第2章「炎の目覚め」
根の国。ここに、魔物の大半が棲んでいる。
魔物にも上級、下級と位があり、上の位ほど姿や知能が人間に近く、下の位ほど獣に近かった。
その上級の魔物の頂点に君臨する者が、根の国の王であった。
現在の王は、雷鬼 。
雷鬼は、自分の父である天魔を殺して、若くして王となったのであった。
「雷鬼様。エンマは、雷鬼様の予見通り、花霞の里へ向かっております。既に数百の部下を里の周りに送り込んでありますので、エンマが死ぬのも時間の問題かと。」
顔色の青い、醜い老人のような魔物が雷鬼に告げた。雷鬼の側近、邪蛇 である。
「誰が殺せと言った。」
雷鬼は、玉座に座ったまま、床を乱暴に踏み鳴らし、大声を上げた。
「は?」
表情一つ変えず、邪蛇は雷鬼の顔を見た。
「エンマは殺すな。生け捕りにして連れて来い。」
雷鬼はにやりと笑って言った。黄金色の髪と、明るい緑色の瞳が生き生きと光り輝き、暗い湿り気を漂わせる邪蛇とは対照的に、雷鬼は陽気でどこか無邪気にも見えた。
「しかし、雷鬼様は殺せと命じたではありませんか。」
「気が変わったのだ。それに、俺がこの手でエンマを殺さねば気が済まん。くだらぬ予言を打ち消すためにな。」
「王がわが子に殺される…、この予言が本当なら、エンマに会うのは危険かと思われますが。」
「この俺が本当に殺されると思っているのか?」
「いえ…。しかし、万が一ということも…。」
「フフ。分かっているぞ。それを一番望んでいるのは、邪蛇。お前だということをな。」
「……。」
雷鬼は鋭い目で楽しそうに邪蛇の顔を見つめた。
「昔、アヤメを妻にしたときも、お前は誰よりも強く反対していたな。人間と仲良くするなど汚らわしいとな。それで、あのようなくだらない予言を流したんだろう。」
「予言は、私が言ったことではありません。」
「とにかくお前は、俺に死んでほしいと思っている。お前は、天魔の部下だった。俺は王位を奪うために天魔を殺した。それを恨んでいるのだろう。」
「恨むくらいなら、雷鬼様に仕えたりしません。」
邪蛇は、先程と変わらない無表情で言った。
「俺が天魔の部下を皆殺しにし、何故お前一人を生かしたか。それは、お前が一番、天魔に忠実だったからだ。」
「……。」
邪蛇の顔を覗き込むようにして見ると、雷鬼はククッと悪戯っぽく笑った。
「皆が俺に忠実であってはつまらん。皆が俺に従うばかりではつまらん。俺は、俺に敵対し反抗する者の全てをぶち壊して、絶望させた挙句、征服し、支配したいのだ。」
雷鬼は、にやりと不敵に笑った。今まで陽気に笑っていた顔に、恐ろしいほどの凄味が満ち溢れた。
「エンマか。面白い名を付けられたものだ。正直言って、俺はこの目で一度、エンマを見たいと思っているのだ。お前の言う、汚らわしい人間の血が混じった魔物だからな。興味がある。」
「しかし雷鬼様。直接会って、もし情がわいたりすれば…。」
「アッハッハッハッ!そんなわけがなかろう。お前も分かっているはずだ。俺は親を殺した男だぞ。まあ、エンマの方は、育てのじじいを殺されて、さぞや魔物を恨んでいるに違いないが。仇を討とうとしているかもしれん。人間とはそういうものだ。そんな人間こそ、殺しがいがある。」
楽しくてたまらないというように、雷鬼は笑っていた。
「エンマは殺すな。生け捕りにしろとの雷鬼様からの命令だ。」
玉座の間から出ると、早速邪蛇は手下の魔物に命じた。
「はっ。」
手下たちは黒い影となって飛んで行った。
「…雷鬼め。予言をも自らの楽しみにしてしまうとは。」
一人になり、邪蛇は不気味な微笑みを浮かべながら、そう呟いた。
蓮花は、目覚めてすぐに、エンマがいないことに気付いて慌てた。
油断していたつもりはなかったが、いつの間にか深く眠ってしまっていた。その間に、エンマがいなくなってしまったのだ。
「一体、どこへ行ってしまったのかしら…。伝視術でも見つからないなんて。エンマの足で、そこまで遠くへ行けるはずはないのに…。」
「蓮花!」
蓮花が途方に暮れていた所に、白い狼に乗って蘭丸が現れた。
「蘭丸!?どうしてここへ…?」
「お前が心配だったんだ。」
蘭丸は、狼の背から降りて言った。
「何言ってるの。この私が、魔物にやられるわけないじゃない。」
「いや、あいつのことさ。エンマとかいう…。」
「それが…エンマが、いなくなってしまったのよ!」
「エンマには会ったんだな。」
「ええ。でも朝になったら、エンマの姿がどこにも見当たらなくて。伝視術でも見つからないの。」
「ふん、いいじゃないか。そんな奴のことなんか。」
「よくないわ!長老様に連れて来いって言われてるのよ。」
「俺は気に入らないな。だいたい、そいつは半分魔物なんだ。お前がアヤメ様を尊敬しているのは分かるが、もう半分の血が、あの雷鬼だとは、ひどすぎる。」
「蘭丸。あんたはエンマに会ってもいないじゃないの。私は、そんなに悪い奴だとは思わなかったわ。」
「…まあ、長老様に逆らうわけにもいかないしな。」
蘭丸が指笛を鳴らすと、どこからかあの立派な鷹が飛んできた。
「電光丸。エンマっていう、ムナクソ悪い魔物野郎を探してきてくれ。」
蘭丸はクールに命じていたが、「魔物野郎」という部分を強調して言っていた。
魔物にも上級、下級と位があり、上の位ほど姿や知能が人間に近く、下の位ほど獣に近かった。
その上級の魔物の頂点に君臨する者が、根の国の王であった。
現在の王は、
雷鬼は、自分の父である天魔を殺して、若くして王となったのであった。
「雷鬼様。エンマは、雷鬼様の予見通り、花霞の里へ向かっております。既に数百の部下を里の周りに送り込んでありますので、エンマが死ぬのも時間の問題かと。」
顔色の青い、醜い老人のような魔物が雷鬼に告げた。雷鬼の側近、
「誰が殺せと言った。」
雷鬼は、玉座に座ったまま、床を乱暴に踏み鳴らし、大声を上げた。
「は?」
表情一つ変えず、邪蛇は雷鬼の顔を見た。
「エンマは殺すな。生け捕りにして連れて来い。」
雷鬼はにやりと笑って言った。黄金色の髪と、明るい緑色の瞳が生き生きと光り輝き、暗い湿り気を漂わせる邪蛇とは対照的に、雷鬼は陽気でどこか無邪気にも見えた。
「しかし、雷鬼様は殺せと命じたではありませんか。」
「気が変わったのだ。それに、俺がこの手でエンマを殺さねば気が済まん。くだらぬ予言を打ち消すためにな。」
「王がわが子に殺される…、この予言が本当なら、エンマに会うのは危険かと思われますが。」
「この俺が本当に殺されると思っているのか?」
「いえ…。しかし、万が一ということも…。」
「フフ。分かっているぞ。それを一番望んでいるのは、邪蛇。お前だということをな。」
「……。」
雷鬼は鋭い目で楽しそうに邪蛇の顔を見つめた。
「昔、アヤメを妻にしたときも、お前は誰よりも強く反対していたな。人間と仲良くするなど汚らわしいとな。それで、あのようなくだらない予言を流したんだろう。」
「予言は、私が言ったことではありません。」
「とにかくお前は、俺に死んでほしいと思っている。お前は、天魔の部下だった。俺は王位を奪うために天魔を殺した。それを恨んでいるのだろう。」
「恨むくらいなら、雷鬼様に仕えたりしません。」
邪蛇は、先程と変わらない無表情で言った。
「俺が天魔の部下を皆殺しにし、何故お前一人を生かしたか。それは、お前が一番、天魔に忠実だったからだ。」
「……。」
邪蛇の顔を覗き込むようにして見ると、雷鬼はククッと悪戯っぽく笑った。
「皆が俺に忠実であってはつまらん。皆が俺に従うばかりではつまらん。俺は、俺に敵対し反抗する者の全てをぶち壊して、絶望させた挙句、征服し、支配したいのだ。」
雷鬼は、にやりと不敵に笑った。今まで陽気に笑っていた顔に、恐ろしいほどの凄味が満ち溢れた。
「エンマか。面白い名を付けられたものだ。正直言って、俺はこの目で一度、エンマを見たいと思っているのだ。お前の言う、汚らわしい人間の血が混じった魔物だからな。興味がある。」
「しかし雷鬼様。直接会って、もし情がわいたりすれば…。」
「アッハッハッハッ!そんなわけがなかろう。お前も分かっているはずだ。俺は親を殺した男だぞ。まあ、エンマの方は、育てのじじいを殺されて、さぞや魔物を恨んでいるに違いないが。仇を討とうとしているかもしれん。人間とはそういうものだ。そんな人間こそ、殺しがいがある。」
楽しくてたまらないというように、雷鬼は笑っていた。
「エンマは殺すな。生け捕りにしろとの雷鬼様からの命令だ。」
玉座の間から出ると、早速邪蛇は手下の魔物に命じた。
「はっ。」
手下たちは黒い影となって飛んで行った。
「…雷鬼め。予言をも自らの楽しみにしてしまうとは。」
一人になり、邪蛇は不気味な微笑みを浮かべながら、そう呟いた。
蓮花は、目覚めてすぐに、エンマがいないことに気付いて慌てた。
油断していたつもりはなかったが、いつの間にか深く眠ってしまっていた。その間に、エンマがいなくなってしまったのだ。
「一体、どこへ行ってしまったのかしら…。伝視術でも見つからないなんて。エンマの足で、そこまで遠くへ行けるはずはないのに…。」
「蓮花!」
蓮花が途方に暮れていた所に、白い狼に乗って蘭丸が現れた。
「蘭丸!?どうしてここへ…?」
「お前が心配だったんだ。」
蘭丸は、狼の背から降りて言った。
「何言ってるの。この私が、魔物にやられるわけないじゃない。」
「いや、あいつのことさ。エンマとかいう…。」
「それが…エンマが、いなくなってしまったのよ!」
「エンマには会ったんだな。」
「ええ。でも朝になったら、エンマの姿がどこにも見当たらなくて。伝視術でも見つからないの。」
「ふん、いいじゃないか。そんな奴のことなんか。」
「よくないわ!長老様に連れて来いって言われてるのよ。」
「俺は気に入らないな。だいたい、そいつは半分魔物なんだ。お前がアヤメ様を尊敬しているのは分かるが、もう半分の血が、あの雷鬼だとは、ひどすぎる。」
「蘭丸。あんたはエンマに会ってもいないじゃないの。私は、そんなに悪い奴だとは思わなかったわ。」
「…まあ、長老様に逆らうわけにもいかないしな。」
蘭丸が指笛を鳴らすと、どこからかあの立派な鷹が飛んできた。
「電光丸。エンマっていう、ムナクソ悪い魔物野郎を探してきてくれ。」
蘭丸はクールに命じていたが、「魔物野郎」という部分を強調して言っていた。
