第3章「破壊神の箱庭で」
「俺はてめえを…じじいの仇をとるまでは、絶対に死なねえッ!」
鎖が千切れた。エンマの腕は血だらけになり、着物まで赤く染まっていた。
「お前に何が出来る。」
雷鬼は、頭上に手を翳した。すると、手の平からばちばちと音を立てて、小さな雷が生じた。雷鬼はその手をエンマの方へ向けて、雷を放出した。
「ぐあああっ!!」
エンマの体は、白い雷光に包まれ、鋭く激しい痛みが全身を襲った。
「俺の前では、誰もが無力になる。俺を倒せる者などいないのだ。」
雷鬼は満足げに笑いながら、雷の力でエンマを苦しめ続けていた。
「それはどうだろうね。」
突然の第三者の声に驚いたように、雷鬼は声のした方を見上げた。
玉座の後ろの方の、天井近くの所に、女が一人、逆さになって立っていた。
「ヨキ…!何故お前がここに?」
「あんたは自信過剰すぎて、油断しすぎてるのさ。エンマは殺させないよ。なんたって、あんたを倒せる唯一の切り札だからね。」
ヨキと呼ばれた女は、天井から足を離したかと思うと、くるりと体を回転させ、音も立てずに着地した。
全身から妖気と色気が迸ってみえるほどの、凄まじく美しい女だった。
白銀の髪に青い薔薇の花飾りを挿していて、唇は紅をさしたように紅く、雪のように透き通った白い肌を惜しげもなくさらして、上下に分かれた黒い着物の間から、白い滑らかな首筋や、豊かに膨らんだ白い胸がこぼれんばかりに覗いて見えており、露わになった腰は、太腿にかけて、艶めかしい曲線を描いていた。
ヨキは腕を組み、大きな琥珀色の瞳で、油断なく雷鬼を睨み据えていた。
「お前も予言を信じているのか。」
「別に予言は関係ないさ。あたしはあのアヤメが怖かったからね。その血を受け継いでいるエンマに期待しているのさ。」
ヨキは雷鬼を睨み付けたまま、ふふんと笑った。
「ふん。アヤメか…。」
辺りが突如、白い霧に包まれた。
雷鬼の術ではなかった。ヨキの姿も見えなくなり、雷鬼は気配を探っていたが、すぐさま玉座から離れ空中に飛び上がった。
霧が晴れたかと思う間もなく現れたヨキが、雷鬼に向かって口にくわえていた白い薔薇を投げつけてきた。
雷鬼はそれを素早くかわしたが、回転する白い薔薇の花びらから、さらに何本もの白い薔薇が次々と針のように飛び出してきて、それらが矢のようになって、雷鬼に襲い掛かってきた。ヨキの華やかな術であったが、薔薇の矢には猛毒が含まれていた。
薔薇の矢は、鎧に覆われている雷鬼の胴には刺さらず弾かれたが、腕と足に数本が刺さった。すぐに雷鬼は薔薇の矢を引き抜いたが、既に猛毒が染み込んでいて、体が麻痺してくるのを感じた。
「全く小賢しいマネを…。」
「あたしはストレートじゃないのさ。あんたと違ってね。」
しかし、雷鬼が麻痺して動けなかったのは一瞬だけだった。すぐに猛毒を克服した雷鬼は、反撃に出た。手の平から雷を生じさせ、天井に向かって雷を放出した。すると雷が天井から部屋全体に流れ落ちた。
「なんてことすんのさ!」
雷が落ちた衝撃で、ヨキは空中から転落し、床に走っていた電流をまともに食らった。
雷鬼だけは、自らの雷を受けても平気な顔をしている。
「そんな術で、この俺を倒すことは出来ん。」
「分かってるさ!だからこそ、アヤメの力を借りるんだ。」
「確かに、アヤメは俺を殺せる力を持っていた。だからこそあいつは、人でありながら、この根の国に入ることを恐れていなかった。そして殺そうと思えば、いつでも魔物を殺すことが出来た。この俺さえもな。」
「全くバカなことをしたもんだと思ったよ。あの時は。」
「しかしあいつには、それが出来なかった。力はあるのにだ。あいつの弱点は、人であることだったのだ。人である限り、人の情というものを捨てられん。いくら天才的な力を持ってはいても、所詮、ただの人間の女だったということだ。」
「いや、あんたは同じ魔物でも、特別ひどい男だよ。あんなに可愛がっていたアヤメを、自ら殺すなんてさ。あたしには、あんたのことが理解出来ないね。」
くく、と雷鬼は低く笑った。
「俺はあの女に出会ったときから、いつか殺してやりたいと思っていた。人間を超えた力を持ち、何もかもが完璧に見えるあの女をな。あいつの全てを捕らえ、支配し、惑わして、混乱させ、あいつが俺を疑いながら、それでも人の情から信じようとする…その弱い心を裏切ったとき、一体どんなに絶望の顔をするか、とな。ハハハハハ!!」
どこまでも無邪気に、雷鬼は笑っていた。
「本当にあんたはサイテーだね。」
「そんな一瞬の楽しみを味わうために全力を尽くす。それが俺のやり方だ!」
「あんたみたいな自分勝手で気ままな奴に、根の国を任してはおけないんだよ!」
鎖が千切れた。エンマの腕は血だらけになり、着物まで赤く染まっていた。
「お前に何が出来る。」
雷鬼は、頭上に手を翳した。すると、手の平からばちばちと音を立てて、小さな雷が生じた。雷鬼はその手をエンマの方へ向けて、雷を放出した。
「ぐあああっ!!」
エンマの体は、白い雷光に包まれ、鋭く激しい痛みが全身を襲った。
「俺の前では、誰もが無力になる。俺を倒せる者などいないのだ。」
雷鬼は満足げに笑いながら、雷の力でエンマを苦しめ続けていた。
「それはどうだろうね。」
突然の第三者の声に驚いたように、雷鬼は声のした方を見上げた。
玉座の後ろの方の、天井近くの所に、女が一人、逆さになって立っていた。
「ヨキ…!何故お前がここに?」
「あんたは自信過剰すぎて、油断しすぎてるのさ。エンマは殺させないよ。なんたって、あんたを倒せる唯一の切り札だからね。」
ヨキと呼ばれた女は、天井から足を離したかと思うと、くるりと体を回転させ、音も立てずに着地した。
全身から妖気と色気が迸ってみえるほどの、凄まじく美しい女だった。
白銀の髪に青い薔薇の花飾りを挿していて、唇は紅をさしたように紅く、雪のように透き通った白い肌を惜しげもなくさらして、上下に分かれた黒い着物の間から、白い滑らかな首筋や、豊かに膨らんだ白い胸がこぼれんばかりに覗いて見えており、露わになった腰は、太腿にかけて、艶めかしい曲線を描いていた。
ヨキは腕を組み、大きな琥珀色の瞳で、油断なく雷鬼を睨み据えていた。
「お前も予言を信じているのか。」
「別に予言は関係ないさ。あたしはあのアヤメが怖かったからね。その血を受け継いでいるエンマに期待しているのさ。」
ヨキは雷鬼を睨み付けたまま、ふふんと笑った。
「ふん。アヤメか…。」
辺りが突如、白い霧に包まれた。
雷鬼の術ではなかった。ヨキの姿も見えなくなり、雷鬼は気配を探っていたが、すぐさま玉座から離れ空中に飛び上がった。
霧が晴れたかと思う間もなく現れたヨキが、雷鬼に向かって口にくわえていた白い薔薇を投げつけてきた。
雷鬼はそれを素早くかわしたが、回転する白い薔薇の花びらから、さらに何本もの白い薔薇が次々と針のように飛び出してきて、それらが矢のようになって、雷鬼に襲い掛かってきた。ヨキの華やかな術であったが、薔薇の矢には猛毒が含まれていた。
薔薇の矢は、鎧に覆われている雷鬼の胴には刺さらず弾かれたが、腕と足に数本が刺さった。すぐに雷鬼は薔薇の矢を引き抜いたが、既に猛毒が染み込んでいて、体が麻痺してくるのを感じた。
「全く小賢しいマネを…。」
「あたしはストレートじゃないのさ。あんたと違ってね。」
しかし、雷鬼が麻痺して動けなかったのは一瞬だけだった。すぐに猛毒を克服した雷鬼は、反撃に出た。手の平から雷を生じさせ、天井に向かって雷を放出した。すると雷が天井から部屋全体に流れ落ちた。
「なんてことすんのさ!」
雷が落ちた衝撃で、ヨキは空中から転落し、床に走っていた電流をまともに食らった。
雷鬼だけは、自らの雷を受けても平気な顔をしている。
「そんな術で、この俺を倒すことは出来ん。」
「分かってるさ!だからこそ、アヤメの力を借りるんだ。」
「確かに、アヤメは俺を殺せる力を持っていた。だからこそあいつは、人でありながら、この根の国に入ることを恐れていなかった。そして殺そうと思えば、いつでも魔物を殺すことが出来た。この俺さえもな。」
「全くバカなことをしたもんだと思ったよ。あの時は。」
「しかしあいつには、それが出来なかった。力はあるのにだ。あいつの弱点は、人であることだったのだ。人である限り、人の情というものを捨てられん。いくら天才的な力を持ってはいても、所詮、ただの人間の女だったということだ。」
「いや、あんたは同じ魔物でも、特別ひどい男だよ。あんなに可愛がっていたアヤメを、自ら殺すなんてさ。あたしには、あんたのことが理解出来ないね。」
くく、と雷鬼は低く笑った。
「俺はあの女に出会ったときから、いつか殺してやりたいと思っていた。人間を超えた力を持ち、何もかもが完璧に見えるあの女をな。あいつの全てを捕らえ、支配し、惑わして、混乱させ、あいつが俺を疑いながら、それでも人の情から信じようとする…その弱い心を裏切ったとき、一体どんなに絶望の顔をするか、とな。ハハハハハ!!」
どこまでも無邪気に、雷鬼は笑っていた。
「本当にあんたはサイテーだね。」
「そんな一瞬の楽しみを味わうために全力を尽くす。それが俺のやり方だ!」
「あんたみたいな自分勝手で気ままな奴に、根の国を任してはおけないんだよ!」
