第4話「キャット・レディ」

 夜の街を、ジンジャーは一人で彷徨い歩いていた。
 フィンたちは宿をとって眠っていた。
 誰もいないかのように静まり返った街。
 血を求めているのではなかった。
 いつものように、オカリナを吹きたかったのだ。
 アリスのことを考えて、かなり遠くの方まで歩いてきたつもりだった。
 距離は関係ないのかもしれなかったが、なるべく離れようと思った。
 危険かもしれないが、いざというときには、傍にフィンがいる。
 人通りはないが、やけに猫に出会った。
 猫は、光る目でジンジャーをじっと見て、どこかへ去っていく。
 橋の上まで来て、ジンジャーは足を止めた。
 銀のオカリナを取り出して、吹いてみた。
 しばらくそうして橋の上に立っていたが、特に変化はなかった。
 いつものことだ。
 この間、アリスが来たときには驚いたものだった。
 今まで、このオカリナはただの楽器なのではないかと疑っていたが、あれで分かった。
 このオカリナは、バンパイアを引き寄せる。
 かつては、旧世界で使われていた。
 バンパイアを操る道具として。

 朝日の光で、ジンジャーは目覚めた。
 いつの間にか、橋の上で眠ってしまっていたらしい。
 ジンジャーは急いでマントのフードを被り、その場を去ろうとした。
 そのとき、傍らに、大きな猫のようなものが丸くなって寝ているのを見つけた。
 猫にしては、体が大きい。
 大きな犬ほどの大きさだった。
 長く赤い毛に覆われた、しなやかな体を横たえて、その猫は眠っていた。
 何か気になって、ジンジャーは猫の頭に触れた。
 猫は、目を開けた。琥珀色の瞳が、ジンジャーを見つめた。
「ニャアアア…ゴロゴロ…。」
 猫は甘えるように鳴いて、喉を鳴らしながら、ジンジャーに顔を摺り寄せてきた。
「変わった猫だ…。」
 ジンジャーは猫を撫でてやると、日を避けて路地裏へと急いだ。
 すると、猫もその後を追って走ってきた。
「何だ?えさなんか持ってないぞ。」
 しかし猫は、ゴロゴロ言いながらついてくる。
「やけに人懐っこい奴だな…。」
 別に追い払うこともないので、ジンジャーはそのまま放っておいた。
 とうとう、フィンたちのいる宿まで、猫はついてきた。
 人に怪しい目で見られながら、ジンジャーはフィンたちの部屋に入った。
 その猫も一緒に、すばやく部屋の中に入り込んできた。
「何だ?そいつは…。」
 フィンが、猫を見て言った。
「何故か付いて来たんだ。」
 猫はぐるぐると喉を鳴らしている。
「かわいいね。猫にしては、大きいけど。」
 アリスが、猫に触った。猫はアリスにも顔を摺り寄せた。
「おい…待て…こいつは…。」
 突然、フィンが猫の頭に手を当てた。
 猫は目を閉じて、じっとしていた。
「…驚いたな。こいつは、魔獣だ。」
「何だって!?」
「しかも、変身しているんだ。猫に。本性は人の姿だ…。」
「ニャア。」
 猫はフィンに顔を摺りつけた。
「そうか。それで…。お前は、テキーラというんだな。」
「何だ?フィン、そいつが何を言いたいのか、分かるのか?」
「魔獣の心が読めるんだ。」
「そうか。」
「…分かった。」
 突然、フィンは立ち上がって部屋を出て行った。
「二人とも、ここで待ってろよ。その猫と一緒に。」
 そう言って、出て行った。
 数分後、フィンは赤い女物の服を持って戻ってきた。
「どうするんだ。」
「元に戻すんだよ。」
「そんなことが、出来るのか?」
「アリスと同じだ。最も、こいつは、今まで猫として生きてきて、すっかり自分の正体を忘れていたらしい。」
「…もしかして、俺があれを吹いたから…。」
「ん?またあのオカリナか?」
「ああ…。アリスに異常はなかったか?」
「なかったと思うが。」
「…。」
 アリスは少し怪訝そうな顔で、ジンジャーを見た。
「静かにしててくれ。」
 フィンは、足を折り曲げて座っている猫の体に赤い服を掛けてやり、猫の頭に手を触れると、目を閉じた。
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