第4章「風の子供」
エンマのもとへ戻り、里に向かって再び歩き始めて、少したってから、蘭丸がエンマに話しかけた。
「…エンマ。お前、剣が得意なんだって?」
「ああ。じじいにさんざん鍛えられたからな。そういやさっき、お前も…。」
「さっきのはナシだ。丸腰相手に刀を抜くとは、俺もどうかしていた。里に帰ったら、お前に霊剣を教えてやる。霊剣ってのは、普通の剣術とはまた違う。魔物を斬るための技だ。」
「それはありがてえ!その技を身に付ければ、俺も魔物を斬れるようになるんだな。」
エンマは嬉しそうに言った。
「ふん。だが、本当にお前が剣を扱えられればの話だ。里へ帰ったら、まず、お前を試させてもらう。霊剣でない、ただの剣術でな。」
蘭丸は不敵に笑った。
「ああ、いいぜ。」
エンマも負けずに蘭丸を見返した。
花霞の里まで、あと二日ばかりという所まで来た。
朝起きて、まずは魔物たちがいないか、蓮花は高い崖の上から、伝視術で辺りの様子を確かめていた。そして、今日進む道が安全かどうかも見ていた。
近くの川原で、エンマと蘭丸は顔を洗っていた。
清らかな、澄み切った川の流れの中で、エンマはふと、水面にゆらゆらと映る、自分の顔を見ていた。
その顔は次第に、憎い仇の顔に見えてくるのだった。
「…エンマ。」
「何だ。」
「お前、蓮花をどう思う?」
「…は?」
エンマは顔を上げて、蘭丸を見た。
「蓮花のことさ。お前が蓮花をどう思ってるか聞いてる。」
「そうだな…。なんか、時々イラっとする。」
「イラっと?」
「なんかバカにされてるような気がするんだ。まあ、蓮花は賢そうな奴だからな。俺はバカだし。」
「ふーん…。そうか。そう思ってるのか…。」
「けど、あいつはじじいと同じことを言ってたから、悪い奴じゃねえと思った。俺のことを理解しようとしてるようにも見えた。だから、俺は蓮花を信じる。」
エンマは明るく笑って言った。
「…言っとくけどな、エンマ。蓮花は…渡さないからな。」
そう言ったかと思うと、突然蘭丸はどこかへ走り去った。
「へ?」
エンマは、ぽかんとしていた。
「なんなんだよ、あいつは…。」
ふと川の向こうを見たエンマは、そこに、こちらを見ている子供の姿を見つけた。
「おいっ!」
エンマが子供に声を掛けると、子供は、怯えたようにして逃げていった。
「おい!待てって!そっちは魔物がいるかもしれねえぞ!こんな所に一人じゃ危ねえだろ!」
子供が逃げていった林の中へ、エンマは追いかけていった。
「俺の姿を見て逃げたのかな…。」
しかし、子供を放ってはおけなかった。
辺りには、蓮花たち以外は誰もおらず、人の住んでいるような気配もないのだ。
林の中をどんどん分け入っていくと、子供がうずくまって震えていた。
「俺は魔物じゃねえよ。一体、どっから来たんだ。ここは危険だぜ。」
「ううっ…。」
子供は、頭を抱えていた。
「どうした?大丈夫か?」
急に、嫌な気配がしてエンマは後ろを振り返った。
背後には、草吉を殺したあの黒い魔物と同じような姿の魔物が一匹立っていた。
「てめー!」
また反射的にエンマは、木刀を取り出そうと腰に手をかけたが、着物の帯には何も差さっていない。
「くそっ!」
エンマは、子供の腕を掴んで駆け出した。
魔物はげらげらと笑いながら後を追いかけてきた。
このまま逃げ続ければ、また蓮花たちとはぐれてしまう。
しかし、子供を置き去りには出来ない。
どうしたものかと思って背後を振り返ると、追いかけてきていた魔物の体が、鋭い一閃と共に横に真っ二つに斬り裂かれた。
エンマが驚いて見ていると、魔物の体は、斬り裂かれた所から、星屑のように煌めきながら、砂のように崩れて灰となっていった。
「すげえ…。」
そこには、蘭丸が立っていた。
蘭丸は何でもないといった表情で、刀を鞘に収めた。
「全く、あれほど一人になるなと言ったのに。」
「てめーがどっかに行っちまったんだろ。」
「う…。」
「ま、とにかくおめーのおかげで助かったぜ。…おい、大丈夫か。」
エンマは傍らの子供を見た。
子供は、エンマの腕にしがみつきながらも、怯えた目でエンマを見ていた。
「俺のなりを見て魔物だと思ったのか?心配すんな。俺は魔物じゃねえよ。俺はエンマってんだ。おめーの名前は?」
「お…おいら…フータ。」
「フータ…。」
エンマは、数日前、草吉と家を失う前に、道端に倒れていた鳥を助け、その鳥に「風太」と名付けていたことを思い出した。あの鳥はどうなっただろう。あの火事で焼け死んでしまっただろうか。それとも、どうにか逃げることが出来ただろうか…。
「…エンマ。お前、剣が得意なんだって?」
「ああ。じじいにさんざん鍛えられたからな。そういやさっき、お前も…。」
「さっきのはナシだ。丸腰相手に刀を抜くとは、俺もどうかしていた。里に帰ったら、お前に霊剣を教えてやる。霊剣ってのは、普通の剣術とはまた違う。魔物を斬るための技だ。」
「それはありがてえ!その技を身に付ければ、俺も魔物を斬れるようになるんだな。」
エンマは嬉しそうに言った。
「ふん。だが、本当にお前が剣を扱えられればの話だ。里へ帰ったら、まず、お前を試させてもらう。霊剣でない、ただの剣術でな。」
蘭丸は不敵に笑った。
「ああ、いいぜ。」
エンマも負けずに蘭丸を見返した。
花霞の里まで、あと二日ばかりという所まで来た。
朝起きて、まずは魔物たちがいないか、蓮花は高い崖の上から、伝視術で辺りの様子を確かめていた。そして、今日進む道が安全かどうかも見ていた。
近くの川原で、エンマと蘭丸は顔を洗っていた。
清らかな、澄み切った川の流れの中で、エンマはふと、水面にゆらゆらと映る、自分の顔を見ていた。
その顔は次第に、憎い仇の顔に見えてくるのだった。
「…エンマ。」
「何だ。」
「お前、蓮花をどう思う?」
「…は?」
エンマは顔を上げて、蘭丸を見た。
「蓮花のことさ。お前が蓮花をどう思ってるか聞いてる。」
「そうだな…。なんか、時々イラっとする。」
「イラっと?」
「なんかバカにされてるような気がするんだ。まあ、蓮花は賢そうな奴だからな。俺はバカだし。」
「ふーん…。そうか。そう思ってるのか…。」
「けど、あいつはじじいと同じことを言ってたから、悪い奴じゃねえと思った。俺のことを理解しようとしてるようにも見えた。だから、俺は蓮花を信じる。」
エンマは明るく笑って言った。
「…言っとくけどな、エンマ。蓮花は…渡さないからな。」
そう言ったかと思うと、突然蘭丸はどこかへ走り去った。
「へ?」
エンマは、ぽかんとしていた。
「なんなんだよ、あいつは…。」
ふと川の向こうを見たエンマは、そこに、こちらを見ている子供の姿を見つけた。
「おいっ!」
エンマが子供に声を掛けると、子供は、怯えたようにして逃げていった。
「おい!待てって!そっちは魔物がいるかもしれねえぞ!こんな所に一人じゃ危ねえだろ!」
子供が逃げていった林の中へ、エンマは追いかけていった。
「俺の姿を見て逃げたのかな…。」
しかし、子供を放ってはおけなかった。
辺りには、蓮花たち以外は誰もおらず、人の住んでいるような気配もないのだ。
林の中をどんどん分け入っていくと、子供がうずくまって震えていた。
「俺は魔物じゃねえよ。一体、どっから来たんだ。ここは危険だぜ。」
「ううっ…。」
子供は、頭を抱えていた。
「どうした?大丈夫か?」
急に、嫌な気配がしてエンマは後ろを振り返った。
背後には、草吉を殺したあの黒い魔物と同じような姿の魔物が一匹立っていた。
「てめー!」
また反射的にエンマは、木刀を取り出そうと腰に手をかけたが、着物の帯には何も差さっていない。
「くそっ!」
エンマは、子供の腕を掴んで駆け出した。
魔物はげらげらと笑いながら後を追いかけてきた。
このまま逃げ続ければ、また蓮花たちとはぐれてしまう。
しかし、子供を置き去りには出来ない。
どうしたものかと思って背後を振り返ると、追いかけてきていた魔物の体が、鋭い一閃と共に横に真っ二つに斬り裂かれた。
エンマが驚いて見ていると、魔物の体は、斬り裂かれた所から、星屑のように煌めきながら、砂のように崩れて灰となっていった。
「すげえ…。」
そこには、蘭丸が立っていた。
蘭丸は何でもないといった表情で、刀を鞘に収めた。
「全く、あれほど一人になるなと言ったのに。」
「てめーがどっかに行っちまったんだろ。」
「う…。」
「ま、とにかくおめーのおかげで助かったぜ。…おい、大丈夫か。」
エンマは傍らの子供を見た。
子供は、エンマの腕にしがみつきながらも、怯えた目でエンマを見ていた。
「俺のなりを見て魔物だと思ったのか?心配すんな。俺は魔物じゃねえよ。俺はエンマってんだ。おめーの名前は?」
「お…おいら…フータ。」
「フータ…。」
エンマは、数日前、草吉と家を失う前に、道端に倒れていた鳥を助け、その鳥に「風太」と名付けていたことを思い出した。あの鳥はどうなっただろう。あの火事で焼け死んでしまっただろうか。それとも、どうにか逃げることが出来ただろうか…。
