アイオーン
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これは、夕食を食べるのも忘れ作曲に集中していた、ある真夏の夜の恐怖の出来事だ。
自分の気の済む一通りを終えたところで、やっとひと息、よく冷えた水が飲みたい。
飲み食いしないで長時間集中していた体が水分不足を訴えている。
喉の渇きを潤す為、俺はキッチンへと向かった。
ミネラルウォータが入った冷蔵庫。
扉を開けようと手を伸ばしたその時……
……何かがいつもと違う。
違和感を感じた俺は動きを止め、その正体が何なのか、喉の渇きを後回しにほんの少し考える。
そして何者かの気配を感じた俺は、その方向に視線を向けた。
「っ!!!」
紛れもなくあれはG!
恐怖で声が出なかったのが幸いだった。
目線だけそのままに、物音をたてないようそっとその場から離れた。
自分でどうにかするのは無理だ。
だって、一体どうやって退治する?
スリッパを武器にGを叩き落とす?
想像してみたが、やはり自力で退治できる自信はない。
代わりにGを退治してくれそうな人、誰か頼れる人を……
こんな夜中でも気兼ねなく電話できそうなのはメンバーくらいしか思い当たらないが……
Gが恐いのかとバカにされた挙句、その甲斐なく、男なんだから自分でどうにかしろと騒がれGを見失ってしまう……そんな最悪な情況が目に浮かぶ。
もしそうなったら……Gがどこかに潜んでいるのをわかっていながら同じ空間で生活をする羽目になる。
そんなのは到底無理な話だ。
メンバー以外で頼れそうなのは……
……最近から自分たちのライブの雑務等、時間がある時限定という条件で手伝ってくれるようになった、ロムの会社の後輩、自称オネェの名前だ。
自分が持つオネェのイメージと彼のビジュアルは一致しないのだが、ぱっと見女子のようだが実際は男であるという事は、オネェという言葉で了解していた。
……他に頼れる人間もいない、とりあえず電話してみよう……
「こんな時間に電話で呼び出すなんて非常識なのはわかっている。それを承知でどうしても頼みたい事が……あの……Gを退治してくれないか?」
「G?……あぁ、もしかしてゴキブリですか?ゴキが恐すぎて私が来るのを玄関で待ち構えてたって事ですか。ヘタレオン、クロウの言う通りですね」
Gが恐くて玄関で待っていたのは恥ずかしながら事実で……オレが彼に電話をして、彼がオレの家のチャイムを鳴らしたのはつい数分前の事だった。
チャイムが鳴り、直後オレが玄関の扉を必死の勢いで開いた事に驚いた彼は、真夜中のマンションの廊下で豪快に悲鳴を轟かせてしまったのだ。
ビックリさせないでよ、近所迷惑になるじゃない!、と彼は憤慨していたが、オレにそんなつもりはなく……だが、おそらく驚かされたという気持ちでいる彼の言葉に棘を感じた。
「すまない、驚かせるつもりは全くなかった。それに、こんな非常識な時間に呼び出した事も……他に、頼れる人間がいなくて……」
ヘタレオンなんて言葉を受け入れたくはないのだが、絶対に断られたくない頼み事をしている以上、反論なんてもっての外。
これ以上怒らせないよう素直に謝る他ない。
「……こんないいマンションにもゴキブリっているのねぇ……」
彼はそう言いながら、俯いて情けなくなっているオレの頭をなでなでとする。
どうやらオレの気持ちが伝わったようでひと安心なのだが、華奢で一見女子である彼に頭を撫でられているオレは情けなさ倍増である。
「可愛さと強さを兼ね備えた私が来たからにはもう大丈夫。安心して!Gなんて一撃で仕留めちゃうんだから☆」
言いながら、必要はないのだが可愛くポーズを決める彼が、今はただただ心強かった。
オレが指差した方向の壁に、未だGが1匹張り付いている。
それを確認した彼は、早速仕留めようとしてくれているようで、丸めた雑誌片手にGとの距離を詰めていく。
Gを仕留める為に彼が握りしめているそれが、これから読むつもりであった雑誌である事には、この際目を瞑る事にする。
俺に文句を言う資格はない。
見た目可憐なまるで少女が勇敢に立ち向かう姿を、離れた位置から情けなく見守るのみなのだから……
彼が足を一歩前に進めると、気配を察知したらしいゴキが動く。
「逃がすかっ!!!」
雑誌を丸めて武器にしている彼は、その華奢な腕を躊躇なく、素早く振り抜いた。
彼は宣言通り、一撃でGを仕留めたようだ。
見事な手捌きに感動し、見失う事なく完全に仕留めてくれた事に感謝もしているのだが……亡骸を見たくない……。
「死骸すら無理だなんて、男子がいくらなんでも怖がりすぎじゃない?」
Gが亡き者となった後も一向に近づこうとしない俺に呆れた声で言いながら、彼は仕留めた亡骸を処理してくれている。
退治させた挙句処理まで……もし名前が男の娘である事を知らない誰かがこの一連の様子を見ていたなら、間違いなくオレは非道な男だと罵られている事だろう……。
すっかり綺麗になった事を伝えられたオレは、ようやくキッチンへ足を踏み入れる事ができた。
コーヒーメーカーに2人分のコーヒー粉をセットしながら、リビングにいる彼の様子を窺った。
ひと仕事終えた彼はソファに深く腰かけ、近場にあった雑誌を適当に捲りながらくつろいでいる。
こんな深夜に呼び出されGを退治、処分までさせられた礼を、コーヒー一杯で済まされるなどたまったものじゃないだろう。
それはわかっているのだが……
「オレが今できる礼はこれくらいしか……この恩はいつか必ず……!」
コーヒーが注がれたカップを差し出しながら声をかけるが返事はなく、顔を見ると、さっきまで雑誌に目を落としていた筈の彼は眠っていた。
そりゃそうだ。
日中真面目に仕事をし、次の日が休みで遅くまで寝ていられるのであれば夜更かしする事だってあるだろう。
そんなところにオレから連絡が来て現在に至るなら、眠気がさして寝てしまうのも無理はない。
オレは彼が起きてしまわぬようそっと離れた。
そしてまたそっと近づき、風邪をひかぬよう、せっかくスヤスヤと眠ったところを起こさぬように、部屋から持ってきたブランケットを静かに掛けた。
……彼は本当に、彼が自称するようにオネェなのだろうか?
こうして見ると、普通の女の子にしか見えなかった。
「ごめん、寝ちゃってた。このソファー、座り心地が良くて……朝までぐっすりだったわ」
朝、そう言いながら照れ笑いしている彼の前に、淹れ直したコーヒーを置いた。
「さて!そろそろお暇しなきゃね。シャワーも浴びたいし」
コーヒーを飲み終えた彼は、改めて礼を言う間もなく、じゃあねと言って玄関を出て行った。
1人は気楽で好きなんだ。
それなのに、いつもと違ってもう1人が居た痕跡が残る部屋で、感じるはずのない感覚……
早くバンドの練習時間にならないかと、珍しく人恋しくなっている自分に気づいてしまった。
そんなのは気のせいと思いたいオレは、まだ温もりの残るカップをそそくさと片付けるのだった。
自分の気の済む一通りを終えたところで、やっとひと息、よく冷えた水が飲みたい。
飲み食いしないで長時間集中していた体が水分不足を訴えている。
喉の渇きを潤す為、俺はキッチンへと向かった。
ミネラルウォータが入った冷蔵庫。
扉を開けようと手を伸ばしたその時……
……何かがいつもと違う。
違和感を感じた俺は動きを止め、その正体が何なのか、喉の渇きを後回しにほんの少し考える。
そして何者かの気配を感じた俺は、その方向に視線を向けた。
「っ!!!」
紛れもなくあれはG!
恐怖で声が出なかったのが幸いだった。
目線だけそのままに、物音をたてないようそっとその場から離れた。
自分でどうにかするのは無理だ。
だって、一体どうやって退治する?
スリッパを武器にGを叩き落とす?
想像してみたが、やはり自力で退治できる自信はない。
代わりにGを退治してくれそうな人、誰か頼れる人を……
こんな夜中でも気兼ねなく電話できそうなのはメンバーくらいしか思い当たらないが……
Gが恐いのかとバカにされた挙句、その甲斐なく、男なんだから自分でどうにかしろと騒がれGを見失ってしまう……そんな最悪な情況が目に浮かぶ。
もしそうなったら……Gがどこかに潜んでいるのをわかっていながら同じ空間で生活をする羽目になる。
そんなのは到底無理な話だ。
メンバー以外で頼れそうなのは……
……最近から自分たちのライブの雑務等、時間がある時限定という条件で手伝ってくれるようになった、ロムの会社の後輩、自称オネェの名前だ。
自分が持つオネェのイメージと彼のビジュアルは一致しないのだが、ぱっと見女子のようだが実際は男であるという事は、オネェという言葉で了解していた。
……他に頼れる人間もいない、とりあえず電話してみよう……
「こんな時間に電話で呼び出すなんて非常識なのはわかっている。それを承知でどうしても頼みたい事が……あの……Gを退治してくれないか?」
「G?……あぁ、もしかしてゴキブリですか?ゴキが恐すぎて私が来るのを玄関で待ち構えてたって事ですか。ヘタレオン、クロウの言う通りですね」
Gが恐くて玄関で待っていたのは恥ずかしながら事実で……オレが彼に電話をして、彼がオレの家のチャイムを鳴らしたのはつい数分前の事だった。
チャイムが鳴り、直後オレが玄関の扉を必死の勢いで開いた事に驚いた彼は、真夜中のマンションの廊下で豪快に悲鳴を轟かせてしまったのだ。
ビックリさせないでよ、近所迷惑になるじゃない!、と彼は憤慨していたが、オレにそんなつもりはなく……だが、おそらく驚かされたという気持ちでいる彼の言葉に棘を感じた。
「すまない、驚かせるつもりは全くなかった。それに、こんな非常識な時間に呼び出した事も……他に、頼れる人間がいなくて……」
ヘタレオンなんて言葉を受け入れたくはないのだが、絶対に断られたくない頼み事をしている以上、反論なんてもっての外。
これ以上怒らせないよう素直に謝る他ない。
「……こんないいマンションにもゴキブリっているのねぇ……」
彼はそう言いながら、俯いて情けなくなっているオレの頭をなでなでとする。
どうやらオレの気持ちが伝わったようでひと安心なのだが、華奢で一見女子である彼に頭を撫でられているオレは情けなさ倍増である。
「可愛さと強さを兼ね備えた私が来たからにはもう大丈夫。安心して!Gなんて一撃で仕留めちゃうんだから☆」
言いながら、必要はないのだが可愛くポーズを決める彼が、今はただただ心強かった。
オレが指差した方向の壁に、未だGが1匹張り付いている。
それを確認した彼は、早速仕留めようとしてくれているようで、丸めた雑誌片手にGとの距離を詰めていく。
Gを仕留める為に彼が握りしめているそれが、これから読むつもりであった雑誌である事には、この際目を瞑る事にする。
俺に文句を言う資格はない。
見た目可憐なまるで少女が勇敢に立ち向かう姿を、離れた位置から情けなく見守るのみなのだから……
彼が足を一歩前に進めると、気配を察知したらしいゴキが動く。
「逃がすかっ!!!」
雑誌を丸めて武器にしている彼は、その華奢な腕を躊躇なく、素早く振り抜いた。
彼は宣言通り、一撃でGを仕留めたようだ。
見事な手捌きに感動し、見失う事なく完全に仕留めてくれた事に感謝もしているのだが……亡骸を見たくない……。
「死骸すら無理だなんて、男子がいくらなんでも怖がりすぎじゃない?」
Gが亡き者となった後も一向に近づこうとしない俺に呆れた声で言いながら、彼は仕留めた亡骸を処理してくれている。
退治させた挙句処理まで……もし名前が男の娘である事を知らない誰かがこの一連の様子を見ていたなら、間違いなくオレは非道な男だと罵られている事だろう……。
すっかり綺麗になった事を伝えられたオレは、ようやくキッチンへ足を踏み入れる事ができた。
コーヒーメーカーに2人分のコーヒー粉をセットしながら、リビングにいる彼の様子を窺った。
ひと仕事終えた彼はソファに深く腰かけ、近場にあった雑誌を適当に捲りながらくつろいでいる。
こんな深夜に呼び出されGを退治、処分までさせられた礼を、コーヒー一杯で済まされるなどたまったものじゃないだろう。
それはわかっているのだが……
「オレが今できる礼はこれくらいしか……この恩はいつか必ず……!」
コーヒーが注がれたカップを差し出しながら声をかけるが返事はなく、顔を見ると、さっきまで雑誌に目を落としていた筈の彼は眠っていた。
そりゃそうだ。
日中真面目に仕事をし、次の日が休みで遅くまで寝ていられるのであれば夜更かしする事だってあるだろう。
そんなところにオレから連絡が来て現在に至るなら、眠気がさして寝てしまうのも無理はない。
オレは彼が起きてしまわぬようそっと離れた。
そしてまたそっと近づき、風邪をひかぬよう、せっかくスヤスヤと眠ったところを起こさぬように、部屋から持ってきたブランケットを静かに掛けた。
……彼は本当に、彼が自称するようにオネェなのだろうか?
こうして見ると、普通の女の子にしか見えなかった。
「ごめん、寝ちゃってた。このソファー、座り心地が良くて……朝までぐっすりだったわ」
朝、そう言いながら照れ笑いしている彼の前に、淹れ直したコーヒーを置いた。
「さて!そろそろお暇しなきゃね。シャワーも浴びたいし」
コーヒーを飲み終えた彼は、改めて礼を言う間もなく、じゃあねと言って玄関を出て行った。
1人は気楽で好きなんだ。
それなのに、いつもと違ってもう1人が居た痕跡が残る部屋で、感じるはずのない感覚……
早くバンドの練習時間にならないかと、珍しく人恋しくなっている自分に気づいてしまった。
そんなのは気のせいと思いたいオレは、まだ温もりの残るカップをそそくさと片付けるのだった。