第3章「破壊神の箱庭で」

 ヨキは高く飛び上がり、雷鬼の頭上をとると、空中で前転しながら、今度は両手から赤い薔薇を放ってきた。赤い薔薇は、飛行しながら炎を纏った矢に変わり、炎の雨と化して雷鬼に降り注いだ。
 だが、雷鬼の姿が消えたかと思うと、いきなり天井から大雨が降ってきて、たちまちのうちに、炎の薔薇はかき消されてしまった。
「ち…!」
 雨が止み、雲と共に姿を現した雷鬼を、ヨキは忌々し気に見た。
「もう終わりか。もっと面白い術はないのか!ワハハハハッ!!」
 雷鬼は石柱の一つを素手で掴み、がらごろと大きな音を立てて柱を床から引き抜き、軽々と持ち上げた。そして、柱をヨキめがけて投げつけてきた。
「どうしようもないよ、こいつは…。」
 ヨキは小さなねずみのようにちょろちょろと逃げ回っていた。雷鬼は、まるでねずみをいたぶるネコのように、逃げ惑うヨキを見て楽しげに笑っている。
 さらに、雷鬼は柱を壊し始めた。玉座の間の柱が壊されることは、日常茶飯事であった。柱は雷鬼にとって、壊すために存在しているようなものなのだった。崩れ落ちてくる柱を、ヨキは俊敏な動きで避け続けた。
「ヨキ!いつまで逃げ続けるのだ!これでは勝負がつかないではないか!」
「あたしは勝負しに来たんじゃないよ。」
「何!?」
「雷鬼。あんたは本当に忘れっぽいね。あたしはただこうして逃げてただけじゃないんだよ。必死に時間を稼いでいたのさ。エンマを逃がすためにね。」
 いつの間にか、エンマの姿が消えていた。
「エンマは頂いたよ!」
「キサマッ!」
 再び白い霧が漂い、ヨキの姿が見えなくなった。
 しかし雷鬼は、ヨキを追わなかった。
「暇つぶしがなくなっては、つまらんからな。」
 そう呟く雷鬼の目は、生き生きとした鋭い輝きを帯びていた。

 雷鬼の城から遠く離れた、根の国と黄泉の国の境。
 霧に隠れた川原に、ヨキの小さな手下によって、エンマは連れて来られていた。
「おい、いつまで寝てんのさ!」
 頬を引っ叩かれ、エンマは気絶から目を覚ました。
「ん…?」
「憎たらしい顔。雷鬼にそっくりだな。」
「なにィ!」
 エンマはがばっと勢いよく起き上がり、先程まで自分を苦しめていた仇の姿を探した。
「くそ!ここはどこだ!あいつは!?」
「お前は殺される所だったんだよ。あたしが、あんたの命の恩人ってとこさ。」
「誰だ、てめえは?」
 エンマは目の前にいる女を見た。
「あたしは夜鬼ヨキ。黄泉の国の王なのさ。…と言っても、今まで人間の里で暮らしてたお前には、何にも分かんないだろうね。」
「その通りだ!いきなり魔物が襲ってきて、家を焼かれじじいを殺され…。一体何だってんだ!しかも何故か俺のことを知ってる奴がいたり…、俺は、今まで親の顔も知らなかったのに!」
「あたしが全て話してやる。お前が何故こんな目にあっているのか…。それは、全部雷鬼のせいなんだよ。」
「やっぱりあいつが!じじいの仇なんだなッ!」
「落ち着いて聞け!今のお前では、敵討ちどころか、虫けら同然に殺されるだけさ。雷鬼を倒せる者は誰もいない。あたしは体を再生できるから、なんとかあいつとやり合えるけど、それだって、雷鬼が本気を出せばどうなるか分からない。あいつはただ、戦う相手がいなくなると困るから、わざと殺さずにいるだけかもしれない。雷鬼はな、自分以外のもの全てをおもちゃのように考えているような奴なのさ。」
「おもちゃ…だと!?」
 エンマの心に、草吉の顔が浮かんだ。
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