第3章「破壊神の箱庭で」
「そうさ。あいつは自分がしていることが、どれだけ残酷なのか、考えたこともないんだよ。昔からそうだった。体ばかり大きな子供みたいな奴なのさ。」
「てめえは、あいつのことを知ってるんだな…。」
懸命に怒りを抑えながら、エンマは夜鬼の話に耳を傾けた。
「雷鬼はな、まず王座を奪うために自分の親を殺した。別に憎み合ってたとか、争ってたってこともなかった。雷鬼の親は天魔というんだが、むしろ天魔は、雷鬼を可愛がっていて、いずれ王位を渡すことは誰の目にも明らかなくらいだったんだ。待っていれば、そのうち王になれるはずだったのに、雷鬼はお前と同じぐらいの、まだガキの頃に、親を殺したんだ。あいつは、早く根の国を自分の思い通りにしたかったのさ。そのために親が邪魔になって殺したんだろう。」
「ひでえな…。」
膝の上で、固く握り締めたエンマの拳が震えていた。
「そして、お前の母アヤメも、身勝手なあいつの犠牲者だったのさ。アヤメは、魔物たちが恐れを抱くほど強大な力を持っていた。それに、誰もが心を奪われるほど美しかった。雷鬼だって、アヤメの強さと美しさに惹き付けられていた。だからアヤメをものにしようと、根の国を飛び出して、アヤメの故郷の花霞の里にまで行ったんだ。魔物にとっては、この上もなく危険な里にね。周囲の反対を押し切って、アヤメを妻にし、根の国に迎え入れ、しばらくは平和な日々が続いていた。しかし、そのうちに、あの予言が広まり始めて、雷鬼のアヤメに対する態度は変わっていった。アヤメは、雷鬼が子供を殺しかねないと思った。だから、あたしに助けを求めて来た。アヤメはそのとき、既に妊娠していて、霊力が弱まっていたんだ。アヤメは、死を覚悟して、最後までお前を雷鬼から守り、黄泉の国でお前を生むとすぐに死んだ。黄泉の国は、死者の国だから、人間は存在できないんだ。しかし、お前を身ごもっていたせいか、アヤメは黄泉の国に入ることが出来た。そして、お前を生んですぐに消滅した。その後、あたしがお前を人里に送った。誰かが拾って育ててくれるだろうと思ってな。まさかあたしがここで育てるわけにはいかないからねえ。」
「そうだったのか…。」
「エンマ。お前の父親はサイテーだが、母親のアヤメは、素晴らしい人間だったと思うぞ。アヤメは、やろうと思えば根の国の魔物を滅ぼすことも出来たし、雷鬼を殺すことだって出来た。でもそうしなかったのは、人と魔物の共存を望んでいたからなんだろう。」
夜鬼は微笑んだ。
「…俺の母さん…その…アヤメってのが、凄くて、いい奴だってことは分かったけどよ、お前も雷鬼と同じ魔物だろう。何で雷鬼と争ってんだ?」
「あいつが、人を滅ぼそうとしているからさ。」
「なにっ!」
「あたしは吸血族。人の血をエサに生きてるからねぇ。人が滅んじまったら、困るのさ。」
「それじゃ、お前の敵も雷鬼、俺の仇も雷鬼、だから俺を助けたんだな。」
「ああ。だけどお前を助けたのは、それだけの理由じゃない。いずれお前は、その雷鬼を超える力を持つ可能性があるのさ。それまで、お前に死なれたら困るんだ。」
「俺は、じじいの仇をとるまで、絶対に死なねえっ!」
エンマは拳を握り締めて立ち上がった。
「フフ。お前が雷鬼に似ているのは、姿だけだね。心は人間そのものだ。」
「あいつに似てるなんて言われても、全然嬉しくねーんだよ!この姿のせいで、俺は鬼呼ばわりされて…。くそっ、どこまでもムカつく奴だ!」
「とにかく、今のお前では…、霊術も使えないお前に、あたしがどんな技を教えても無駄だ。まずは、花霞の里で霊術の修行をすることだ。霊術を完璧に身に付けたら、今度はあたしが妖術を教えてやる。それからだ、お前の仇討ちは。」
「そういや、俺はそこへ行くはずだったんだ。あいつ…蓮花はどうなったんだろう。」
「蓮花…か。」
夜鬼は目を閉じ、エンマの心に映った少女の気配を探した。
「安心しろ。蓮花は、今お前を探しているようだ。あたしがそいつのそばまで連れて行ってやろう。」
夜鬼は、霧を起こして身を隠すと、一瞬にして霧が晴れて、今まで夜鬼がいた所に、大きなネコのような動物がいた。夜鬼が変身した姿である。
「乗りな。」
ネコの姿になった夜鬼は、エンマを背中に乗せると、ものすごい速さで走り出した。
夜鬼は、蓮花のいる所から少し離れた所まで来ると、そこでエンマを降ろし、元の姿に戻った。
「あたしはここまでさ。あたしはあの者たちにとっては敵だからね。見つかるとヤバイだろ。言っておくが、あたしは雷鬼を倒すためにお前を利用したいのさ。人間の味方をするわけじゃない。そこの所を勘違いしないでくれ。」
「…ああ。分かった。」
エンマは頷いた。
夜鬼はエンマを見て微笑むと、白い霧と共に消えていった。
「てめえは、あいつのことを知ってるんだな…。」
懸命に怒りを抑えながら、エンマは夜鬼の話に耳を傾けた。
「雷鬼はな、まず王座を奪うために自分の親を殺した。別に憎み合ってたとか、争ってたってこともなかった。雷鬼の親は天魔というんだが、むしろ天魔は、雷鬼を可愛がっていて、いずれ王位を渡すことは誰の目にも明らかなくらいだったんだ。待っていれば、そのうち王になれるはずだったのに、雷鬼はお前と同じぐらいの、まだガキの頃に、親を殺したんだ。あいつは、早く根の国を自分の思い通りにしたかったのさ。そのために親が邪魔になって殺したんだろう。」
「ひでえな…。」
膝の上で、固く握り締めたエンマの拳が震えていた。
「そして、お前の母アヤメも、身勝手なあいつの犠牲者だったのさ。アヤメは、魔物たちが恐れを抱くほど強大な力を持っていた。それに、誰もが心を奪われるほど美しかった。雷鬼だって、アヤメの強さと美しさに惹き付けられていた。だからアヤメをものにしようと、根の国を飛び出して、アヤメの故郷の花霞の里にまで行ったんだ。魔物にとっては、この上もなく危険な里にね。周囲の反対を押し切って、アヤメを妻にし、根の国に迎え入れ、しばらくは平和な日々が続いていた。しかし、そのうちに、あの予言が広まり始めて、雷鬼のアヤメに対する態度は変わっていった。アヤメは、雷鬼が子供を殺しかねないと思った。だから、あたしに助けを求めて来た。アヤメはそのとき、既に妊娠していて、霊力が弱まっていたんだ。アヤメは、死を覚悟して、最後までお前を雷鬼から守り、黄泉の国でお前を生むとすぐに死んだ。黄泉の国は、死者の国だから、人間は存在できないんだ。しかし、お前を身ごもっていたせいか、アヤメは黄泉の国に入ることが出来た。そして、お前を生んですぐに消滅した。その後、あたしがお前を人里に送った。誰かが拾って育ててくれるだろうと思ってな。まさかあたしがここで育てるわけにはいかないからねえ。」
「そうだったのか…。」
「エンマ。お前の父親はサイテーだが、母親のアヤメは、素晴らしい人間だったと思うぞ。アヤメは、やろうと思えば根の国の魔物を滅ぼすことも出来たし、雷鬼を殺すことだって出来た。でもそうしなかったのは、人と魔物の共存を望んでいたからなんだろう。」
夜鬼は微笑んだ。
「…俺の母さん…その…アヤメってのが、凄くて、いい奴だってことは分かったけどよ、お前も雷鬼と同じ魔物だろう。何で雷鬼と争ってんだ?」
「あいつが、人を滅ぼそうとしているからさ。」
「なにっ!」
「あたしは吸血族。人の血をエサに生きてるからねぇ。人が滅んじまったら、困るのさ。」
「それじゃ、お前の敵も雷鬼、俺の仇も雷鬼、だから俺を助けたんだな。」
「ああ。だけどお前を助けたのは、それだけの理由じゃない。いずれお前は、その雷鬼を超える力を持つ可能性があるのさ。それまで、お前に死なれたら困るんだ。」
「俺は、じじいの仇をとるまで、絶対に死なねえっ!」
エンマは拳を握り締めて立ち上がった。
「フフ。お前が雷鬼に似ているのは、姿だけだね。心は人間そのものだ。」
「あいつに似てるなんて言われても、全然嬉しくねーんだよ!この姿のせいで、俺は鬼呼ばわりされて…。くそっ、どこまでもムカつく奴だ!」
「とにかく、今のお前では…、霊術も使えないお前に、あたしがどんな技を教えても無駄だ。まずは、花霞の里で霊術の修行をすることだ。霊術を完璧に身に付けたら、今度はあたしが妖術を教えてやる。それからだ、お前の仇討ちは。」
「そういや、俺はそこへ行くはずだったんだ。あいつ…蓮花はどうなったんだろう。」
「蓮花…か。」
夜鬼は目を閉じ、エンマの心に映った少女の気配を探した。
「安心しろ。蓮花は、今お前を探しているようだ。あたしがそいつのそばまで連れて行ってやろう。」
夜鬼は、霧を起こして身を隠すと、一瞬にして霧が晴れて、今まで夜鬼がいた所に、大きなネコのような動物がいた。夜鬼が変身した姿である。
「乗りな。」
ネコの姿になった夜鬼は、エンマを背中に乗せると、ものすごい速さで走り出した。
夜鬼は、蓮花のいる所から少し離れた所まで来ると、そこでエンマを降ろし、元の姿に戻った。
「あたしはここまでさ。あたしはあの者たちにとっては敵だからね。見つかるとヤバイだろ。言っておくが、あたしは雷鬼を倒すためにお前を利用したいのさ。人間の味方をするわけじゃない。そこの所を勘違いしないでくれ。」
「…ああ。分かった。」
エンマは頷いた。
夜鬼はエンマを見て微笑むと、白い霧と共に消えていった。
