第4話「キャット・レディ」

 猫は、気持ち良さそうな表情で、目を閉じている。
 それが数秒間続いて、猫の体は次第に形を変え、人の姿へと、変わっていった。
 猫は、完全な若い女の姿になった。
 腰まで伸びた、真っ赤なふわふわと波打つ長い髪、赤い服にくるまれている白い肌、琥珀色の瞳。赤い唇。
 ぞくりとするほど、美しい。
 やや吊り上がった目を大きく見開き、女はぼーっとしていたが、フィンを見ると、妖艶な微笑みを浮かべた。その口元から、鋭い牙が覗いた。
「ウウ…。」
 嬉しそうな声を上げて、そのままフィンに抱きつこうとしてきたが、フィンがそれを押し止めた。
「…お前の言った通りの服を買ってきてやった。それを着るんだ。」
「ウアア…。」
 気が付いたように、女は服を手にとって、それを着た。真っ赤なドレスで、胸元が大きく開いており、腰の所で引き締まって、スカートは膝までの長さだった。それを裸の上に、そのまま着た。
「ウイ。」
 満足そうに、女は笑った。
「テキーラ…とか言ってたな。」
 ジンジャーの問いに、女は振り返った。
「ウイ。」
「それがお前の名前なのか?」
 女は頷いた。
「ウアア~…。」
 テキーラは何かを訴えるかのように、ジンジャーを指差して、今度は自分の胸に手を当てて、にっと大きく口を開けて、鋭い牙を見せた。
「何なんだ…?」
 ジンジャーには、テキーラが何をしているのか分からず、戸惑ったように顔をしかめた。
「テキーラは、言葉を話せないんだ。長い間、猫として生きてきたために、言葉を忘れちまったらしい。」
 フィンが言った。
「そうだったのか…。」
「どうやら、お前の仲間だと言いたいらしいが…。もしかしたら…。」
「そうか…あのときオカリナを吹いたんだ。そして気が付いたら横にテキーラがいた。このオカリナは、バンパイアを呼び寄せる。じゃあ、お前も…。」
「ウイッ!」
 テキーラは、目を見開いて、何度も何度も首を縦に振った。
「フィン…すごいな。お前のお陰で、また見つかった。」
 ジンジャーは、嬉しそうな微笑みを浮かべて、テキーラを見つめた。
「ウウッ。」
 テキーラは、まるで猫のように、フィンに顔を擦り付けてきた。
「おい、やめろって。もう猫じゃないんだから。」
 大人の女がそのような仕草をしている様子は、とても奇妙だった。
「ウッウッウッ。」
 テキーラは、悪戯っぽく笑った。
「テキーラさんも、あたしと同じ…バンパイアなのね?」
 アリスも嬉しそうに微笑んだ。
「あたしはアリス。よろしく。」
 するとテキーラはアリスに抱きついて、アリスの頭を激しく撫で回した。突然のことに、アリスは面食らっていた。
「ウウ!」
 テキーラは、ジンジャーに飛びつこうとして、転んだ。
「ウウ…アア…。」
 痛そうに頭を抱えているテキーラ。ジンジャーは優しくテキーラの頭を撫でた。
 テキーラは琥珀色の美しい大きな目で、じっとジンジャーを見つめ、にこっと笑って見せた。口元から牙が飛び出し、可愛らしい笑顔だった。
「何というか…無邪気な奴だな。俺はジンジャーだ。」
 テキーラは、くるっと後ろを振り向くと、フィンに向かって猫のように四つ足で走っていった。
「フィ…ン…。」
 フィンは、さっと両手を前に出して、テキーラを防ぐようにして身構えた。
「フィン!」
 そんなことにはお構いなしに、テキーラはフィンに飛びついてきた。
「おいおい…止めろ…。」
 テキーラは構わず、フィンの顔を舐め回した。
「はは…すごいな。」
 それを見て、ジンジャーは苦笑していた。
「フィン…。」
 アリスは心配そうな表情になって、フィンの足にしがみついた。
 フィンは、テキーラに抱きつかれ、足にはアリスにしがみつかれて、身動きが出来なくなった。
「く、苦しい…。」
 フィンは呻き声を上げた。
「フィン、もてもてだな。」
 楽しそうにして、ジンジャーは笑っていた。
「助けてくれ…。」
 それは、しばらくの間続いた。
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