなぞるのを見ると、心臓がズキっと痛んだ
そういえば荘園に来てすぐの頃もう婚約者とは縁が切れてしまったと言っていたっけ
嫌なことを思い出させてしまっただろうか
結ばれることは無いとわかってからも婚約者のことを快活で明るく美しい女性だとよく褒めていた
「そんな顔しないでくれ、朝のゲームは君も一緒だっただろう?早く食べて支度をしなきゃ」
「お、おう...」
昨晩からのストレスだろうか、胃がチクチクとして部屋に戻ってすぐにせっかく食べた朝食を嘔吐してしまった
バグでゲロは全て花になってしまうのだろうか、床には綺麗な薄紫の花が散らばる
なんとも言えない気分のまま朝のゲームに参加すると、花吐き病の噂を聞きつけたジョゼフから花を見せろと執拗に追い回された
ゲーム開始からハッチ逃げまで走り続けた体は限界を超え、ハッチに落ちながら普通にゲロを吐いた
胃からせりあがるそれは吐瀉物独特の臭いも不快感もない
そのかわりにふわりと広がる花の香り
ヒラリ...ヒラリ...
「...これ、花?」
窓から差し込む月明かりがシーツに散らばる花びらを照らした
口の中に残るそれがまたひとつフワリとこぼれ落ち、花の渦に溶けていく
【花吐き病〜無自覚〜】
「それは花吐き病といって、とても珍しい病よ」
「花吐き病?」
「原因はわからないけど、片想いを拗らせると花を吐いてしまうの」
エミリーが手袋越しに昨晩オレが吐き出した花を摘み、ポリ袋に入れていく
「花に触れると他人にも伝染るの、吐いた花は1枚残らず捨てるようにしてちょうだい」
「わ、わかった...それでこの病はどうしたら治るんだ?」
「好きな人と結ばれると白銀の百合を吐いて完治すると言われているけど...片想いは実りそう?」
花吐き病なんて奇妙な病にいつなってしまったのだろうか
荘園に来る前も今も片想いをしている自覚は無い
うーんと唸って首を傾げると、エミリーがフフっと笑った
「あなたの花がこんなにも綺麗だなんてね、ウィリアム」
また定期的に様子を見に来ると言って、エミリーが部屋から出て行った
オレみたいな筋肉ダルマから花が出てくるなんて可笑しくて笑ってしまう
こういうのは女サバイバーとか男でもイソップとかエドガーみたいな繊細な奴が似合うのに、どうしてよりにもよってオレが...
「まぁ気にしても仕方ないか」
恋が実れば治るなんて言われても、恋をしていないし治しようがない
もしかしたら荘園のバグかもしれないし、面倒だが害はないようだからとりあえず放っておこう
それよりも今朝は飯も食わずにエミリーのところへ駆け込んだから腹ぺこだ、ゲームの前に飯を食っておかないと
「あっウィリアムさんなの!」
食堂に入ると皆の視線がオレに集まった
「お、おはよう」
いつも通り軽く笑って椅子に座ると、瞬く間に女サバイバー達に囲まれてしまった
「な、なんだ?」
「聞いたわよウィリアム、あなた恋煩いしてるらしいわね」
「で、誰が好きなの?」
「正直に言えば協力するわよ」
皆がキラキラと目を輝かせてこちらを見てくる
昔から女性陣は色恋沙汰が好きだなぁ
「それがわからないんだよ、オレの好きな人が誰なのかオレも知りたい」
「なによそれ」
「誤魔化すにしたってもっといい嘘があったでしょ」
「もしかして、私たちの誰かなの?」
ウィラとマーサがニヤニヤと笑い、エマとデミとマルガレータは勝手に話を進めてキャーキャー盛り上がっている
だが次に発したオレのひと言でその場の空気が凍りついてしまった
「マーサもウィラも他の女も想像はしてみたけど、女としては魅力は感じなかったんだよなぁ仲間としては好きだけど」
ピシっと氷の張った音が聞こえた
今の今まで黄色く沸き立っていたのが嘘みたいに皆がため息を吐きその場から立ち去っていく
「おっ、おい」
「ウィリアムこそ、女の魅力云々言う前に自分を磨いたらどうかしら、筋肉だけじゃ片想いは実らないわよ」
最後にウィラが捨て台詞を吐きフンっと怒って行ってしまった
ええ...と困惑していると、すかさず近くで見ていたカヴィンがオレの肩を叩く
「女心は難しいのさ」
キラッとウィンクをするカヴィンは慰めるというよりなんだか嬉しそうだ
わけがわからずポツーンと固まると、今度はイライがオレの隣に座り優しく背を撫でた
「エミリーから聞いたよ、体調は大丈夫かい?皆ウィリアムの好きな人が気になるだけで悪意は無いんだ、混乱するだろうけど許してあげてね」
「イライ〜」
細い体に抱きつけばイライが笑ってオレの背をポンポンと叩く
変な病気になった挙句朝から散々な扱いをされた身にイライの優しさが沁みる
流石は皆から荘園の母と呼ばれる男だ、気を抜けば溢れ出る母性にバブーとか言ってしまいそうだ
「それにしても困ったね、好きな人がわからないなんて」
「絶対バグだ!オレが片想い拗らせてうじうじするなんてありえない!」
「フフっ今回はウィリアムの言う通りバグかもしれないけど...人は見かけによらないからね、恋煩いしたって何も恥ずかしくないよ」
口元で微笑んだイライがオレのために持ってきた朝食のパンにジャムを塗る
ジャムがたっぷり塗られたパンを受けとり齧ると、イライがまた嬉しそうに微笑んだ
「はぁ...イライはいい嫁さんになるな」
「昔ゲキウにも同じことを言われたよ」
「ゲキウって?」
「婚約者さ」
イライが手袋の上から指輪の形をなぞるのを見ると、心臓がズキっと痛んだ
そういえば荘園に来てすぐの頃もう婚約者とは縁が切れてしまったと言っていたっけ
嫌なことを思い出させてしまっただろうか
結ばれることは無いとわかってからも婚約者のことを快活で明るく美しい女性だとよく褒めていた
「そんな顔しないでくれ、朝のゲームは君も一緒だっただろう?早く食べて支度をしなきゃ」
「お、おう...」
昨晩からのストレスだろうか、胃がチクチクとして部屋に戻ってすぐにせっかく食べた朝食を嘔吐してしまった
バグでゲロは全て花になってしまうのだろうか、床には綺麗な薄紫の花が散らばる
なんとも言えない気分のまま朝のゲームに参加すると、花吐き病の噂を聞きつけたジョゼフから花を見せろと執拗に追い回された
ゲーム開始からハッチ逃げまで走り続けた体は限界を超え、ハッチに落ちながら普通にゲロを吐いた
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