第5話「夕陽の記憶」

 その夜は、小屋の中で過ごした。
 一晩中、ジンジャーは起きていた。
 フィンとアリスとテキーラは、ぐっすりと眠っている。
 ジンジャーは、鋭い目を光らせていた。
 ジンジャーは、手を見つめた。
 細長い指に生えた鋭い爪が、ジンジャーの意志によって、伸びたり元に戻ったりした。
 誰かが入ってきたら、殺すつもりでいた。
「ウ…。」
 テキーラが目を覚まして、身を起こした。
「…また人間を襲いに行くのか?今はやめた方がいい。お前は目立ちすぎる。」
「ウウイ。」
 テキーラは、首を振った。鼻をひくひくさせて、腹ばいになって、小屋の中を這い回り始めた。
「何してんだ?」
「ウウ…。」
 そのうち、一点に狙いを定めたようにして、小屋の角の穴のあいた所を、テキーラは凝視していた。そこで、ネズミがちょろちょろと行ったり来たりしていた。
「ウイ!」
 テキーラは、目を光らせて、素早い動きで、ネズミを捕らえた。
「ネズミ…?」
 それを、ジンジャーは見ていた。
 テキーラは嬉しそうに笑顔を見せ、ネズミを食べ始めた。
「…そうか。猫のときは、そうやってネズミを食べてたのか。…って、バンパイアになっても食べるのか…。」
 ジンジャーの声には、呆れたような響きがあった。
 しかし、次の瞬間、ジンジャーの目つきが変わった。
 突然立ち上がって、小屋のすき間に顔を近付けて、外を見た。
 こちらに近付いて来る影が数体。
 その手には、松明が握られていた。
「フィン…!」
 低い声で、ジンジャーはフィンを揺り起こした。
「んん…?」
 眠そうな顔で、フィンはジンジャーを見た。
「誰か来る。」
 それを聞くと、フィンは飛び起きて脇に置いていた大剣を装備し、アリスを起こした。
 皆、緊張して身構えた。
 追手が来たのか。
「この辺に隠れているのは分かっている!」
 外から声がした。
「魔女め!出て来い!」
 宿からかなり離れた所まで逃げて来たつもりだったが、隠れられる場所は、限られていた。
「火を放て!」
 声と共に、小屋に向かって松明が投げられた。
 あっという間に、小屋は炎に包まれた。
「まずい…!フィン、アリスとテキーラを!」
 ジンジャーが、小屋の戸をぶち割って外に出た。
 フィンたちも、破られた戸から急いで外に出た。
 外にいた人間たちは、一瞬戸惑ったように顔を見合わせた。
「お前も…魔女の仲間か!?」
 ジンジャーは、人間たちに向かっていった。
 人間たちは、銃を撃ったが、ジンジャーにはまるで当たらなかった。
 鋭い爪を長く伸ばして、ジンジャーは素早く人間たちを切り裂いた。
 八人ほどいた人間たちは皆、次々とジンジャーによって倒され、虫の息になった。
「血をもらおう。」
 ジンジャーは、一人の人間の手首を掴んで、血を吸い取った。
「アア!」
 そこへテキーラも寄って行って、人間の喉に噛み付いた。
 二人のバンパイアによって、人間たちは全滅した。
 小屋は、炎によって黒焦げになり、跡形もなく朝日に散っていた。
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