第2話「バンパイア」
「フィン…?」
アリスの声に、皆振り返った。
「あたし…どうして…。」
「また、覚えてないんだな。魔物に変身しちまったんだ。」
フィンが言った。
「…そう…。でも…何か…。」
アリスは、大きな目を見開いた。
「すがすがしいの。」
「アリス…?」
「やっと話せる。思い出したの。大切な言葉…。」
アリスは、フィンに近付くと、頭を深く下げた。
「ありがとう。」
顔を上げたアリスは、満面の笑顔だった。
「アリス…お前…。」
突然のことに、あっけにとられたようにフィンはアリスを見つめた。
「魔物に変身したことは覚えてないわ。でも、ジンジャーから聞いた話は覚えてる。」
アリスは、ジンジャーの方を振り返って見た。
「あたしはバンパイアなのね?今まで、自分が何者なのか分からなかった。でも、仲間がいるって聞いて、安心したわ。あたしはずっと、人間だと思ってきたから。だけど人間の世界には馴染めなかった。おかしいと思ってた。でももう、心配はいらないのね。」
「アリス!お前急にどうしたんだ?べらべらとしゃべるなんて…。」
フィンは、戸惑っていた。
「分からないの。多分、そのオカリナのせいじゃないかな。」
アリスは微笑んだ。
「アリス。すまなかった。俺のせいで…。」
ジンジャーは謝った。
「あたしこそ、ごめんなさい。」
アリスはジンジャーに謝った後、急いで老人の前に立って頭を深々と下げた。
「おじいさん、本当にごめんなさい。あたし…。」
「いいんだよ。皆分かってる。暴れたくて暴れたわけじゃないってことをね。」
老人は、にっこりと優しく微笑んだ。
「…その傷は治るの…?」
アリスは、ジンジャーに向き直って尋ねた。
「ああ。一日もたてば治るさ。心配いらない。」
「良かった…。」
ほっとしたように、アリスはジンジャーを見て笑った。
「もう…俺が怖くはないのか?あんなに怖がっていたのに…。」
「うん。だって、同じ仲間でしょ?あたしも、嬉しい。」
アリスは瞳を輝かせた。
「良かったな、アリス。これでお前は、ジンジャーと一緒に暮らせる。」
「ううん。」
フィンの言葉に、アリスは首を振った。
「あたしはフィンについていく。」
「まだそんなことを言ってるのか?言っただろ。俺は猟師。お前の面倒を見る暇はないんだ。」
「だって、決めたんだもの。」
「俺も、それがいいと思う。」
横から、ジンジャーが言った。
「アリスは不安定だ。いつ、魔物になるか分からない。だが、さっきのお前の様子を見た限り、お前には、他の猟師とは違って、魔物を殺すのではなく、魔物をおとなしくさせる能力があるようだな。それは、アリスにとって必要な力だ。アリスを守れるのは、お前だけだ。」
「む…。」
「そういうこと。」
アリスは、無邪気に笑った。
しばらくして、ジンジャーはまた、外へ出て行った。
「わしらも、もうあいつに頼るのを止めなければならんな。」
老人が、独り言のように言った。
「あいつに頼らずとも、わしらはわしらで生きていける…。」
アリスは疲れたのか、ぐっすりと眠っていた。
「お世話になりました。」
翌朝。フィンとアリスは、泊めてくれた老人に礼を言った。
村の復旧のため、数日滞在することも考えたが、かえって迷惑になると思い、老人と相談して、早々と出発することにしたのだった。
「達者でな。」
老人は、二人の姿をいつまでも見送っていた。
結局、ジンジャーはどこかへ行ったきり、戻って来なかった。
「ジンジャー…。」
アリスは、何度も後ろを振り返り、ジンジャーの姿を探していた。
急な坂道をなんとか登りきり、石の町を後にした。
林の中に入り、見覚えのある小川に着いた。
川の水を飲んで、ふと向こう側を見上げたアリスの目に、黒いフードを目深に被り、長いコートを着た、背の高い男の姿が映った。
「ジンジャー?」
アリスは、その男に向かって声を掛けた。
「アリス…フィン…。」
細く白い手でフードを上げ、その男――ジンジャーは微笑んだ。表情のないときには冷たく、何者も寄せ付けない怖さをまとっているのに、そのように微笑むと、信じられないほど優しい顔になる。
「俺も仲間に入れてくれ。」
「え?」
「いいわ。」
答えたのはアリスだった。
「お前はこの村を守ってるんじゃなかったのか?」
「俺はこの村に留まる気はない。俺には、仲間を探すという目的がある。それが、お前らと行けば、見つかる気がするんだ。現に、アリスが見つかった。もう、仲間とは別れたくない。永遠に一人で生きるのは苦痛でしかない。アリスにも、それが分かるときがくる。」
「うん。」
アリスは頷いた。
「やれやれ…。」
フィンは見つめ合う二人を見て、少しだけ微笑んだ。
昇ったばかりの太陽が明るく、青い空を照らしていた。
アリスの声に、皆振り返った。
「あたし…どうして…。」
「また、覚えてないんだな。魔物に変身しちまったんだ。」
フィンが言った。
「…そう…。でも…何か…。」
アリスは、大きな目を見開いた。
「すがすがしいの。」
「アリス…?」
「やっと話せる。思い出したの。大切な言葉…。」
アリスは、フィンに近付くと、頭を深く下げた。
「ありがとう。」
顔を上げたアリスは、満面の笑顔だった。
「アリス…お前…。」
突然のことに、あっけにとられたようにフィンはアリスを見つめた。
「魔物に変身したことは覚えてないわ。でも、ジンジャーから聞いた話は覚えてる。」
アリスは、ジンジャーの方を振り返って見た。
「あたしはバンパイアなのね?今まで、自分が何者なのか分からなかった。でも、仲間がいるって聞いて、安心したわ。あたしはずっと、人間だと思ってきたから。だけど人間の世界には馴染めなかった。おかしいと思ってた。でももう、心配はいらないのね。」
「アリス!お前急にどうしたんだ?べらべらとしゃべるなんて…。」
フィンは、戸惑っていた。
「分からないの。多分、そのオカリナのせいじゃないかな。」
アリスは微笑んだ。
「アリス。すまなかった。俺のせいで…。」
ジンジャーは謝った。
「あたしこそ、ごめんなさい。」
アリスはジンジャーに謝った後、急いで老人の前に立って頭を深々と下げた。
「おじいさん、本当にごめんなさい。あたし…。」
「いいんだよ。皆分かってる。暴れたくて暴れたわけじゃないってことをね。」
老人は、にっこりと優しく微笑んだ。
「…その傷は治るの…?」
アリスは、ジンジャーに向き直って尋ねた。
「ああ。一日もたてば治るさ。心配いらない。」
「良かった…。」
ほっとしたように、アリスはジンジャーを見て笑った。
「もう…俺が怖くはないのか?あんなに怖がっていたのに…。」
「うん。だって、同じ仲間でしょ?あたしも、嬉しい。」
アリスは瞳を輝かせた。
「良かったな、アリス。これでお前は、ジンジャーと一緒に暮らせる。」
「ううん。」
フィンの言葉に、アリスは首を振った。
「あたしはフィンについていく。」
「まだそんなことを言ってるのか?言っただろ。俺は猟師。お前の面倒を見る暇はないんだ。」
「だって、決めたんだもの。」
「俺も、それがいいと思う。」
横から、ジンジャーが言った。
「アリスは不安定だ。いつ、魔物になるか分からない。だが、さっきのお前の様子を見た限り、お前には、他の猟師とは違って、魔物を殺すのではなく、魔物をおとなしくさせる能力があるようだな。それは、アリスにとって必要な力だ。アリスを守れるのは、お前だけだ。」
「む…。」
「そういうこと。」
アリスは、無邪気に笑った。
しばらくして、ジンジャーはまた、外へ出て行った。
「わしらも、もうあいつに頼るのを止めなければならんな。」
老人が、独り言のように言った。
「あいつに頼らずとも、わしらはわしらで生きていける…。」
アリスは疲れたのか、ぐっすりと眠っていた。
「お世話になりました。」
翌朝。フィンとアリスは、泊めてくれた老人に礼を言った。
村の復旧のため、数日滞在することも考えたが、かえって迷惑になると思い、老人と相談して、早々と出発することにしたのだった。
「達者でな。」
老人は、二人の姿をいつまでも見送っていた。
結局、ジンジャーはどこかへ行ったきり、戻って来なかった。
「ジンジャー…。」
アリスは、何度も後ろを振り返り、ジンジャーの姿を探していた。
急な坂道をなんとか登りきり、石の町を後にした。
林の中に入り、見覚えのある小川に着いた。
川の水を飲んで、ふと向こう側を見上げたアリスの目に、黒いフードを目深に被り、長いコートを着た、背の高い男の姿が映った。
「ジンジャー?」
アリスは、その男に向かって声を掛けた。
「アリス…フィン…。」
細く白い手でフードを上げ、その男――ジンジャーは微笑んだ。表情のないときには冷たく、何者も寄せ付けない怖さをまとっているのに、そのように微笑むと、信じられないほど優しい顔になる。
「俺も仲間に入れてくれ。」
「え?」
「いいわ。」
答えたのはアリスだった。
「お前はこの村を守ってるんじゃなかったのか?」
「俺はこの村に留まる気はない。俺には、仲間を探すという目的がある。それが、お前らと行けば、見つかる気がするんだ。現に、アリスが見つかった。もう、仲間とは別れたくない。永遠に一人で生きるのは苦痛でしかない。アリスにも、それが分かるときがくる。」
「うん。」
アリスは頷いた。
「やれやれ…。」
フィンは見つめ合う二人を見て、少しだけ微笑んだ。
昇ったばかりの太陽が明るく、青い空を照らしていた。
