第1話「魔物少女」
「…あれか。」
青年は呟いた。
木の枝に吊るされている、ぼろきれのような少女を見つけた。
しかし、青年は少し離れた所に立っているだけで、何もしようとしない。
ただ、じっと何かを待っているようでもあった。
少女は死んだように動かない。
その様子を、物陰からそっと窺っている者がいた。
先程、酒場にいた中年男だった。
気になって、青年の後をつけて来たのだ。
「何やってんだ…?あいつは…。何で動かねえんだ?」
やきもきしながら見守っていると、やがて青年はその場に座り込んで、居眠りでもするかのように腕組みをして、頭を垂れてしまった。
これには、中年男は呆れてしまった。
「何やってんだよ!」
思わず、物陰から飛び出して、青年に近寄って声をかけた。
「来るな!」
突然、青年が大声で中年男に向かって叫んだ。中年男はぎょっとして固まった。
そのとき、中年男の背中がぞわりと総毛立った。
背後には、少女の吊るされている木がある。
そこから、何か異様な気配を感じた。
「隠れてろ!」
青年が、中年男を押しのけて前に出た。
「な、何だ!?」
中年男は腰が抜けて、その場にへたりと座り込んだ。
目の前には、巨大な魔物がいた。
木があったはずの所に、全身を黒い毛で覆われた、大きな狼のような魔物が立っていた。
「あ、あいつは!!」
中年男の全身に、寒気が走った。
村を幾度となく破壊した、あの怪物だった。
先程、酒場にいた赤ら顔の男も、この魔物によって家族を皆殺しにされていた。
魔物は、低く唸り声を上げ、鋭い目で、目の前にいる青年を睨んでいた。
「やってくれ!そいつを…そいつがあの小娘の正体なんだ!!」
青年は魔物をじっと見つめていた。剣に手をかけようともしない。
「な、何やってんだ!あんた、猟師なんだろ!?さっさと殺してくれよ!」
あまりの恐ろしさに、中年男はその場から動けなかった。
しかし青年は静かに、その碧の目でじっと、魔物を見つめているだけだった。中年男には、青年が何をしているのか理解出来なかった。頭がおかしい奴だとしか思えなかった。
だが、魔物は次第に、唸り声をひそめ、ゆっくりと頭を下げ始めた。
青年が近付いて、魔物に触れると、魔物はその場に座り込んで、目を閉じ、前足の上に頭を乗せ、穏やかな表情になった。
何人もの人間の命を奪った、凶暴な魔物とは思えない、安らかな顔だった。
不思議な光景であった。
銀髪の青年に手懐けられた、大きな魔物。まるで大きな犬のように優しい顔をしている。
やがて、変化が起こった。
魔物の体が、縮み始めたのだ。
そして、小さな少女の姿に戻った。
「あ…。」
死にかけていたはずの少女に、生気が戻っていた。
少女は、目の前の青年を見上げた。
何が起こったのか、分からないようだった。
それを見ていた中年男にも、何が何やら分からなかった。
「これは…どういうことだ?」
やっと体の自由を取り戻して、中年男は立ち上がった。
「もう魔物は出ないから安心しろ。」
青年はそれだけ言って、立ち去ろうとした。
「待てよ!こりゃ一体、どういうこった?」
中年男は、少女を指差して言った。少女は、怯えたように身を竦めた。
「こいつを生き返らせたのか!?」
「魔物は追い払った。」
青年は、無表情で言った。
「…まあ、魔物がまた出たとしたら、そいつは他の魔物だろうが。その娘はもう魔物にはならないよ。」
「どういうことだ?こいつの正体は魔物なんだぞ!魔物が、人間に化けてたんだ!」
「違う。逆だ。」
「逆?こいつが魔物に化けたっていうのか?そんなおかしな話、聞いたこともないぜ。」
「とにかく、やるべきことはやった。」
「ふざけんな!誰も納得出来るか!例えそうだとしても、この娘が人殺しってことには変わりないんだ!それを、生き返らせやがって。許せるはずがねえ!」
中年男は少女の腕を掴んだ。
「また皆で、百殴りの刑だ。今度こそ、死なせてやる。」
無理矢理、中年男は少女の腕を引っ張って、引き摺っていった。
それを、青年は黙って見ていた。
「うう…。」
少女は青年に助けを求めるように顔を向けたが、青年は無表情で見送っているだけだった。
青年は呟いた。
木の枝に吊るされている、ぼろきれのような少女を見つけた。
しかし、青年は少し離れた所に立っているだけで、何もしようとしない。
ただ、じっと何かを待っているようでもあった。
少女は死んだように動かない。
その様子を、物陰からそっと窺っている者がいた。
先程、酒場にいた中年男だった。
気になって、青年の後をつけて来たのだ。
「何やってんだ…?あいつは…。何で動かねえんだ?」
やきもきしながら見守っていると、やがて青年はその場に座り込んで、居眠りでもするかのように腕組みをして、頭を垂れてしまった。
これには、中年男は呆れてしまった。
「何やってんだよ!」
思わず、物陰から飛び出して、青年に近寄って声をかけた。
「来るな!」
突然、青年が大声で中年男に向かって叫んだ。中年男はぎょっとして固まった。
そのとき、中年男の背中がぞわりと総毛立った。
背後には、少女の吊るされている木がある。
そこから、何か異様な気配を感じた。
「隠れてろ!」
青年が、中年男を押しのけて前に出た。
「な、何だ!?」
中年男は腰が抜けて、その場にへたりと座り込んだ。
目の前には、巨大な魔物がいた。
木があったはずの所に、全身を黒い毛で覆われた、大きな狼のような魔物が立っていた。
「あ、あいつは!!」
中年男の全身に、寒気が走った。
村を幾度となく破壊した、あの怪物だった。
先程、酒場にいた赤ら顔の男も、この魔物によって家族を皆殺しにされていた。
魔物は、低く唸り声を上げ、鋭い目で、目の前にいる青年を睨んでいた。
「やってくれ!そいつを…そいつがあの小娘の正体なんだ!!」
青年は魔物をじっと見つめていた。剣に手をかけようともしない。
「な、何やってんだ!あんた、猟師なんだろ!?さっさと殺してくれよ!」
あまりの恐ろしさに、中年男はその場から動けなかった。
しかし青年は静かに、その碧の目でじっと、魔物を見つめているだけだった。中年男には、青年が何をしているのか理解出来なかった。頭がおかしい奴だとしか思えなかった。
だが、魔物は次第に、唸り声をひそめ、ゆっくりと頭を下げ始めた。
青年が近付いて、魔物に触れると、魔物はその場に座り込んで、目を閉じ、前足の上に頭を乗せ、穏やかな表情になった。
何人もの人間の命を奪った、凶暴な魔物とは思えない、安らかな顔だった。
不思議な光景であった。
銀髪の青年に手懐けられた、大きな魔物。まるで大きな犬のように優しい顔をしている。
やがて、変化が起こった。
魔物の体が、縮み始めたのだ。
そして、小さな少女の姿に戻った。
「あ…。」
死にかけていたはずの少女に、生気が戻っていた。
少女は、目の前の青年を見上げた。
何が起こったのか、分からないようだった。
それを見ていた中年男にも、何が何やら分からなかった。
「これは…どういうことだ?」
やっと体の自由を取り戻して、中年男は立ち上がった。
「もう魔物は出ないから安心しろ。」
青年はそれだけ言って、立ち去ろうとした。
「待てよ!こりゃ一体、どういうこった?」
中年男は、少女を指差して言った。少女は、怯えたように身を竦めた。
「こいつを生き返らせたのか!?」
「魔物は追い払った。」
青年は、無表情で言った。
「…まあ、魔物がまた出たとしたら、そいつは他の魔物だろうが。その娘はもう魔物にはならないよ。」
「どういうことだ?こいつの正体は魔物なんだぞ!魔物が、人間に化けてたんだ!」
「違う。逆だ。」
「逆?こいつが魔物に化けたっていうのか?そんなおかしな話、聞いたこともないぜ。」
「とにかく、やるべきことはやった。」
「ふざけんな!誰も納得出来るか!例えそうだとしても、この娘が人殺しってことには変わりないんだ!それを、生き返らせやがって。許せるはずがねえ!」
中年男は少女の腕を掴んだ。
「また皆で、百殴りの刑だ。今度こそ、死なせてやる。」
無理矢理、中年男は少女の腕を引っ張って、引き摺っていった。
それを、青年は黙って見ていた。
「うう…。」
少女は青年に助けを求めるように顔を向けたが、青年は無表情で見送っているだけだった。
